ネタ

大学生のころ、バイトにもゼミにも大学生らしい遊びにもハマらなかった。ただ、ネタのことだけを考えている時間があった。

何個も作って、何度も滑って、何人もの協力者のおかげで、ほんのわずかな数の強いネタを作った。

会社員になって、もうそんなネタ作りなんてできないと思った。いくらその時期を模倣しようとしても、もうその時期の自分のネタを越えることはできない気がしてた。

周りの熱にあてられて、またネタを作ることにした。ネタを考えて、人に意見を聞いて、やっと作ったネタを、舞台に立って演じて、客席を眺めるとき、曖昧だった自分と世界の境界にヒリヒリと焼けるように痛みが通り抜ける。

小道具の紙切れを持つ手が小刻みに震えた。この震えが止むまでは、ネタを作り続けていきたい。





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