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私の人生を変えた一本の映画

映画監督の降旗康男さんが亡くなりました。
降旗監督といえば高倉健さんと組んで数々の名作を世に送り出した監督ですが、私にとって一番思い入れが強い作品は「鉄道員(ぽっぽや)」です。

 
公開当時大学生だった私。
初めて観たのは映画館ではなく、TSUTAYAのレンタル。
当時はまだVHSでした。
夜中に自宅で見たのですが、北国の美しい雪景色と高倉健さんの演技、坂本龍一さんの音楽の素晴らしさに、映画やドラマを見てこれほど泣いたことは無いというくらい泣いてしまい、そのとき初めて自分が涙もろい人間だと気付かされた、そんな私にとってはそういう位置付けの作品です。
正直言いますとあの時は高倉健さん目当てで借りたわけでもなく、降旗監督作品だから借りたわけでもなく、ただ広末涼子さんのかわいさを愛でたいという気持ちで借りてきた一本だったわけですが、この一本は結果として私に自己の涙腺の弱さを教えたばかりでなく、星新一のショートショートばかり読んでいた私に他の小説家が書いた作品を手に取らせることとなりました。
ただ原作の浅田次郎さんの書いたものもショートショートではありませんが短編です。
40ページ程度の短編ですからそれを2時間の映画にするのはなかなか大変だったのではないかと思うのですが、ひょっとしたら映画としては一番うまくいく形なのかもしれませんね。
長編小説や漫画原作を2、3時間という時間にギュッとするよりも短編に詰まったテーマを映画でより丁寧に深く表現するという方がいいのではないでしょうか。


大学時代に何故か「映画論」という講義を履修しておりました。
映画が好きだったわけではなく、単位が取りやすいと聞いたからです。
その試験が大問が1つの記述形式のものだったのですが、文学部にいながら文章を書くことがとにかく苦手で嫌いだった当時の私はこの講義を履修するきっかけとなった

”映画論は授業に出て試験は何か書いておけば単位が取れる”

という情報を鵜呑みにして、とりあえず映画にまつわる何かを書いておけばいいだろうと思い、問題の指示を無視してその頃見たばかりの映画「鉄道員」についてとにかく感情のままに書き連ねてみることを決意し実行しました。
感情のままに書き連ねると言っても慣れない書く作業です。
きっとあらすじをだらだらと書くのが関の山だったのではないかと思いますが、その文章の締め括りに書いたことは何故か今でも覚えています。

”真っ白い雪景色の中で高倉健の持った手旗の赤が映える。鉄道員が寂しくただずむ小さなホームに、汽笛を鳴らした列車が入ってくる。その風景は数ある映画の中でも私は特に美しい風景だと思う”

それまでは試験や読書感想文、それに恥ずかしい思春期の日記くらいでしか文章を書いて来なかった私。
恥ずかしい思春期の日記も3日と続いた試しはなく、つまり自分の好きなことを好きなように書くのがほぼ初めての経験で、それがちょっと楽しかったんですね。
試験の受け方としては問題の指示に従わないなど言語道断ですが、映画のワンシーンを頭に浮かべながらそれがどうやったら綺麗に伝わるかななんてことを考えながら書くことが楽しかったんです。
その後徐々に大学の講義での課題も文章を書くことに関しては抵抗がなくなり、文学部という環境も手伝って、大嫌いだった書くことがいつしか好きなことに変わっていった学生時代の私でした。


そんなわけで幾つかのポイントで私にとって重要な作品となった映画「鉄道員」。
落ち着いたらまたゆっくり観ようと思います。
きっと目を腫らすことになるので、できれば次の日は何の予定も入れていない金曜日の夜なんかにでも。

 
降旗監督、私の人生にとっての大切なきっかけと、映画論の単位を与えていただいてありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。

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