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PV至上主義は悪なのか

PV至上主義は蛇蝎のごとく嫌われています。

コンテンツの価値は無機質な数値では評価できない、質より量を追求するとモラルハザードを起こす、など様々な理由でPV至上主義は忌避されます。しかしながら、Webメディアは広告収益をもたらすための主たるドライバーであるPVを追い求めざるを得ません。そんな板挟みの中で戦略を決めあぐねているWebメディアの皆様、ぜひこのnoteでPVとの付き合い方を再考し、戦略を立てるヒントを探してみてください。

私は、文春オンラインで1年間にわたりPVを高めるために量的・質的分析を行い、インサイトを毎週欠かさず編集部にフィードバックしてきました。その間、2020年1月の約2億4千万PVから、2020年12月には約3億3千万PVまで大きくなりました。もちろん、スクープの有無によってPVは大きく変動するのですが(4億PVを超えた月もありました)、平常時のベースのPVも上がってきています。

このnoteで紹介するデータは、Google Analytics で収集した行動データ、Webアンケート調査で収集した行動・心理データ、文春オンライン編集部・デジタル部門の知見を、文春オンライン編集部の許可を得て整理したものです。このデータをもとに、PV至上主義が本当に悪なのか、再考していきたいと思います。

PVを使って評価する対象を整理する

PVを考える時にまず注意したいのは、コンテンツ・ビジネスモデル・成長モデルのそれぞれに対してPVが持つ意味を混同してはいけないということです。

コンテンツ

PVは当然評価に用いますが、コンテンツの"良質さ"がダイレクトにPVに反映されるわけではありません。コンテンツをデータで評価するとき、その目的は読者の解像度を高めて、コンテンツの価値を適切に届けるセンスを磨くことです。良質なコンテンツは、Webメディアが提供できる本質的な便益・競争力の根源です。私は、伝統あるメディアで培われた制作ノウハウを信頼しており、PVが低いからといって品質をあえて下げて"Webっぽく"する必要はないと考えています。良質なコンテンツのPVが低いとき、その理由の大半はアベイラビリティ(可用性)が低いことにあります。(後述)

ビジネスモデル

収益構造を安定させるために、PVによって売上が上がる広告収益(ディスプレイ広告、タイアップ広告等含む)と同時に、購読や課金などの読者から直接対価を得る高単価のビジネスモデルを組み合わせることが理想的です。後者は、読者の積極的な選好度(プレファレンス)や訪問頻度の高い読者数(ヘビー読者数)によって大きくなると見込まれるため、従来のPV偏重の価値観では売上拡大が見込めないと考えるのも自然です。しかしながら、PVの構成要素のうち最重要の"読者数"を追求することで、自然とヘビー読者数も向上し、プレファレンスも高まります。

成長モデル

Webメディアの成長にとって、PVの増加、より正確に言えばPVをもたらす読者基盤の拡大は最優先戦略です。その理由を詳しく見ていきます。

PVの構造は記事中心ではなく、読者中心に考える

次に、PV構造の考え方を整理します。

Webメディアの立ち上げフェーズにまず考えるのは、下記3点ではないでしょうか?

- 記事数を増やすこと
- Yahoo!ニュースを代表とする配信先と連携して、表示回数を増やすこと
- タイトルのクリック率(CTR)を高めること

この戦略のもとでは、 PV = 記事数 x 表示回数 x CTR と分解できます。

Webメディア初期の戦略としてこれらは有効です。しかし、これらの指標は途中で天井にぶち当たります。

- 編集部の人数と時間に制限がある以上、記事数には上限がある
- 国内の主要な配信先は両手で数えられる程度しか存在しない
- CTRを追求するとクリックベイトに陥る

ここを徹底的に追求すると、コストの低い記事をクラウドソーシングで量産し、配信先のアルゴリズムをハックして表示回数を増やし、事実を無視した過激なタイトルで読者の興味を引くという戦略にたどり着きます。この戦略の行き着く先はWELQ問題です。

Webメディアの立ち上げフェーズを超えたら、PV = 読者数 x 訪問頻度 x 回遊数 とKPIを設定することで、チームに正しいインセンティブを与えるべきです。

- 読者数: リーチ
- 1読者あたりの訪問頻度: エンゲージメント
- 1訪問あたりのページビュー数(回遊数): セッションの質

読者数 x 訪問頻度が、一般にセッション数と呼ばれているものです。

セッション数を増やしたい時に、リーチを優先するのか、エンゲージメントを優先するのかという疑問が出てきます。結論から言うとリーチを優先するべきです。リーチを拡大することで、エンゲージメントを低下させることなくセッション数が増加します。リーチが拡大するとライト読者ばかりになってエンゲージメントが下がる気がしますが、実際にはむしろわずかに上昇します。

コアなファンの閲読傾向を分析してエンゲージメントを高めようとする垂直戦略よりも、一見さんを呼び込む水平戦略をとったほうが成長する確率が高いということです。

リーチを拡大してもエンゲージメントは低下しない

複数のWebメディアの読者数(リーチ)と、過去1ヶ月の訪問頻度(エンゲージメント)を、Webアンケートで調査しました。

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グラフを見るとリーチに大きな差があっても、エンゲージメントはほぼ同じであることがわかります。

このWebアンケート調査では、過去一ヵ月の間に読んだ頻度を質問することでエンゲージメントを推定しましたが、実際にはWebメディア名を意識しないまま記事を読んでいる読者も多いので、エンゲージメントの値とその差はより小さくなります。

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Google Analytics の行動データを見てみても、文春オンラインのなかで読者数(リーチ)が伸びた月には、訪問頻度(エンゲージメント)も連動して高まっていることがわかります。ただし、その数値変動は小さく、1年を通して一定と考えても良いレベルでしょう。

リーチを増やすことでヘビー読者が増加する

次に、訪問頻度が5回以上と答えた読者の数(ヘビー読者数)を見てみましょう。

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グラフを見ると、Webメディアの特性による多少の差はありますが、総読者数とヘビー読者数はほぼ直線状に並び、相関関係があることがわかります。リーチが大きくなってもエンゲージメントがほぼ変わらないのは、読者基盤が拡大するとき、ライト読者だけでなくヘビー読者も増加しているからと推測できます。この傾向は、期間や調査対象メディア、メディアのジャンルを変えても見られました。リーチを増やすことでヘビー読者が増加するのです。

別の言い方をすると、読者が少ないけどファンが多いWebメディアというのはごく稀であり、もしヘビー読者の割合が相対的に高い場合は、潜在的なライト読者を単に逃しているだけということです。

Webメディアはコンセプトの陣取りゲームをしているわけではない

次に、複数のWebメディアがどれだけ読者基盤を共有しているのか見てみましょう。下表は、2020年12月に行ったWebアンケートで1,181人の回答をもとに、読者が同時に読んでいるWebメディアの割合を推定したものです。Webメディアはリーチが大きい順に並んでいます。

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文春オンラインは、ビジネス誌Aと52%もの読者を共有しています。また、読者の共有率は、共有相手のリーチが大きいほど高くなります。たとえ扱うジャンルが異なっていても、どのWebメディアも、リーチが最大である文春オンラインと非常に多くの読者を共有しています。Webメディア同士はたとえジャンルが異なっていても想像以上に読者を共有しているのです。

また、表の中でもっともリーチが小さいビジネス誌Dは、読者の共有率が最も高いです。これが意味するのは、ビジネス誌Dの読者はビジネス誌Dを特に好きな読者というわけではなく、ニュースを読むこと自体が好きな読者ということです。

Webメディアのジャンル(経済・スポーツ等)に囚われすぎると潜在的な読者を逃してしまう可能性があります。自分たちの強み・オリジナリティを使いこなしながら越境することでリーチを伸ばしていくことが出来ます。

奪い合っているもの① プレファレンス

Webメディアはコンセプトや読者を奪い合っているわけではない、という示唆が得られましたが、実際のところ奪い合っているのは読者のプレファレンス(選好度)アベイラビリティ(可用性)です。

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リーチの大きいWebメディアはプレファレンスも高くなる関係が見られます。Webアンケート調査を他の時期に実施しても、対象メディアを変えても同じ傾向が見られました。

文春オンラインのイメージ調査をすると、不倫スクープに引きずられたマイナスイメージもかなり多く出ます。しかしながら、次に読みたいメディアを聞かれると、多少イメージが悪かろうが最も名前が上がるのはリーチの大きい文春オンラインです。知らないWebメディアを好きにはなれない、ということです。

さらに、最も成長インパクトが大きいのは、どのメディアも読みたくないと考えている過半数の心を掴むことだと読み取れます。既存の読者に適合しすぎずに、幅広い読者にコンテンツを届けるために何が出来るか、どんな切り口や表現方法がありえるか考え続けることが大事です。

奪い合っているもの② アベイラビリティ

アベイラビリティ(可用性)はメンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティの2つに分けられます。

メンタル・アベイラビリティとは、記事を読むための期待と考えてください。それはタイトルを見る前から想起されることもありますし(例えば毎朝の占いなどの習慣化したコンテンツ)、サムネイルとタイトルを見て喚起されることもあります。面白い、価値ある情報を得られそうだという期待なくしてコンテンツはクリックされません。読者は期待を持ってコンテンツを読み始め、期待が裏切られた時と期待が満たされた時に離脱します。

フィジカル・アベイラビリティとは、読者の目につく場所にコンテンツが表示されている状態のことです。記事と読者の主要なタッチポイントは、検索エンジン40%、大手アグリゲーター40%、SNS15%と両手で数え切れるプレイヤーによってほぼ網羅されています。(数値はReuter Institute Digital News Report と私の実感によるざっくり推定)
さらに、その中でも目につく枠は限られています。その枠を占めるためには、コンテンツの価値を高めるだけでなく、情報収集と交渉、アルゴリズムの理解、ユーザー特性の把握、タイトル・サムネイルの工夫など打ち手はたくさんあります。

なぜリーチが増えてもエンゲージメントは下がらないのか?

Webメディアの読者の閲読頻度は、ロングテールの形をしています。これは規模の大小やジャンルによらず、ほぼ同じ形をしています。(参考書籍の「ブランディングの科学」や「確率思考の戦略論」で紹介されているNBDモデルで表現できます)

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上のグラフは文春オンラインに一月の間に訪れた読者を訪問頻度別に整理したものです。訪問頻度1回のライト読者が圧倒的に多く、それ以上にこの分布に載っていない頻度0回の非読者が大量にいます。そのため、彼ら・彼女らが読みたくなるコンテンツやアベイラビリティを見つければ新規読者数は大きく上昇します。同時に、そのような取り組みが最も伝わりやすいのは既存読者なので、既存読者の訪問頻度にも影響を与えます。その結果、分布の位置が右にスライドするのでエンゲージメントも低下しないし、ヘビー読者も増えているのです。

このような分布が発生するのは、特定のWebメディアだけを読む読者はほとんどおらず、Webメディアは読者基盤を共有しているためです。大多数の読者にとって、あるWebメディアというのは大量に出会ううちの一つでしかないということです。

また、Webメディアは成長するに従って、情報感度の高いニュース好き読者から順に取り込んでいきます。ニュース好きでないライト読者の訪問頻度を、既存読者の傾向をもとにした戦略で高めるのは難しいと思われるので、エンゲージメントを先に高める戦略は難しいと考えます。それが出来るのは、Webメディアというプロダクト自体に相当な独自性と便益が存在する場合でしょう。

PVはコンテンツの価値を反映するのか?

PVは「コンテンツの価値」「アベイラビリティ」「Webメディアのプレファレンス」をパラメータとして確率的に決まる、と私は考えています。

コンテンツの価値はもちろんPVに反映されますが、アベイラビリティ(コンテンツの価値の届け方)はそれ以上に大きく影響します。Webメディアへのプレファレンス(選好度)が高いと、PVが上がる確率が高くなります。

もしPVが低くても、必ずしもコンテンツに価値がないわけではありません。自分たちのコンテンツに自信と信頼があるのであれば、まずはアベイラビリティの不足を検討してみると良いでしょう。

- タイトルから喚起される期待はコンテンツを読み進める上で適切か
- 読んでほしい読者がいるタッチポイントにコンテンツを送り届けることができているか

データをもとにこれらの注意点を考察することができます。離脱率や滞在時間はメンタル・アベイラビリティを反映すると考えられますし、流入経路や読者属性はフィジカル・アベイラビリティを考察する上で有効です。特に、事前に考えていた予想と乖離している数値や、違和感を覚えたところを重点的に考えてみてください。このフィードバックを毎週繰り返すことで、読者解像度を高めつつ、数値に対する勘所を掴んで違和感を捉えることが上手くなります。

私は上記のような分析を行う時、特にPVが高い記事について考えることにしています。どれだけPVが高くとも改善点はありますし、PVが低いコンテンツはデータが少ないので定量的な分析に向きません。

PVは確率的に決まるので、全てがうまくいっても運が悪ければPVは上がりません。そのため1つのコンテンツのPVの多寡にこだわりすぎずに、打率を気にした方が良いでしょう。

PVの大きい記事は長期的にどんな意味を持つのか?

PVが大きいコンテンツを連発しても、会員機能がないと、わかりやすい形で蓄積される資産が感じられないかもしれません。

しかし、読者基盤が拡大すると、読者の記憶構造やプレファレンスにWebメディアのブランドが定着していきます。そのようにして高まったプレファレンスは、今後のPVに下駄を履かせてくれますし、読者から直接対価を得る際にも資産になるでしょう。

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実際に、文春オンラインを認知している読者の数はこの1年で徐々に増加していきました。また、読者基盤を拡大するようなスクープ(黒川元検事長の接待賭けマージャン等)が出た時には、認知度・プレファレンスも特に大きく向上したことが確認できています。

リーチ優先戦略と公共性

私は、このnoteを新聞社・テレビ局のWeb報道に関わる方々に、特に読んでほしいと思っています。

Webメディアの成長を追求するならばリーチ戦略が最優先という話をしましたが、Webメディアの存在意義としてターゲットが限られている場合は、そもそも読者数を拡大する必要がないことも多いでしょう。また、Webメディアの運営組織が小規模の場合も、過剰な成長や売上は必要ないかもしれません。これらのWebメディアは既存読者のエンゲージメントとプレファレンスを高める戦略をとり、読者が支払う対価を高めていくことで持続可能です。

しかし、新聞社やテレビ局は公共的な役割を特に強く担っています。メディアの"公共性"は多面的な概念ですが、ここではひとまず「あらゆる市民が主体的に社会参画するための、民主主義を支える情報インフラ」と定義して話します。なぜ公共性を担うWebメディアはリーチ優先戦略を取るべきなのでしょうか?

第一に、公共的な役割を果たすメディアは、できるだけ多くの市民に情報を届ける責任を持っています。そのためには、ライト読者と非読者にコンテンツを送り届ける努力を、コンテンツ制作と同じくらい重要に考えないといけません。"Webの読者"は同時に地上波や紙面を見る読者でもあります。WebでPVが上がらないのは、アベイラビリティを構築する努力が足りていないのが原因であり、読者が愚かだからでも好奇心がないからでもありません。(読者は怠慢で飽き性かもしれませんが)

第二に、リーチを拡大しないと、巨大な取材組織を維持するビジネスモデルを構築できないからです。エンゲージメント優先戦略ではヘビー読者のプレファレンスは向上しますが、ヘビー読者数はあまり増えません。その場合、ヘビー読者から受け取る対価をどんどん高めざるを得ません。それは公共性を持つメディアとは言えないのではないでしょうか? 日本はアグリゲーターが強い流通構造を持つので、ヘビー読者割合は欧米に比べて上がりにくいと予想できます。そのため、読者基盤を拡大することでヘビー読者数を高める道筋を早くから開拓していくべきです。

まとめ

PV至上主義が悪であるのは、PV構造を記事中心に考えてしまうからです。読者を中心にKPIを設計し、読者をよく理解し、読者に価値を届けるとき、PVは健全に成長しますし、高単価のビジネスモデルにチャレンジするときの大きな資産となるはずです。

また、PVを成長させる時に読者基盤の拡大をおろそかにしてはいけません。読者基盤の拡大は、結果的にヘビー読者数を増やすことにもつながります。ただし、これは万人受けする最大公約数的なコンテンツを作ってばらまく、という意味ではありません。それが有効になり得るのはマス・コミュニケーションが成立している状態です。読者とコンテンツとのタッチポイントが多様な現在は、一つ一つのコンテンツ単位ではターゲットとコンセプトを勇気を持って絞り込み、Webメディア全体の戦略ではターゲットを広く考えるバランス感覚が最も大事なんじゃないかと思います。

このnoteでは、Webメディアの基本的な戦略とPVの考え方を解説しました。戦略の実行は、Webメディアに応じていろいろなやり方があると思います。私自身もこの1年間で上手くいった戦術・ノウハウもあれば、効果がなかったものもたくさんあります。もし気になる方がいれば、是非話しかけてください。

参考書籍

下記の書籍に出てくる概念を、このnoteでは頻繁に用いています。大きくは外していないと思いますが、Webメディアに当てはめる時に多少単純化したり別の意味で使っている部分もあります。



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