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2021年音楽のふりかえり

今年はどんな一年だったかを考えるとき、やはり自分は音楽を一つのインデックスとして振り返ることが多い。例えば、ここ日本でも賛否両論の中、音楽フェスなどは少しずつ再開されるようになってきているけど、以前まではその年のラインナップを思い浮かべることがその年の自分の音楽体験の記録の一つとして自分の頭に記憶されていた。
今現在、自分の気持ち的にはそういうライブ的なものとはちょっと距離ができているような感覚があるけれど、それでも毎月、毎週のように出る新譜のレコードは、自分の射程圏内に入りそうなものは可能な限りチェックしようという気持ちは依然とあるので好きな作品は何かしらの形で記録しておきたい…ということで今年も個人的に印象的だった10作品をまとめておく。

10位 「Jubilee」- Japanese Breakfast

2021年の顔といえば、個人的にはこのJapanese BreakfastことMichelle Zaunerで間違いない。去年もBUMPER名義として作品をリリースしていたりと名前自体は絶え間なく聞く機会があるけど、今年は彼女にとってあらゆる方面で花開いた一年なんじゃないかと思う。韓国系アメリカ人としての半生を綴った私小説「Crying In H Mart」もザ・ニューヨーク・タイムズが選ぶベストセラーとなり、今作以外にもビデオゲーム「Sable」にサントラを提供したりと話題に事欠かなかった。「Jubilee(祝祭)」というタイトルがつけられた今作は最愛の母を失った悲しみから一歩前進した彼女の姿がうかがえる。リード・シングル「Be Sweet」は一際に輝くポップソング。

9位 「Renée Reed」- Renée Reed

“ケイジャンの大草原を思い起こさせるドリーミー・フォーク”と自ら表現するのは、アメリカはルイジアナ州のRenée Reedのセルフタイトル・デビュー・アルバム。そもそもケイジャンとはルイジアナ州に定住したフランス系移民のことを言い、そのケイジャンによって始められた民族音楽のこと指すのだが、彼女の音楽を通して初めて過去の歴史やその移民文化のことについて知る。たしか自分にとっての音楽とは、知らない土地の知らない文化や雰囲気を教えてくれるものとしての役割があるのだなと改めて感じさせてくれた。アルバムそのものはケイジャンの要素は混ぜつつも、現代的なフォークをベースにビジュアル・イメージのように夢見心地なトラックで終始構成されている。レコードの針を通すと、何もしたくなくなるような、こういう音楽を聴いていたいのだ。

8位 「New Long Leg」- Dry Cleaning

サウス・ロンドン出身のポスト・パンク・バンド Dry Cleaningの1stアルバム。Rough Tradeの年間ベストの1位もこのアルバムだった。今年UKのバンドでPushするならこのバンドしかいないよな、という感じ。歌い上げることはないスポークン・ワード・スタイルなFlorence Shawのボーカルと冷んやりとしたギター・サウンドがマッチして独特な雰囲気を醸し出している。今回のランキング唯一のバンドは彼らに。

7位 「CALL ME IF YOU GET LOST」- Tyler, the Creator

Hip-hopやRapを聴かない人々が聴くラッパーの代表格として挙げられると言ってもいいのではないだろうか。もはや説明不要のTyler, the Creatorの最新アルバムはキャリアを包括するような充実の内容。近作の「Flower Boy」や「IGOR」はタイラーのポップ・センスを全面に押し出した作品で自分もそこを間口として彼のファンになっていったが、今作はその流れを引き継ぎつつも、初期のHip-hop的なテイストも色濃い。メロウな曲の直後に暴力的なサウンドが投下されたりと、アルバムを聴いていると次は何が来るんだろうか…というワクワク感が常にある。このワクワク感を出せるアーティストというのは数少ないと思っているので、Tyler, the Creatorは自分にとって特別な存在なんだと思う。

6位 「Hildegard」- Hildegard

去年の個人的大名盤だったHelena Delandの「Someone New」に引き続き今年も彼女が作品を届けてくれた。同じくモントリオールを拠点とするマルチプレイヤー/プロデューサーのQuriとのProjectより「Hildegard」。実験的エレクトロ・サウンドにDelandのアンニュイなボーカルが乗っかっており、歌とメロディも絶妙な感じ残っているためアンダーグラウンドになり過ぎない感じがとても良い。8日間のスタジオでレコーディングされたJour 1 - 8の曲もバリエーションに富み、コンパクトに全曲30分以内に納められていて文句のつけようがない。中世ドイツの修道女ヒルデガルドのモチーフもシャープな感じ。

5位 「Paradigmes」- La Femme

意外なところで今年よく聴いていたのがこのフランスのパリのニュー・ウェイブ・バンド La Femme。ジャンルも横断して内容もカオスな感じだけど、このパーティ感をずっとキープしながら楽しく聴ける作品って最近あまり聴いていなかったかも。英米でロックバンドをやると嫌でもシーンのトレンドや現在っぽさというの意識せざるを得ない状況(もしくはそういう評価軸に組み込まれる)なのかもしれないけど、このLa Femmeから同時代性というのをあまり感じないのは拠点がフランスで自由気ままにできているからなのではと思ったり。

4位 「Any Shape You Take」- Indigo De Souza

オルタナティブ・ロックとかティーンエイジャーがキーワードとなる作品は手に取らないことの方が多いけど、それを上回るエモーショナルにやられてしまった。Indigo De Souzaはアメリカ North Carolinaの女性SSWのソロ・プロジェクト。アルバム・カバーにも通ずるところがあるけど、彼女の死生観というか感傷的な面が包み隠さず作品に投影されている印象を受ける。"I'd rather die than see you cry"や"Kill me"がアルバムを聴いて頭に残る歌詞だ。そういった若さゆえの不安やリアルな感情が作品を通して痛切に伝わった。少し蛇足だけど、オープニング・トラックのオートチューンが印象的な「17」もライブだとオルタナアレンジで演奏していたり彼女の核となる部分はそこにあるのだろうけど、「Ivy」のカバーもやっていたり彼女もFrank Oceanの「Blonde」がFavoriteなんだろうなと勝手に親近感が湧いている。

3位 「An Overview On Phenomenal Nature」- Cassandra Jenkins

「An Overview On Phenomenal Nature(驚異的な自然の概要)」とアルバム・タイトルが付けられた本作は、ツアー・メンバーの突然の死の喪失感が発端となって製作された。ツアー・キャンセルで空いた時間で彼女はノルウェーへの旅路についたという。その時の回想は「Ambiguous Norway」で触れられている。自然との交わりや他者との対話がモチーフとなっており、アルバムを覆う全体のムードもアンビエントな立体的な音のアプローチがとられている。随所随所にサックスの音の加えることで聴いている方も退屈させず、幻想的な雰囲気を作り出している。PitchfolkのBest New Musicにも選ばれた「Hard Drive」がその最たる例で重層的に奏でられる音の美しさに何度聴いてもうっとりしてしまう。

2位 「Sling」- Clairo

「Pretty Girl」のスマッシュ・ヒットを機に一躍ベッドルーム・ポップを象徴する時代の寵児となったのが記憶に新しいが、それはもう既に4年も前のことである。1stアルバム「Immunity」から2年経ち発表された2ndアルバム「Sling」。今作は彼女の作品を追ってきてきた人からすると、安易な言葉を使えば、随分と“落ち着いた”フォーク色寄りなサウンドが特徴的である。前作はRostamプロデュースの元、ある種インディー・マナーに従ったLo-Fiな音づかいで多くのインディー・リスナーに温かく迎え入れられた記憶があるが、個人的には小さくまとまってしまった印象もあって物足りなさを感じていたのが本音であった。言わば「Pretty Girl」のMVに映る少女が背伸びしたような形で映っていたと言えるかもしれない。それが一転、今作はClairoのアーティストとしての深化を見たような、23歳の大人の女性に成長した姿が感じ取られる。近年の米国ポップ・ミュージック・シーンの最重要人物と言っていいかもしれないJack Antonoffプロデュースにより、彼女のFavoriteである70年代のCarole KingやJoni Mitichellをリファレンスとした素朴ではあるが普遍的な暖かみのある音色で、自身の音楽活動の悩みや家族と対人関係のことが叙情的に描かれている。

1位 「Ignorance」- The Weather Station

圧倒的な完成度でこの一年ずっと聴いていたのがカナダをベースに女優・SSWとして活動するTamara Lindeman率いるThe Weather Stationの5thアルバム。レーベルはFat Possum Records。アルバムの前半は疾走感溢れるBPMの速い曲で多く、ストリングスも相まって気持ちを高揚させるようなオーセンティックな響きを持つ曲が続くが、後半になるにつれ、テンポを少し落としてじっくりと聴かせるような構成になっており、そこでは返って気品漂う彼女の歌声が際立つ構成となっている。自分にとって名作となるような良いアルバムの基準として、アルバムを聴いた場所と季節がリンクして後になってもその時の情景を思い出すことができるもの、というのがあるのだが、今作は正にそうで、春先にこのアルバムを聴きながら散歩した仙台 西公園の桜の景色が今でも思い浮かぶのだ。

2021年はコロナ禍の影響でずっと家にいたという記憶も強くあるわけではないのだが、何かと思い悩むことが多い年齢にもなってきたのか、そんな自分に寄り添ってくれるような、普段よりも内省的なフォーク色の強いものをよく聴いていたような気がする。個人の趣向としては、もっとポップ・シーンの音楽に盛り上がっていたいという気持ちがあるのだが、Tik Tokの脈略のないところでバイラル・ヒットされると着いていけなくなってきているのが正直なところ。こういうプラットフォームのずれが老化の始まりとなってしまうのか。

以下まとめ。(プレイリストには追加で数曲混ぜてる。)

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