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同僚の誕生日を祝いたかった話

同僚たちとご飯を食べていた時、同僚AがBを指し「今日この人の誕生日なんですよ」

と言う。それならケーキでも買ってこようか?と言ったのだが、Bは「甘いものは好きじゃないから」とヘラヘラ笑っていた。せっかくの誕生日なんだし……と食い下がる私にBは

実は本当の誕生日は今日じゃないんですよ

と言う。
最初はお祝いを断るための冗談かなと思った。私もよく面倒くさい時にやる。が、よくよく話を聞くとそれは冗談ではなく、しかも日本人の私からしたらちょっと考えられない理由だった。

同僚Bが生まれた時、彼の両親はお金がなく、支払いの前に生まれたばかりのBを抱えて産院から逃げ帰ったのだという。そんなことできるのかと思ったが当時はできたらしい。
それからしばらくして、やっと人並みの生活ができるようになり役所に出生届のようなものを提出しに行ったのだが、なんと父親も母親もBの生まれた日を覚えておらず、仕方がないので提出日を誕生日として手続きを済ませてしまったらしい。

私が驚いたのは親が誕生日を覚えていなかったという部分。私はもう随分長いこと日本を離れて生活しているけど親は私の誕生日を毎年祝ってくれるし(LINEだけど)、私の友だちも覚えていてくれている。私も祝ったり祝わなかったりだが色んな人の誕生日を覚えているし、好きな人の誕生日ならその日はおめでとうという気持ちになる。

のに、自分の生んだ子どもの誕生日を忘れるものだろうか?カレンダーに◎とか書かない?子どもの誕生日に纏わるあれこれを取っておいたりしないものだろうか。

ところが、今度は同僚Aが「私もそうですよ」と言うではないか。「Bと私の違うところは、私は生まれた年すら不明ってところですね~!」と。

同僚Aのご両親が出生届を出しに行ったのは生まれて10年ほど経った日のことだそうだ。だからその時は役所にいた背丈が同じくらいのよその子どもに「今何歳?」と聞き、その見ず知らずの子が「10歳」と答えたので同僚Aはその時から10歳ということになった。本当は何歳か分からない。届け出た通りの年齢だと私の3つ下なのだが、本人は±5歳くらいと言っているのでもしかしたら私より年上なのかもしれないとのこと。

今はさすがにそんなことはないけれど、そこまで大昔の話というわけでもない。ほんの20、30年くらい前の話。この地域では割とよくある話。本人たちは笑い話として話していたので、誕生日なんかべつにいつだっていいのだろう。

私は好きな人の誕生日は何十年も覚えていて祝いたい人間なので、2人の誕生日を張り切って祝えないことはちょっと寂しい。本人たちが気にしていないんだからいつでもいいじゃないかとも思うのだが、いつでもよくないから誕生日なわけで。まだ自分の中で落としどころが分からない話。

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