見出し画像

盗撮が住居侵入で立件された場合の注意点

盗撮は、現行法では、都道府県の迷惑防止条例違反か、住居侵入罪として取り扱われている。現在、法務省において、性犯罪に関する刑事法検討会が開かれており、検討会では、盗撮を処罰する規定を、刑法に置く方向で議論されているが、今は、迷惑防止条例違反か住居侵入罪でなんとかするしかない。
今日は「あるべき姿」は措いて、「ありものを使う際の注意点」を書く。
もっぱら被害者代理人として受任した弁護士向けの記事である。

1 日弁連の犯罪被害者委託援助は使える
一部の犯罪の被害届に対し、日弁連は、弁護士費用を援助している。
性犯罪も犯罪被害者委託援助制度の対象である。
一般論として住居侵入罪のみでは、犯罪被害者委託援助制度の対象ではない。
しかし、援助申込みの用紙に、盗撮事案であり、その性質が性犯罪であると書くと、性犯罪枠で犯罪被害者委託援助制度を使うことができる。

2 当然に示談交渉の相手となるわけではない
Aさんが盗撮されたとしても、住居侵入罪の被害者は住居や建物の管理権者である。
例えば、Bさんの敷地内からAさんの盗撮をしたら住居侵入罪の被害者はBさん、C店のトイレや更衣室でAさんを盗撮したら住居侵入罪の被害者はC店である。

通常の性犯罪では、捜査機関を通じて、被害者代理人に「弁護人から示談交渉の申入れがきています」という連絡がくることが多い。
しかし、盗撮が住居侵入罪で立件された場合、被疑者はBさんやC店とのみ示談交渉をし、BさんやC店が被害届を取り下げて事件が終了する可能性がある。

被害者代理人となったらすぐ捜査機関に連絡し、その際に弁護人の連絡先も聞いて、被害者代理人として受任したことは知らせておくべきである。

3 当然に被害者特定事項の秘匿対象となるわけではない
刑事訴訟法上、裁判所の決定によって、被害者の名前や住所など被害者を特定することができる事項を、法廷で明らかにしないことが可能である。
強制わいせつ・強制性交等罪及び準強制わいせつ・準強制性交等罪をベースとする犯罪は290条の2第1項1号に、児童福祉法条の自動淫行罪や、児童ポルノ法違反に関する罪は2号に、被害者特定事項の秘匿決定の対象事件であることが明記されている。

盗撮は「性犯罪」だと、認識している方が多いので起こりがちなミスなのであるが、住居侵入罪は、そのままでは被害者特定事項の秘匿決定の対象事件ではない。

290条の2第1項3号「犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件」に当たると、裁判所にアピールし、決定を得なければならない。
被害者代理人は「当該事件が3号に該当しますよ」という上申書を書く一手間がいることを忘れないで欲しい。

以上、落ち着いて考えると当たり前の話だが、住居侵入罪は簡裁で副検事が担当する場合が多く、裁判所も検察官も性犯罪被害者対応に不慣れなこともままある。
いざという時バタバタしないよう、頭の片隅に置いていただければ幸いである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?