見出し画像

放課後ティータイム「私の恋はホッチキス」と「ふでペン〜ボールペン 〜」の再評価について。

 自分はかつてアニメ『けいおん!』の熱烈なファンでした。

 今日、その昔の仲間の一人がTwitterで「放課後ティータイムのマスターピースは『私の恋はホッチキス』である」とツイートしていました。

 自分はそのツイートに対して「いやいや、そこは『ふでペン〜ボールペン 〜』でしょ」と送りました。

 そしたらその仲間が「自分も10年来そうだと思っていたがホッチキス再評価の流れ」と言ってきたんです。

 彼は一目おけるオタクなので、むむむ、と思った僕も久しぶりに両者を聞きなおし、再評価してみることにしました。

枕としての『私の恋はホッチキス』

なんでなんだろ
気になる夜 キミへの
この思い 便せんにね
書いてみるよ

もしかして
気まぐれかもしれない
それなのに 枚数だけ
増えてゆくよ

好きの確率わりだす計算式
あればいいのに

キラキラひかる 願い事も
グチャグチャへたる 悩み事も
そーだホッチキスで とじちゃおー
はじまりだけは 軽いノリで
しらないうちに あつくなって
もう針がなんだか通らない
ララ☆また明日

どうしようかな
読み返すの はずかしい
あれこれと 便せんにね
書いたくせに

気持ちごと
ゴミ箱行きじゃなんだか
この胸が せつないから
持ってようかな

今の気持ちをあらわす
辞書にもない言葉さがすよ

ワクワクしちゃう 計画とか
グダグダすぎる 展開とか
ぜんぶホッチキスで とじちゃおー
今日のできごと 思い出して
いつも心が キュンとなって
もう針がないから買わなくちゃ
ララ☆また明日

キラキラひかる 願い事も
グチャグチャへたる 悩み事も
そーだホッチキスで とじちゃおー
はじまりだけは 軽いノリで
しらないうちに あつくなって
もう針がなんだか通らない
ララ☆また明日

 改めて聴き直して気づいた事は「ホッチキス」は「ふでペン」への枕だということ。

 その上で押さえておきたいのは両曲ともタイトルに意味論的なギミック盛り込まれていること。

 まず「私の恋はホッチキス」の場合は恋を文房具に例えた女子高生らしいかわいいタイトルだなぁ…で終わってしまいがちですが、何故ホッチキスなのか、というところは思ったより深かった。そこをディグることでかなり色んなことが読めてきます。

 内容としてはとりあえず判断を保留しよう!=ホッチキスで綴じちゃおう!というエポケー路線なのですが「針が通らない」「針が足らない」というように、その意図に反してそれは結局失敗しています。

 そうすると「私の恋はホッチキス」というのは単体の曲名としてはやや意味不明なんですよね。

 結局、なんでホッチキスなの?何がホッチキスだったの?という疑問にアンサーがない。

 でもこれは「ふでペン〜ボールペン 〜」と合わせて読み解くことですんなりと理解できます。

 余談ですが、一応ネットでリサーチしたところこの曲の解釈として「良いことも悪いことも全部大切な思い出だから綴じて取っておきたい」という読み方が散見されます。

 もちろん曲の解釈は自由ですが、やはりそれはあまりいい筋ではないかなと。

 恐らくその解釈は以下の歌詞とけいおん!がもつ作風からのミスリードかと思います。

気持ちごと
ゴミ箱行きじゃなんだか
この胸が せつないから
持ってようかな

 しかしあくまでこの詞の作者にとって重要なのは溢れる気持ちをどう保存するかではなくて、どう整理するかっていうところですよね。

 その整理のツールが手紙なわけで、あれこれと言葉を探しながら自問自答して自分の気持ちを表現しようとしているわけです。

 それが上手くいかないから、ホッチキスというツールによる解決を試みるものの、それも失敗しているわけです。

 そんな少女が次に使うツールが筆ペン。

 そう、ホッチキスで綴じることのできなかった気持ちを潔く筆ペンの一発書きで綴ろう!としたのが『ふでぺん〜ボールペン 〜』なんですよね。

 さらに余談っぽくなりますが、それにしてもこの曲、サビの韻の踏み方がかなりよく出来てます。

はじまりだけは 軽いノリで
しらないうちに あつくなって
もう針がなんだか通らない
ララ☆また明日

 はじまりとノリと針とか、しらないと通らないとか、そこからララ⭐︎でダメ押ししてくるところとか、それも少しふわっと飛ばして、緩急をつけて踏んでる所が曲の雰囲気にも合ってると思います。

 もちろん「キラキラ光る願い事とぐちゃぐちゃヘタる悩み事」っていうのもいいし、ぐちゃぐちゃヘタるってワードセンスが最高にいいですね。

ホッチキスがとじたもの『ふでペン〜ボールペン 〜』

ふでペン FU FU
ふるえる FU FU
はじめてキミへの GREETING CARD
ときめき PASSION
あふれて ACTION
はみだしちゃうかもね

キミの笑顔想像して
いいとこ見せたくなるよ
情熱をにぎりしめ
振り向かせなきゃ!

愛をこめて スラスラとね さあ書き出そう
受け取ったキミに しあわせが つながるように
夢を見せて クルクルとね 字が舞い躍る
がんばれふでペン ここまできたから
かなり本気よ☆

ふでペン FU FU
無理かも FU FU
くじけそうになるけれど
手書きが MISSION
熱いわ TENSION
印刷じゃつまらない

ハネるとこトメるとこ
ドキドキまるで恋だね
これからもヨロシクね
一言そえて

はしゃぐ文字は ピカピカにね ほら磨きかけ
まっすぐキミの ココロまで 届けばいいな
走る軌跡 キラキラだね そう乾くまで
待っててふでペン ごめんねボールペンは
おやすみしてて
かなり本気よ☆

キミの笑顔想像して
いいとこ見せたくなるよ
情熱をにぎりしめ
振り向かせなきゃ!

愛をこめて スラスラとね さぁ書き出そう
受け取ったキミに しあわせが つながるように
夢を見せて クルクルとね 字が舞い躍る
がんばれふでペン ここまできたから
かなり本気よ☆

 いやーー!なんて可愛い歌詞なんや畜生!

 まず、筆ペンで文字を書くというスリルと恋愛のそれが上手く重なっていると思います。

   例えば、

「ハネるとこトメるとこ ドキドキまるで恋だね」

なんて筆ペンにおける一画一画が恋の駆け引きと同じだということですよね。

 「走る軌跡 キラキラだね そう乾くまで」

  この部分も情熱的に筆ペンを握っている少女が、一方でその恋の刹那性をもどこかで達観してしまっているようなゾッとする女の子のリアリティーを感じる一節です。

 これを軽いノリでやられちゃうからなぁ。

 さて、筆ペンのことはよくわかりましたが、影が薄いのはタイトルに入っていながらあまり触れられないボールペンですね。

 歌詞の中で唯一のボールペンへの一節が「お休みしてて」ということから推察すると、多分この子は「私の恋はホッチキス」の時点ではボールペンで手紙を書いていたんだと思います。

 そしてタイトルの「ふでぺん〜ボールペン 〜」ですが、波線でボールペンが閉じられています。

 恐らくこの"閉じる"はホッチキスによる"綴じる"との言葉遊びで、さらに「私の恋はホッチキス」におけるうだつの上がらない内省的な恋愛のメタファーがボールペンだとすると、ボールペンを綴じるということはうじうじした恋愛に蹴りをつけるということになります。

 だからこそ、ボールペンの代わりに筆ペンで積極的な恋を展開すると考えれば全てがすんなりと行くんですよね。

 また、そう読めば「私の恋はホッチキス」という曲名もその綴じる対象をもやもやそのものから、もやもやしてしまう自分の態度そのものにすることによって見事に成功しているので、上手く生きてきます。

 さらに、アルバムの曲順でもある「私の恋はホッチキス」→「ふでぺん〜ボールペン〜」→「ふわふわ時間」の流れの中で、この子の姿勢も内省→伝える→話すという積極的な変遷が見られます。

 ホッチキスがふでぺんへの枕だと言ったのはそういうことでして、この三曲は序・破・急のようなプロット構成を持つと考えられます。

 (今回はカレーのちライスは省略で笑)

 とすれば、やはりホッチキスはふでぺんが無いと生きてこないという意味において、僕はやっぱりふでぺん派かなと思います。

 なんてこと印刷されたような文字で論じられてもなんの説得力もねぇという意見は重々承知。

 実は個人的に思い出深い曲は…かつて下手くそなベースで友達とスタジオで一回だけ音合わせをしたホッチキスなのです。

 今回その音源を発掘しました。

 僕の仲間たち、言いたいことはあるだろうが、僕の下手くそな音源で今回は一旦許してくれないだろうか。

 僕もため込んでた音源をここで公開するからさ。

 こうすることによって、かつての音源はふでぺんで書いたラブレターのようにスリリングなものになると信じます。

 僕の筆はまだ乾いてはいないだろうか。

ぴゅあぴゅあロイヤル中二ボーイズ on YouTube「私の恋はホッチキス」〜八王子のスタジオにて〜


 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?