反社会的勢力とゴルフ場の闘い(H26/3/28)

概要

暴力団と企業の闘いは多岐に渡る。日本では、「刺青・タトゥーお断り」としているところが多い入浴施設にしてもその取組の一つだが、これには法的根拠はなく、海外には理解されがたいものの一つだ。平成26年、ゴルフ場が訴えた事件について、二つの異なる判決が出た。どちらも暴力団と言う身分を隠してゴルフをしたことについて詐欺罪で訴えたものである。「表明・確約書」の存在の有無が結論を違えた決定打になった。

条文

刑法
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

判決-宮崎県ゴルフ場の場合

(判決文)
本件各公訴事実の要旨は,「被告人は,(1) Dと共謀の上,平成23年8月15日,宮崎市内所在のB倶楽部において,同倶楽部は,そのゴルフ場利用細則等により暴力団員の利用を禁止しているにもかかわらず,真実は,被告人及びDが暴力団員であるのにそれを秘し,同倶楽部の従業員に対し,Dにおいて「D」と署名した「ビジター受付表」を,被告人において「A」と署名した「ビジター受付表」を,それぞれ提出して被告人及びDによる施設利用を申し込み,従業員をして,被告人及びDが暴力団員ではないと誤信させ,よって,被告人及びDと同倶楽部との間でゴルフ場利用契約を成立させた上,被告人及びDにおいて,同倶楽部の施設を利用し,(2) Eと共謀の上,同年9月28日,同市内所在のCクラブにおいて,同クラブは,そのゴルフ場利用約款等により暴力団員の利用を禁止しているにもかかわらず,真実は,被告人が暴力団員であるのにそれを秘し,被告人において,同クラブの従業員に対し,「A」と署名した「ビジター控え」を提出して被告人による施設利用を申し込み,従業員をして,被告人が暴力団員ではないと誤信させ,よって,被告人と同クラブとの間にゴルフ場利用契約を成立させた上,被告人において,同クラブの施設を利用し,もって,それぞれ人を欺いて財産上不法の利益を得た」というものである。
第1審判決は,暴力団員であることを秘してした施設利用申込み行為自体が,挙動による欺罔行為として,申込者が暴力団関係者でないとの積極的な意思表示を伴うものと評価でき,各ゴルフ場の利便提供の許否判断の基礎となる重要な事項を偽るものであって,詐欺罪にいう人を欺く行為に当たるとし,各公訴事実と同旨の犯罪事実を認定して,被告人を懲役1年6月,3年間執行猶予に処した。被告人からの控訴に対し,原判決も,第1審判決の認定を是認し,控訴を棄却した。

1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。
(1) 被告人は,暴力団員であったが,同じ組の副会長であったDらと共に,平成23年8月15日,予約したB倶楽部に行き,フロントにおいて,それぞれがビジター利用客として,備付けの「ビジター受付表」に氏名,住所,電話番号等を偽りなく記入し,これをフロント係の従業員に提出してゴルフ場の施設利用を申し込んだ。その際,同受付表に暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく,その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられていなかったし,暴力団関係者でないかを従業員が確認したり,被告人らが自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもなかった。被告人らは,ゴルフをするなどして同倶楽部の施設を利用した後,それぞれ自己の利用料金等を支払った。なお,同倶楽部は,会員制のゴルフ場であるが,会員又はその同伴者,紹介者に限定することなく,ビジター利用客のみによる施設利用を認めていた。
Eは,同月25日,仕事関係者を宮崎県に招いてゴルフに興じるため,自らが会員となっていたCクラブに電話を架け,同年9月28日の予約をした後,組合せ人数を調整するため,被告人らを誘った。被告人は,同月28日,同クラブに行き,フロントにおいて,備付けの「ビジター控え」に氏名を偽りなく記入し,これをフロント係の従業員に提出してゴルフ場の施設利用を申し込んだ。その際,同控えに暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく,その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられていなかったし,暴力団関係者でないかを従業員が確認したり,被告人が自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもなかった。被告人は,Eらと共にゴルフをするなどして同クラブの施設を利用した後,自己の利用料金等を支払った。なお,同クラブは,会員制のゴルフ場で,原則として,会員又はその同伴者,紹介者に限り,施設利用を認めていた。
(2) B倶楽部及びCクラブは,いずれもゴルフ場利用細則又は約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたし,九州ゴルフ場連盟,宮崎県ゴルフ場防犯協会等に加盟した上,クラブハウス出入口に「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」などと記載された立看板を設置するなどして,暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していた。しかし,それ以上に利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置は講じていなかった。また,本件各ゴルフ場と同様に暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨の立看板等を設置している周辺のゴルフ場において,暴力団関係者の施設利用を許可,黙認する例が多数あり,被告人らも同様の経験をしていたというのであって,本件当時,警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない。
2 上記の事実関係の下において,暴力団関係者であるビジター利用客が,暴力団関係者であることを申告せずに,一般の利用客と同様に,氏名を含む所定事項を偽りなく記入した「ビジター受付表」等をフロント係の従業員に提出して施設利用を申し込む行為自体は,申込者が当該ゴルフ場の施設を通常の方法で利用し,利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが,それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。そうすると,本件における被告人及びDによる本件各ゴルフ場の各施設利用申込み行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである。 なお,Cクラブの施設利用についても,ビジター利用客である被告人による申込み行為自体が実行行為とされており,会員であるEの予約等の存在を前提としているが,この予約等に同伴者が暴力団関係者でないことの保証の趣旨を明確に読み取れるかは疑問もあり,また,被告人において,Eに働き掛けて予約等をさせたわけではなく,その他このような予約等がされている状況を積極的に利用したという事情は認められない。これをもって自己が暴力団関係者でないことの意思表示まで包含する挙動があったと評価することは困難である。

(小貫芳信裁判官の反対意見)
詐欺罪にいう人を欺く行為とは,財産的処分行為の判断の基礎となるような重要な事項を偽ることをいう(最高裁平成18年(あ)第2319号同19年 7 月17日第三小法廷決定・刑集61巻5号521頁,最高裁平成20年(あ)第720号同22年7月29日第一小法廷決定・刑集64巻5号829頁参照)。これによれば,欺く行為は,偽る対象(以下「重要事項」という。)と偽る行為との二つの要素から成り,欺く行為に該当するといえるためには各要素を充たす必要があるが,Cクラブの事件についてはこれを充たしていると認められる。以下,順次検討する。
2 まず,重要事項についてみる。
(1) ゴルフ場にとって暴力団員が施設を利用することは,一般的に,快適なプレー環境を害し,ゴルフクラブの評判を低下させて営業成績に悪い影響を及ぼす可能性が高いので,営業上無視できない事項といえよう。しかし,暴力団排除が法的義務とはされていないゴルフ場においては,暴力団排除をどこまで徹底するかはその経営方針に任されており,暴力団排除が一般的に営業上無視できない事項であるからといって,それは暴力団排除に一応の合理的理由があるというにとどまり,直ちに欺く行為に必要とされる重要事項に当たるとはいえない。重要事項といえるか否かについては,ゴルフクラブごとに,暴力団排除がどのように位置づけられているかを客観的に観察し,財産的処分行為の判断の基礎となる重要な事項と評価できるか否かを検討する必要があり,その位置づけは,具体的には,各ゴルフクラブが暴力団排除のためどのような措置を講じていたかによって判断するのが相当であろう。
(2) ゴルフ場の暴力団排除の措置については,①立入禁止の掲示,②会員の紹介・同伴によるビジターについての人物保証,③フロントにおける書面・口頭による暴力団関係者でないことの確認,④その他の排除措置などが考えられる。③のフロント確認については,仮にこれが実施され,フロントにおいて暴力団所属の有無を偽れば,虚偽事実の表明がされることになるので,偽る行為の問題は解消し,重要事項該当性も容易に肯定できることとなろうが,本件当時ほとんどのゴルフ場でフロント確認の措置までは講じられておらず,フロント確認は,顧客を不愉快な気分にさせ,また相手が暴力団員である場合には混乱が生ずる事態も危惧され,ゴルフ場がこの措置を採ることに躊躇させる事情があり,それが暴力団関係者に起因する事情であることからすると,フロント確認を必須の条件とするのは相当ではないであろう。①については,宮崎県において多くのゴルフ場が立入禁止の掲示をしているにもかかわらず,少なからず暴力団員がゴルフ場施設を利用する実態があったことからすると,立入禁止の掲示のみを根拠として,重要事項に該当すると認めるには十分とはいえないように思われる。したがって,具体的に重要事項にあたるか否かを検討する場合には,②と④の措置が中心となろう。
(3) これをCクラブについてみると,同クラブにおいては,玄関に暴力団関係者の立入禁止の掲示をし,原則としてビジターの施設利用を会員の紹介・同伴による場合に限定していた上,本件の数か月前には共犯者であり会員でもあるEに対し暴力団員をプレーメンバーとするゴルフ場利用申込みを拒絶しており,また本件時においても従業員は暴力団員がプレーしているとの疑いを抱き,コースに出向いて視察確認を行っているなどの事情が認められるのであって,Cクラブが暴力団排除を重要な経営方針としていたことは客観的に明らかであり,同クラブについては暴力団関係者に施設を利用させないことが財産的処分行為の判断の基礎となるような重要な事項であったことは優に認めることができる。
3 次に,偽る行為について検討する。
(1) 偽る行為について積極的な虚偽事実の表明がない事案(挙動による欺罔行為事案)においては,実行行為である申込行為に暴力団関係者でないことの意味が含まれていると評価できるかを吟味してみる必要がある。これをゴルフクラブが暴力団排除のために採っている上記の措置との関係で検討すると,①の立入禁止の掲示については,暴力団関係者が自発的に施設利用を断念することを期待するところに重点があると解される余地もあり,それ以上の暴力団排除の措置が講じられていない場合,立入禁止の措置のみが講じられた下での申込みを直ちに偽る行為と評価するのは困難であろう。
(2) ところで,Cクラブは,その会則及び利用約款により,暴力団関係者の施設利用を拒絶することを明示し,会員が暴力団関係者であるときは除名等の処分をすることとし,会員は暴力団関係者に対する利用拒絶を前提としてビジターを紹介できるが,ビジターのクラブ内における一切の行為について連帯して責任を負うものとしている。その上で,同クラブは,ビジターのゴルフ場施設利用申込みにつき会員による紹介・同伴を原則としており,会員の人物保証によって暴力団排除を実効性あるものにしようとしていた。このような措置を講じているゴルフ場における会員の紹介・同伴によるビジターの施設利用申込みは,フロントにおいて申込みの事実行為をした者が会員であるかビジターであるかにかかわらず,紹介・同伴された者が暴力団関係者でないことを会員によって保証された申込みと評価することができるのであり,このような申込みは偽る行為に当たるといえる
(3) 他方,B倶楽部は,同様の規則等を制定していたものの,ビジターは会員による紹介・同伴がなくても施設利用ができ,本件においてもビジターである被告人らは会員の紹介・同伴がないまま施設利用を許されており,このように会員による人物保証がない状況の下での暴力団員の施設利用の申込みを偽る行為と認めるのは困難であろう。

判決-長野県のゴルフ場の場合

(判決文)
本件は,暴力団員である被告人が,本件ゴルフ倶楽部の会員であるAと共謀の上,平成22年10月13日,長野県内のゴルフ倶楽部において,同倶楽部はそのゴルフ場利用約款等により暴力団員の入場及び施設利用を禁止しているにもかかわらず,真実は被告人が暴力団員であるのにそれを秘し,Aにおいて,同倶楽部従業員に対し,「○○○○」等と記載した組合せ表を提出し,被告人の署名簿への代署を依頼するなどして,被告人によるゴルフ場の施設利用を申し込み,同倶楽部従業員をして,被告人が暴力団員ではないと誤信させ,よって,被告人と同倶楽部との間でゴルフ場利用契約を成立させた上,被告人において同倶楽部の施設を利用し,もって,人を欺いて財産上不法の利益を得た,という事案である。
(2) 本件ゴルフ倶楽部では,暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず,入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係がありますか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに,「私は,暴力団等とは一切関係ありません。また,暴力団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」と記載された誓約書に署名押印させた上,提出させていた。ゴルフ場利用約款でも,暴力団員の入場及び施設利用を禁止していた。共犯者のAは,平成21年6月頃,本件ゴルフ倶楽部の入会審査を申請した際,上記アンケートの項目に対し,「ない」と回答した上,上記誓約書に署名押印して提出し,同倶楽部の会員となった。
(3) 被告人は,暴力団員であり,長野県内のゴルフ場では暴力団関係者の施設利用に厳しい姿勢を示しており,施設利用を拒絶される可能性があることを認識していたが,Aから誘われ,本件当日,その同伴者として,本件ゴルフ倶楽部を訪れた。 本件ゴルフ倶楽部のゴルフ場利用約款では,他のゴルフ場と同様,利用客は,会員,ビジターを問わず,フロントにおいて,「ご署名簿」に自署して施設利用を申し込むこととされていた。しかし,Aは,施設利用の申込みに際し,被告人が暴力団員であることが発覚するのを恐れ,その事実を申告せず,フロントにおいて,自分については,「ご署名簿(メンバー)」に自ら署名しながら,被告人ら同伴者5名については,事前予約の際に本件ゴルフ倶楽部で用意していた「予約承り書」の「組合せ表」欄に,「△△」「○○○○」「××○○××」などと氏又は名を交錯させるなどして乱雑に書き込んだ上,これを同倶楽部従業員に渡して「ご署名簿」への代署を依頼するという異例な方法をとり,被告人がフロントに赴き署名をしないで済むようにし,被告人分の施設利用を申し込み,会員の同伴者である以上暴力団関係者は含まれていないと信じた同倶楽部従業員をして施設利用を許諾させた。なお,Aは,申込みの際,同倶楽部従業員から同伴者に暴力団関係者がいないか改めて確認されたことはなく,自ら同伴者に暴力団関係者はいない旨虚偽の申出をしたこともなかった。 他方,被告人は,妻と共に本件ゴルフ倶楽部に到着後,クラブハウスに寄らず,車をゴルフ場内の練習場の近くに停めさせ,直接練習場に行って練習を始め,妻から「エントリーせんでええの。どこでするの」と尋ねられても,そのまま放置し,Aに施設利用の申込みを任せていた。その後,結局フロントに立ち寄ることなく,クラブハウスを通過し,プレーを開始した。なお,被告人の施設利用料金等は,翌日,Aがクレジットカードで精算している。
(4) ゴルフ場が暴力団関係者の施設利用を拒絶するのは,利用客の中に暴力団関係者が混在することにより,一般利用客が畏怖するなどして安全,快適なプレー環境が確保できなくなり,利用客の減少につながることや,ゴルフ倶楽部としての信用,格付け等が損なわれることを未然に防止する意図によるものであって,ゴルフ倶楽部の経営上の観点からとられている措置である。 本件ゴルフ倶楽部においては,ゴルフ場利用約款で暴力団員の入場及び施設利用を禁止する旨規定し,入会審査に当たり上記のとおり暴力団関係者を同伴,紹介しない旨誓約させるなどの方策を講じていたほか,長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上,予約時又は受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいたところ,本件においても,被告人が暴力団員であることが分かれば,その施設利用に応じることはなかった。
2 以上のような事実関係からすれば,入会の際に暴力団関係者の同伴,紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体,その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上,利用客が暴力団関係者かどうかは,本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから,同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は,その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり,詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず,これによって施設利用契約を成立させ,Aと意を通じた被告人において施設利用をした行為が刑法246条2項の詐欺罪を構成することは明らかである。

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