リアルナンパアカデミー事件の没収判決が、実はすごい件

2020年3月12日、リアルナンパアカデミーの塾長に対する判決が出た。被害者3人、罪名は準強制性交等事件、全ての件につき、改正前の集団準強姦罪に当たる事案である。結果は、懲役13年、パソコン本体1台及びハードデータディスク1個没収。

被告人は、全ての事件について「和姦の証拠のために」という名目でスマホで動画を撮り、その動画が、没収されたパソコンのハードデータディスクにデジタルコピーされていた、
被告人は結審間際になってもなお、データの消去を拒んでいた。
没収判決が出なければ、レイプそのもののデータが被告人の手に還付されてしまう。

常識からすれば没収されて当然かもしれない。しかし、 没収も刑罰なので、罪刑法定主義の下、法律の要件を満たさなければならない。

没収できる物は、刑法19条1項で、次のように決まっている。
一 犯罪行為を組成した物(組成物件)
二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(供用物件)
三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物(産出物件、取得物件、報酬物件)
四 前号に掲げる物の対価として得た物

デジカメの登場により、性犯罪で性交又は性交類似行為を撮影する人は増え、スマホが普及してからは、撮影のある事例は爆発的に増えた。
被害者は、レイプ自体の心の傷だけでなく、その画像が流出する恐怖にも苦しめられる。

しかし、成人の裸体画像を、撮影者の管理権のある場所で撮影した場合、たとえ被害者の同意がなかったとしても、これを処罰する法律はない。
リベンジポルノ罪には、公表又は公表目的の提供をしなければ、当たらない。

レイプ動画の撮影自体が法律上犯罪となっていないので、撮影行為自体では起訴されていない。
「そのような場合、レイプ動画を化体した有体物を没収することができるか」という点が争いになったのが、宮崎強姦ビデオ事件である。

この事件は、アロママッサージの店主が、顧客に5人にマッサージと称して性的暴行を加え、その様子をビデオカメラで撮影するなどしている。
被告人側は、一部の被害者には、「犯行の様子を撮影したビデオがある。このビデオが法廷で流されたくなければ、示談金ゼロで示談せよ」と交渉を行ったことが、判決で認定されている。

宮崎強姦ビデオ事件は、平成30年6月26日、最高裁で確定した。
最高裁のロジックは次のとおりである。

「被告人は,本件強姦1件及び強制わいせつ3件の犯行の様子を被害者に気付かれないように撮影しデジタルビデオカセット4本(以下『本件デジタルビデオカセット』という。)に録画したところ,被告人がこのような隠し撮りをしたのは,被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて,捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ,刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる。以上の事実関係によれば,本件デジタルビデオカセットは,刑法19条1項2号にいう『犯罪行為の用に供した物』に該当し,これを没収することができると解するのが相当である。 」

リアルナンパアカデミー事件の塾長は、録画の目的を「和姦の証拠を残すため」と供述しており、宮崎強姦ビデオ事件判決の射程が及ぶのかが争われていた。

判決では、動画における被害者の様子・被害者に意識があれば撮影されているアングルからの動画が存在すること自体が「抗拒不能」の理由に挙げられており、被告人が、この動画を、どうやって「和姦の証拠」として活用しようとしたのかは、被告人の口から述べられていなかった。

リアルナンパアカデミー事件の地裁判決は、「被告人が和姦の証拠として刑事責任の追及を免れるために撮影したこと」を理由に、パソコン本体1台及びハードデータディスク1個の没収を認めた。

宮崎強姦ビデオ事件の最高裁判決を「刑事責任の追及を免れるために撮影したレイプ画像の入った有体物は、犯罪供用物件」という所までエクスパンドしたのである。
地裁の英断に敬意を表したい。

ところで、リアルナンパアカデミー事件は、たまたま「和姦の証拠を残すため」と言っていたが、これが「個人的なコレクションにするため」だったら没収できるのか。没収判決が出たから一安心ではない。
盗撮罪を新設して起訴することができれば、没収は堅い。
被害者は、薄氷を踏む思いで、判決を待たなくてよくなるのである。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?