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【新クトゥルフ神話TRPG】自作シナリオ「アルタエウカリスト」について&製作秘話


※前半部分はネタバレに配慮しています。後半部分はネタバレ成分を含みますので、お気を付け下さい。(ラブクラフトの肖像で区切ってあります)

元々私はラブクラフト信者であり、クトゥルフ神話にもそれなりに興味があったのですが、あるときふとオタマジャクシに脚が生えるように、私も突然、新クトゥルフ神話TRPGに興味を抱きまして。しかし、すぐすぐで卓を囲める身内がそもそもKPなんか無理~という感じでしたので、私のCoC歴の最初期はKPとして簡単なシナリオを読み続け、回すことに終始していました。そして、あるときふと魚が陸に進出したように、私もふと思ったんです。簡単なシナリオなら自分にも作れるんじゃないかと。

私はもともと、世界を作るのが好きでした。私がまだ子供だった頃、周囲がスマブラで盛り上がっていたのをよそに、私は1人で黙々と遊園地やら街やらゲーム会社やらを作っていました。何かに影響されると、今度はそれを創る側に回りたくなるのは恐らく私の性分なのでしょう。私は猛烈にCoCのシナリオが書きたくなりました。

幸いにも私は長らく文章を書くことを趣味としており、いくつかの小説は頑張ってKindleで販売するに至り、その内のいくつかはシナリオにも流用できそうな世界観でした。その中で、白羽の矢が立ったのが「エウカリスト」と言う訳です。

エウカリストのあらすじを簡単に書きますと、しがない物書きが何かを変えるために船旅に出て、やがて名も知らない異国の街に漂着し、そこで怪しげな商人と出会うことで、数奇な幻想に巻き込まれていく…というものです。アルタエウカリストを回っていただいた方なら分かるかと思いますが、導入はそのまんまです。

当初は、エウカリスト本文から適宜シナリオ原稿にコピペし、合間合間にPLの発言する余地を残す、程度の作業で、手っ取り早く言うなら手抜きの突貫工事で一旦アルタエウカリスト初稿版は完成を迎えます。いくら手抜きで突貫工事とは言え、その時はそれなりの自信がありました。創作あるあるだと思うのですが、何かが完成した直後って、やたらと気分が高揚するんですよね。さぁ後はテストプレイだ、と、私が運営させて頂いているCoC鯖で早速募集をかけ、新米シナリオ書きの処女作のテストプレイなんて言う絶妙にめんどくさそうな書き込みに4人もの方がリアクションしてくれました。(この4人がいなければアルタエウカリストは本当の意味では完成しませんでした。本当にありがとうございます)

そこで、私は「セッション」なるものの奥深さと、それを支える「シナリオ」の難しさを思い知りました。探索者はPLの感性と思惑に沿って実に様々な行動をKPに宣言します。土台が一本道な小説をコピペしただけの手抜きシナリオなため、テストプレイをしながら様々なフィードバックや改善点が山のようにあらわれます。それらをテストプレイの合間に適宜盛り込みつつアルタエウカリスト初稿版の手直しを進めていたのですが、あるときふと恐竜が鳥として空を飛び始めるように、ふと、これもういっそ最初から全部書き直してしまおうか、と思ったのです。導入こそそのままに、「小説」としてではなく「シナリオ」として、「昔の私の小説」でしか語れないことがあったように、「今の私のシナリオ」でしか語れないことを語ろう、そう思ったのです。

今でも覚えています。恐らくよほど体調が良かったんでしょうね。喫茶店に行ってやっすいアイスコーヒー1杯で7時間ぶっ通しでシナリオを書き続けました。こうして、アルタエウカリスト完成版が形になったのです。その結果として、商人と言うNPCが果たす役割や彼と探索者の関係性、真相まで辿り着いた時のエンディングも、原作とは全く別物になりました。

恐らく初稿版から完成版への変遷は、文章を書くことでしか生きる意味を確かめられない私が、かつて苦しんでいた過去の自分自身を、他ならぬ文章を書くことで救済しようとしていたのかもしれません。当時は病んだ精神の殻にこもることでしか小説を書けなかった私が、外部の人間との交流を不可欠なものとしてこれを取り込むセッションという概念を得て、猿があるときふと二本の脚で直立したように、私もようやく立ち上がることができたのかもしれません。

そんな訳で、もし興味がある方はCoCシナリオ(第7版)「アルタエウカリスト」、是非回ってみて下さい⬇️

また、原作「エウカリスト」を収録した短編小説集「エウカリスト」もKindleストアで販売中です。極度に病んだ人間がかろうじて踏み残すことができた文章に興味がある方、失踪した作家の物語に興味がある方は是非、読んでみて下さい。ちなみにKindle Unlimitedに加入していると無料で読めます⬇️

以下、アルタエウカリストのネタバレ、及びエウカリストのネタバレを含みます。
既に回って頂いた方、或いはこれから回そうと思っている方、そもそも回るつもりなんてねーよ! という方のみ読んで頂ければと思います。

まずは「エウカリスト」の話から。
本作は私が精神病を発症し、その症状がかなり強かった時、起き上がることすらしんどかったものの、様々なものに溺れることで何とか書き残せた小説であります。あまりこういうことを言うべきではないのかもしれませんが、遺言のつもりで書いてました。死ぬのはエウカリストが完成してからにしよう、と。いや、違いますね。敢えて裏を返せば「エウカリストを書き続けていたからこそ、その時は生き続けることができた」と言うべきなのかもしれません。(その後、短編小説集として販売するに至り、様々な方から感想を頂き、それに感動し、あぁ僕はまだ生きて小説を書き続けないとなぁと立ち直ったのであります)
それがために、終わり方も「意味不明な言語で小説を書いてしまった。これでもう作家として成功したりお金を稼いだりすることはできないだろう。だけど、いつか自分と同じような境遇で肉を食べた人間がいたとしたら、そのとき私はたった1人の読者を得るだろう」
と、完全に人生を諦め、1年後か、10年後か、或いは100年後なのかも分からない、そもそも出現するのかも怪しい仮想の読者に望みを託します。
そして、本文からそのまま引用すると
『彼こそが百人の友人よりも尚得がたい、かけがえのない知己となるのだ』
と言い残し、物語は少なくとも幸福などという概念とは無縁の世界でふわっと幕を閉じます。商人も、ちょろっと登場して聖餐(肉を食べる場所)まで案内するだけのただの登場人物に過ぎませんでした。エウカリストの「私」は一回目以降は自分から積極的に肉を食べに行きますしね。

そして「アルタエウカリスト」の話です。
アルタエルカリストでは肉を三度食べることによって、エウカリストの「私」が書き残せた小説を解読することができます。そして、エウカリストの「私」が自分の人生の後に現れるであろう読者に望みを賭けて行方を眩ませたのに対し、探索者は恐ろしい幻想こそ味わったものの、無事本国に帰国することが叶い、ちゃんとした日本語でもしかしたら一冊くらいはすごい小説が書けるかもしれない、と、「私」とは全く逆の雰囲気のエンディングを迎えます。商人も、アルタエウカリスト初稿版では肉に案内するだけの人間でした。しかし、完成版へと全編書き直しをする流れの中で、或いは探索者との間に勝手に親近感のようなものを覚え始め、最後の選択によっては旅人を肉に案内する商人稼業を諦め、探索者の隣人——ないし友人としてこれから生きていくことを決意します。

エウカリストの「私」は、シナリオの中で行方こそ分からずじまいだったものの、書き残した意味不明言語の本を解読できる読者(探索者)を獲得します。彼の生死は依然として不明ですが、彼は『百人の友人よりも尚得がたい、かけがえのない知己』を得ることに成功したのです。そして、アルタエウカリストの探索者は「エウカリスト」によって諦めかけていた、或いは行き詰まっていた自分の作家人生を打破できるかもしれない可能性を胸に本国に帰国し、これからの人生を生きていくのです。

エウカリストの「私」は、適宜「現実世界の下村ケイ」に置き換えて頂いて構いません。そういう小説でしたしね。私はかつて人生を諦めかけたものの、その中で書き残した何かは、新クトゥルフ神話TRPGの世界に飛び込み、様々な方と交流する中で形を変えて誰かの耳に届き、探索者という掛け替えのない知己を得たのです。故に、アルタエウカリストはエウカリストで死にかけていた過去の僕を救済してくれたのです。

そして、初稿版から完成版に至る過程の中で大幅に書き換えられた「商人」。彼はきっと、私にとって新クトゥルフ神話TRPGという存在そのものなのかもしれません。私を怪しげな聖餐——或いはセッションへと導き、そこに湧出する人間との関係性は時に私にリアルSAN値の減少や憎悪や嫌悪こそもたらしますが、その中でしか読み取れない何かがあり、それを読み取る手助けをしてくれる商人こそが、私にとっての「新クトゥルフ神話TRPG」なのです。

過去の僕と今の私、新クトゥルフ神話TRPGという商人。
そしてそれを体験する探索者。
2人の自分と1つの媒体とそれによって結び付けられた1人の他者。
それらの融合こそが
エウカリストとアルタエウカリストの組み合わせであり、
故にエウカリストはアルタエウカリストで完結したのです。
それも、ハッピーエンドによって。

どんなに不幸なエンディングだとしても、
明日を諦め続けない限り、
それはいつかハッピーエンドになり得るんですね。

エウカリストを読んで感想をくださった読者の方々と、
初稿版の全編書き直しをするキッカケを与えてくれたテストプレイヤーさん4人と、
アルタエウカリストを回し、回ってくださった全ての方々。
その全員に支えられて、今の僕は文章を書いているようです。
その全員に、いつか恩返しがしたいです。
私は不器用な上に、このような人間ですから、
その恩返しももしかしたら小説になるかもしれませんけどね

大分長くなってしまいましたが、アルタエウカリストについて伝えたいことは大体伝えられたと思います。皆様、今後ともよろしくお願い致します。

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