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初著書『クリエイティブジャンプ』に人生の原液を詰め込んだ話

はじめまして、ホテルプロデューサーの龍崎翔子と申します。
実はこの度、初の著書『クリエイティブジャンプ』を出版する運びとなりました…!

19歳の時に東大を休学して、ひとおもいに北海道・富良野に飛び立って赤い屋根のペンションを事業承継してから、早いものでもう9年。

ホテル王を目指していたペンション経営の”東大女子”は、今は28歳になり、株式会社水星の代表として、120名のチームスタッフの力を借りながら、全国各地でホテルを経営したり、ホテルを軸としたさまざまな事業を立ち上げたりしています。

▲私が鮮烈デビューを果たした東大メディアUmeeTの記事。超バズった。

というと、なんだか順風満帆で華やかな旅路だったように聞こえるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。資金も経験もないところから身体ひとつで事業を始め、手持ちのカードを組み合わせながら目の前の壁をひとつひとつ乗り越えてきました。観光業を直撃した未曾有のコロナショックによって、積み上げてきたものが砂上の楼閣のようにハラハラと崩れ落ちていく瞬間もありました。

でも、その度に思うのです。壁があるからこそ、私たちは飛ぶ方法を考えることができるのだと。

よく、困難にぶつかった時に挫けることはないのか、と尋ねられることがあります。もし、私が心折れることがあるとしたら、きっとそれは自分がどこに向かっているのか分からなくなった時でしょう。でも、壁の先に自分の進むべき道があると信じているなら、その壁をどう突破するのかーーよじ登るのか、肩車をしてもらうのか、梯子を探すのか、あるいは壁そのものを叩き壊すのかーーを考えればいいだけなのです。

それは、決して楽な道のりではありませんが、脳汁を振り絞って考える苦しくも楽しい時間でもあり、逆境という荒波を乗りこなす刺激的な瞬間でもあるのです。そして、壁を突破するたびに、振り返ると自分たちが当社比でまた少しつよくなっていることを実感する。

この本は、そんな、壁の飛び越え方について、私の実際の経験に基づいて、なるべく体系的に、そして実用的に書こうと試みた一冊です。



ことさらに、自分が「持たざる」人間だった、と主張するつもりはありません。両親は健在で家族関係もよく、学校では先生や友人に恵まれ、情熱を注げる仕事に巡り合い、これ以上多くは望めないなと思っています。

ただ、在学中に起業した一事業者として、経営資源が潤沢にあったかといえば、答えはNOでした。

まず、私をはじめ家族の誰もが、ビジネス経験はおろか、企業勤めの経験すらなく、帳簿の読み方を学ぶところからのスタートでした。ホテル経験はもちろんなく、渋谷のホテルでフロントアルバイトをしたり、地元である京都のホテルで清掃や夜勤のアルバイトをしたりして得た宿泊業についての断片的な知識をなんとかフル稼働させて対処する状況。

資金ももちろんなく、地域の金融機関を何件も周り、物件を抵当に入れた上でわずかばかりのローンを組んでもらうことができました。それも、仮に事業が失敗したら一般企業就職して自分のサラリーから返済するつもりでいました。

物件も、決してベストな状態というわけではなく、築40年のペンションはほうぼうが傷み、表面はリノベーションしてなんとか綺麗にすることができても、あくまでスペックはペンション。ピカピカのリゾートやシティホテルには到底及びません。その上、ボイラーや配管、浄化槽が壊れたり、取り替えたり、また壊れたり、停電したりと、なんとか建物の機嫌を取りながら過ごす日々。

人員ももちろん足りないので、英語が話せてホテルオペレーションを少し学んでいる私がゲスト対応と予約管理を、仕事のできる主婦だった母がパートさんの力を借りながら客室清掃と調理を担当し、平日土日関係なく、朝から晩まで働き詰めの日々。その上、富良野の人口が少ないこともあり、パートさん探しは難航。ハローワークでもいい人に出会えず、市役所のシングルマザー支援をされている方に縋ってシンママの方々をご紹介いただき、限られた人数で施設を運営しながら仕事をゼロから教えるところから始まりました。

当然、経費カットのため自分の部屋はなく、スーツケースひとつに全ての荷物を詰め込んで、空室がある日は空室を、空室がない日は共同風呂の脱衣所で寝泊まりしていました。

周りを見渡せば、露天風呂のあるホテルもあれば、フレンチシェフが腕を振るうペンションもあり、100㎡以上の客室を持つコンドミニアムもあり、資金も人員も何もない私たちにはどう考えても勝ち目はありませんでした。

そんな状況の中で、どうやって選ばれる宿になっていくか。あまり強くないカードが並ぶ手札を眺めながら、どうやって次のキラカードを切り出すか。

一見して逆境に見える状況を、どう乗りこなしていくか。

そんな経験を積み重ねる中で、少しずつ磨き上げ体系化した、「経営資源が限られた状況の中で、爆発的な成果を生み出していくための思考のフレームワーク」が『クリエイティブジャンプ』です。

この『クリエイティブジャンプ』は、この後の数々の局面で、私たちの眼前にそびえ立つ壁を突破する翼となってくれました。

低価格競争に陥っていたホテルを、ファンの方に指名買いされるホテルにするには?閑散期に閑古鳥が鳴く温泉旅館を、旅の目的地になる旅館にするには?バスツアーの途中で1泊寄るだけの観光ホテルを、1週間近く滞在してもらえるホテルにするには?観光業に危機が訪れたときに途方に暮れてしまうホテルを、シーズンや平休日に関わらず人が集まるホテルにするには?

そんな壁を乗り越えた先に、日本でもわずかしかない『産後ケアリゾート』や、世界初の宿泊型イマーシブ体験である『泊まれる演劇』など、業界の境界線を溶かしていくような事業が生まれていくのです。

限られた経営資源を組み合わせて、自分たちにしかできない戦い方をして、業界にゲームチェンジをもたらしていく。そんな力が、『クリエイティブジャンプ』にはあると信じています。

そして、その先に、決して世界を大きく変えるわけではないかもしれないけど、私たちの生活をほんのちょっぴり豊かにする、優しくて暖かな未来が待っている。

この本は私の事業経験を軸にしつつ、豊富な事例とともに、普遍的で、実践的な思考のフレームワークを体系的に整理したものなので、業種・業界に関係なく取り入れることができるのではないかと思います。

経営、マーケティング、クリエイティブ、PRを軽やかに横断しながら、事業を爆発的に前進させる思考法。起業や新規事業を考えている方はもちろん、現在進行形で取り組んでいる事業を伸ばしたり、再生させたい方のお役に立てると思いますし、私の事業経験に沿って時系列で物語が展開していくのでビジネス小説の感覚で読んでいただくこともできると思います。

端的にいうと、この本は、10年前の自分に向けて書いた本なんです。新しい挑戦を前に、立ちすくむ自分。やりたい思いがありながら、手段がわからなくてもがく自分。そんな自分にもし届けることができたら、めちゃくちゃ興奮して読むだろう、と思える知識を、一切出し惜しみせず詰め込みました。

正直、この本は私の人生の原液です。この10年近い経営経験の中で、たくさんのほろ苦い失敗を繰り返しながら体系化してきたメソッドを、全身全霊を込めて、熱く濃縮しました。

企画から2年以上かけて、そして通常業務をこなしつつ、出張もガンガン行きながら、深夜にモニターにかじりついて空が白むまでキーボードを叩く生活を何ヶ月も続けるという、文字通り命を削りながら書いた一冊です。

命を削りすぎて、コンタクトの度は-6.5から-7.0まで悪化し、坐骨神経痛を発症するに至るほと健康を犠牲にしました。40代後半の担当編集を巻き添えにしながら徹夜のゲラ作業に明け暮れることも数知れず!(この話はまたどこかでゆっくりさせてください)

そんな、私の人生そのものを詰め込んだ濃い原液を1,760円で買えてしまう資本主義社会に驚きを隠せません。規模の経済ってすごいわ。

ぜひ、皆さんの自宅に迎えていただけると嬉しいです。1,760円以上の成果をお約束します。


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