オカルト残滓

古来より海には神様がいるとか、魔物が棲んでいるとか言われてきたわけだけど、最近になってきちんと科学的な説明がなされるようになった。

例えば日本各所に「赤い髪を持つ不思議な魚が現れたら漁をやめ、すぐに陸へ上がれ」という言い伝えがある。それが現れたら海が荒れるのだとか。その不思議な魚、リュウグウノツカイなんじゃないだろうか。長い背びれは赤い髪のようにも見えるし、深海魚である彼らが船から目視できるくらい上層を泳いでいるということは災害を感知したからかもしれない。
同じような話はイタリアにもある。「海の深淵に棲む」とされるその怪物は、頭から発光する触手が生えていて、大きな口の中には夥しい数の鋭い牙が並んでいる……そう、チョウチンアンコウ。

深海魚はその実ただの魚だったのだが、奇怪な見た目をしているので化け物扱いされたり反対に神格化されやすかったのだろう。そして今では超常的なエレメントはほぼない。

時間とともに失われたオカルトは他にもある。つい最近も猫憑きが脳の病気ではないのかとSNSで盛り上がっていた。

そんな話をイタリア人と話していると、彼は納得したようでこんな昔話を聞かせてくれた。

「なるほどね、大体が『海に入る時は気をつけろよ』っていう教訓めいた話だもんね。そっかそっか。じゃあ小さい頃僕が見たあれも深海魚だったんだな。昔よくおじいちゃんと浜辺で貝がら拾ってたんだ。その時に一回だけ変なもの見てさ……波打ち際でバタバタしてる、最初は小さなイルカだと思った。近づいてよく見てみると、人間の手だった。でもつるんとした表面で、グレーっぽい色だったな。でもちゃんと五本指があって、それがわさわさと動いてたんだ。つかもうとするとピースサインみたいに、こう人差し指と中指だけ伸ばして、その2本で地面を這うようにして海に帰って行ったよ。おじいちゃんは『人魚の手が出た』とか言いながら僕を連れて慌てて家に帰ったんだ。その後すぐに大雨が降ってさ。海もかなり荒れたみたいだよ。そうか、あれも深海の生物だったんだなぁ」

深海の生物……だったのか?

似たような海の話で『おろくさん』というものがネットにある。海岸をあるいていたらイルカの白骨死体を見つけた。なぁんだイルカかよ、と思いながらもっとよく見ると口の中に銀歯がある。本当にイルカだったのか……?という話。今も読めるはず。

真相は今も分からない。そのうち科学的に解明されるのかもしれない。

ただ、それでも科学で掬えなかったこぼれたオカルトはあるだろう。私はそれを知りたい。


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