犯罪危険性の高い人間の隔離は?

相模原市の大量殺害事件の犯人が、犯行以前に措置入院に付されていたことが判明しました。措置入院というのは、精神衛生法に基づき「自傷他害の怖れのある」人を強制的に入院させる制度です。実際に措置入院に付されているのは6700人程度で、平均入院期間は8ヶ月くらいだそうです。つまり、極めて稀にしか適用されず、最も多い地域でも10万人に10人程度(最も少ない地域だと10万人に1人程度)です。

ところが、かの犯人は約2週間で退院を許されています。その後、強制通院がなされたという情報はありません。

英国では精神保健法で、①犯罪を犯していないが、治療不可能な人格障害を有する潜在的に危 険な人々を無期限に拘束すること、②社会内で生活している精神障害者に強制的に服薬させる権限を設けること、③強制的権限の長期にわたる行使 を決定する独立の審判所と、独立の弁護を得る患者の権利とを規定すること、④精神障害者による犯罪の被害者が、当該精神障害者の解放(精神病 院からの退院と刑事施設からの釈放)される時期を知る権利を認めること、⑤治療を受ける人々を監督する精神保健委員会を創設すること、⑥精神障害者に対する治療スタッフと医療の増大を図ること、を内容としていた精神保健法が大揉めに揉めた結果2007年に改正されましたが、①の医療保護入院は改正されませんでした。

ちなみに、英国での医療保護入院者数は約11万人です。英国の人口が日本の半分強であることも斟酌すれば、いかに多くの入院患者がいるか理解できます。10万人につき170人くらいが強制入院させられています。

社会防衛という意識の違いと言ってしまえばそれまでですが、日本の制度のあまりのお粗末さは目を覆うばかりです。

相模原事件では、加害者が大麻を吸っていたという点がメディアで注目されていますが、大麻が原因だとすれば大麻が合法化されているデンマークでは大量殺戮が繰り返されるはずです。完全に論点がすり替えられています。

被告人が心神喪失の場合、日本の刑法では処罰はされません。その理由は、責任非難ができないからです。「人を殺してはならない」ということがわかっていながら敢えて殺人行為をした場合に「殺人罪」が成立するのであって、「人を殺してはならない」という規範自体がわかっていない心神喪失者を非難することはできないという立場なのです。

しかし、被害者らや被害者遺族らにとっては損害は全く同じです。犯人が心神喪失ということで応報感情が少しは緩和されるという意見もありますが、そういうケースは少ないと私は考えます。

裁判で心神喪失で無罪となっても、精神医療に付されます。しかし、今の医療体制は極めて不十分で「危険性を秘めた人物」がのうのうと社会に出ているケースが多いという話も聞いています。

日本における粗暴犯の数は減少傾向にありますが、だからと言って被害を軽視することはできません。他者を害する危険性を持った人物に対する処遇体制をしっかり構築しない限り、相模原事件の悲劇が再現されないとも限りません。

あの事件後、障害者差別や大麻ばかりが注目されて、精神医療や措置入院に関する議論があまりなされていないように感じます。根本的な大問題が軽視されているのを、私はとても残念に思っています。人権は、被害者たちにも等しくあるのです。「他者に害されることのない権利」「危険から守られる権利」という観念をもう少し真剣に考えてもいいのではないでしょうか?

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