性交同意年齢に関する現在の私見

現行刑法の強制性交等罪において、性交同意年齢は13歳である。
13歳以上の者に強制性交等罪が成立するには、暴行脅迫と性交等の事実が必要であるが、12歳の者に性交等した場合は、暴行脅迫が不要である。
暴行脅迫が不要であるどころか、被害者が同意したり、むしろ誘っていても、性交した者に強制性交等罪が成立し、大人に対する強制性交等と同じく刑の下限は5年である。

では、13歳以上の未成年者に性交した場合は、どのように判断されているのか。
最高裁判例により、強制性交等罪の「暴行脅迫」は「被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであること」が必要である。
その程度は「相手方の年令、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲の環境その他具体的事情の如何と相伴って相手方の抗拒を不能にし又は此れを著しく困難ならしめるものであれば足りる。」のが判例である。
13歳以上の場合年齢を考慮して暴行脅迫の認定が行われている。

たとえば、私立高校の校長先生が、高校1年生になったばかりの15歳の生徒を校長室に呼び出して「性交に応じないと退学させる」と語気強く脅迫した場合などは、強制性交等罪が成立すると考えて良いだろう。
しかし、この15歳が、援助交際目的でSNSをして知り合った相手と、性交をする約束をして実際に遭ってみたら、自分の学校の校長先生だったけれど、気にせず約束どおり性交した場合は、強制性交等罪で立件してもらうことすら無理だろう。

また、この15歳が、同級生とデートをし、「やらせてくれなきゃ、もう会わない」と脅された場合は、現在の刑事実務においては、やはり立件されないだろう。

以上の例を見ると、現行法の個別具体的に判断する方法は、さほど不合理でもないように見える。
それなのに、被害者団体が性交同意年齢を16歳に引き上げてほしいと求める理由は何か。

現在の捜査実務において、性交された側に厳しく、性交した側に甘い「経験則」が用いられており、「被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであること」が非常に厳しいからである。

たとえば、先ほどの高校1年生の15歳に対し、校長先生ほどの権力勾配のない人が性交した場合を考える。
部活の外部コーチが、「お前が上達しないのは、身体の内部の柔らかさが足りないのだ。これを改善するにはセックスが必要だ」と言った場合、大人からみれば、「部活なんだから下手くそでいいじゃないか」と思うが、15歳にとっては退学レベルの一大事の可能性がある。

さらに、塾の先生が、中学生に、時間外に無料で個人指導をしてくれていたが、徐々に身体を触られるようになり、「次の個別指導では性交されるかもしれない」と薄々感じながらも、「個人指導を止めてしまわれたらどうしよう」と深刻に思い詰めている場合はどうか。もし、性交同意年齢が16歳に引き上げられれば、性交しただけで、この塾講師には強制性交等罪が成立する。
しかし、目に見えるような強制はないので、現行法では、強制性交等罪で立件してもらうのは厳しかろう。

なお、18歳未満の児童福祉法の児童に淫行をさせる罪の成立が検討されるが、この事実関係では、同罪での立件はかなり厳しい。各都道府県の淫行条例違反の可能性があるが同罪はかなり刑が軽い。

以上の例をみると、性交同意年齢の引き上げに反対する人が、ものすごく非道なことを言っているように見えるかもしれない。

法務省では、性犯罪に関する刑事法検討会が開かれており、公開されている資料の状況から見るに、いわゆる性交同意年齢に関する議論は3巡している。議事録が公開されているのは2巡目までなので、これを見ると反対論者の問題意識は、

1 性交等以外の全ての性的接触に反映されることの不都合
2 若年者間で、望んで行った性交等に強制性交等罪を成立させてよいか
3 若年者と成人との間の真摯な交際に基づく性交等に、強制性交等罪を成立させてよいか

の3点にある。

1がわかりにくいと思うが、ここが重大なので説明する。
現行の日本の刑法は、強制性交等における性交同意年齢と、強制わいせつにおける性交同意年齢が同じ13歳未満である。
そして、強制わいせつにおける「わいせつ」行為にはキスも含む。

このため、性交同意年齢が16歳に引き上がり、強制わいせつ罪も同様に引き上がると、中学校の卒業式の後、キスをしたカップルの両方に強制わいせつ罪が成立する。
これはやり過ぎである。

別に困らないという意見もあろう。しかし、普通にまともな知人の顔を思い浮かべても2、3人は該当しそうな感じがする。このような結果を招来する改正を求めても、多くの人の理解は得られないだろう。
この問題をクリアするには、強制性交等罪の性交同意年齢と、強制わいせつ罪の性交同意年齢を分けることが必須である。
つまり、15歳同士のキスを少年院送りにするのも問題だが、この問題を回避するのに、大人が15歳に性交することを全て個別判断とするのも極端なのだ。しかも個別判断が大人に甘い現状では。

次に、2の若年者間の性交等の問題である。
私は、16歳未満であれば、パターナリスティックな観点から、望んでした性交等でも、強制性交等罪を成立させて良いと考えている。
まず、15歳までの判断能力の成熟度は様々であり、外部から対等な関係に見えても、当事者間には圧力があって断れない事案を、私はよく見る。
また、義務教育機関の者を全て年齢で保護しようとすると16歳未満になるのだが、性交等は身体に対する侵襲度が高く、心身に対する影響が大きいので、義務教育までは全うさせるため、たとえ若年者の同意があったとしても、性交等から遠ざけるべきであると考えている。
なお、性交した者が14歳未満であるときは、刑事未成年なので、性交同意年齢が16歳未満に引き上げられたとしても、同級生と望んでセックスをして少年院送りになるリスクを負う期間は非常に短い。

最後に、3若年者と成人との間の真摯な交際に基づく性交等に強制性交等罪を成立させてよいかという問題についての私の意見は「よい。大人なら自制しろ。」である。

以上、取り急ぎ「強制性交等に関する性交同意年齢」の問題だけ書いたが、強制わいせつ罪に関する同意年齢をどうするか、16歳以上の者に対する性交等は個別判断のままでよいのかという問題は残っている。
「性的接触の各段階に必要な判断能力はどの程度か」「何歳になったら、どのような行為の判断能力があると考えて良いのか」「若年者にとって性交等を断ることが難しい関係性とはどのようなものか」ということを、個別的に考えて、可能な限り明確化することが望まれる。


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