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山水画とは?

先日、芸大を卒業したばかりの青年から質問を受けました。

 山水画とはなんですか?

 極めてまっすぐでかつ抽象的な質問でしたが、私はこう答えました。

 一言で言えば胸中の丘壑(きょうちゅうのきゅうがく)ですね。

 丘は文字通り丘ですが山といってもいいと思います。
 壑、これは漢字が難しいです。要するに壑とは谷のことで、丘壑とは山谷のことです。風景といってもいいでしょう。
 胸中の丘壑とは、すなわち心の中の風景をいうのです。
 もっと言えば、胸中の丘壑というのは画家の心の内にある理想郷のことをいいます。
 山水画は写実や写生ではなく、画家が作り出した風景なのです。
 今では山水画は風景画という言葉に置き換わり過去の遺物と化していますが、近代以前の画家達は画面に山水画という自らの理想郷を描きました。

 旅館に掛けてある掛軸に描かれた山水画を想像してみてください。
 遠くの山に流れ落ちる滝が雲烟を抜けると渓流に変わり、里山に流れ小川となる。小川のそばには庵があって、隠居した風流人が読書や翰墨に明け暮れる。庵の人物は画家本人です。
 これが多くの画家が理想とした世界なのです。
 しかしこの理想郷、時代が進むに連れ、多様な選択肢がなかったせいなのか、あるいはそれが完全無二の世界だったのか、いささか画一的で形骸化したものになってしまったような気もします。
 そのせいでしょうか、今では水墨画家でさえ山水画に興味を失っています。
 かといって風景写真をそのまま白黒で謄写して水墨画の魅力が伝わるのか?
 現代水墨画の抱える問題の1つです。

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