ワールドワイドな視点より――「鬼滅ヒノカミ」がスイッチで出ないわけ

実名で書いてみました

E3が終了し、次に待ち構えるのは7月のEA Play、8月のGamesCom Online、そして9月の東京ゲームショウオンラインと、COVID-19のためにオフラインのイベントがなくなって久しいわけですが、皆様お元気でございますか。
あ、8月中にワクチン打てることになりましたので、Bitsummit The 8th Bitは取材行けそうです(笑)。どこかに筆者を雇ってくれる酔狂なメディアさんがあればご相談ください……。取材実績はちゃんとありますので。
さて、先月になりますか。とあるメディアさんでこんな記事が掲載されました。

まぁ、酷い記事でした。スイッチで出ないことを全否定してこういう記事を書くの、編集長様が「いやぁ、うちの娘がスイッチで鬼滅やりたいとか言ってるんだけど、なんで出ないんだろうねぇ、そこを突っ込む記事書いて?」とか言われなきゃ書けない部類の記事ですね。わしだったら全力で「書けません」と否定しますけど。

それを「AAAタイトルが日本国内だけでリクープできない、ということを理解していないとこう言う記事が書けるんだなぁ」と発言したら、こんな返事が返ってきました。

はぁ、さいですか。
だったらこっちのnoteは匿名でやってないんで、追い討ちフェイタリティMK11仕様)してもOKってことですね?
やってみよー!(CV:坂本真綾)

「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」の前提

まず「鬼滅の刃」について。連載誌こそ週刊少年ジャンプですが、メインのユーザー層は日経エンタテインメント!の特集などを見ると大人の女性層が多いらしいということ(とWikipediaに書いてました(汗))。ちなみにテレビアニメで小学生にブレイク! と言っても、本放映はMXでもギリ日が変わる前、それ以外の地方局ではド深夜なので、小学生が見られる時間帯の番組ではございません。小学生向けの玩具(DX日輪刀など)が出てきたのはフジテレビでの一挙放映が始まってからかと思います(とはいえ夜9時スタートでしたよね?)。
さて、そのゲーム化ですが、日本ではアニメ制作元のアニプレックスのコンソールゲーム本格参入第1弾として発表されました(なお、その後の発表など合わせて、発売第1弾はダウンロードが「毎日♪ 衛宮さんちの今日のごはん」、パッケージソフトが「月姫 -A piece of blue glass moon-」となりました)。開発は「NARUTO ナルティメットストーム」「ドラゴンボールZ KAKAROT」で知られる九州・博多のゲームスタジオ、サイバーコネクトツー。ぶっちゃけ社長の松山さん(ぴろし)がこれをゲーム化したい、とリキ入れてバンナムとの交渉に臨んだ、と聞きます。ただゲーム化権は持ってなかったのでアニプレに行くことになったそうですが。
となった場合、松山社長のやりそうなことを考えると、ただのキャラクターゲームでは済まないレベルになることは想像に難くないわけです。結果として、「ナルティメットストームレベルのアニメ演出を多用した対戦アクション」という形に落ち着きました。

AAAタイトルならではの悩み

とはいえ、「ナルティメットストーム」レベルのゲーム内容となるとそれはもうゲーム業界でいうところのいわゆる最高級品、AAAタイトルということになります。ということは(開発・宣伝の費用の合計にもよりますが、日本で、少なくとも)50万本くらいは売らないと元が取れないということになります。が、ここでは大きなポイントがあります。

日本で売れなくてもワールドワイドで元を取れればよくない?

実際のところ、サイバーコネクトツーが関わっている「NARUTO」「ドラゴンボールZ」のゲーム化作品は海外が主戦場です。たとえば、「NARUTO -疾風伝- ナルティメットストーム4」は600万本売れていますが(2019年のデータなのでさらに上積みされてると思います)、その90%以上は海外での売り上げです。ドラゴンボールZも「KAKAROT」が350万本、「FIGHTERZ」(アークシステムワークス開発)が350万本(集英社の公式発表)で、多分日本では10%未満。つまり、海外市場を狙う必要があるというわけです。
なお、サイバーコネクトツーは博多だけでなく、東京とカナダのモントリオール(モントリオールはゲーム会社のクラスタができています)にスタジオを持っています。つまり、AAAタイトルを世界に向けて開発ができるゲームスタジオの体制を持っているわけです。
そして、鬼滅の刃は昨今のジャパニメ配信事情もあり、比較的早い段階でアメリカなどの海外でも放映されています。

「Demon Slayer -Kimetsu no Yaiba-」の前提

アメリカだと土曜朝の地上波帯番組(いわゆるSaturday Morning Cartoon)とかが有名になっており、鬼滅キッズネタと合わせてそういう帯で放映されてるのでは、と思う人も多いかもしれませんが、それはとんでもない勘違いです。
「鬼滅の刃」はアメリカでは半年遅れで放映されていました。その枠は「Cartoon NetworkのAdult Swim枠」。アメリカのアニメであれば「Rick and morty」とか「Mike Tyson Mysteries」(あるんだよ、そういうネタアニメが本人プロデュース&声の出演で!)とかのいわゆるアダルト(大人って意味の)アニメ枠です。ちなみにこの枠はいわゆる深夜枠。日本ではこの枠は設定されていません。

Rick and Mortv vs. Genocider(日本語!)

どうしてそうなったかって? それは簡単です。鬼滅の刃のテレビレーティングが「TV-MA」になったから(一部の回はTV-14)。これはいわゆる暴力表現で子供には向かないと評価されたからです。
TV-MAの場合、地上波での放映はほぼ行われません。なお、類似例として、「Case Closed」という番組が同じAdult Swim枠で放送されていますが、これは「名探偵コナン」の海外版だったりします。まぁ、毎回人死にが出る番組ですから仕方ないですね……。
さらに劇場版「無限列車編」もレーティングはR指定17歳未満のキッズは親の同伴が必要とされるレーティングです。日本でもPG-12なんで鬼滅キッズは親の同伴が必要だったわけですが
これらを基にするとターゲット層は自ずと決まってきます。

○20歳代以上のジャパニーズアニメマニア
○ある程度アニメビジュアルにこだわる層

となると逆算でターゲットマシンも決まってきます。普通に考えたら「タイトル発表の時点でPS4/スイッチでやればよくね?」なんですが、多分スイッチをグラフィックの基準にすると表現が厳しくなり、アニメビジュアルにこだわる層から敬遠される可能性があるため、最低ラインはXbox Oneで、ということになったのではないかと思います。なお現時点でのプラットフォームはPS4/PS5/Steam/Xbox One/Xbox Series X|Sとなっており、思いっきりスイッチは蚊帳の外に置かれています。今のところは。
なお、海外でのパブリッシャーはセガが担当し、欧米、アジア版のサイトが開設されています。レーティングはESRBだとTeen(13歳以上対象)、PEGIは16歳以上対象です。海外版には英語音声が含まれています

まず、「1つ目の課題は対応プラットフォームと支持層の乖離」は成立しないことになりますね。スイッチを外した選択そのものが間違っているわけではないので。普通に子供に受けるようなゲームに仕上がる(レーティングなどを含めて)んであればセガだってスイッチ版作れ、って言いますよ? ただ、その市場に子供がいなかった(少なくとも欧米圏では)、ということで誰も何も言わないわけで。

次に「対戦格闘ジャンル特有のハードルの高さ」ですけど、そもそもジャンルは鬼滅対戦アクションであり、対戦格闘ではないので。執筆時にはバーサスモードの参戦キャラが解禁されていく情報のメインだった、ということもありますが、それを差し引いてもガチな格闘ゲームにするとは思えない、が正解じゃないかと。
それにしても「対戦格闘ゲームを遊ぶプレイヤーのマナーが悪すぎる」、ってあって、別垢での初心者狩り、煽り、ファンメとか書かれてるんですが、これしかるべき人間に見せたら激怒するんじゃないかなぁ。
あと、キャラ性能は初版からはたぶん大きく変わらないと思いますよ。宮田が炭次郎(ヒノカミ神楽)に連戦連勝するような性能には多分しないと思いますし。

まぁ、最大のオチとして、バーサスモードは
メインのゲームモードではないので!!

そこをはき違えるとそれはそれで困りますけどね。まぁ、バーサスモードはメインじゃないからあと2つの問題も自滅、ということで一件落着かなぁ?

メインのソロプレイモードは竈門炭次郎の軌跡を追体験するモードで、テレビ版の竈門炭次郎立志編と劇場版無限列車編までを再現(その後はDLCになるか続編となるかはまだ未発表)したものになります。こちらのモードはゲームをあまり嗜まれない人にも楽しめる、というものになりそうです。
ただ、日本ではまだ未公開の映像(浅草のシーン)をちょっと見ましたが、「あー。この群衆をアニメのシェーダで表現するの、スイッチでは難しいんじゃね?」とか思いました。
発売日も10月14日に決定し、タイミング的には2期の遊郭編が始まるか、あるいは情報公開がスタートするころかというところで、スイッチには出したいけど、スケジュール的に厳しいというところが落としどころじゃないんですかねえ。スイッチ版を他機種と同時に出す意思があるのなら、というところですが。
まぁ、「ナルティメットストーム4」や「DBZ KAKAROT」みたいに他機種版の発売2年後に追加DLC込みで発売される可能性は0ではありませんが、それを待つなら他機種で遊んだほうが早く楽しめますよね。

とはいえ真相は本人に聞かないとわからない

まぁ、ここまで他人が書いた憶測記事を全否定するのも非常に楽しいのですが(笑)、実際問題として自分の書いている記事もあくまで憶測なんですよ。真相はやっぱり松山さん(間違いなくディレクターをやってると思います)に聞かないとわかりませんし、(それが掲載できるかどうかは置いといて)やっぱり本人の口からいろいろ出てくれるほうが楽しいですよね?
なので、憶測で記事を書かれるよりもちゃんと取材して記事を書かれた方がいいかと思いますよ? もちろん、日本のメディアなので、メーカー側のコントロールは受けることになりそうですし、すべての発言が無条件で掲載できる、というわけではないとは思いますが。

思い込みで記事を書かないでほしい

まぁ、憶測(あまりにもフルボッコ過ぎるので妄想とは言わない)で記事を書かないと著者が主張する最終的な結論にたどり着けない、という前提があるにせよ、ここまで物を知らないで記事を書けるのか、というのが筆者の思った感想です。
で、そこにさらに追い討ちフェイタリティをかけるように同じメディアでちゃんとした記事が書かれておりまして……。

そこからその一文を拾って締めにしたいと思います。

パンデミックとデータはあらゆる物事を可視化させた。経験値と思い込みでマーケティング戦略を練る時代はすでに過ぎ去り、データが語る事実を元に柔軟に歩を進めた結果が、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の北米大ヒットの要因なのではないだろうか。

経験値(はなさそう)と思い込みで記事を書く時代はすでに過ぎ去っておりますので、データが語る事実を元に柔軟に歩を進めた方がよろしいかと思いますよ?

追伸:
また追い討ちフェイタリティチャンスが来ましたので、チャレンジしたいと思います。Get ready for Next Battle!

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