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インターネットの誹謗中傷訴訟が実は喧嘩だったら?

「誹謗中傷されたと主張して、発信者情報開示請求をした人が、実は、先に暴言を吐いていた場合はどうするの?」という質問をいただいた。

「インターネットの誹謗中傷には発信者情報開示請求」という感覚は、なんとなく知られてきたようだ。

その上で「発信者情報開示請求は、請求者とサイト管理者との間でやるようだ。サイト管理者は、誹謗中傷と評価された投稿までの流れはわからないから、請求者はやりたい放題なのでは?」と心配なさっているのだろう。

実はインターネットの誹謗中傷事件には、最低でも3ステップある。

1stステップは、請求者が、サイト管理者(Twitter、5ちゃんねる、FC2など)を相手に起こす発信者情報開示請求だ。
これは民事保全法の仮処分という手続でやる。
ピンと来ないかもしれないが「ドラマでみるような『裁判』とはちょっと違うらしい」程度に理解すれば十分である。

2ndステップは、請求者が、経由プロバイダ(docomoとか、ソフトバンクとか)に対して行う発信者情報開示請求訴訟。これは「裁判」だ。
この訴訟で原告が勝訴すると、投稿者の氏名住所などの発信者情報がわかる。

ここまでが「発信者情報開示請求事件」と言われる手続である。

3rdステップは、請求者の投稿者に対する損害賠償請求訴訟だ。
この段階では、投稿者も当事者なので、「一方的な誹謗中傷ではなかった」「請求者の方が先に暴言を吐いた」と主張することもできる。このような主張は、過失相殺として損害賠償を減らす方向に作用する。
投稿者は「むしろ自分の方が酷いことを書かれた。こっちが損害賠償を請求したい」のであれば、反訴して損害賠償を請求することもできる。

3rdステップまでくると、インターネットの誹謗中傷を互いにしたケースも、リアル世界で誹謗中傷ビラを互いにしたケースと同じことをする。つまり原被告ともに氏名住所をオープンにした状態で主張立証を尽くす。

要するに民事訴訟をするには、訴状に被告の氏名住所を書かなければならないので、その準備として、匿名のネット投稿の場合は、1stステップ・2ndステップを踏んでいるだけなのだ。
実名アカウント同士なら、いきなり3rdステップから始まる。

準備と言っても、この1stステップ・2ndステップは時間の制約がキツく、ひとつのミスで3rdステップに辿り着けなくなることもある。しかも、投稿者が格安スマホを使っているなどの事情があると、1stステップと、2ndステップとの間に事件が増える。
だからと言って制限時間が伸びるわけではない。弁護士としては、こわい。

100m走れる人は多いだろうが、100mを10秒で走ったら特技の域てあるし、9秒8台なら、文字通りトップランナーである。
しかも、この100m走は、スタートしてから、ゴールが逃げていくこともある。
「発信者情報開示請求は、詳しい弁護士に頼んだ方がいいよ」と言われるのは、このような理由による。


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