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クリームソーダ

おじいちゃんと小さい私のクリームソーダの思い出。ただのクリームソーダ美学。

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おじいちゃんの家に遊びに行くと、よく一緒にお散歩してくれていた。その日はコースがちょっと違った。おじいちゃんはちょっと寄り道して駅前の喫茶店へ連れて行ってくれた。

古い昔ながらの喫茶店で、店内がどうなっているかよく見えないし、扉も重そうでなんだか怖い。曇ったウィンドウの中からホットケーキが眠るように置かれていた。

からんころん。

鐘の音が鳴り響く。ひんやりと落ち着いた空気、コーヒーだろうか大人の香りがした。

おじいちゃんは慣れたように店の奥へ進み席に座った。
私も向かいの席によじ登るように座った。
おじいちゃんはお店の人と話してる。私の事を紹介してくれてるみたいだ。とてもそわそわしてなんだか落ち着かない。
「何にする?」とおじいちゃんに聞かれた。
私はなんだか自分の口にできるものがこのお店にある気がしなくて決められなかった。
「甘いのがいいかな?クリームソーダにしようか」そう言っておじいちゃんはクリームソーダを頼んでくれた。
クリームソーダはこれまで飲んだことがなかった。

店の奥から私のクリームソーダが来た。
丁寧に私の目の前に置かれたグラスは、高くそびえ立ちキラキラと光っていた。
長いスプーンとストローが添えてあり、アイスクリームの上には真っ赤なさくらんぼが可愛くほほえんでいた。
小さい私はしばらくクリームソーダに見とれていた。
一通り見つめ終わり現実に戻る。ふむ。いったいどこから手をつけようか。
とりあえず、さくらんぼは最後。これは決定事項なので、お皿によけておく。
そして、上のアイスクリームを食べようとスプーンを刺そうとするが、それはゆらゆらと動き逃げていく。ようやく削るようにアイスを口に出来たが、クルンとひっくり返ってしまう。
それを見かねたおじいちゃんは「かしてごらん」と言うとストローで私のクリームソーダを飲んだ。
チューっとクリームがグラスに吸い込まれていく。
「あ!」
私は心の中で叫んだ。おじいちゃんの優しさの一口は私にとっては大きすぎた。クリームソーダは結構飲まれてしまった。
大人の一口は大きい…といつも思っていた。
おじいちゃんは私が残念がっているのに気づいたのか励ますように「ほら、食べな食べな!」と明るく言った。
おかげで随分食べやすくなったので私はまたクリームソーダに集中した。申し訳なさそうに氷に乗っかったアイスを剥ぎ取りながら食べていった。
そしてアイスが溶けてソーダと混ざりなんとも言えない、パステルカラーになった。私はそのクリームの溶けたソーダが大好きだった。炭酸がまろやかになり、ふわふわとした飲み物になりもうそれは「しあわせ」で出来ている。変幻自在のクリームソーダは私にとって宇宙旅行だった。はじめゆらゆらと揺れるアイスに不時着し、ふわふわのクリームソーダの天の川を抜けて、最終地点さくらんぼ星へ着陸し終わる。

大人からの羨望の眼差しを横目に最後のさくらんぼの種の余韻に浸るのが私のルールだった。
「もう帰るよ」と言われるまでこっそりなめていた。

そんな素敵な思い出をくれたおじいちゃん。

今度は私が大きな優しさの一口を子供からもらう番。

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