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あいつとはよく喧嘩をした

ルサンチマンの時の相方、吉尾とは本当によく喧嘩をした。
コンビの喧嘩というものは、傍から見ててしょうもないものが多い(ただ、他人の喧嘩を傍から見てるのは面白いけど)。
今にして思えば、「漫才のこのセリフの時のこの間(ま)が悪い」みたいな、しょうもないことが発端となって、最終的には「お前は才能がない」というところに行きつく。
そもそも、「このセリフのこの間(ま)が悪い」と言った方も、漫才の間(ま)について理解できてるわけではなくて、ただただ相方の言い方が気に入らないからそれを正当化させるために間(ま)とかいう理屈を持ち出してるだけ。要するに、言った方も言われた方もどちらも漫才の間(ま)を理解してるわけではなく、ただ「自分の思い通りに動いてくれない」相方に難癖をつけたいだけなのだ。

当然のことではあるが、相方とは「自分」ではない「他者」である。自分の考えとは別の考えを持った、別の人間である。自分のコピー人形では決してない。
「コンビを組む」ということは自分と考えを異にするものと折り合いをつけながら、「コンビとしての価値観」を構築していかなければいけないのだ。
それって簡単なようで、相当難しい。

ルサンチマンというコンビは、私も相方も、それぞれとても「頑固」だった。二人ともが「自分の考える笑いが絶対」だと思っていた。そもそも、『「自分の考えが絶対」だと思えないなら「芸人」の世界に入る資格すらない』とすら思っており、そこは二人ともが同じ考えだった。

結果が出ているうちは、それでもよかった。
ちょっとした喧嘩を繰り返しながらも、掴み取った『結成二年目でのM-1準決勝』。この快挙を成し遂げた時は、二人とも本当に歓喜した。

しかし、その後が地獄だった。
翌年の二回戦落ちから、二人の仲は急激に悪化した。
先に書いたようにネタ合わせ中の「セリフの間が悪い」から始まる因縁つけ、そこからの罵詈雑言合戦。
「お前のせいでスベった」
「お前はそもそも才能がない」
「今すぐ辞めろ。お前の方から「辞める」って言ったら即解散してやるから」
最終的には、殴り合いで終わる。新宿中央公園のホームレスによく止められたっけ。相方には殺意すら感じていた。
この時、二人ともまだまだ血気盛んな27,8才。生傷が絶えなかった。

そして、お互いにつるむ芸人仲間も別々になり、コンビの喧嘩に色んな人達を巻き込んでしまった。

結局、漫才を続けることができなくなり、ルサンチマンは解散した(その後、2年経って再結成するのだが、それからは二人とも考え方も大人になってて、そういう喧嘩はしなくなった)。

昔語りが長くなってしまった(この話を書き出すと、書いてるうちに長くなってしまう)。

芸人たるもの、何かしら自分の表現したい「面白いこと」というか、価値観がある。
ピンでやる分には、それを剥き出しに表現して問題ないと思う。
しかしコンビを組む以上、組んだ相方にもその人の「価値観」があるし、それは尊重しなければならないのだ。

あいつが亡くなってからも、色んな人とコンビを組ませてもらったし、今も組んでるけど、そこだけは絶対に一番念頭におかなければならないこと。

明日はあいつの五年目の命日だ。

ルサンチマン浅川と申します。