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しずるが初めて作ったコント

芸人自伝8回目です。
ゆくゆくは、芸人になってからのお話も書いていく予定なんですが、17年目の今までを書くとしたら一体何回目で到達するのでしょうか?(笑)
さて、前回ようやく池田とコンビを結成するところまで進みました。
そんな今回は、コンビ名を決め、しずるで初めて作ったコント、それがどう評価され、また次にどんなコントを作っていったか、僕がそこで気付いたこと、そこらへんの話を書いていきたいと思います。


改めて、NSCに入り一年の折り返しとなる10月にコンビを結成した僕と池田。
相変わらず、ライスと僕らはいつものグループで品川駅港南口の広場に集まっていました。
それまでと違うのは僕と池田はもう独り身ではないということです。
何だかむず痒い関係になった二人には決めなくてはいけないことがありました。
コンビ名です。
僕の片手にはNSCにコンビ結成を報告するための一枚の紙がありました。
ここに、僕と池田の名前とコンビ名を書いてNSCの社員さんに提出すれば、正式にコンビとなります。
僕は品川の駅前でシャーペンを取り出し、何にしようか考えていました。
池田と一緒に考えるというより、何となく僕の一存で決めるような雰囲気でした。
僕は池田の3つ上ということもあり、池田が自然と一歩下がる形にしてくれたんだと思います(野球部出身という体育会系の名残か、同期でも年上の人間に池田は敬語を使っていた)。
そこで僕がふと思い出したのが、前回の記事に書いた合コンでの一幕です。
架空の劇団『時雨』
その合コンには池田もいましたし、僕らを紐づける丁度いいキーワードなんじゃないかなと思いました。
その上、その当時はカタカナのコンビ名がポピュラーな傾向もありました。
それに対して、僕は和風な名前の方が良いかなとも考えていたので『時雨』はアリなのでは?
そう考え、一度用紙のコンビ名の欄に“時雨”と書いてみました。
んー。
どこかシットリしていて、暗い。
すぐに消ゴムでそれを消しました。
池田は無言です。
それでも、和な感じにはしたいと思っていた僕は“時雨”から連想して、またあることを思い出しました。
原宿を歩いていてそれを見かけた時から、ずっと心に残っていた定食屋さんの店名『しずる』です。
試しに紙に書いてみました。
ん、しっくりくるぞ。
池田は無言です。
インスピレーションで「これだ」と思いました。
池田に確認を取ると「はい」と一言。

「はい」?

コンビ名にそんなこだわりないのかな?

そんなことよりネタ作りだろ、ってこと?

こいつ、カッコいいな。

そうポジティブに受け止めた僕は、そのままNSCに提出することにしました。
2003年10月、晴れてしずるというコンビが誕生。
そこから17年経った今でも、しずるは芸人としてコントをやらせってもらっています。
本当にありがたいことです。

ちなみに、池田はメガドライブというゲームが好きでその象徴的なキャラクターの名前、“ソニック”にしたかったらしいです。
無言の裏にはそんな思いがあったんですね。
ソニック、ものすごい高速漫才をしそうな名前です。
もしそうなっていたら僕らはどうなっていたのでしょう。
あまり変わらなかったかもしれませんが。

そんなこんなで、しずるとして動き始めた僕らがすることと言えば1つ、ネタ見せです。
お互いに確認をとることもなく、コントをやっていくということは決まっていました。
しかし、前のコンビでは二人ともネタを書いていたのでどう作っていくかはどこか張りつめていたものがありました。
僕はどちらかというと自分主体で作って行きたいと思っていましたが、池田もなかなかこだわり強いしなとも感じていました。
池田は池田で前のコンビでは年下の相方だったので、自分のネタを自由に作っていました(相方の子も自分を持っていたので、その子もネタを書いていてそれぞれ作のコントを交互に披露していた)。
しかし、前にも話した通り年齢に従順なところがあった池田は、僕の意見をまず聞くスタイルを取ることにしたようでした。
かと言って、全てを僕に任すつもりはない雰囲気だけは醸し出していました。
何とも複雑なコンビです。(笑)
そんなことは他所に、僕らの前にはもうネタ見せの授業が迫っていました。

そして、ネタ見せ前日。
コント案が0。

時間がない僕らは、その夜独り暮らしの池田の家に集まりました。
互いに向き合い、腕を組み思念する二人。
一時間二時間と時間は削がれていきます。
それでも、何も出ない二人。
もしかしたら、池田は何か思い付いていたかもしれませんが、年上の雰囲気を武器に暗に受け入れない態度の僕。
時計の針だけが進み続け、時刻は2:30。

絶望的な状況から何とか僕は設定を捻り出しました。
その提案に池田が半分頷きます。
なにくそ、僕がまた展開案を提示し、池田が首を傾げながらも飲み込みます。
池田もボケを付け加えてきて、それを半分採用します。
いざ立ちながらネタを合わせていって、互いに譲ったり譲らなかったり眠い目を擦りながら、ようやくコントを完成させました。
時計の針は5:30を指していました。
授業開始は10時です。
しかし、コントが出来上がっても台詞を入れるネタ合わせがまだ必要です。
そこから何度もネタを合わせ、結局一睡もしないままNSCに向かいました。

そのようにして、しずるとして初めてのネタ見せの授業がやってきました。
肝心のネタはというと、後にフジテレビの『レッドシアター』でも披露することになったコントです。
そして、その授業の講師は渡辺鐘(あつむ)さんでした。
そう、後の世界のナベアツさんであり、現・桂三度さんです。

そんな様々なことを含めて、この日の授業のことはやはり忘れられないものとなりました。


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