訴訟記録閲覧制限の流れ

性犯罪被害者側の弁護士として仕事をしているので、訴訟記録閲覧制限の申立ては馴染みのある手続である。

かつて…10年以上前だが…いにしえの閲覧制限の申立ての趣旨は、「本件訴訟記録の全部について,閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又はその複製を請求することができる者を本件訴訟当事者に限る。」でなんとかなった。

しかし、民事訴訟法91条が、誰でも訴訟記録の閲覧を求めることができるとしている趣旨は、裁判の公開要請であり、憲法に根拠のあるものなので、現在は、漠然と訴訟記録の全部の閲覧制限を申し立てると、裁判所にやんわり叱られる。

現在は、「本件訴訟記録中の別紙目録記載の部分について,閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又はその複製を請求することができる者を本件訴訟当事者に限る。」とせよと言われる。※1
そして、申立ての根拠が「私生活についての重大な秘密」である場合は、当事者の氏名・住所・勤務先などの当事者特定事項に限定せよと、裁判所から指示される。

このような指示があるということは、「閲覧制限決定をしますよ」という示唆である。また、裁判所が、相手方当事者に対し「この件では閲覧制限決定をする予定なので、なるべく具体的な名称を書かないで、『原告』や『原告住所地』などと表記してください」と、割とはっきり言うこともある。

しかしながら、訴訟における主張立証は流動的なものであり、どの書面・どの証拠に、当事者特定事項が入るかは、結審しないとわからない。
申立人代理人は、結審した後、申立訂正書を作り、別紙として訴状「事件の表示のうち、原告氏名部分」「当事者の記載のうち、原告氏名及び住所部分」「請求の原因第1.1『当事者』のうち、1行目「『原告は、○○株式会社の正社員である』の○○部分」と、長いお品書きのような書面を作って、閲覧制限部分を特定する。
この別紙を出さないと、まず閲覧制限決定は出ない。このため、結審前に閲覧制限決定が出ることは殆どない。
てか、私は結審前に閲覧制限決定を受けたことはない。(どなたか「結審前に閲覧制限決定が出たよ」という方は後学のためにお知らせください。)※2

「じゃあ、閲覧制限決定が出るまでの間、いろんな人に訴訟記録が閲覧されちゃうじゃない」とお思いであろう。
しかし、民事訴訟法92条2項により、閲覧制限の申立てをした後、これに対する決定が確定するまでは、暫定的に、秘密部分の閲覧を誰もすることができなくなるので、安心していただきたい。

実際に、閲覧制限決定の出た事件の記録は、どのように閲覧に付されるか。
それは、申立人代理人が、閲覧制限部分をマスキングした書類を裁判所に納め、担当書記官がその書類を記録係に持って行く方法で行われる。
マスキングした書類を裁判所に納める時期は、裁判体によって異なる。「基本事件の判決が出る前に納めてくれればいいですよ」というところもあれば、「納めなければ、第一回期日を指定しませんよ」というところもある。それを見越して事務員さんとスケジュール調整しておく必要がある。

閲覧制限の申立ては、事務員さんの作業量が非常に多い。
特に損害賠償命令事件に異議が出て民事訴訟に移行した場合は、犯行再現などで写真がやたらと多く、事案の性質上塗り残しが許されない。
当事務所の事務員ほどの手練れになると、損害賠償命令事件から移行した時点で「この証拠の量だとポスカ4本です」などと言う。
私たちずいぶん遠くに来ちゃったね。

※1 3年前の事件で、全部閲覧禁止の決定が出たという弁護士さんがいらっしゃいました。貴重な情報を、ありがとうございます。

※2 東京の弁護士さんで、自分の事件は結審前に、閲覧制限決定が出ることが多いという方がいらっしゃいました。貴重な情報を、ありがとうございます。

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