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野猿の向く先。


山内と海老原を乗せたレクサスNXは深夜の302号線を静かに走っていた。窓を少し開けると11月のクリアな秋の夜風が滑り込むよう入ってきた。
「おい、タバコ吸うなよ、iQOSもVAPEもダメだからな」
片手でハンドルのステッチを指で擦りながら海老原は言った。
「ちょっと、夜風を吸いたかっただけだよ。NXも良いけどどうせならRX買えばよかったのに。まぁどうでもいいけどキャッシュで買うなんて羽振りがいいんだな」
山内は助手席で目を擦りながら欠伸をした。
「おまえも仕事手伝えよ。車だけじゃなくて時計も女も好きなように買えるぜ。」  
車は302号沿いのマンションの近くのコンビニの駐車場に止まった。
「確定申告できねぇ金に興味ねぇよ。ここの近くか?鉄君のマンション?」
多く者が組織に属さず、地下に潜り詐欺や犯罪を繰り返す。ヤクザに警察に追われながらも煙のように逃げイタチごっこ。半グレまでもいかない、表の仕事をしながらグループで役割を決めて金を稼ぐ犯罪集団。情報誌ではこのように説明されているが実態は様々でしっかりと組織化している集団から個人や少数で麻薬を売り捌く者、まぁいつの時代も金に魅了されて酔いしれる人間は後は絶たない。
「山内を今日無理に誘ったのは悪かったよ。でも鉄君がしつこいんだよ。山内絶対この仕事に向いてるって」
海老原は車から降りてすぐにiQOSを吸いながらバルトロに袖に通して歩き出した。
「まぁ鉄君にどんだけ頼まれようが俺は断るぜ。俺は平和に暮らしたいんだよ。いつもタタキに備えてスラッパーやら催涙スプレーやら面倒くさくて嫌になるぜ。なんならそこまでして金に執着するお前らを尊敬するよ」
マンションのエントランスに着くと海老原は部屋番号をプッシュし、呼び出した。
「おっ、山内も一緒か。上がってこい。」
木崎鉄の軽快の声が響き自動ドアが開いた。
「上がってこいって2階じゃねぇかよ。つうかこのヤサは何?鉄君住んでるわけじゃねぇよな?」
海老原は聞こえないフリなのかiQOSの充電がないとブツブツ言っていた。
ドアをノックすると木崎鉄は顔を覗かせニヤリと笑いながら2人を部屋へ招いた。
殺風景な2LDK、L字ソファーにパーソナルチェア。ローテーブルの前には60インチのTVが床置きされていた。木崎鉄はパーソナルチェアに座り山崎12年をロックグラスに継ぎ足しながら軽く頭を掻いた。
「今日は急に呼んで悪かったな。海老原に聞いてると思うけど山内、もういい加減一緒にやろうぜ?俺らはお前が思ってるほどヤバい事はやってないし、何より捕まらない。狙われたりもしない。」
海老原は冷蔵庫からビールを取り出し山内に差し出した。
「いらねぇよ。てかおまえ飲むなよ。飲酒運転からシャブの営利製造で仲良く臭いメシなんてハイパー胸糞わりぃからよ」
胸ぐらを掴まれながら海老原は冷静な目を見下しながら口先で謝った。

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