『数分間のエールを』を観てほしい話

注意

現在公開中の映画作品について記載しています
ネタバレは極力控える内容にしていますが、気にされる方はご遠慮ください

はじめに

アニメ映画『数分間のエールを』が6/14から公開された

私のことを多少ご存知の方は何故私がこの作品を気にかけているのかお察しのことだろうと思うが、私は声優和泉風花さんのファンである。
その和泉さんにとって、デビューから6年にして初めてメインキャラクターを演じる銀幕作品がこの『数エール』となる。

そんな『数エール』私は初日、地元愛知で一番早い上映で観てきた。
私の有休は100%推しに捧げられる。

一言で感想を語れば
『この作品に出逢えてよかった』
こんなに万感の想いで、走り出したくなる感情で劇場を出たのはいつぶりだろうか。
それだけ私の心を揺らした作品だった。

あらすじ

「何かを作りたい。自分が作ったモノで誰かの心を動かしたい」

高校生の朝屋彼方は、MV(ミュージックビデオ)の制作に没頭していた。

ある夜、映像のモチーフを探して街を探索していた彼方は、
雨の中でストリートライブをする女性に出会い、その歌に衝撃を受ける。

「この歌のMVを作りたい、自分が待っていたのはこの曲だ」
その歌声と、感情をぶつけながら歌い上げる姿に心が突き動かされた。

そして翌日、彼方は教壇に立った新任教師の姿を見て驚愕する。

そこにいた織重 夕は前夜、彼方の心を突き動かしたミュージシャンだった。

モノづくりを始め、その楽しさを糧に次に進む彼方と
モノづくりを諦め、その苦しさから別の道に歩き出した夕。

二人の作った作品は、それぞれに何をもたらすのだろうか。

『数分間のエールを』公式HPより

『数分間のエールを』

映像制作(MV)をライフワークにしている高校生の主人公、彼方と
音楽の道を諦め、教師として彼方の高校に赴任してきた夕
二人が出会い、夕の曲を題材とした彼方のMV制作を通じて物語が動いていく
特に恋愛モノというわけではないが、基本的には由緒正しいボーイミーツガールの構成
トリッキーな物語が数多あるこの時代だが、きっと誰もが慣れ親しんだ、気負わずに観られる物語だと思う。

そして物語を通じて描かれるのは
『ものづくり』『何かを作り出すこと』
そして『何かを作り続ける生き方』
MV制作をライフワークとする彼方
音楽の道を志し、そして折れた夕
絵の才能があり、美大を目指す外崎
素人ながら、学生バンドで青春している萠美
この4人が中心となって描かれる。

ハッキリ言って、この物語の中に『天才』はいない。
才能の大小、向き不向きこそあれど、きっと世の中に沢山いる、少しだけものづくりに人より情熱を傾けられる、そんな等身大の人間たち。
私がそうだったように、おそらくものづくりの世界に足を踏み入れたことがある人なら、彼ら彼女らの一挙手一投足が
どこか過去の、あるいは現在の自分と重なるのではないだろうか。

『自分の精一杯は、誰かの心を動かせるだろうか』
『作る喜びと、痛みを知る、すべての人へ』

作品の広告内で綴られているこのフレーズ、私は本当に好きで、このフレーズにこの作品の魅力が詰まっていると思う。

少しだけ自分の話
私はかつて、本気で漫画家を目指していた。
私の作品を知っている人なら、そんな高望みをと鼻で笑うかもしれないが、あの頃はたしかに本気だった。
何度も作品を作って、誰かに見つけてくれと投稿して、何度空振りしても、きっといつか目指したところに
それでなくても、それに近いところに行けると本気で思っていた。

結局何十度目かで私は走る足を止めてしまったが、夢という肩の荷を降ろした後は気楽なもので
今は気ままに絵を描き、漫画を描き、時折夢見た世界で走っている人たちに助力を請われてお手伝いをしたりしている。
それで生きているとは到底言えない半端者だが、そんな身の丈も悪くはないと思う。
閑話休題

そんな私にとって
彼ら彼女らの想いや叫びは、全て自分の中にあったもの、自分が通り過ぎて、時に心折れ、時に飲み込んできたもので、だからこそ揺らされた。
天才なんていない
彼ら彼女らも、自分の精一杯で生きて、身の丈を知り、まだ見ぬ自分の未来を夢想して、描いた理想との齟齬に苦悩し、できるようになることに心躍らせ、費やした人生を振り返り、人が持っているものに感動し、人が持っているものに嫉妬し、力強く、無力を嘆き、喜んで、傷付いて
人としての人生を生きている。

クライマックス、彼方が夕に向けた精一杯の叫びは、まるで私に向けたエールのように、深く胸に刺さった。
きっと多くの人が、そう感じると思う。

ものづくりは、楽しくも苦しい
たったひとつ、人が一瞥で済ませてしまうようなものを作り上げるのに、途方も無い時間と体力を使う
そしてこの現代では、インターネットという広い世界で、その反応が数字として可視化される
『自分の精一杯が、誰の心も動かせなかった』という事実が、否が応でも目に入る、残酷な世界
それでも、その中を走っている人へ、かつて走っていた人へ
精一杯のエールをくれる、そんな作品

きっと、ものづくりという世界の中にいて、全てが順風満帆な人なんていない。
費やしてきたものに、得たものが釣り合わないことが日常茶飯事
子供の頃は持て囃された姿が、大人になって奇異の目に変わる。
それでもここにしかない、ここでしか得られないものを目指して走っている人たち、足を止めてしまった人たちに、この作品を観てほしい。
眩しい生き方に奮起するかもしれない、思い悩む姿に連れられ息苦しくなるかもしれない。
けれど、そう生きていることを、そう生きてきたことを、誇りたくなる想いをくれるをはずだから。
60分という、映画としては長くはない時間の中に込められたエールが届いてほしい。

『数分間のエールを』を、観てほしい。

まだ一度観ただけで、頭の整理がつかないなか書いた文なので
いつも以上に拙い内容になってしまって申し訳ないです。
ただ、そうしたくなってしまう
拙くても、不格好でも、届いてほしいと切に思える、そんな作品だったことを伝えたくて書きました。

最後に、こうして心揺らすエールを届けてくれた全ての関係者の方々
本当に素敵な作品をありがとうございました。

そして、私がこの作品を観たきっかけの和泉風花さん
もしこの文章が届いているのなら
きっと私の人生にずっと残り続ける、そんな作品に出逢わせてくれて、本当にありがとうございました。

今はなんだか、無性に何かを描きたい。

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