もっと知りたい!ガーデンシクラメン

ガーデンショップの店先では、秋から出回り始めたガーデンシクラメンの苗が今や最盛期といわんばかりに並んでいます。
今年も新品種が登場していますし、品種名が添えられていない、昔からあるシンプルなタイプもやっぱり捨てがたいキリッとした魅力があります。
ところでみなさんは、入手したガーデンシクラメンをどこに植えますか?

「ガーデンシクラメンだもん。庭の花壇でキマリ!」

「小さくてかわいいから、今年は寄せ植えにトライしてみたい」。

鉢花のシクラメンに比べて小型だから寄せ植えにも使いやすく、用途の幅が広いのがガーデンシクラメンの1番の魅力です。

丈夫だから戸外で育てられると謳われていますが、
なかには「カビが生えて傷んで枯れてしまった」など、
うまく育たなかった人もいるようです。
ここでは、ガーデンシクラメンの生来の性質を探りながら、長く育てるコツをまとめてみます。

ガーデンシクラメンって、寒さに強いシクラメンのこと?

ではまず、ガーデンシクラメンの生い立ちから振り返ってみましょう。

ガーデンシクラメンを含め、園芸種のシクラメンは、基本的に原種のシクラメン・ペルシカム(以降、ペルシカム)から改良された園芸品種です。
ペルシカムはギリシャ、トルコ、イスラエルなどの地中海沿岸地域原産。
霜の降りない地域のため、生来持ち合わせている耐寒性は、実はそれほど強くありません。
このペルシカムの園芸的改良が始まったのは、1853年ごろからフランスでと記録があります。
多くの花に共通しますが、20世紀までのシクラメンの園芸的改良の目的は、
花の大きさ、強健さ、花色のバリエーションが中心。
そのため、大型、大輪で見栄えのする品種をつくることが、改良の主な目的でした。

時代を経て品種改良が進んだ園芸種のシクラメンですが、耐寒温度などの基本的な性質は、ペルシカムのそれを受け継いでいます。
ペルシカムの生育温度は5〜20℃ですから、園芸種のシクラメンも、5℃を下回り、霜に当たると傷んで枯れることがあります。

シクラメンが日本へ導入されたのは、明治時代です。
そのとき導入されたものは、すでにヨーロッパで改良された園芸種でした。
当時は観葉植物や洋ランと同様に温室植物として扱われていましたが、それは皇族や貴族が大切に栽培していたことと、冷涼なヨーロッパでの栽培方法に倣ったため。
昭和初期の園芸書にはすでに、シクラメンは、「無加温のフレームや低温温室で栽培する」と記されています。

一方、多様化していく園芸種のうち、ミニ系統は細々つくられていたものの、花色のバリエーションをふやすことと、原種に見られる花弁のねじれを直すことに注視された程度で、ミニ系統の花姿自体は、長らく原種のペルシカムと差異のないものでした。
一般的な園芸種のシクラメンが鉢花として発展していったことに対し、強健なミニ系統は、まれに花壇に植えられることがありました。しかしそれでも、無霜地域に限られていました。
そんな無霜地域の花壇植えシクラメンを見かけた、埼玉県の鉢花シクラメン生産者、田島 嶽氏は、「花壇植えにする」というシクラメンの新たな用途を思いつきました。

そこでミニ系統のなかから、いっそう強健で連続開花性に富む品種を探し始めます。
こうして田島氏によって見出された品種は、オランダで育種されたF1ミニメイトでした。当時流通し始めていた、極初期のF1ミニシクラメンの1品種です。

すでにシクラメンが冬の鉢花の主流だったその時代。
これまで通りの「ミニシクラメン」のままで出荷しても、ユーザーの目には留まりません。
品種は変わらなくても新たに花壇苗としてアピールするために、仲間と相談した結果「ガーデンシクラメン」という名前をつけて出荷することになりました。1996年のことです。

ただし、「ガーデンシクラメン」というガーデン植物を彷彿させる名前ではあるけれど、花壇植えが可能なのは、無霜地域に限られます。その一方で、寄せ植えや鉢植えにして軒下などで管理すれば、霜に当たらずに戸外で楽しむことが可能です。

ガーデンシクラメンだけのシンプルな寄せ植え。株周りをちょっと空かせておくと風通しがよく、病気が出にくくなります。

いずれにしても「ガーデンシクラメン」の名前は商品名的に考えたほうが無難です。
また、一般的な園芸種のシクラメンのなかのミニ系統のうち、灰色かび病に耐性があるため戸外でも扱いやすい品種たちと捉えておきましょう。

性質が弱いガーデンシクラメンが出回っている?

さて、ミニ系統のシクラメンも近年は全般的に、花色だけではなく、
一般的な鉢物のシクラメンに引けを取らないほどフリル咲きやフリンジ咲きといった花形がふえました。国内での育種はもちろん、国外の種苗会社の品種もたくさん流通しています。
もちろんそれら新品種は、花色、花形のバリエーションに限らず、耐病性や連続開花性も育種の目標にされています。

ただし、注意したいのは、ミニ系統のシクラメンは、すべてガーデン向きに育種されているわけではないということ。
従来通りのインドア向き品種として育種されたミニ系統の品種に、生産から流通、販売のどこかしらの段階で誤って「ガーデンシクラメン」の名前が添えられて販売されてしまっているケースが、ときおり見受けられるのです。

もちろん個体差や苗のつくり、売り場やユーザーの管理具合にもよるところもあるので、ガーデン向きに育種されたガーデンシクラメンでも、
長持ちしないことが全くないとはいえません。しかし、近年の品種は、F1品種を筆頭として全体的に強健レベルがぐっとアップしており、原種よりも扱いやすいのは確実です。

ですから、私たちユーザーは、今一度、ミニシクラメンとガーデンシクラメンの違いを理解し、ラベルやカタログなどもチェックしながら植え場所や用途にあった品種を見極めて、賢く選んでいきたいものです。
そうでなければ、育種家が戸外の環境に耐えられるよう育種した努力を、それを受けて生産者が、ていねいに株づくりをした努力を、無駄にしてしまい兼ねません。

フリルのタイプ。ラブリーなイメージは、これまでのガーデンシクラメンの印象を、いっそう華やかなものに押し上げました。

用途に合ったガーデンシクラメンを選んでみよう

[花壇植えにするなら]
* 無霜地域に限ります。
* ミニ系統のシクラメンに含まれる、ガーデン向きに育種された品種を選びましょう。
詰めすぎないように植えましょう。土をやや盛り上げたところに植えると、風通しが良好になります。
* 冬の夜間など、5℃より寒くなるときは、不織布などをかけて霜よけをします。
* 雨に当たったときも早く乾かすことができるように、日当たりと風通しのよい場所を選んで植えます。

[鉢植えや寄せ植えにするなら]
* 5〜20℃ の場所で管理します。ベランダや玄関先のひさしの下がベターです。
* 5℃より冷え込むときは不織布などをかけたり、暖房のない玄関の中などに取り込み、霜に当てないように注意します。
* 大敵の灰色かび病を避けるためにも、雨には当てないようにします。
*寄せ植えやハンギングバスケットでは、つい密植しがち。灰色かび病を防ぐためにも、密植は避けましょう。葉が茂りすぎた株は蒸れやすいので、特に注意してあげましょう。
株元に風が通るように、植える位置の土をやや盛り上げて高めに植えるなど、配置を工夫してみてください。

もともとシクラメンは、水やりや肥料の具合に敏感に反応する植物です。
寄せ植えにする場合も丁寧に扱い、またシクラメンの繊細さを侵さないほかの植物と、一緒に植えるのがおすすめです。

【Q&A】

Q :積雪地や寒冷地で花壇植えできるシクラメンはある?
A :
原種のなかには、ヘデリフォリウムやコームなど、
耐寒性に強い種類があり、北海道でも花壇植えにできる実績があります。
これらは園芸種には及ばなくとも、花色や花形がいくらか多様な品種があるほか、つくりやすい海外育種の品種が流通し始めているので、これらを利用してみてはいかがでしょうか。

都心の花壇に植えられたガーデンシクラメンの夏の様子。背後は壁面で、冬は霜が降りません。また、この場所は夏は木陰になるため、休眠しないまま夏を越しています。 近年はむしろ環境の変化に合わせて、耐暑性が高まっているように感じます。

text & photo  ウチダトモコ   取材協力 たけいち農園

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