母の弁当

 ちくわの穴にキュウリを入れたやつ、あれは何なのだろう。

 お弁当スタメンの中では比較的登場率が高かった。レギュラーメンバーくらいの位置で入ってたけど、お弁当以外の場所で食べた記憶がない。

 実家の創作料理かと思ってたけど、どうやらインターネットを見る限り、どこのご家庭でも、よくお弁当に入ってるらしい。

 私は小さいときは、あれが既製品で、てっきりスーパーで売られていると思っていた。

 お弁当作りのお手伝いに台所に立って、初めて知ったんだけど、手作業でちくわの穴にキュウリを詰めているのだ! しかも、めちゃめちゃ難しいときがある!

 当たり前なんだけど、キュウリって自然の物だから、ときどき大きいキュウリもあって、ちくわは規格でほぼ大きさが決まっているから、組み合わせが悪いと全然入らないんである。

 母は不機嫌だった。ただでさえ忙しい朝に、子供の手伝いを見守りつつ、お弁当を作り、これなら火も使わないし包丁も使わないから任せられると思って頼んだ娘に「キュウリが入んない」と言われ、母が機嫌を悪くするのは、当然のことだった。朝の台所は戦場だ。知らなかった私が悪かった。

 母の「早くしなさい」みたいなプレッシャーを感じながら、私は苦労してキュウリをちくわの穴の中になんとか入れることに成功し、その場は収まったのだった。

 あとから母親に「ちくわにキュウリ詰めるの、難しくない?」と聞くと、母の返事は「大変なときもある」だった。やっぱりお母さんも面倒だと思ってるんじゃん。

 そんなに苦労してまで、母はどうしてちくわの穴にキュウリを詰めていたのだろう。おいしくなるからだろうか。

 ちくわの穴にキュウリを詰めるやつ、私はそんなにおいしくないなぁと思っていました。実は。キュウリだけでいい、あるいはちくわだけでいいと今でも思っている。

 ちくわの穴に入れるなら、キュウリよりもっとおいしい組み合わせがあると思う。ソーセージとか、チーズとか。なぜキュウリだったのだろう。疑問はまだまだある。

 そもそも、あの料理の名前って、何なの。

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