陰キャ大学生のaiko歌詞解釈 ~キスが巡る~
『キスが巡る』
タイトルから一気にaikoの世界へと引き込まれる。
生々しくもあり、ミステリアスでもある曲名。
さて、この曲にはどんな物語が隠されているのか…
チカチカ12色の光があなたとあたしを照らし続ける
曲中に3回登場する印象に残る12色の光。12色の光とは何なのか。私は美術の授業や保健の授業で配られた色相表ではないかと思っている。色の基礎とされるこの色相表には別の意味があるのをご存知だろうか?この12色は色相心理学やカラーセラピーで用いられる感情色でもあるのだ。
色鮮やかな様々な感情が2人を照らし続け、その色に染まっていく2人を描いている冒頭部分は実にアーティスティックだ。
アバンギャルドに染まった2人の物語は何が始まるのか想像がつかない。実にワクワクする導入だ。
しかし、インターネットでこの曲の解釈をしているサイトやブログなどをチェックすると興味深い解釈があった。
「12色の光とはガラパゴス携帯…通称ガラケーのボタンのことではないか」
目からウロコであった。1から# までの12個のボタンを示しているのでは無いか?という解釈だ。このガラケーという文化を体験していない自分にとって、この考えはまさに目からウロコ。もし、冒頭部分がこのガラケーを示しているとすると、深夜にメールを健気に打つ女性が思い起こされた。打っては消し、打っては消す。ボタンが光りは消え、光りは消える。とてもイメージされやすい光景だ。
aikoの歌詞が抽象的だからこそ、起こるこの現象は時にリスナーを悩ませるが、個人個人の経験や体験によって歌詞の色が異なるものになるというのは実に面白い。
ずっと夢の中の様で
あなたが昨日家にやって来た事も分からない
恋するとこんなもんか 少し恥ずかしいな
ずっと夢の中だったのか
テーブルに置いてあった手紙 いつの間に書いたのだろう
毎日過ごす日々の中 こんな日があってもいい
一夜の交わりを終えたあと、あなたが居なくなった部屋で普段の落ち着いた自分を取り戻しているあたし。
あなたが家にやって来た記憶はキスが上書きをしてしまったようだ。甘い一時はどこへやら。熱い時間が塗りつぶしてしまった。普段の自分とはかけ離れた自分を知ってしまった女性は恥じらいと共に嬉しさを覚えている。
余韻が残る中、書いた暁のラブレターはあまりにも拙い文章で、自分が本当に書いたのか疑ってしまうレベル。
あの時間は果たして夢だったのか。それともこれも夢なのか。
日常とは違う非日常。本能が理性を超えた時間。
彼女は冷めていく身体を抱え、あの確かな幸せを味わっているようだ。
チカチカ12色の光が部屋の中を回る
足のつま先が冷たい今もあたしはあたしと覚えてたい
2人を照らしていたはずの光は体の表面から内側へと移動した。まるで目眩のように弾ける感情に体が追いついていないようだ。
体は熱を帯び、全身が溶けるような熱さだが、布団からはみ出した足先だけは冷えていく。
あたしの中のあたしが覚えていたい。それほどまでに幸せな時間なのだろう。
知らない感情の端に指が触れてしまったみたい
新しい涙が出る
あなたの側にいる時のあたしを誰も知らない
2コーラス目では新しい自分を知ってしまった感動が襲いかかる。あなたを知るまでは自分自身でさえ知りえなかった感情は、あなたへの感謝と共に零れ落ちた。
“ あなたの側にいる時のあたしを誰も知らない”このフレーズこそがこの曲のキモだと思う。親であっても親友であっても恋人といる時の自分を知らない。その秘密は優越感になり、彼女をもっと燃え上がらせる。
何度も飲み込んだキスが体の中回る
離れないでってあたしはあなたの唇に傷を付ける
ここで曲名回収。あなたの唾液と共にキスが体を巡る。切実なあたしの想いは、唇に傷をつけてしまう程にあなたを求めている。
あぁ つめ込んだ思い出が溢れ零れてしまっても
あなたの仕草に明日も胸を詰まらせたい
あなたへの感情が自分のキャパを超えてしまった。何の涙か分からないがこれだけは確かに言える。あなたの事をもっと知りたい。あなたの仕草をもっと覚えたい。明日も明後日もこの胸の高鳴りを味わいたい。
チカチカ12色の光が部屋の中を回る
足のつま先が冷たい今もあたしはあたしと覚えてたい
再び12色の光が部屋の中を駆け巡る。ワンコーラスよりもっと深く感じるあなたへの愛情。
2人を包む12色の光がひとつになって純粋な白になった時、きっととてつもない幸せが2人を包み込むだろう。
『三省堂 大辞林』によると、キスとは
「相手の唇や手などに自分の唇をつけること。愛情や尊敬の気持ちなどを表す。口づけ。口吸い。」となっている。
つまり、キスという行為は口腔内で行われる行為であり、キスが巡るという言葉は一件矛盾しているように感じる。
しかしキスは唇と唇が触れ合う行為だけに留まらない。唇から始まったキスが身体中を巡り体内を潤す。あなたと身体を共有したことによって血液が熱く燃え上がり、身体が火照る。このような経験は誰もがお持ちだろう。
『キスが巡る』とは唇と唇を触れ合わせる行為から始まる非現実的な昂り。本能が理性を超える感覚のことではないだろうか?
私もいつかそのようなキスをしてみたいものである。(終)