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『オズの魔法使い』と政治風刺

「オズの魔法使い」(The Wonderful Wizard of Oz)は、1900年にライマン・フランク・ボームによって書かれた児童文学であり、表面的にはファンタジー冒険物語ですが、様々な解釈がされています。物語の中に暗示されているテーマには、以下のようなものがあります。

A.暗示

1.個人の成長と自己発見

 主人公のドロシーと彼女の仲間(かかし、ブリキの木こり、臆病なライオン)は、それぞれ「知恵」「心」「勇気」を求めて旅をしますが、物語が進むにつれて、彼らが最初からそれらの資質を持っていたことが明らかになります。このプロセスは自己発見と自己成長を象徴しており、真の力は外部の力ではなく、内面にあるという教訓を暗示しています。

2.アメリカの政治的・経済的状況の風刺

 一部の学者や評論家は、「オズの魔法使い」を当時のアメリカの政治状況、特に1890年代のポピュリスト運動や金銀本位制に関する議論の風刺と見ています。ポピュリスト=反帝国主義。今風で言うと反グローバリズム。

①「黄色いレンガの道」は金本位制(黄金)を暗示し、ドロシーがその道を
 進むことは当時の経済的選択を象徴しています。

②「かかし」は農民階級、ブリキの木こり は労働者階級、臆病なライオン
 はポピュリストのリーダーであったウィリアム・ジェニングス・ブライア
 ンを象徴しているとされています。

③「エメラルドの都」はアメリカの首都ワシントンD.C.、オズの魔法使い
 は時代の政治家を暗示しているとも言われています。

3.力と権威の相対性

 オズの魔法使いは、偉大で強力な存在だと思われていましたが、実際には普通の人間であり、魔法や力は持っていませんでした。これは、権力や権威がしばしば幻想に基づいていることを暗示しており、権威を盲目的に信じることの危険性を示しています。

4.家族と故郷への愛

 ドロシーの冒険の目的は、最終的にカンザスに戻り、家族の元に帰ることです。これにより、家族や故郷の重要性が強調されています。「どこにも自分の家ほど良い場所はない」というドロシーの言葉は、そのテーマを象徴しています。

 このように、「オズの魔法使い」は単なる児童文学を超え、社会的、政治的、個人的なテーマを含んだ物語としても読むことができ、さまざまな解釈が可能です。

B.オズのトリック

 「オズの魔法使い」では、オズ自身が強力な魔法使いであると信じられていましたが、実際には彼はただの普通の人間で、魔法を使わずに巧妙なトリックや装置を使ってそのイメージを作り上げていました。

1.巨大な顔のプロジェクション

 エメラルドの都で、オズは大きな怖ろしい顔として現れますが、実際にはこれは機械的な装置や投影を使って作り出した幻影でした。これにより、自分が偉大な存在であるかのように見せていました。

2.音響装置

 オズは、声を増幅したり、怖ろしい音を発したりするための音響装置を使って、まるで強力な魔法使いであるかのような印象を与えていました。これにより、彼の声をエメラルドの都全体に響かせ、さらに神秘的で力強いイメージを作り上げています。

3.煙や炎のエフェクト

 オズはしばしば煙や炎の効果を使って、自分の登場をさらに劇的に演出していました。これも魔法のように見えましたが、実際には科学技術を用いた特殊効果であり、観客に畏敬の念を抱かせるためのトリックにすぎません。

4.隠れた操作室

 物語のクライマックスで、ドロシーたちはオズが巨大な顔の背後で小さな部屋に隠れていることを発見します。この操作室には、彼が幻影や音声、特殊効果をコントロールするための装置が設置されていました。ここで、オズが装置を操作して自分を魔法使いに見せかけていたことが明らかになります。

5.気球

 オズはエメラルドの都に来たとき、気球に乗っていたと語っています。彼がこの気球で旅をしたことから、人々は彼を魔法使いと誤解しました。気球は当時としては最新の技術の一つであり、それを使ったことが彼の「偉大さ」の一因となっていたのです。

C.トリックは当時の政治状況を風刺

 オズは、魔法使いとしての権威や力を持っているかのように見せかけていましたが、実際には単なる人間であり、装置やトリックによって偉大な存在に見せていただけでした。この状況は、当時の政治指導者や権力者が実際には無力であったり、虚偽の権威を持っているという批判に繋がります。これを1890年代のアメリカ政治と結びつける解釈では、特に以下のような風刺が含まれていると考えられます。

1.政治家の虚偽

 オズが実際には魔法を使えず、ただの普通の人間であったことは、当時の政治家が真の力を持っていなかったり、民衆を欺いていたという風刺に対応します。彼が幻影や効果音を使って偉大な存在に見せかける行為は、表面的には立派なことを言っているが、実際にはそれを実行する力がない政治家たちを暗示していると見ることができます。

2.見せかけの権威

 エメラルドの都自体が、住民が特別な緑の眼鏡をかけて見ることでエメラルドに見えるという設定も、権威や繁栄が見せかけに過ぎないことを象徴しています。これは、アメリカの首都ワシントンD.C.や政治システムが実際には虚偽や空虚なものに基づいているという暗示として解釈されることがあります。

3.ポピュリズム運動への批判

 オズの魔法使いが特にウィリアム・ジェニングス・ブライアンやポピュリズム運動に対する風刺であるとする解釈もあります。ブライアンは「民衆の英雄」として知られていましたが、その主張や改革が実際に実現することは難しいと批判されていました。オズが民衆に希望を与えつつも、実際には無力であったことは、こうした政治運動に対する風刺とも考えられます。

4.力の真の源泉は民衆にある

 物語の終盤で明らかになるのは、実際にはドロシーや彼女の仲間たちが最初から自分たちの求めていた力や資質を持っていたという点です。これは、真の力は民衆自身の中にあり、権力者に頼る必要はないというメッセージとも受け取れます。この点も、当時の政治システムに対する批判的な視点と結びつけられます。

 要するに、オズのトリックや装置は、単なる個人的な欺瞞を超えて、当時の政治家や権力構造がどれほどの虚偽に基づいていたかを風刺しているとも考えられるのです。

D.ナショナリズムとグローバリズム

1.ナショナリズムとの関連

 ナショナリズムは、自国の文化、アイデンティティ、経済、政治を他国から守り、優先する思想です。この視点から「オズの魔法使い」を見ると、以下のような関連が考えられます。

①カンザスへの回帰と故郷の価値

 ドロシーがカンザスに戻りたいと強く願う物語の中心テーマは、故郷や家族への愛情、安心感、そしてその重要性を強調しています。「どこにも自分の家ほど良い場所はない(There's no place like home)」というフレーズは、ナショナリズム的な観点から、外の世界(オズの国)よりも自国や故郷が大事だというメッセージにも読み取れます。

②自給自足と独立性の強調

オズの登場人物たちは、外部の助けや「魔法」に頼らず、最終的には自分たち自身の力で問題を解決することを学びます。これは、他国や外部の影響を排除し、自国の力や資源に頼るというナショナリズム的な独立性の強調とも捉えられるかもしれません。

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