刑事未成年や少年から性被害を受けたときの現実
現在の刑法41条は「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と定めている。
14歳未満の者から、意に反した性交又はわいせつ行為をされた被害者からの相談を受けることがある。
性交にたとえ強制力があったとしても、12歳が、行為者が逮捕されたり、少年院送致された事案は見たことがない。全て児童相談所が対応している。
加害者複数の場合も少なくなかったが、少年院送致は見たことがない。※1
加害者と被害者が同じ学校に通っていることも多々ある。
刑法41条は、加害者を罰しないことを定めているだけで、そこに被害を受けて傷ついた人がいるのは事実である。
しかし、被害者は、加害者を隔離させる方法がない。
同じ学校に通いたくなければ、被害者が転校するしかない。
学校の対応には統一的な指針はなく、別室で授業をしてくれるところもあれば、同室で授業を受けさせたうえ「あなたが我慢すればいい」とまで言うところもある。
しかしながら、性被害に遭い、傷つき混乱した状態で転居・転校して環境をガラリと変えるのは、重い負担である。
持ち家だったり、兄弟姉妹との関係で転校することが難しいこともある。
加害者の転校を促すにはどうするか。
加害者から示談交渉を持ちかけられている場合は、示談の条件として転校・転校を挙げればよい。
しかし、刑事未成年の場合は、加害者の親が示談交渉を申し入れてくることは稀である。※2
加害者の親の名前も住所もわからないことが多いので、被害者の親が、自費で弁護士に依頼し、弁護士は警察に23条照会をかけて、加害者の氏名と住所を調べ、職務上請求で住民票を取る。
弁護士が代理人として、加害者の親に内容証明郵便を送り、示談交渉を始めることになる。
ここまでで、早くとも1ヶ月弱かかる。
示談交渉に加害者の親が応じない場合は、民事訴訟を提起し、和解交渉の中で、転居・転校を求めるしかない。
ここで問題となるのが、民事上の責任能力が10歳-11歳と言われていることである。
加害者が12歳-13歳となると、親を民法714条によって民事上の被告とすることは難しく、親独自の709条責任と構成する必要がある。
加害者の親が家を持っているときは、仮差押えに成功すれば、少しは交渉を促すことができる。
しかし、子が12歳-13歳の親は、まだオーバーローンであることが多く、仮差押えができないことも多い。
こうしている間も、加害者は被害者と同じ学校に通っており、状態は日に日に悪くなる。民事訴訟は提起から判決までに半年から1年ほどかかる。
この間に被害者が、不登校になることも、もちろんある。
加害者が14歳-19歳の場合は、少年審判は開かれる。
だが、非行歴のない少年が、友達など面識のある相手に、単独で性交した場合で、少年院送致された事案を見たことがない。
加害者の年齢が高いので、親の民事責任を問うハードルも高い。
被害者の負担の重さは、あまり変わらない。
これが、性犯罪被害者側の弁護士として十余年仕事をしている私のリアルである。
性交同意年齢を16歳未満に引き上げることに反対する意見の中には、中学生同士の性交が双方少年送致となるのは妥当でないというものである。
しかし、私の経験上、あまりリアリティを感じられない。(ごめんなさい)
もちろん「少年院に行かなければよいというものではない。犯罪となること自体が問題だ」という意見もあろう。
少年事件に関しては、非行少年側の分野が、犯罪被害者側よりも、弁護士の分野としては歴史が古く、識見のある先生も多いので、そちら側の意見まで私が言う必要はなかろう。(僭越でさえあると思います。)
性交同意年齢に関する議論は、法務省でもまだ検討会段階である。
ここで引き上げ不要という結論になると、法制審では議論されない。
強制性交等罪は下限が懲役5年の重罪なので、中学生にそのまま適用せよとは言わない。
しかし、刑事未成年や少年から性被害を受けた者の状況が「棄民」と言ってよい状況なので、性交同意年齢を「16歳未満」と仮置きした上で、刑法の他の条文や、刑事訴訟法・少年法を改正する方向で調整してほしいと思う。
一連のマガジンの中で、今日書いたことが、皆さんに知っていただきたいことであった。
あまりにも救いのない話であるが、刑事未成年や少年から性被害を受けた被害者が現在おかれている状況を知っていただきたく、私のリアルをそのまま書いた。
この現状を認識していただいた上で、議論を続けていきたいと思っている。
※1 刑法177条、刑法176条で、少年法3条2項が適用された経験をお持ちの方がいらしたら、勉強させてください。
※2 加害者から示談の申し入れがないときは、日弁連の委託援助事業の要件を満たさないことが多い。
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