グリーフケア
介護の必要な親を呼び寄せる
「私、これからどうしたらいいんでしょうか」
開口一番、その女性は訴えてきました。
M市に住む娘に呼ばれ、70代のその女性は、東北地方の町から介護を必要とするご主人と一緒にM市に移り住んできました。
娘さんの手配で、最初からご主人は特別養護老人ホームへ入所し、その女性は娘さんの家の近くの賃貸住宅に入り、毎日ご主人のもとへと通っていました。
ご主人は、10年前から透析を受けていて、在宅で奥様が介護をしていました。介護初任者研修を受講し、介護の知識も身に着け、ご主人の介護にあたっていたのです。
しかし、夫婦二人の生活に離れて暮らす娘さんが心配され、近くに新しくできる特養に父親を入所できるようにして、両親を呼び寄せたのでした。
一緒に住むことを提案した娘さんの話を断り、近くに住むようになったのは、生活の違う娘家族を思いやっての事でしょうか。それでも、毎日顔をだし、犬の散歩をしてあげるなど、娘家族ともよい距離感を保ち、ご主人の介護をしていたのでした。
毎日、ご主人のもとに通ってくるその人に、施設側が声を掛け、パート職員としてその施設で働きだしたというのですから、いかに的を得た介護をしていたか伺い知れます。
娘の死とご主人の死
ところが、思いも寄らぬことが起こったのです。
娘さんが癌に侵され51歳の若さで、告知後1年4か月で、昨年の3月に亡くなってしまったのです。
そして、ご主人も今年1月に旅立たれました。
娘さんの死後、娘さんの家を訪ねても、「もう来ないでくれ。顔も観たくない」と義理の息子である娘さんの夫が連れなく言い放ちます。
その人は、自分の妻の短命をご両親が迷惑を掛けたせいで心労から癌になったと思っているのかもしれません。
その方も、妻を亡くした悲しみから這い出すことができず、苦しんでいるのでしょう。
そして、娘とご主人を亡くされたその方は、見知らぬ土地でこのまま一人で暮らしていていいものなのかどうか、悩んでいたのでした。
その方も眠れない日々が続きます。
一筋の光
一筋の光は、その方は今も週4日、1日4時間、ご主人のいた特養で生活支援のお仕事をしていることです。
必要とされている職場があるのです。
成人したお孫さんが、自分の父親がお祖母様であるその女性に冷たい態度を取ったことに憤りを感じていました。お孫さんにとっては、優しいおばあさまです。
その子にとっても、母親を亡くし、悲しみは決して浅いものではありません。
家族それぞれが、大切な方の死にそれぞれの立場で直面し、苦しんでいるのです。そこに現世で生きている遺された方々の人間関係が複雑に入り組み、グリーフは幾重にも深くなっていきます。
それでも、大切な方の死を受容し、そこから新たな物語を綴っていくようになるのでしょう。人は決して弱い存在でなく、結構、タフなのだと私は信じております。
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