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41歳からの〝ひろがる転職(チェンジ)!〟 ~転職は、プリキュアだ。~ ⑤


前回までのあらすじ


嘘と騙しばかりの最悪なブラック企業から脱出すべく転職活動を始めた祥太だったが、突然の出社を命じられてしまう。大いに狂ってしまう面接日程。

それらは全て、出向先での祥太の作業を勝手に社内の素人に割り振ろうと画策したA課長とその親分F取締役の罠だった。

事態を察知した出向先プロパー社員たちは、祥太を救うために立ち上がる。



第5話「社長(ボス)に投げよう! ワタシだけのレジグネーション☆」


※resignation…退職届

祥太を救え! 元請け対3次請け!!

12月12日火曜日の朝、私が指定の作業場所(自宅)以外に理由なく引きずり出されて職務専念に多大な支障が出ている、また秘密保持契約の履行に対する重大な懸念があるという至極シンプルで重いクレームが、会社の上層部に到達しました。

元請けである出向先(大企業の超大手システム子会社)、2次請けである中堅ベンダーの両方から厳しいお叱りを受け、F取締役は真っ青になって電話口に平謝りしています。

出向先のプロパー社員達は私の窮状を知り、法務と営業に掛け合って警告を出すよう働きかけてくれていたのです。

出向先の現場に入っていたのは半年に満たない僅かな期間でしたが、それでもプロパー社員の方々は私を仲間と認めて、何とか助け出すために奔走してくださいました。

事ここに至っては今後新規の取引はないのでしょうが、もはや知ったことか。全部、A課長とF取締役がが撒いた種だ。私がやらなきゃ、犯罪者に仕立て上げられていたのは私の方だ。

出向先のプロパー社員を巻き込んだ壮大な叛逆が功を奏し、ここにA課長とF取締役の目論見はようやく潰え、即時帰宅して自宅作業再開となりました。

これでまた18時台に面接を入れることができ、通勤時間も全て転職活動にあてられます。とはいえ実際には、この日の19時から始まった最終面接によって、全ての命運は決しているのでした……。

最終面接! メチャドキドキ緊張!!

2023年12月12日火曜日、19:00。ついに、本命企業の最終面接です。

緊張が半端じゃありません。

最初に応募先を探していた時にビビッと来て「ここ、いいな」と一目惚れした本命企業です。

東証プライム上場企業だったり成長性も業績も優れているというのは実は内定後に気付いた話で、会社が目指している世界、細かい業務内容というよりも本当に実現したいこととして掲げられていたことが、私の思い描いている夢にぴったりフィットしていたのです。

この会社に入れば、単に稼ぐ手段ではなく、自分の夢を叶えられる可能性が高くなる。

面接の準備は入念に取り組みました。

まず、これまでの職務経歴をしっかり説明し、質疑応答の受け答えも淀みなく的確にできるようにしておきます。どんな環境で、どんな立場で、どう行動したか。どんなエピソードをアピールするか。どんな切り口で聞かれても慌てることのないように、一人で練習も欠かしません。

そして先方から提示されている想定ポジションが新設部門ということもあり、周囲との協力や強調についても見極められていることが予想されました。周りの状況を踏まえて行動ができるか、チームで働いた経験はあるか、上手に周囲を頼ったり、助け船をだしたりできるか。そういったポイントもアピールしていきます。

こちらからの質問も事前にしっかり用意しておきます。この会社で働くとしたら……を想定し、志望度の高さや興味が伝わるような内容を盛り込みます。とはいえ本当に入って働きたいと思っていたので、特に作らなくても自然に湧いてきました。

直前までは極度の緊張状態にありましたが、このように準備も心構えも納得のいくまで整えていたおかげで、本番はリラックスして臨むことができました。

ついつい話がはずみ、プライベートな話までしてしまいました。

プリキュアが大好きで、たくさん日々の幸せや生きる活力をもらったこと。プリキュアが描く変身と成長の物語は、われわれ社会人にとっても学べる点が意外に多いこと。プリキュアのファン活動で多くの出会いがあったこと。時にはプロのお仕事をお手伝いさせていただいたこと。趣味の世界でも仕事で培った技術やスキルを活かせたこと。もっともっと自分の能力を上げて、いつかプリキュアに、そしてプリキュアを作ってくださった方々に恩返しがしたいこと。

率直にいって、感触は非常に良かったです。

後半だいぶ余計なことまで話してしまった気がします。でも、本命だからこそ自分を取り繕ったり偽りの自分を見せたりしたくなかったのです。素直な本当の自分を出して最終面接に臨めたと思います。

なお、最終面接で私の話を終始楽しそうに聞いてくださった面接官は、現在私の上司の上司の上司です。

後に「どうやらウチの部門は変な人を積極的に集めているらしい」という話を聞いたのは、入社して3か月ほど過ぎた頃の、いずれも一癖も二癖もある変人ばかり集まった飲み会の席でした。

内定が出る! プリキュア語りが起こした奇跡!!

12月13日水曜日、16時26分。エージェントさんから本命企業の「最終面接合格」および「オファー面談」の連絡をいただきました。

つまり、内定です。

個人的にはここで終戦でもよいのですが、エージェントさんのアドバイスに基づき、有利な条件で転職できる内定を増やすため転職活動は続行です。

結果として最終的に承諾した内定は本命企業でしたが、こういう舞い上がった時にも冷静な第三者の視点でアドバイスをもらえるのがエージェントさんにお願いする利点だと思います。

この頃になると、ほとんどの企業で最終面接までは進むようになっていました。良い形で盛り上がって話も弾み、「お祈り」される場合も「お人柄と能力は良いのですがご経験がマッチしておらず」という表現が増えてきました。異世界転生を目指している私にとっては、何より励みになる言葉でした。要するに、あとは即戦力としてのみならず「これまでの経験とこれからの可能性」を買ってくれる企業に出会うだけなのですから。

エージェントさんに相談した結果、退職届の正式な提出は内定承諾後ということになりました。一方、混乱を防ぐために有給休暇の取得は先行して進めていくことにしました。

そして「退職のための有給消化のプランを練る」という、人生の中でも最高に楽しい部類に数えられる時間が始まります。

有給を守れ! 祥太の新しい力!!

この時点で、残業代未払いの代償として一方的に振替休暇とされた休日出勤8日分に加えて、11月以降の休日出勤の振替休暇3日分と、残っていた有給休暇7日分。合計で18日分の有休が手持ちで残されていました。

これだけあれば、1月がまるごと休みにできそうです。

さっそく計画を立て、一気に申請していきます。万が一の体調不良などで出社日が後から増えるのは避けたいので、バッファとして1日分を温存し、17日分だけ一斉に取得することにしました。

通常の勤怠承認フローであれば直属の上司であるA課長に承認を依頼するのですが、この時は自分で「承認」して会社に通告しました。

何しろ会社が労働条件通知書で私を「労働基準法41条2号該当労働者」すなわち管理監督者だと認めているのですから、労働基準法41条2号および昭和63年3月14日基発第150号「労働基準法関係解釈例規について」に基づき、私は自己裁量で自分の勤務時間を管理することができるはずです。

これを拒否してしまうと「本当は管理監督者ではなかった」と会社自身が証明する形になり、自動的に会社は私の残業代を全額精算させられるハメになるのです。A課長もF取締役も、苦虫を噛みつぶしたような顔で追認せざるを得ませんでした。

結果、出社日は表向きには翌2024年の1月4日木曜日と1月5日金曜日の2日間が最終になりました。なお5日はバッファ分で、無事に4日まで勤め上げれば追加で5日も有休を取得します。

引き継ぎ作業も、ほとんど発生しませんでした。

F取締役自身が私に残業代を払いたくないがために9月と10月の休日出勤をほとんど振替休暇にしてしまった結果、年末年始や祝日も相まって1か月近い有給期間が発生してしまっていました。そして就業規則上、退職は退職日の1か月前までに申し出れば良いことになっています。

つまり、会社が私の退職を知るのは、ほとんど退職間近になってからです。なので引き継ぎの計画を立てるような余裕は一切ありません。

とはいえ、実際にはF取締役とA課長以外の人が困らないようにするために事前準備はしっかりしておきました。

AとFのこわいもの!

この大量の有休取得によって、F取締役もA課長も私が脱出準備を完了したことを察したようです。この頃から、突如として態度が急変しました。

手のひらクルックルです。

もう、遅いんだよ。何もかもさ。

どういう風の吹き回しか、「リーダー」への昇格を打診されます。内定が出ている以上もはや私が乗る可能性は万に一つもなかったのですが、一応それで給料がいくら増えるのかを聞いてみると、月1万円とのこと。

ナメんな。

どういう理屈で、月収が7万円上がる人間を引き止められると思った?!

それも、あくまで「リーダー」であって管理職ではないそうです。人を労働基準法上の管理監督者にしといて「管理職ではない」って、A課長もF取締役もとうとう自分で自分の言っていることがわからなくなったとみえます。

私が退職すると、A課長の部署にはプロパーのエンジニアが不在となります。SESで単価の高いエンジニアを連れてこなければ、仕事が一切回りません。分相応に開発の絡まない仕事に特化すれば問題はないのですが、それは彼のプライドが許さないようです。

しかしA課長は絶望的に仕事ができないので、私抜きではそんな開発案件を引っ張ってくることも出来ません。仮に降ってきたとして、自分では回すこともできません。この部署はもはや、存在するだけで赤字を垂れ流す会社のお荷物と成り下がりました。

そんな地獄から解放され、いよいよ本命企業のオファー面談に臨みます。

祥太対執行役員!? 私は生まれ変わる!!

12月19日火曜日、18時。本命企業の本社でのオファー面談に臨みます。これまでの社会人経験で立ち入ったことのない巨大なオフィスビルに事前に発行された当日IDで入り、上がったことのないような階数に入居しているオフィスを訪ねます。

オファー面談というのは内定後に労働条件などを双方で確認したり入社の意思を確認したりする場です。既に選考は終わっており、この場でのやり取りは内定自体に何ら影響しません。

対応してくださった最終面接の面接官、執行役員の方とざっくばらんにお話をさせていただき、入ってほしい現場がテレワークではないこと、仕事や評価は厳しいが、私ならきっと期待に応えて成長してくれると期待していることなどをお伺いし、とても勇気づけられました。

テレワークは通勤時間をまるごと削減できたりプライベートの時間を増やせたり仕事の休憩時間や合間に家のことができたりと良いことづくめで、エージェントさんに希望の一つとしては出していましたが、自分を必要としてくれている現場があるなら、ぜひ直接馳せ参じたい。自然と、そんな風に思わせてくれました。

この時点で、この会社に入って「なりたい自分になる」決意を固めていました。

他の会社からも内定を複数いただくことができ、年内には決断して2月入社を目指す方針を固めました。

そして本命企業への回答期限は、12月27日水曜日に決まります。エージェントさんには余裕をもって17時までにお伝えすることになりました。それまでに自社に退職届を受理させる必要があります。

全ての選考企業の最終面接の結果が12月26日火曜日までには出揃うので、それを待ってからでも1日近く余裕がある計算です。

しかし、この期に及んで、またしてもA課長がやらかしてくれます。

祥太危機一髪! 内定が流れちゃう!?

12月26日火曜日、午前。選考結果が出揃い、やはり初志貫徹、本命企業の内定を承諾することに決めました。

出向先のテレワーク中でしたが、昼休み中を利用して自社オフィスに「出社」し、退職届を直属の上司であるA課長に提出し、残っていた私物を全て回収してきました。

あとはA課長から受理の連絡を受けて内定承諾をするだけだったのですが……

翌、12月27日水曜日。午後になってもA課長から受理の連絡はありません。Teamsで連絡しても、一切応答なしです。

とりあえず返事くらいできませんかね。大人なんですから。

しびれを切らして偽名で会社の代表電話にかけ、A課長を呼んでもらいました。「おはようございます。祥太です。」と名乗ったときの、電話口の向こうの「ヒッ!」という声は今も忘れられません。前日の13時には提出していた退職届の受理が遅れている理由を尋ねると、彼は声を震わせながら「担当者」(人事総務)がインフルエンザで休みで時間がかかる、という意味不明な言い訳を並べたてます。

さすがにブチ切れました。A課長の怠慢によって、最悪あやうく本命の内定をフイにする可能性すらあったわけですから。

社長に代われと言いますが、モゴモゴとよくわからない言い訳をするばかりで、頑なに代わろうとしません。しまいには、社長は朝から外出中だと言い始めました。

……へえ、今の今私が代表電話にかけて最初に電話に出てきたのがその社長なんだけどな、バカめが。それを指摘すると、10秒ほど支離滅裂な言い訳が連なったのちに電話が切れました。

もうコイツは駄目だ、ということで社長の個人携帯に直接電話をかけ、13時19分、署名捺印を電子署名で代替して再度直接社長宛にオンラインで退職届を提出。受理されました。

なお退職時に直接人事総務に確認すると、担当者がインフルエンザで休んだ事実はなかったとのこと。また退職前に役員から聞いたところでは、部署に残された最後のプロパー社員エンジニアである私が退職するとA課長の評価が大きく下がるため、自らの保身のために私の退職届をなかったことにして内定辞退に持ち込もうとしていたのかも、ということでした。そんなことあるわけが……と一笑に付したいところですが、あの人くらいアホだと、本当にそれを企図して動いていた可能性を払拭できません。

ともあれ晴れて退職が確定したので、即座にエージェントさんに報告。

そして13時48分。無事、内定承諾の意向をエージェントさんから本命企業に伝えていただきました。

さあ、あとは出向先で最後のリリース作業をこなせば仕事納めです。

年末年始は、冬コミに出て、打ち上げに参加して、そのまま実家に帰って年を越し、東京に戻って、友達4人で全プリキュア展横浜会場に行く……という楽しいイベントがたくさん待ち受けています。

それが終われば、1日だけ出社して、あとはしばし自由の身です。

退職者いっぱい! みんなで幸せゲットだよ!!

年が明けて2024年1月4日木曜日、3週間ぶりの出社日。そして最後の出社日になりました。

もともと4日、5日と休暇にして正月休みの延長にしている社員が多く、客先もほとんど動いていないことから、出社しているのは一部の社員のみ。穏やかな気持ちで最後の1日を過ごしました。

結局上からの引き継ぎ指示は何もありませんでしたが、それでは現場に残される同僚達が確実に困るので、ありとあらゆるシチュエーションを想定しながら考え得るケアを資料や書き置き、ツールという形で残しておきました。

そして午後になり、もはや半休以上の病欠リスクも存在しないため、最後まで温存しておいたバッファ有休1日分を翌1月5日付で取得しました。まあ、そもそも私は管理監督者なので本来はもはや深夜残業以外の勤怠管理は何ら意味をなさないんですけどね。

それが終われば最後の作業、自端末の初期化です。帰り際、人事総務の担当者に入館証と社員証、名刺を返却し、労いの言葉をかけていただきました。

最後に出社していた方々にご挨拶し、晴れやかな気持ちで前職の職場を後にしました。

ただし1月31日までアカウントは残っていたため、残った時間で同僚達と勉強した内容の共有などは続けていました。会社を出ていくために転職活動を通じて新たに得た知見やスキルでしたが、少しでも会社に残る同僚達に役立てたいと思ったのです。

私の退職後、把握しているだけで5人が退職ないし退職の意向を固めたそうです。

あの日、会社のエントランスでA課長とF取締役に大声で叛逆した様子を見ていたみんなの心にミラクルライトとして灯り、小さな勇気が大きく育っていたのでした。

ざまあ見ろ。

さて、考えなしに新規事業をブチ上げて計画の杜撰さと法令違反で見事大失敗したF取締役と、あまりにも仕事ができなさすぎてプロジェクトを悉く失敗させた上に自部署からエンジニアを全員流出させてしまったA課長。

その後の2人の行く末を、私は知りません。

彼らが落ちぶれていく様を追いかけていくのは所謂「ざまぁ系」としてのコンテンツ性は高いのですが、私はもう新しい人生を歩み始めました。正直、あれがどうなろうと興味はないです。なので、あれの話はここでおしまいです。以後、私の物語には一切登場しません。

さて、地獄の休日出勤を代償にゲットした、ご褒美冬休みの始まりです。


次回予告 (第6話[終]…2024年夏頃)


ブラック企業と訣別した祥太。

ここから新しい人生が始まる。その道のりは果てしなく、そして険しい。それでも、歩みを止めることはない。

これは、わたしが歩くわたしの道。わたしが歩く、わたしだけの道。たとえそれが遠回りだとしても、これが、嘘偽りのないわたしの想い。 わたしのワガママ。わたしの道です!

『41歳からの〝ひろがる転職(チェンジ)!〟』、
最終回「無限にひろがる! わたしたちの世界!」

転職は、プリキュアだ。


サブタイトル元ネタ…『スター☆トゥインクルプリキュア』(2019) 第49話[終]

小見出し元ネタ…『フレッシュプリキュア!』(2009) 第43、48、47、37、33、25、30、50[終]、49話

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