Heads or Tails?第一話『無知の恐怖』

『ヒトにしろモノにしろ…見えるモノにしろ見えないモノにしろ…小さなモノにしろ大きなモノにしろ…必ず“表”があり、“裏”がある。それらは例えば、誰かが何かの拍子であるモノを初めて発見したり作り出した時のように、極小さなキッカケでそのモノを取り巻く世界は180度ひっくり返るのである。これが“逆転”である。』


舞台は発展途上のとある島国

寒い中、沢山の白髪の人が街中を歩いている。
中層ビルが立ち並ぶ中、落書きだらけでいかにも潰れそうなボロボロのカフェがある。
店前にはテーブルと3つのイスある。
店内に客はいないが、ボロボロのパーカーを着、首に水泳ゴーグルをかけ、左手人差し指に指輪をつけている、髪が白黒の18歳の男アックスと隣にエロ本を置きながら小さなサンドバッグに殴り込みをしている、鶏冠みたいな赤いモヒカンで赤目のイカついペンギン、ペンタゴンがカウンターにいる。

ア「なあペンタゴン。」

ペンタゴンは殴りこみをやめる。

ぺ「あ?」

アックスが百円玉を見せる。

ア「ヘッズ オア テイルズ?数字が裏な。」

ぺ「またそれかよ。」

ア「当てたらあだ名変えてあげよっかな〜?」

ぺ「裏〜‼︎」

ア「うぃー。」

アックスがコイントスをすると、結果は表。悔しさで跪くペンタゴン。

ぺ「やるんじゃなかった…」

ア「ペンタゴンってそんなに嫌?」

ぺ「あたぼーよ。ダサすぎな。」

ア「そう?」

ぺ「これ以外なら勝てる自信あんのにな〜」

ア「例えば?」

ぺ「顔、性格、運動神経。」

ア(先天的なモノばっかじゃねぇかよ…)

ぺ「…で、今回のお願いは?」

ア「んーまだ決めてない。」

ぺ「なんじゃそりゃ。」

ペンタゴンはまた殴り込みを始める。アックスが外のイスでオーバーサイズの草臥れた前開き紺色パーカーを着た20歳の茶髪の女性が座っているのを見つける。

ア「客かな?」

ぺ「なわけあるか。新聞すら買えないほど客来てねぇのにそーだったら奇跡だぜ。ってか早く政府のアレ受け入れろよ。」

ア「土地?絶対売らねぇよ。オーナーがくれた店なのに。まずそんなに金あるんなら政府は木造の城を発展させるべきだと思うな。」

ぺ「間違いない。」

アックスは女性を見つめる。

ア「寒くないのかな?」

ぺ「客じゃねぇんだからほっとけよ。」

アックスはコーヒーを淹れる。

ア「結構美人…」

ぺ「お客様入りました〜‼︎」

ア「態度変わりすぎな。」

ペンタゴンはアックスの胸の中にすり抜けるように入り、首にかけていたゴーグルをつけ、外に出てコーヒーを置く。女性が綺麗な青い瞳で見る。

ア「寒くないですか?あ、お代はいらないんで。」

アックスが店に入ろうとする。

女「ちょっと待って‼︎」

女性はアックスの手を握って引き止める。

ア「え、あ、も、もしかしてコーヒー嫌いでしたか?」

女「私が見えるの…?」

ア「え?まあ、はい。バリバリ見えてますけど。」

女「そう…」

女性が涙ぐむ。

ア「だ、大丈夫ですか⁉︎あ、もしかして手汗嫌でした?」

女「手汗?」

ア「え、まあ俺のコンプレックスで皆嫌がるんで…」

女「ねぇ君。コンプレックスはアイデンティティだと思ってた方がいいよ。」

ア「え…」

アックスの顔が赤くなる。ボロボロのパーカーを急いで脱いで渡す。

ア「と、とりあえず‼︎これ汚いけど…適当に使って下さい‼︎」

女「ありがと。」

アックスは店に入る。

ア(ヤベェ…急にあんなこと言われるとは思わなかった…)

ぺ「友達になりたいな〜」

ア「マジそれな〜…っておい‼︎…でも、あの人と俺にも優しくしてくれそうだからマジで友達になりてぇ…」

ぺ「ふーん。じゃあお前から話しかけろよ。望んだものは全力で叶えにいく。そして叶える。それが男のロマンだぜ。」

ア「どーした急に。」

ぺ「俺からの貴重なアドバイスだぜ。」

ア「上から目線だな…わかった。話してみる。」

ぺ「おうよ。」

ペンタゴンが再び胸の中に入る。

ア(…あの人、もしかしたらペンタゴンと一緒なのかも。さっきの涙も寂しさからなのかな。)

アックスは暖かいうどんを作り、それを持って外に出てテーブルに置く。

ア「お、お腹空いてませんか?」

女性がうどんとコーヒーを見つめる。

ア「い、いらなかったら俺が食うんで…」

女「コーヒーとうどんを一緒に食べるの初だな〜って思って。」

ア「あ、合わないですよね…(いきなりミスってもーた‼︎)」

女性が笑う。

女「困らせてごめんね。両方食べるよ。」

ア(笑顔可愛い。やっぱり良い人。)

アックスが向かいのイスに座る。

ア「(こういう時何を話せばいいんだろ…?)あのー、名前何て言うんですか?」

女「ん?」

女性が頬杖をつく。

女「さては君、まだ友達いないんだな〜?」

ア「と、友達ぐらいいますよ‼︎」

女「何人か言ってみ?」

ア「…0,1人。」

女「聞いちゃ悪かったかな…?」

ア「友達と言える友達がいないだけです。」

女「そっか…まず会話は相手の興味を引く話題から始めるのが鉄則だよ。あと名前を聞く時は自分の名前を先に言わないとね。」

ア「(会話ってムズイな…)アックスです…」

女「私はカレン。あ、タメ語でいいよ。」

ア「はい…うん。そーいえばさっき見えるとか…」

カ「そーそー。たぶん君以外私が見えてないの。」

ア「そっか…(やっぱそーなんだ…)」

カ「信じてくれるの?」

ア「え、まあ。そういう奴を知ってるから。」

カ「だからうどん持ってきてくれたんだ。持ち運べる物に最後に触れたのが私のことが見える人だったら私も触れるからね。それを知ってて何も食べてないと思ったんでしょ?」

ア「え、まあ…」

カ「君、すごく優しいね。」

ア「いや、そんな…(照れるやないか‼︎)」

アックスは照れ隠しする。

ア「な、なんで俺だけ見えるんだろーな〜?」

カ「逆転の能力者だからだよ。」

ア「え?(逆転の…能力者…?)」

カ「能力者になる経路は欲望でなる、それか政府と便利屋の能力者の場合はたぶん…この世を終わらせる気持ちでなる人間ばかりだろーね。」

ア(大層な話だな…ってかカレンって何者なんだ?やけに詳しすぎるよな…?)

トントン

政府の20歳の白髪の男ホールがアックスの肩を叩く。

ホ「よっ。」

ア「おぉ‼︎」

ホールは空いている席に座る。

ホ「アー ユー ボッチング ナウ?」

ア「オールウェイズだ。」

ホ「フォーエバー?」

ア「俺の未来を勝手に決めんじゃねぇよ。」

ホ「さっきの独り言?あ、もしかしてお子ちゃまがやりがちなエア友達?」

ア「なわけねぇだろ。ここに…」

アックスはカレンが指輪をつけた左手人差し指を自分の口に当てるのを見る。

カ「2人だけの秘密。変人だと思われちゃうよ。」

ア「…いや、独り言だな。」

ホ「悲しい奴だな。」

ア「うるせぇ。」

ホ「ってか、お金どれぐらい貯まったの?」

ア「んー情報を買うには全然だな。」

ホ「ちょうどいいわ。今日も暇だろ?」

ア「毎日暇な前提で話すな。まあ実際そーなんだけど。」

ホ「じゃあ城に来てよ。」

ア「城…(政府に会うってことだよな…)」

ホ「どーした?」

ア「いや何でもない。なんで?」

ホ「情報欲しいんだろ?無料で教えてやるよ。」

ア「マジ⁉︎」

アックスが小さなノートを取り出す。ノートにはアックスが求める情報がたくさん書かれている。

ア「どれ?」

ホ「これ。」

『父親の行方』

ア「ふぁ⁉︎マジ⁉︎」


回想

家の中

8歳のアックスがテレビに夢中。隣には白髪の30歳の母ミヨが座っている。

ア「母さん‼︎今日も父さんの特集やってる‼︎」

ミ「そーだね。」

テレビにインタビュアーの女とサングラスをかけた32歳の男マジックが映っている。

女「今日のゲストは便利屋のマジックさんです。お忙しい中ありがとうございます。」

マ「うぃー。」 

ミヨが微笑む。

ミ「相変わらず態度がデカいわね。」

女「まず便利屋について説明させて頂きます。便利屋は非政府組織として今年で創設10周年を迎えました。主な仕事は名前の通り、何でも屋です。対価さえ払えば何でもしていただけるという、まさしくあって嬉しいお店1位のお店ですね。そしてなんといっても、店員が容姿良しの人ばかりでその中のエースがマジックさんです。」

マ「あざっす。」

女「実を言うと私も何度か雇わせてもらった事あるんですよ。」

マ「知ってる知ってる‼︎俺結構記憶力いいから。」

女「本当ですか‼︎すごく嬉しいです‼︎…あ、すみません。時間が押しているようなので…」

マ「すみません。俺がスケジュール詰め詰めにしてて…」

女「いえいえ。それは売れてる証拠だと思いますよ。それでは、動画がありますのでそちらを見ましょう。」

マ「あざます。」

動画が流れる。アックスは目を輝かせる。

ア「俺も父さんみたいになりたい‼︎」

ミ「それなら今から頑張らないとね。」

ア「うん‼︎便利屋に入ったら母さんを守る‼︎」

ミ「ホント?うれしいな。」

回想終わり


アックスとホールが立ち上がる。ホールが背伸びをする。

ホ「早速行くか。」

ア「うぃー…」

アックスが横を向くとカレンがニコニコして立って見ているので、耳打ちする。

ア「来るのか?」

カ「うん。面白そうじゃん。君のお父さんに会いたいし。」

アックスがわざとらしく振る舞う。

ア「あーちょっと片付けしてから行くからちょっと待ってて。」

ホ「りょ。」

アックスはカレンの手を引く。

カ「ちょっ‼︎」

テーブルの上のコーヒーカップなどを持って店に入る。

カ「どーしたの?」

アックスは皿を洗い出す。

ア「本当についてくるの?」

カ「うん。ダメなの?」

ア「いや…さすがの俺でもなんか嫌な予感がするんだよな…どう考えても話が出来すぎてる。」

カ「じゃあなんで行くの?」

ア「…付き合いってやつかな。友達を信頼してぇじゃん。思えば、カレンはたぶん俺以外見えてないから大丈夫だな。」

カ「うん‼︎なんなら私がいた方が安全だと思うけどね‼︎」

カレンがピースする。

ア「1人より2人の方が安心だしな。」

ペンタゴンが顔だけ出す。

ぺ「俺もいるぞ‼︎」

カ「あ…あ〜‼︎久しぶり〜‼︎こんなとこにいたんだ‼︎」

ぺ「おう‼︎」

ア「2人知り合い?」

カ「ちょっとね。」

ア「ふーん。」


山頂にある城の中

ホールがアックスの顔を木造の床に踏み潰す。2人の前には、巨大な机と回るイスに座って背を向け、窓越しに外を見る黒髪の41歳の男ボスとその隣に白髪の24歳の男ベスト2が立っている。

ホ「ボス。連れてきました。」

ア(くそ…やっぱり罠だったのか…)

カレンが俯く。

カ「ごめん…私は君しか触れないから…」

ボ「ご苦労だ、ベスト7。」

ボスが振り返る。

ア「え…おい…どーいうことだよ…なんで政府のボスが父さんなんだよ‼︎」

ボ「久しぶりだな、アックス。元気そうで何よりだ。忠告だが、情報はテレビ見るか新聞読んで仕入れとけよ。」

ア「政府のボスなら貧乏を救う政策をして欲しいもんだな。」

ホ「ボスにお願いするなんて百年早ぇんだよ‼︎」

ドカッ‼︎

ホールが強く顔を踏む。

ボ「なぁアックス。政府に入らないか?」

ア「…‼︎」

「政府に入ればお前の好きな情報も沢山あるしいいことばかりだと思うんだが…」

(行くわけねぇだろ。)

踏まれて声が出せない。

ボ「…ベスト2。」

2「はい。」

2人の元へ来て右足を高く上げる。

ドカッ‼︎

思いっきりホールの顔面を地面に蹴り落とし、床に穴があく。

2「少しは相手の立場に立って物事を考えましょう。足で顔を踏まれて声が出ますか?」

ホ「…」

ベスト2は元の場所に戻る。アックスが床であぐらをかく。

ボ「返事は?」

ア「絶対に嫌。父さんはどういう気持ちでここにいるんだよ…母さんを殺したのはこの政府だぞ?」

ボ「だからどーした?」

ア「は?(コイツ狂ってんのか?)」

ボ「…お前が来ないって言うなら、お前の中にいるペンギンをこっちによこせ。」

ア(なんで知ってんだ⁉︎)

口笛をふく。

ア「さ、さぁ?何のことかな〜?」

ボ「(嘘下手‼︎)…ベスト7‼︎」

ホールが起き上がる。

ホ「はい‼︎おい‼︎早く出せ‼︎」

アックスを蹴りまくる。

ア「グハッ‼︎(絶対出て来んじゃねぇぞ‼︎ペンタゴン‼︎)」

ホ「辛抱強い奴だな…ボス‼︎コイツ殺っちゃっていいですか?」

政府の3人が会話をする。その間にカレンがアックスの前でしゃがむ。

カ「何もしてあげられなくてごめん…」

ア「しょーがねぇよ。」

カ「…ここで君に選択肢をあげる。1つはこのまま殴られる。もう1つは…私たちが生きるための力を貸してあげる。どう?」

ア「え…?」

ペンタゴンが顔を出す。

ぺ「おいお前‼︎まさか…‼︎」

カ「今出てきたらダメだよ。この子の努力が無駄になっちゃう。さっさと戻りなさい。」

カレンがペンタゴンを押し戻す。

ア「力って…」

カ「私はね…逆転の女神なんだよ‼︎」

ア「…はえ?」

カレンは小声になる。

カ「だ、だから私はぎゃ…逆転の女神なの。何回も言わせないでよ、恥ずかしいんだから…で、どーする?」

ア(全く状況が飲み込めねぇ…逆転?女神?処理出来てない情報が多すぎる。パニクってきた…)

ホールが来る。

ホ「喜べ。お前に殺しの許可が出た。遺言は?」

アックスがパニクっているのを見てカレンが焦る。

カ(まずい‼︎これ以上待てない‼︎)

ホ「聞こえてんのか⁉︎遺言は?」

カレンがアックスにキスをし、胸の中に入る。

ア「え…キス…?」

ホ「は?キス?あはは‼︎今の聞きましたか?遺言がキス…」

ホールがボス達の方に振り向くと2人は真顔でいる。

ホ「あは、あはは〜そーですよね〜夢は人それぞれですもんね〜…」

ホールは再び踏み潰そうとする。

ホ「床とキスしとけ‼︎くそや…あれ?」

誰もいない。

ガッ‼︎

ホールはアックスに顔を掴まれ、持ち上げられる。

ア「俺も一度は人の顔を踏み潰そうとしてみたいもんだな‼︎オレィ‼︎」

ドカッ‼︎

ホールを壁につき飛ばす。

ア「次入れ替わるなら美女って決めてたのによ。なんでこんなやつなんかと入れ替わらないといけねぇんだよ。まあ高身長だけは評価してやるが。」

ホールが立ち上がる。

ホ「こんやろー…生意気な真似すんじゃねぇぞ‼︎」

ホールが剣を抜いて走ってくる。

ウォン‼︎

どれだけ頑張ってもアックスに近づけない。

ホ「はぁ⁉︎どーなってんだ⁉︎」

ア「相手のことも知らずに近寄るんじゃねぇよ、無知が‼︎」

ウォン‼︎

ホールを弾き返す。

ドカッ‼︎

ホールが壁に衝突する。

ア「じゃねぇと好きな女にも嫌われるぞ‼︎」

アックスは2人の方を向く。

ア「…お前らもやんのか?」

ボ「逆に聞くが、勝てると思ってんの?」

アックスが手を前に出して何かをしようとする。

ア「俺がこの状況を“リバース”できると分かっても、笑ってそんなこと言えんのか?」

ボ「できるもんならやってみろ。」

アックスは動作を止めて黙り込み、すぐに部屋を出て廊下を走って逃げる。

ボ「逃げんのかよ‼︎」

ア(あたぼーよ。しかもいい事知れたぜ。…ってかマジ木造鬱陶しいな。能力使えねぇじゃん。)


先程の部屋

ホールが起き上がる。

ホ「こんやろ…俺から逃げれると思うなよ‼︎」

ホールは匂いを嗅ぎ、走っていく。

ボ「とりあえず俺の仕事はこれで終わりだな。」

2「はい。ボス、立ち上がる前にズボン履きましょうか。」

ボ「おっと。そーだったな。座ってたらバレねぇもんだな。」

2「誰もあなたの服装に興味がないだけかと。」

ボ「辛辣だな。」

ピッピッ

小さな機械から警報が鳴る。

ボ「ん?」

ボスがボタンを長押しする。

「ボス‼︎」

2「騒がしそうですね。」

ボ「どした?」

「城内で年寄りと思われる侵入者を発見し、そのまま見失ってしまいました‼︎どう致しましょうか‼︎」

ボ「…お前は俺に何を聞いているんだ?まさか、ついでにベスト2に手伝って欲しいとか言うんじゃないだろな?」

「え、あ、いや、その…」

ボ「ちゃんと話す内容決めてから鳴らせやクソガキ‼︎」

「す、すみません‼︎」

2「おそらく今、誰もここにはいませんよ。」

ボ「だとさ。ベスト2が優しくて良かったな。」

「はい‼︎ありがとうございます‼︎」

ボ「因みに、不法侵入か?」

「詳細は分かっておりません‼︎脱獄の可能性もあります‼︎只今、ベスト5以上の方はそちらにおられるお二方だけでございますので、まだ監獄内は確認しておりません‼︎」

ボ「そうか。じゃあ放っておけ。」

「はい‼︎…え、本当に放っておいて宜しいのでしょうか?」

ボ「俺がいいって言ってるんだ‼︎黙って従え‼︎」

「は、はい‼︎申し訳ございません‼︎」

ボスはボタンを放す。

ボ「誰も謝れなんか言ってないだろ…それより、早くアイツを追いかけろよ。」

2「はい。おそらく今、先程の逃走者と逃走しています。僕からしたら好都合ですので、逃げ切ったと思ったところで追いつきます。…僕は上から落とすのが好きなので。」

ボ「お前趣味悪っ‼︎」

LDKの謎の部屋

窓の外で雨が降っている。窓のない3つの壁には一つずつドアがある。リビングには大きなソファとその前に景色が映し出されている大きなテレビが、そして部屋にはいくつかの本棚とその中に書籍が綺麗に並べられている。ダイニングテーブルのイスでカレンがヘッドホンをしてテレビを見ながら座っている。テレビの前でペンタゴンは頭に謎の機械をしながら、アックスはケガだらけで寝ている。

ア「むにゃむにゃ…はっ‼︎ここどこ⁉︎」

アックスは目覚める。カレンがヘッドホンを外す。

カ「やっと起きたね。」

ア「あ、カレン。ここどこ?」

カ「ここはね、君のマインドをひとまとまりにした部屋、マインドルームだよ。」

ア「マインド?」

カ「そう。君の思考も精神もこの部屋にいれば全てわかっちゃうの。」

ア「ふーん。」

カ「え?驚かないの?」

ア「うーん…言ってることがよくわかんねぇ。」

カ「だから、君のプライベートなことも丸裸なんだよ。」

ア「ふぁ⁉︎マジ?それはヤバいって‼︎」

カ「(感覚が普通の人間でよかった…)でも大丈夫。今までたぶんペンタゴンしか入ってないからね。」

ア「なら良かった。ペンタゴンは?」

カ「今君の代わりに体を動かしてくれてるよ。」

ア「代わり?」

アックスはペンタゴンを見つける。

ア「え⁉︎何か頭に乗ってる‼︎」

カ「他人が君の実体を動かす為に必要な機械だよ。で、今テレビに映っているのがペンタゴンが動かしている君自身の視界だよ。」

ア「おぉすげ〜‼︎今走ってるってことはあの危機を逃げ切ったんだな‼︎」

アックスはテレビを見て1人で盛り上がっている。カレンは頬杖をつき、窓の外を見る。まだ雨が降っている。再びアックスを見て一息つき、立ち上がる。そしてテレビの前のソファに座る。

カ「ねぇ君。こっちおいで。」

アックスは振り返る。

ア「ん?」

カレンは隣の空いている席をポンポン叩く。

カ「ほらここ。」

ア「うぃー…(何何何⁉︎)」

アックスは恐る恐る隣に座る。

ア(何されるんだ俺⁉︎)

カレンがアックスに近寄って足を組み、肩を組んで自分の方へ引き寄せ、胸が当たる。

ア(当たってるんですが⁉︎)

カ「ねぇ君。今の気持ち、言ってみ?」

ア「え、今は、その、なんというか…色々と興奮しています‼︎(本音言ってもーた‼︎)」

カ「君、破廉恥だね。」

ア「いや〜それほどでも。」

意味を知らないアックス。

カ「別に褒めてないけど…君の今の感情は本当にそれだけ?」

ア「え?あーカレンと友達になりたいな〜って…いや、これはその‼︎…こういうの口に出す物じゃないよな。」

カ「ううん。君はここに居る限り嘘をつけないから口にしていいんだよ。」

ア「そーなの?」

カ「うん。あと、私でいいなら親友にでもなってあげる。」

ア「マジ⁉︎」

カ「その代わり…」

カレンが耳元でささやく。

カ「私にだけは隠し事をしないでほしいな。君はまだもっと奥に隠してる事があるはずだよ?」

ア「…‼︎」

カ「だって外で雨が降ってるもん。外の天気は君の気持ち。君は何に悲しんでいるの?」

アックスはカレンを見ると優しい顔をしている。俯いて少しの間黙りこむ。

ア「…手汗…」

カ「手汗?」

ア「この体で何十年も生きてきたからわかるんだよな…手汗への他人の対応だけで自分のことをどー思ってるか。」

カレンは静かに見つめる。

ア「昔は手汗のせいで人から煙たがれるのは仕方ないと思ってた。実際そーいう態度をする人しか会ってこなかったし、自分もその立場だったらそー思ってるかもしれなかったから…」

回想

街外れの公園

12歳のアックスと新聞も持ってベンチに座っている母ミヨ。砂場で白髪の子供2人がアックスに背を向けるように遊んでいる。

男1「これいいだろ〜。」

男2「こっちの方がデケェぞ。」

1「は?デカさなんか関係ねぇよ。」

アックスが羨ましそうに見る。

ア(何の話だろ?泥団子かな?俺もデカいの作って自慢してやろ‼︎)

アックスは泥団子を作って2人の所へ持って行く。

ア「どうだ‼︎これデケェだろ‼︎」

2人が振り向く。

1「あ?」

2「またかよコイツ。泥団子?」

1「もしかして泥団子で遊んでると思ってんのか?」

2「バカだな〜俺たちはラジコンで遊んでんだよ。」

1「あ〜そーか。黒髪だもんな。お前の親もいつも捨てられた汚ねぇ新聞拾いに来てるもんな。」

2「どっちにしろお前の汚ねぇ手汗汁付きの泥団子なんか誰もいらねぇっての。おままごとでも誰も食べねぇよな?」

1「間違いねぇ。」

ア「別に手汗なんかついてないよ。」

1「あ?何言っちゃってんの?お前の手テカテカじゃねぇか。」

男1がアックスの手を蹴って団子を落とす。団子が砕け散る。

1「ほらちゃんと見ろよ。これでも濡れてないってならお前の目は節穴だな。」

2人が嘲笑う。2人の親が来る。

母1「ちょっと‼︎うちの子に近づかないでよ‼︎」

1「母ちゃん。コイツずっとまとわりついてくるんだけど。」

2「ママ〜コイツ怖い。」

母2「あっち行きなさい‼︎しっしっ‼︎」

アックスは悲しい顔をし、砕けた泥団子を全て拾って、脇のベンチで座っているミヨの所に行く。ミヨはアックスの前でしゃがむ。

ミ「ん?どーしたの?言ってみ?」

ア「…手汗つきの泥団子は誰も食べないって潰された…」

ミ「これ?」

ア「うん…」

ミ「どれどれ?」

ジャリ‼︎ジャリ‼︎

ミヨは掌の上にある泥団子の1番大きな欠片を1つ取って食べた。

ミ「うん‼︎おいしい‼︎全然しょっぱくないよ‼︎」

ア「ホント?」

ミ「うん‼︎食べてもないのに決めつけるのは良くないよね〜」

先程の子供と親達は不快な顔をする。

2「母ちゃん…」

母2「見たらダメよ‼︎」

親同士で耳打ちする。

母2「やっぱりバカは感染るんですね。」

母1「そうらしいわね。アンタもこんな子と友達になったらダメよ。バカが感染るかもしれないんだから。」

1「言われなくてもならねぇよ。」

ミヨが立ち上がる。

ミ「帰ろっか。」

ア「うん。」

2人は手を繋いで帰る。

少し後のこと…

ア「母さん…」

ミ「ん?」

アックスが立ち止まって黙り込む。ミヨが前でしゃがむ。

ミ「どーしたの?言ってみ?」

ア「…今日も友達できなかった。母さんのマル秘のコツ使ったのに。」

ミ「友達はそー簡単に出来ないから居ると嬉しくなるんだよ。」

ア「うん…でも…難しすぎるよ…」

アックスは泣き出す。

ミ「でもさ、アッくん。私との約束覚えてる?」

ア「うん…友達以上じゃない人の前で泣かないこと…1番相手を困らせるのは目の前で泣かれることだから…」

ミ「そー。もう1つは?」

ア「約束は必ず守る…信頼関係のために…」

ミ「そー。私との約束守ったじゃん。しかも2つ。あそこで泣かなかったんだから…ね?アッくんは偉いんだよ。」

ア「うん…」

アックスは号泣し、ミヨに抱きしめられる。

回想終わり


ア「…カレンもだけど、ペンタゴンと初めて会った時、全然嫌そうな態度をしなかった。しかもこんな俺に優しくしてくれた…そしてホールもさ…俺に嫌そうにしなかったんだよな…しかもすごく仲良くしてくれてさ…なのにさ…」

アックスが泣き出し、カレンが少し強く抱き寄せる。

ア「こんな事されたらさ…誰を信じていいのかわかんなくなっちゃうじゃんか…友達は信じたいのにさ…」

アックスは声がしゃくり上がるほど涙を流す。

ア「父さんもさ…昔優しかったのにさ…あんな態度されたらさ…俺、今の父さんを知らないからさ…疑心暗鬼になっちゃってさ…それでも心の奥のどこかではさ…本当の父さんじゃないんじゃないかってさ…素直になれない自分がいてさ…ホント…無知って怖ぇよな…すげぇ怖ぇよな…ごめん…俺…本当情けないよな…」

カレンはアックスの頭を撫でる。

カ「情けなくなんかない。君は信じ続けた。そして今も信じ続けている。そんな君は誰よりもカッコいいよ。(…本当にアッくんは可愛くて、優しくて、健気で、頑張り屋で、正直者だね…あいかわらず。)」

暫くしてアックスは泣き止む。

ア「…俺さ、1つ思ったことあるんだけど…」

カ「ん?」

ア「カレンってまさか…俺の母さん…じゃねぇよな…?」

カ「え…?」


一方…

街中

誰1人いない中、地面でオーナーが血だらけで倒れていて、ベスト2がアックス(中身はペンタゴンなので以下ペンタゴン)の胸ぐらを掴んで持ち上げている。

ぺ(息が…)

2「もう一度考え直してくれませんか?あの話。受け入れないとこの手、放しませんよ?」

ペンタゴンピンチ‼︎一体何があったのだろうか…⁉︎

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