なぜ矢倉は終わって雁木が始まったのか紐解いてみた
「矢倉は終わった」
増田康宏六段のこの発言は当時非常に話題になりました。
当然矢倉はいまでも指されている優秀な戦法です。ただ、この発言以降「雁木」にも注目が集まるようになり、居飛車の戦型選択に「雁木」のような堅さに拘らない戦法が増える流れが作られたと感じます。
筆者も最近はよく雁木を指します。なぜ雁木が再注目されるほど優秀なのか、矢倉が以前ほどの人気が無くなったのか、最近初心者向けの指導をしていてふと気づいたことがあり筆を執りました。
「紐をつけよう」
☗7六歩☖3四歩☗6八銀
世界で最もひどい開幕3手のこの手順、角の紐を自ら外してしまっている大悪手でありますが、これに代表されるように駒の連携を保つことは将棋の良い形、良い駒組みとされることが多いです。
駒同士の利きがつながる、紐がついていると、「駒を取られても取り返すことが出来ます」
紐がついていれば両取りも怖くない
将棋の必殺技に1度に2つの駒をタダで取れるような両取りがあります。
理論上、この状況で2つの駒を助ける手段は無いピンチのようですが、魔法の一手があります。
ここで☗3七銀と上がるのが好手です。
1.飛車取りを銀の壁で守りつつ(銀は☗2九桂の紐がついているので取られない)
2.☗8八銀は☗2八飛の横利きが通ったことで☖8八角成に☗同飛で取り返せる
このように、2つの銀に1手で紐をつけたことで両取りを受けることに成功しました。
このように、紐がつくことで「取られたら取り返す」保険がかかり、スキのない駒組みが実現出来ます。
「玉」に紐がついても意味がない
駒同士に紐がついた陣形はいい駒組みではあるのですが、唯一紐がつくことにメリットが少ない駒があります。
それが「玉」です。
当然ながら「玉」を取られたら将棋はその時点で負けだからです。
玉に紐をつけながらも全体的にスキのない駒組みを出来るのであれば全く問題ありませんが、玉に紐をつけたその1マスは無駄な効きを使っているとも言えます。
先手矢倉対後手雁木のこんな局面。
後手玉には金銀での玉に対しての紐はついていませんが、駒を打ち込まれるスキがない良形です。
対して、先手の☗8八玉には☗7七銀と☗7八金の二枚の紐がついていますが、先手の陣形は駒を打ち込まれるスキが多いです。6九、5八、4九。
☗2九飛と良形の一段飛車に構えると、今度は3八の地点にスキが生まれます。
ちょっと陣形を替えて「片矢倉」と呼ばれる陣形にしてみました。
今度は☗7七の銀が玉には紐がついていません。また☗6八金によってさきほどまで弱点だった5八、6九の地点をカバーしています。玉に紐がついているのは☗6八金の1つです。
さらに金が1つ右にずれて、銀と飛車も整備した図です。
この局面、自陣がすべての空いているマスに敵の駒を打つスキがない良形です。
しかし、玉に対しての紐は1つもついていません。玉に紐をつけるマス目を節約した代わりに、自陣27マス全体を守っていると言えます。
「矢倉は終った」の真意
今回玉の囲いと配置、そして玉に対しての紐がついているかという点で局面を紹介しました。
最後の図のように、玉自体も自陣を守る駒として駒組みをするのが最近の将棋のトレンドです。サッカーで言えばゴールキーパー自らが前線をキープしていくような形です。
増田六段の発言を補足して解釈すると、「矢倉(のような駒が偏って自陣にスキができるような駒組みを是とする時代)は終わった」
だと思いました。
玉に必要以上の駒の紐をつけない
玉に紐をつけすぎない、これが実現できているとき自陣の駒の利き効率が良い駒組みが出来ている可能性があります。(例:美濃囲い)
新しい駒組みの考え方として参考にしていただければ嬉しく思います。
将棋ウォーズ運営チーム ブライト
※盤面画像作成には棋神アナリティクスを利用しています。
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