角野隼斗さんというプレゼント(カプースチン追悼コンサートを聴いて)

この文章は2020年11月6日に浜離宮朝日ホールで行われた『カプースチン追悼コンサート』を生で聴いた感想について、主に角野隼斗さんの演奏に絞って、あくまで個人的な感想を記したものです。

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人はインプットが多すぎるとパンクする。私も然りでカプースチン追悼コンサートの翌日、謎の体調不良に見舞われた。それくらい大きな衝撃と大感動の嵐だった角野隼斗さんの演奏について書こうと思う。

私が世界一のピアニストとして愛してやまない角野隼斗氏の演奏にはまった経緯は前に書いた通りで。突発性難聴を経て耳鳴りの残るそんな私の耳にも、彼の演奏だけは他のどんなピアニストの演奏よりも全く違っていて、圧倒的な魅力を放って聴こえる。(しかもジャンルはクラシックに限らない!)

そんな私が角野隼斗さんのピアノを聴きたいがためだけに8年以上ぶりに『カプースチン追悼コンサート』を生でホールで聴くことを決めたのだが、正直不安で一杯だった。カプースチンの予習はしたものの今の私の耳でも楽しめるのだろうか。音はきちんと聴こえるのだろうか。大丈夫か。

心配は、角野隼斗さんの即興で演奏が始まった途端に一瞬で消えた。肩の力を抜いたまま自然すぎる流れのなか始まった即興。角野さんの粒立った美しい音が会場に響いた瞬間に、世界が変わって、音が耳から心臓にストンとクリアに聴こえてくる。この音だ、と心底思う。

8つの演奏会用エチュードの1番が始まる。怒涛のように音が演奏が流れ込んできて、瞬時に頭も心臓も身体も熱くなる。世の中のワクワクするものやきらびやかなものを詰め込んだみたいな演奏。跳ね回る音、指、そこから生まれる光がコロコロキラキラと眩しくて美しい。
曲調が変わるところの音の表情の違いに胸を鷲掴みにされる。緩急の付け方が素敵だ。そして響く和音、ダイナミックな音、脳天から足の先まで貫くような衝撃。異次元のカッコ良さで、目の前で聴いている演奏が奇跡みたいだった。角野さんの魅力が詰まった演奏。

3番に入る前の即興も素敵だった。ここで鳴る音楽はこれしかないという絶妙にお洒落でカッコ良すぎる即興演奏から自然に3番に入る。3番が始まった瞬間からこの速さで弾くの!と愕然。驚きと衝撃で目と耳を疑う。しかも曲の美しさを保ったまま。目の前で起きている事にただただ圧倒される。
音の奔流がとてつもなくカッコいい!!! 瞬きが間に合わないほどの指の速さ。それでいて高音の美しい音が響き渡って光を放つよう。美しい黒いヒョウがしなやかに夜の街を駆け抜けるような、洗練された疾走感。どこまでもカッコ良い演奏!心から痺れる。

7番はうってかわってゆったり始まる。この感じ大好きだ。優雅に軽やかに美しく、時々歌うように綺麗に響く角野さんの音。前半はスウィングしたり、少し溜める感じで弾く音のリズムが楽しい。角野さん自身も楽しんで弾いているのが伝わってきてワクワクする。遊び心ありつつもひたすら素敵なメロディーが、後半はさらに彩りに満ちる。色んな曲の表情が垣間見える。おもちゃ箱のようなワクワク感と幸せのなかで、角野さんの美しくて品のある綺麗な音が惜しみなく降り注ぐ。幸せで一杯になる。

この演奏会で即興を弾いてくださると思わなかったので、即興も本当に貴重だった。即興はまた角野さんの大きな魅力かつ天才たる所以のひとつで、曲前、曲間にごく自然に入るのはもちろん当然のこと(普通は当然じゃない)、これ以上のものはない程に素敵でお洒落な美しい音楽が奇跡みたいに産み出される。本当に心から凄いと感動する。

演奏会を通して、残念だけどひとつ分かったことがある。それは誤解を招きそうで書くのを躊躇うけど、この耳では必ずしも全ての演奏を全部は楽しめないということ。と言っても例外がある。角野さんのピアノの時だけは私の世界から耳鳴りが聞こえなくなった。角野さんの演奏が始まった瞬間から世界の解像度が増したみたいに、急によく見え聴こえる。音が耳から心臓に真っ直ぐに響いてきて物凄くクリアに聴こえるようだった。
他の全ての演奏も楽しかったけれど、残念だけど耳鳴りは消えなかった。それだけ、角野隼斗さんの音は演奏は自分にとって特別で唯一だということだ。

それは、宇宙の真ん中にあって鳴り響いてるような感覚。圧倒的な魅力。音の存在感。言葉にするならそういうものだ。

角野さんの演奏は本能的に全感覚を集中してしまうようなエキサイティングさとダイナミックさに満ち、同時に音に五感全てを魅了されて鷲掴みにされるような美しさがある。だからこそ、心も身体も全部もってかれる程の圧倒的な感動と、凄いものを目の前で聴いた衝撃が雷のように脳天から足の先まで走り抜ける。

ずっと聴いていたくなる、ずっとその音と演奏の中にいたくなる。角野隼斗さんのピアノが大好きだということを実感したコンサートだった。


角野隼斗さんの音は私にとって救いだし、これ以上ない天からのプレゼントだ。プレゼントを開いたらそこには味わったことのない史上最高のワクワク、ドキドキ、感動が満ちている。

そんな音楽を届けて下さり、本当にありがとう!!!角野隼斗さんに心から感謝します!

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