ワンストップ支援センターへの交付金が削減された
性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターの運営費につき、国が半額補助する「性犯罪・性暴力被害者支援交付金」が、①平成31年度、この交付金が8000万円削減されていたというニュースが入ってきた。しかも、②その積算根拠が、1日8時間・支援員2人・時給1000円を基準としていることが明らかになった。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-10-27/2019102701_04_1.html
非常に情報量の多いニュースなので、①の意味から、整理していこう。
内閣府が平成24年3月作成した「性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センター開設・運営の手引」によれば、性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターとは、「性犯罪・性暴力被害者に、被害直後からの総合的 な支援(産婦人科医療、相談・カウンセリング等の心理的支援、捜査関連 の支援、法的支援等)を可能な限り一か所で提供することにより、被害者の心身の 負担を軽減し、その健康の回復を図るとともに、警察への届出の促進・被害の潜在化防止を目的とするもの」である。
国は、平成27年、第4次男女共同参画計画で、平成32年までに性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターを、全ての都道府県に最低一カ所開設すると、閣議決定し、ワンストップ支援センターの早期設置及び運営の安定化を図るため、性犯罪・性暴力被害者支援交付金を設け、平成29年度から交付された。
平成30年9月に開催された第16回「男女共同参画会議 重点方針専門調査会」でも、性犯罪・性暴力被害者支援交付金の交付率は、対象経費の2分の1と説明されいている。
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/jyuuten_houshin/sidai/jyu16-s.html(資料3)
平成30年10月、ワンストップ支援センターは、各都道府県に1つ、設置され、国の目標は達成された。
しかし、その翌年、国が、対象経費の2分の1から、8000万円を下回る交付金しか交付しなかったというのが、冒頭のニュースである。あまりにひどいハシゴ外しである。
(※交付金所要額2億5238万円、交付金予算額1億7280万円、差額7958万円)
では、②そもそも1日8時間、支援員2人、時給1000円という積算根拠は妥当かどうかを検討しよう。
内閣府の手引には、「ワンストップ支援センターに関する被害者からの要望を踏まえれば、病院の みならず、相談センターも、夜間・休日を問わず、24時間・365日の対応 (夜間・休日の人の配置又はオンコール体制)を行うのが望ましい。」と書いてあり、「様々な制約により、24時間365日の対応を行うのが困難である」場合に、夜間は別機関に転送する対応を例示している。
内閣府は、手引には、24時間対応が望ましいと書く一方、交付金の対象となるのは、8時間であるとしている。望ましい状態の3分の1を積算根拠とすることが、妥当な訳がなかろう。
また、内閣府の手引には、支援員の業務として「相談受付、電話相談、面接相談(危機カウンセリング)」「産婦人科医療に関する説明、情報提供、診察申込書・問診表等の必要書類の作成補助」「診察等のための病院内関係部署との連絡調整、診察等への付き添い、診察後の面談」「医療以外の支援制度や関係機関に関する説明・情報提供(捜査手続や各 種公費負担制度、刑事・民事の裁判手続・裁判における支援制度、カウン セリング機関の情報など)」「関係機関との連絡調整(支援のコーディネート)、次回面談、受診日の調整、相談記録等作成」を挙げている。
これだけの仕事を1日2人でできるわけがない。産婦人科と、精神科に、支援員が1人ずつ付き添ったら、電話の前はもぬけの殻である。
しかも、これだけ複雑多岐な専門的知識を必要とし、急性期の性暴力被害者と一番近い距離で支援する人の時給が、1000円であって良いはずがない。
ワンストップ支援センターは、急性期の性暴力被害者を相手にし続ける「心の野戦病院」のような仕事だ。急性期の性暴力被害者というのは、心にかさぶたができる前の赤むけの状態であり、細心の注意をしなければならない。支援員も当然二次受傷する。支援員は、まさに命を賭けて事に当たっている。その時給が1000円と思うだけで、国民として申し訳ない。なにせ夜間の時給は最低賃金を下回るのである。
以上のとおり、冒頭のニュースは、ただでさえ不当に低い積算根拠によって算定された交付金が、国のハシゴ外しによって8000万円支給されなかったというものである。
ワンストップ支援センターの整備は、第4次男女共同参画計画だけでなく、第3次犯罪被害者基本計画、平成29年7月刑法改正の附帯決議でも求められており、このハシゴ外しは二重三重に許しがたい。