労働組合法の整理

基本事項

労働組合法とは、使用者と労働者の関係について定めたものだ。

第一条 
この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
第二条
この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。

とある様に、労働者が組織する団体である「労働組合」に関する事項について取り決めがなされており、労働組合(第二章)、労働協約(第三章)労働委員会(第四章)といった条文が続く。

労働協約(第三章)

労働組合法の一つの目玉が「労働協約」と呼ばれる労働組合と使用者間の契約書だ。

第十四条 
労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる

なぜわざわざ労働組合と使用者の間で契約を行うのか。十六条にこうある。

第十六条 
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする

「労働契約」とは会社と個々人が個別に交わす契約書のことだ。使用者の方が一般に力が強いので、場合によっては労働者一人では不利な条件を飲まされてしまうことがあり得る。そこで、本法律の趣旨である「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」を目的に、労働組合が代表して使用者と取り決めを交わす最低限の条件を定めた基本契約が「労働協約」である。定められる事項は会社によって様々だが、給与や労働時間等の労働条件が定められていることが一般的だ。

一方で、その対価として、いわゆる「一般的拘束力」を受ける。

第十七条 
一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。

4分の3以上の従業員が適用になった労働協約は、たとえ自身が4分の1にカテゴライズされる職員でも適用になる。場合のよっては、不利益を被ることもあるため、よく裁判になる。

この労働協約については基本的なルールが決まっている。「3年」「書面」「90日」だ。

第十五条 
労働協約には、三年をこえる有効期間の定をすることができない。
2 三年をこえる有効期間の定をした労働協約は、三年の有効期間の定をした労働協約とみなす
3 有効期間の定がない労働協約は、当事者の一方が、署名し、又は記名押印した文書によつて相手方に予告して、解約することができる。一定の期間を定める労働協約であつて、その期間の経過後も期限を定めず効力を存続する旨の定があるものについて、その期間の経過後も、同様とする。
4 前項の予告は、解約しようとする日の少くとも九十日前にしなければならない

不当労働行為(第二章)

第二章については労働組合自体の基本事項を書いている。まず、最初の条文では、基本事項として組合の規約必須事項などを定め、

第五条 労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。但し、第七条第一号の規定に基く個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。
2 労働組合の規約には、左の各号に掲げる規定を含まなければならない。
一 名称
二 主たる事務所の所在地
三 連合団体である労働組合以外の労働組合(以下「単位労働組合」という。)の組合員は、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること。
四 何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと。
五 単位労働組合にあつては、その役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されること、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その役員は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること。
六 総会は、少くとも毎年一回開催すること。
七 すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少くとも毎年一回組合員に公表されること。
八 同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと。
九 単位労働組合にあつては、その規約は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その規約は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと。


次の条文で交渉権限について決める。

第六条 労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。


一番大事なのは7条である。いわゆる「不当労働行為」と呼ばれている条文で使用者が労働組合に対して行ってはならない行為を定めている。

第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。


労働組合とは労働者が集まって組織した団体であり、その目的は使用者と対等に交渉することにあった。大前提として自由に組織できなければ話が始まらないし、次にいくら人間が多数集まったとしてもその土台として自主性がなければ意味がない。そこで、本条文では、1)労働組合を結成した者たちを人事上不利に扱うことの禁止や、2)組合に対して経費援助を含む結成・運営への支配・介入の禁止、等を定めている。

7条1項の但書は、労働者が必ず労働組合に加入しなければならないという制度を労働協約において認めているが、これは一般に「ユニオンショップ制度」と呼ばれている。

一方で、1項の本文では、労働契約上において労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすることを禁止している。これはアメリカにおいてyellow-dog contractと呼ばれるもので、それを直訳して「黄犬契約(の禁止)」と呼んでいる。

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