『FIRE 最強の早期リタイア術』を読みました

『FIRE 最強の早期リタイア術』を読みました。

全般に、とてもいい本だと思いました。学生のころにこの本に出会えると、生き方の選択肢が広がりますね。

主旨は、元本をつくってそこからの利金で生活できるようにすれば早期リタイアできるよ、という内容なんですが、わかりやすく、具体的で、本当に著者が実行したのだなと感じます。子どもの教育に関しても、ワールドスクーリングとして考察されています。

この本で、私にとって目新しかったのは、リスクへの対処の仕方でした。

概算で(円換算)、生活費が年間400万円くらいでOKとすると、それほどリスクをとらずとも年間4%くらいの利回りを得ることができるので、元本としては1億円が必要という計算になり、その元本を運用して利金(からインフレ分を元本に積み上げた残り)だけで生活していくというものですが、運用に「絶対大丈夫」というのはないので、万一の場合にどう対処するかというのが考慮されています。例えば、マーケットの暴落とか、コロナのような想定外の事態などのときに耐えられるようにするのにどうするかということです。

第一の対処としては、一定額の現金確保というのが挙げられており、この点には目新しさはありません。用意する金額などは、本書を読めばわかります。

目新しいのは第二の対処でした。確保していた現金でもいかんともしがたい状況になったときにどうするか。生活費を下げるために、そのときどきで生活費の低いところへ観光ビザなどで移動して生活するというものです。著者の実体験に基づけば、Air B&Bなどを利用して東南アジアなどで生活すると、著者の母国であるカナダで暮らしているよりも少ない生活費で生活できるというもの。万一のため、旅行保険をかけておくことをすすめています。

この第2のリスクヘッジが有効なのは、生活費の見通しを、比較的生活費の高い国のレベルで持っておいた場合に限られます。生活費の低いレベルで用意していた場合は、このヘッジが効かなくなるので要注意です。つまり、結局は、すべて多めに見積もっておくということにつきます。

元本に1億円以上が必要なんて、私には無理と思った方。年金をあてにしない場合はそうなるということで、生活費の一部を年金でまかなえるなら、必要な元本はその分少なくてすみます。元本も年金も累積労働期間とともに上がるのが通常なので、親世代から引き継ぐものだけで生活費がまかなえる人以外は、元本からの利金と年金とで生活費をまかなえるようになった時点で、FIRE完成というふうに考えるといいのかなと思います。

本書で、唯一、検討の余地があると思ったのは、健康であるという大前提が崩れてしまった場合のリスクです。著者はまだ30代ですが、病気などで一人で生活できない状態になったり、あるいは、生活費の低い国への移動ができなくなった場合というのも一定の割合で考えておいた方がいいだろうなと思いました。その場合も、多めに持っておくということに尽きるのでしょうか? 健康でなくなることをあまり想像したことがないので、今すぐにそれ以外の方法は私には思いつきません。

ちょうど読んだ時期の『President』の特集で、三菱商事が取り上げられていました。FIREとは対極の生き方の代表だなあと思いましたが、持たざる者が、元本形成のための手段として取る道の一つとして、三菱商事のようなところで働くというのはあり得るのかなとも思います(選ばれる必要もありますが)。そして、元金ができたところでFIREへという選択肢もあれば、FIREせずにそのまま全うするのが自分に合っていると思えば、それもまたよし、ですね。

本書の生き方モデルも、もっとずーっとずーっとマクロ的に俯瞰すると(鳥の目)、全員がこの生き方をできるかというと、経済の仕組み上、それでは成り立たないはずなので(誰かが労働しなければ、元金運用も年金も成り立たない)、成り立つ前提は、本書のような生き方をする人と、労働者である人が一定の割合でいる必要があるわけで、一定の割合で労働を希望する人がいるうちは不幸な人を最小限にしながら成り立たせることができたとしても、もし、全員が本書のような生き方をしたい場合は、このモデルにも勝者と弱者の構図があるということなんですよね。

ということは、何に幸せを感じるか、どう生きたいか、に多様性があることが、できるだけ多くの人が幸せに生きるために必要なことなのかなと、改めて思います。望みの分散。

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