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残すべきか、廃止するべきか~盛岡競馬場の芝コース問題を考察する~


1.イントロダクション

今年、2024年は岩手県競馬組合が発足して60年を迎えるメモリアルイヤーです。
岩手県競馬組合は2つの競馬場を保有しています。1つは組合発足当初から北上川のほとりに所在する水沢競馬場、コース1周が1200m、そしてフルゲートが12頭。地方競馬にありがちなオーソドックスなタイプの競馬場です。
そしてもう1つがオーロパークこと盛岡競馬場、1996年に約410億円を投じて作られたこの競馬場には地方トップクラスの規模に当たる1周1600mのダートコース、そして地方競馬では唯一となる1周1400mの芝コースがあります。
この芝コースでは1年間に平均で60競走が行われており、主な競走を挙げると以下の通りになります。

オパールカップ(M2・3歳馬限定)芝1700m
せきれい賞(M2・3歳以上)芝2400m
いしがきマイラーズ(M3・3歳以上)芝1600m
若鮎賞(M3・2歳馬限定)芝1600m
ジュニアグランプリ(M1・2歳馬限定)芝1600m
岩手県知事杯OROカップ(M1・3歳以上)芝1700m
サファイア賞(M3・3歳馬限定)芝2400m
OROターフスプリント(M2・3歳以上)芝1000m

※表示順は昨年度(2023年度)の開催順

このうちM1とM2の格付けがされている5競走は地方全国交流競走となっており、全国から芝のレースを求めてやってきた地方馬が熱いレースを繰り広げています。実際ダートの競走よりも芝の競走の方が相対的に売上は高いようで、「芝コースにナイター照明をつけて芝でも薄暮開催を1年中できればキラーコンテンツになるのではないか?」と言う関係者の方もいるほどです。
一方で、盛岡競馬場の芝コースそのものを取り巻く状況は悪化しています。


昨年度の競馬組合のプレスリリースより

昨年度はここ数年で最多の8競走が走路状態の悪化のため、ダートコースに変更、特に終盤の2競走は週半ばの馬場の回復を待つことなく、打ち切りが発表されました。
地球温暖化による気候の変動など様々な要因が考えられますが、ここ数年の統計を基に改めて考察していきます。

2.2016年度以降のデータから見えてくる事実

まずはこちらの画像をご覧ください。


芝競走予定施行数と一開催(2週間6日間)の芝競走数平均
ダート変更となった競走数

2016年度から19年度までは年間平均で80競走近く行われており、特に2018年度は史上最多に迫る98競走の開催が計画されました。実際には禁止薬物問題で中止になった競走や、ダート変更になった競走もあったため、実施数は少し減りましたが、1日に芝のレースが3競走行われることも少なくありませんでした。
しかし、2020年度にこれまでの数年で蓄積されたダメージが顕在化し、1日1競走の制限芝競走の開幕時期がこれまでの5月中旬から7月上旬に後ろ倒しとなり、競走数も前年度に比べてほぼ半減しました。翌年の2021年度からは1日1競走の制限は撤廃されましたが、開幕時期は据え置きで、年間60競走程度に開催数を調整。それでも昨年度にダート変更が頻発するなど、芝コースの状態を満足に保つことができなくなりました。
次にダートへの競走変更数の話に転じましょう。発生数で言うと年間で平均3競走程度が変更になっています。しかし、運用方針が変わる前の年度は変更数が多くなるというデータも残っています。2019年度は計画された80競走中5競走がダート変更、2023年度は計画された54競走中8競走がダート変更となっています。また、2016~19年度と2020~23年度では20競走近く計画数が違うにも関わらず、後者の方が変更数が増えている点も気がかりです。
最後にこちらの画像をご覧ください。

2016~23年度の芝競走実施時の馬場状態の集計
2020~23年度の芝競走開催時の馬場状態の集計

それぞれ2016~23年度の8年間の馬場状態の集計2020~23年度の4年間の馬場状態の集計を示した画像です。
前者では6割が良馬場、稍重と重だった割合がそれぞれ2割ずつですが、後者では良馬場の割合が5割程度に低下しています。その代わりに稍重で行われた競走の割合が1割ほど増えています。
これらより馬場そのものがここ数年で劣化していると結論付けることができるでしょう。

3.2024年度の芝開催を振り返る

昨年の状況を踏まえ、今年度からは開催期間を6月下旬から9月上旬の5開催に縮小し、レース数自体も基本的に1日1競走、年間では昨年度からはほぼ半減となる28競走を実施する予定でした。
第3回開催初日となる6月30日に無事芝レース開幕、その日は雨が降る中、3歳馬の芝重賞であるサファイア賞が行われました。しかし、その雨の影響で翌日に予定されていた新馬戦2つが早速ダート変更。さらに翌週の地方全国交流重賞であるせきれい賞もダート変更となり、早速暗雲立ち込める形になってしまいます。
次の第4回開催では予定されていた芝の競走を無事消化することができましたが、この開催が終わった7月24日に以下のような発表がされます。

【悲報】週中の雨を消化しきれない

第5回開催は3歳馬限定のオパールカップ、岩手芝のチャンピオンレースOROカップと全国交流重賞が2つ予定されていましたが、これらも全てダート変更。残り2開催に賭ける形になりましたが…

先日のプレスリリースで残りの競走も打ち切られることが発表されました。結局今年度は予定の3割にも満たない8競走が行われたのみとなってしまいました。
もはや芝コースは機能不全であると言っても過言ではないでしょう。

4.なぜ盛岡競馬場の芝コースは高いコンディションを保てなくなったのか

(原因①)洋芝に適した気候ではなくなっている

盛岡競馬場で使用されている芝の種類は洋芝で、ケンタッキーブルーグラス・ペレニアルライグラス・トールフェスクの3種混合と公表しています。この芝の組み合わせはJRAでは札幌競馬場と函館競馬場と同じものです。
一般的に洋芝の発芽温度は10~25℃、生育温度は10~25℃とされており、これ以上気温が上がると遮熱する必要がありますが、競馬場の芝コースは言うまでもなく屋外なので物理的に不可能です。
オーロパーク開設当初と現在で盛岡市内の気象データを見比べると、平均気温が2~3℃上昇し、特に8月はこの30年弱の間に5℃以上も平均気温が上昇しています。3種混合の中に含まれているトールフェスクは洋芝の中でも暑さに強い種と言われていますが、1日の平均気温が28℃になる月が発生してしまっては対応しきれないでしょう。

(原因②)コースの路盤の問題
同じ洋芝コースである札幌競馬場、函館競馬場よりも雨に弱いのは芝管理のノウハウに乏しいからではなく、コースの路盤そのものに問題があるという見方もできるでしょう。
盛岡競馬場の芝コースはJRAのノウハウを活用して管理や育成を行っているため、技術不足という訳ではなさそうです。人手が足りない可能性は否定できませんが…。これに加えて芝の張り替えも行う一方で、コースの路盤工事は少なくともこの10年は行われていません。もしかしたら開設当初からそのままという可能性もあります。
近年盛岡の芝では、他の馬とは関係なくつまづいて落馬する馬や故障する馬が後を絶えません。大きなレースでは、2022年の岩手県知事杯OROカップでトーセンスーリヤがつまづいて落馬し、故障発生。そのまま帰らぬ馬となってしまいました。
こういった落馬、故障が相次ぐ理由に先述したように芝が十分に生育していないことも考えられなくはないですが、やはり根本的な部分である路盤が手付かずになっていることが原因ではないかと私は考えます。

5.まとめと考察

ここまでの内容をまとめると

  • 洋芝で続けられるような気候ではない

  • 開設当初から路盤がそのままの状態で路盤の劣化が進行している恐れがある

といった感じになります。
これらの現状を踏まえ、個人的ではありますが、2つの改善策を提唱していこうと思います。

  1. 芝コースの路盤を改修した上で、洋芝と野芝を混合したコースに入れ替える。

  2. 芝コースを廃止し、新たに調教用のウッドチップコースなどを設置する。

まず1つ目の改善案ですが、盛岡競馬場で開催される芝コースの競走にオーナーサイドにも馬券を購入する側にも一定のニーズがあると考えます。それだけに昨年度や今年度のように、満足に芝競走が開催できない状況が続くのは非常に勿体ないです。
無理やり開催し続けるより、1~2年芝開催そのものを休止して現状に合う芝コースを作り上げた方が長期的なリターンは増えるのではないでしょうか。しかし、岩手競馬は「単年度収支が赤字になった瞬間に廃止」という条件があるため、こういった工事に踏み切るリスクが高いことは確かです。
続いて2つ目の改善案ですが、岩手競馬の芝コースは開催にしか使用しない代物であるにも関わらず、コストがかかることもまた事実です。
いっそのこと芝コースを廃止して新たに調教用のコースとして作り替えるのも手でしょう。芝コースがあった場所にウッドチップを敷き詰めるだけでもウッドチップコースにモデルチェンジできます。岩手競馬からフジユージーンに続くようなスターホースの誕生を促進できれば、認知度アップ、そして売上アップにも繋がるでしょう。ただし、芝競走を求めて岩手に入厩していた2歳馬が他場に流れてしまう恐れがあることはデメリットとして考えられます。
来年30年目を迎えるオーロパークの芝コースはどうなっていくのでしょうか?今まさに存続の危機に立たされています。

6.現場はどう考えているのか

この記事を執筆するにあたって、昨年競馬サークルの遠征にも顔を出して頂いた岩手ケイシュウNEWSの内貴記者にもご協力いただきました。
具体的には

  1. 今年は9月の頭で芝開催が終わってしまいますが、その原因って何ですか?

  2. ここ数年、ダート変更の頻度が増えたり、芝競走の数が以前より減少していたりすると思うのですが、やはりネット上で噂されている路盤の問題が原因なんですか?

  3. 基本的に盛岡競馬場の芝コースはレース以外では使われないのですか?

  4. 芝コースの維持費ってどれぐらいなんですか?

  5. 今後、芝コースへのナイター照明の設置や芝コースそのものへの工事の予定って計画されていますか?

といった5つの質問に差し支えのない範囲でお答えいただきました。それぞれ回答が以下の通りになりました。

  1. 芝を保護するという観点で、レース数を減らした上で開催期間を圧縮しているため

  2. 「滑る」という意見が大勢を占めるので芝の種類を変えれば解決するものかと思ったが、中には「緩い」との声も聞かれ、路盤が原因になっている可能性も否定はできない

  3. 使われない

  4. そこまでは詳しく把握していない

  5. 開催がない期間に芝を張り替える以外の工事は把握していない(=そういった予定はない)

といった回答を頂きました。特に印象的だった回答は2つ目の回答です。気候的に芝の生育がうまくいかず、芝の種類が問題ではないかという声がある一方で、コースそのものが「緩い」という声が聞かれていることもまた事実です。
昨年、今年と芝コースの状態が悪化していることを考えれば、「滑って緩い」という状況は早急に解決される必要があるでしょう。
ちなみにこの回答を頂いたのは、第4回開催が終わった7月24日でした。この段階では大規模な工事の計画は聞いていないとのことでしたが、結果として芝コースそのものは少なくとも来年の夏まで1年弱使われないことになってしまいました。この長い期間で何かアクションが起きてもおかしくはないはずです。公式から発表される今後の続報を待ちましょう。


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