【AP3最速情報】-season3VIT×VNDストーリー公開

[1]3での新キャラ公開について

皆様こんにちは。相変わらず一週間ぶりです。私です。シロキシです。
AgroPulseの魅力について語りにきました。
今回も前回同様に、キャラクター達のバックストーリー。此処まで来るともう物語と言ってもいいかもしれませんがそういったものを紹介していこうと思います。

さて、AgroPulse3になるにあたって、皆様が気持ちの片隅で気にされていることを私の口から申し上げさせてください。

「新キャラって出るの?」

まあこれについては自分の配信でもぽろりと漏れて何度もネタバレを食らっていると思いますが、出ます。

しかも、かなりの数が出ます。

しかし全部のキャラクターを順次実装をするわけではありません。
アグパロはPVPであり、MOBAであり、キャラゲーなのですが、どのキャラをとっても物語上では主人公ですので。
どのキャラがどの順番で実装されようがそれはそれでそこまで構わらないわけです。

あくまで出したい順に出す。時期が時期だから出すと。

特に決まった法則性などもなく製作者の気分次第で、ただの物語のキャラクターからゲームの体験キャラクターに移行してくるよという感じなので、キャラクターの物語やスキルのテーマなどが公開されたからと言って、必ずゲームにまで波及してくるということではないということだけはまず念頭に置いておいてください。

いいですね。あくまでこういった場でキャラクターが紹介されるのは、アグパロ全体のコンテンツで見た上でのキャラ紹介になります。

[2]毒の支配者と婚約者

今の話を踏まえて、今回紹介させていただくのは、早速ですが新キャラの紹介です。アグパロの中でもざっくりとしたストーリーがなく簡単にしか掘り下げられてこなかったあのキャラについて今回は語っていきたいと思います。

そう。毒に愛されて沈んでいく。毒を自在に操るあのキャラクター。

type:【ヴァイト-VIT-】です。

画像1

VITの誕生とか、スキルや調整の歴史とか流暢に喋ってるととんでもない文章量で今回のテーマから脱線する事間違いなしなので。
簡略化して、抑え目にヴァイトについて話します。

ヴァイトはシリーズ1では、全TYPE最強であり、ナーフでの調整量がNo1のTYPEです。

今はその調整によってゲーム中での勢いや猛威がようやく収まったのですが、元々このTYPEでは大会でもマストピックandマストバンの最も恐るべき対象でした。
その理由は、パッシブの敵陣に侵入した際にもらえる移動速度上昇バフの恩恵があったからです。
昔のヴァイトは、敵陣地にさえ侵入してしまえば後はてきとーに走り回って、手に持っているサイズで敵をぐしゃぐしゃにできました。
今では敵をキルした際のボーナスで、カルトによっては移動速度上昇をもらえるよ。というデザインになったのですが...。

とにかくこの足の速さがぶっこわれて強かったのです。

しかも問題なのがその難易度です。
誰が使ってもそれなりに使いこなせて、うまい人が使うと手も足も出ない。
それでは、ヴァイトげーになるのは当然です。

―TYPE自体のパワーを上げるのであれば、その分使い勝手の悪さや難易度を上げる。
―TYPE自体を初心者向きにするのなら、その分極めた時とのふり幅を極力減らし、他のTYPEよりも性能を落とす。

それが、本来望まれるべきデザインでした。
今では難しさと器用さと残虐な攻撃性。そして覚醒。といった、使いこなせている人だけがヴァイトのスキルや性能をより引き出すことが出来るようになったので、誰もが手を出して簡単に使いこなせる代物ではなくなりました。

ブレイクスキル※1は...。ありません。

※1元からあるアブジェクトを破壊して、新たにブロックの情報を更新する。
例):ブリッジガードが展開されているときに、そのガードを破壊して、代わりに水ブロックを置く。

そんな最強ポテンシャルを秘め続けているヴァイトですが、実際肝心の物語はそこまで掘り下げられておらず、単純に神云抗争にてサイバーによって倒されるくらいしか皆さんは覚えていないことでしょう。

画像2

画像3

シリーズ1のラスボス的な存在であり、アグパロに置ける最も主人公らしいポジションであるサイバーとライバル同士という意味でも、このキャラクターのストーリーにおける重要性が伺えます。

という訳で、今回はそんなヴァイトと、そんなヴァイトと結ばれていた愛人。シリーズ3初公開の新キャラクター。

type:【ヴィンド-VND-】についてお話しましょう。

[2]ヴァイト×ヴィンドストーリー概要

―ああ。無常だ。それに残酷だ。

この世の真理を知れば知るほど、ため息交じりに息が零れ落ちていく。
退屈な日ほど平穏であり安寧であるとそう知ったのだが、ヴァイトにはその思考が理解できなかった。

いや、理解できなくなった。

ヴァイトは、知ってしまったのだ。
この世の中がどれだけ腐り落ちており、どれだけ善義や情けが無駄なのであるかという事を。

ヴァイトには愛人がいた。と言っても、御曹司のヴァイトに権限はなく、人生における重要な分岐点程、まず求められるのは親の指図だ。
親と親の都合による政略的なものであり、当然。その中に二人の意思など組まれることはなく。ほぼ強制的に二人組での生活は始まった。

風が吹きこぼれ、日を浴びた草木のような自然色が強いカーテンがゆらゆらと靡いている。ヴァイトは、その窓辺に腰かけると、退屈そうに窓の外を眺めていた。

ヴィンドは、ヴァイトの手に添えられていたティーカップにそっと温かい紅茶を注いだ。ヴァイトは手の温もりに気が付くと、小さなため息を混じらせ、彼女を見つめた。

「...いらぬと言った筈だ」
「...私の自慢を振るわせて頂きました」
「知らぬ」

ヴァイトがハエをのけるような目つきで、ヴィンドを睨みつける。
それに対し、彼女はそっと。慰めるような眼差しで返事を返した。

「貴方がお望みであれば...」

ヴィンドが少し寂し気にヴァイトの手からティーカップを引き抜く。
少しの震えが二人の間で伝わってくる。水面には小さな波が立ち、そしてやがて消えていく。

「...情が。なんの意味を持つ」
「...?」

ヴァイトは、気が付いたらぽつりとそう呟いていた。
やがて自分の漏らした言葉が失言であったと理解すると、はっとなって窓辺に視線を移した。

「...過去の...話でしょうか...」

ヴィンドが、心配そうにヴァイトの腕に触れる。
答えを待つまでもなく、ヴァイトは苛立ちを隠しきれずにその手を払いのけた。

「私に触れるな」
「...しかし...」
「貴様との婚約。それは形だけのものにすぎぬと何度言わせる」
「...私は...」

ヴィンドは吐きかけた言葉を、ぐっと口を塞いで飲み込むと、ヴァイトに再度問いかけた。

「...私はそんなに信用ならないでしょうか」
「当然だ」
「じゃあどうすれば...!貴方は私を認めて下さいますか?」

焦りともとれる前のめりな姿勢で、ヴィンドはヴァイトに詰め寄った。
ヴァイトは表情を一切変えず、ただただ目の前に映り込む美しきその女を物のように眺めている。

「...貴様は、綺麗すぎる」

静かに時が流れていくのを感じ、ようやくその言葉を反芻して理解する。
ヴィンドは少し顔を赤らめると、慌ててヴァイトから顔を離した。

「...す、すみません...私とした事が...」

呼吸を整えながら、今一度ヴァイトの言葉を脳で理解していく。

「私が...その...綺麗というのは私にとって勿体ないお言葉ですが。...何故、その...。私がそうであってはならないのですか...?」
「汚れるからだ」

ヴァイトの前髪は、小さく靡いている。
彼の曇った眼差しを誤魔化すかのようにして、ちらちらと映り込んでは、また隠れていく。

「白きものは黒へ...。それが美しければ美しいほど、汚れる様もすさまじい。心が澄み渡っていればいるほど、心は曇り。雲がかっていく」
「...私は、貴方が思っている様なそんな...」
「貴様は空のような存在だ。澄めば澄むほど後で曇りが訪れる。光さえも句切る。そんな、邪悪や穢れをまだ知らない。だから、貴様はその先を見た時に何もできない」

否定をしようと思ったその意志も、何故かヴァイトのその何か思い気な表情な瞳を見ていると、その余地が無かった。
ヴィンドは、ただただ悔しくも、その言葉に頷きで返すしかなかった。

「...私が綺麗なのが全ての原因でしょうか」
「そうだ」
「私が穢れを知るのであれば...。私が曇りがかったとしたら、貴方は振り向いて下さるのでしょうか」
「...」

ヴィンドは、ヴァイトにゆっくりと歩み寄ると、そっと背中から抱きしめた。

「...離れろ」
「愛しています」
「くどい」

ヴァイトは、ヴィンドの腕を退けると、地面にへと突き飛ばす。
力を入れるまでもなく、華奢な彼女の体を払いのけるのには、片手でも十分な力だった。

「私は知った。お前が知らないようなこの世界の腐りきった未来を」
「...」

ヴィンドは体を起こすと、ヴァイトに掴まれた腕をさする。

「なら...腐りきった世界に未練などないでしょう」
「...」
「これまでの人生。貴方が何を思い、何を見届けてきたのかは存じ上げませんけど...。この世界に未練を残しているからこそ、真に美しきものは目もくれず、自分で決めつけた未来にケチをつけておられるだけなのでしょう!」

ヴィンドは、打ち付けた衝撃で青く変色した腕を変色させていた。ヴァイトはそれを見つけると、ようやく表情を一瞬曇らせる。

「私は、美しくありません。貴方が思っている以上に。ただただ純粋に。私は私でいたいだけなのです。ただ一重に、貴方の傍にいられる私自身である為に」
「政略結婚に。何を馬鹿なことを。そもそもの他人同士で、たった数日同じ部屋で共にしただけで、貴様は一体私の何を理解したというのだ」
「いいえ...」

ヴィンドは、震える腕に力を入れ、自身の胸元にてのひらを寄せる。



「貴方を求めたのは...私自身です」



一瞬の静寂の後、ヴァイトはヴィンドに言葉を返す。

「...どういうことだ」
「親同士の取り決めという体でしたが...。本来、私のわがままによって今回の婚約の取り決めは行われました。私が、貴方に恋をしてしまったのです」
「...貴様が...何故...」



「私は...。貴方によって救われたのです」



「...まさか...」

ヴァイトは目を小さく泳がせると、口を手で覆う。
そんな馬鹿な...と呟くと、ただ無言で。静かにヴィンドは首を横に振った。

「貴方が国の為に寄付し続けていた資金。そのとんでもない額は、全てこの国を愛し、そして人々を思うが故の行いでした。ですが、そのお金は...」
「全て。この国の反逆の為の軍資金に...充てられた」
「...」

―ヴァイトは、裕福な家庭に生まれたことは間違っていない。
だからこそお金には一切困ることなく、上級だからこそ民と触れ合う機会も与えられなかった。ヴァイトには、仲間と呼べるものが誰もいなかった。守るべきものも、何もいなかった。

だから、ヴァイトは誰かの為になることをしたかった。

どんな些細なことでもいい。この国の貧富は深刻な問題だ。だからそれを少しでも補える。国の者に光を与えられる。そんな存在に。少しでも近づきたかった。

だが、それは全て愚策だった。

中途半端な援助は、やがて与えられた者に対する不満を募らせた。
時に、いや、大方不幸は他人と比べられる。不公平感は、そういったものから当然湧き上がってくる。

だから、他人の幸せが今のこの国の市民にはあってはならないものだったのだ。

ヴァイトが平民に渡したお金は、決して平等な額ではなかった。
裕福とは言えないが、決して生活には困らない者。当然そういう者もいれば明日のわが身を案ずるしか道がない者だって多くいる。

だから、ヴァイトはそういった観点で、それぞれの人に対する適切な額を手渡していった。適切といえど、決して最適ではない。そういった意味では、そのお金が必ずしもその者を救うほどの額かはいささか不明と言えた。

それが、全ての始まりだった。

金は、金の無いもののヘイトをかき集めた。
そして団結させ、多少力の有利な者から資金を奪い取ろうと襲い掛かる。そそれは繰り返され、やがて目標は高く、上り詰められていく。

国の資金庫。
その本拠地にへと。

これまでの国に対する不満が合わさり、ヴァイトの資金によって得た金で力を得たと勘違いをし。

そうして、暴動は起こされた。
ヴァイトの手によって、望まぬ争いは起きてしまった。


この世界は、善や情けが人を変える。
汚れていく様は、ありのままの人間の様だ―


滑稽そうに、ヴァイトは笑う。

「...無駄で、余計な考慮がこの国の終焉を加速させた...」

手で目を覆うと、暗闇の中で瞳を動かす。

「私は、この国を滅亡に追い込んだのだ」
「いいえ...そんなことはありません」
「現にそうなった」
「よからぬ考えを持ってしまった者の一部がそうなってしまっただけです」
「それを生み出したのが私だと言っている!!!」
「生み出したのはそれだけではないでしょう!!!」

暗闇だ。ただの。
だけど、掌の隙間から確かに見える。零れてくる光がある。

「貴方のそのお心遣いで...救われた者もおります...」

ヴァイトは掌をゆっくりと離し、掠れている視界に目を向ける。
その先にいたのは、真剣な眼差しで見つめている。ヴィンドの姿だった。

「私は命が絶えかけておりました」



―隙間風など当たり前の、木造と言うとまだいわれはいいがただただ木の木片を重ねて作っただけの即席の家で、うすい布を引かれた布団とも言えない何かの上で苦しそうに藻掻いている少女の姿があった。

少女は部屋の暗闇の一角をただ茫然と眺めて、気だるそうに時の流れを感じていた。

その様子をただ心配そうに見ている親も、二人で何度も咳ばらいをしながら虚ろな目で一人の少女の安否を見届けていた。

そこに、ある少年が現れた。

「...君は...」

少年はその家の悲惨さに目を開くと、首を力強く振って手に持っていた袋を男に差し出した。

「親には内緒だから。これだけしかあげられないけど...」

そういうと、少年は颯爽と踵を返してその家を後にした。


その袋にあったのは―


「私は...その時与えられた資金で、親から私の病気に効くと言う薬を授かりました。もう私なんかよりもボロボロだったそんな親が最後に。涙を流しながら喜んで私に薬を飲ませました」
「...」

ヴィンドは、ヴァイトの手を握りしめた。


「貴方の思いが...今の私を繋いでくださいました」


「...だがどうして...」
「ええ。...私はこの家系の者ではありません。あれから病気の看病してくださった親の死後に、私はただただ。貴方に恩を返すことだけを考えておりました。だから今のこの家に押し入り、頭を下げて雑用として働かせて頂きました。そして私を認めて下さった主が、子を授からなかった代わりとして、私を跡継ぎに選んでくださったのです」

ヴァイトは衝撃を隠せなかった。
あれは、少年の頃の、言わば幼き頃の思い当りだった。だから計画性などなく、それでも純粋な心で。この国の力になることを陰ながら望んでいた。

その結果は、望まぬ形となった筈だった。

「確かにこの世界は汚れております。今も尚...。でもそれは、貴方が起こしたきっかけではなく。ただ起こされるべき事象を足早にしてしまったに過ぎません」

だからこの世界は残酷だと。つまらないものだと決めつけた。

「貴方のお傍にいられるのは、貴方がこの汚れた世界に、一筋の光を与えて下さったからです」

でも。


「愛しております...セラァスド...」


ヴァイトは力強く唇を嚙みしめると、うつむいた。

「私がこの先、貴様を汚さぬ保証がどこにある」

ヴィンドは微笑むと、ヴァイトの唇に唇を重ねた。

「...!」
「...残念ですが...」

その瞬間。
激しい水音が耳元で響き渡り、小さな粒子がヴァイトの頬を伝った。
何事かと辺りを見渡すと、そこには茶色い染みを高貴な白服に塗りつけ、頭からびしょぬれになったヴィンドの姿があった。
ヴィンドの体は紅茶まみれになっていて、服からは小さく湯気が立っている。

代わりに先程残した筈の、ヴァイトのティーカップはすっかり空になっていた。



「私は、既に汚れております」



ヴァイトは想像もなさなかったその異様な光景に釣られ、高らかに笑う。
ヴィンドも釣られて微笑んだ。

風は尚カーテンを揺らして空を巡る。
その風はどこに行くのだろう。行く先も知れず、たださまよっていくのだろう。

時には駆け足で、もしかしたらゆっくりと。

でも結局未来は。時の流れ全てに任せていくだろう。
今出来ることは、ただ風の調べに耳を傾けているのがお似合いだ。



あるかないかもわからない。そんな眉唾な風の調べに。

[2]ヴァイト×ヴィンドストーリー概要2


二人は無事婚約を果たし、結ばれる。
幸せをかみしめていたヴァイトだったが、やがて転機が訪れる。

それは、ヴァイトがヴァイトとして目覚める。
決定因子としては残酷な運命だった。

国の反逆罪として次々と関係者が摘発されて処刑されていく中、ヴァイトもその光景を複雑な気持ちで見届けていた。

「...」
「またそんな暗い表情で外を見られて...」

ヴィンドは、ヴァイトに紅茶を注いでいく。

「...すまない。だが、どうしても...な」
「何度も申し上げておりますが、貴方のせいでもなく。むしろ悪人と呼ぶべき存在を貴方が見つけ出したのです」
「...悪人...奴らが...」
「...ええ。国に反旗を返すなど。これは悪と呼ばれても仕方がないことでしょう。治安の維持の為には、そういった不穏な輩は当然罰を与えていかなければなりません」
「...」

ヴィンドの慰めの言葉にどうも腑に落ちないヴァイトは、椅子から立ち上がるとローブを脱いだ。

「...出かけるのですか?」
「ああ...ちょっとな」
「こんなご時世に...しかも貴方のような名の知れた方が外を出歩いたら」
「問題ない。帽子と眼鏡もかけていく」

ヴァイトは出かける支度を済ませると、思い出したかのようにヴィンドが注いだティーカップを口に運ぶと、かちゃりと音を立てて置いた。

「すぐに戻る」
「...お気をつけて」

扉が閉まると、静寂が辺りを包む。
ヴィンドは、開きっぱなしになっていた窓をそっと閉じると、ティーカップの淵をなぞるようにして残った紅茶を眺めた。

「...本当に、お気をつけて」

と、小さくつぶやき。
















―笑った。


















曇りがかった空だ。決して天気は良好とはいえない。だがどうしても気になっていた事を見届けずにはいられなかった。

ヴァイトは正体を明かさないよう帽子を深々とかぶり、少し度の強い眼鏡で姿を誤魔化していく。

街のゴミ箱ではボロボロの服を着た徘徊人が漁っては辺りに捨てていた。
排水溝から出てくる水も、なんだか黒々しく汚い。

「...げほっ」

ヴァイトはなんだか胸の苦しさを感じると、咳込んで立ち止まった。
最近体の調子が良くない。何かよからぬ物でも口にしただろうか?だがそれもヴァイトという銘家に限ってあり得た話ではない。

ただの風邪だという事をそっと頭の中で願うと、ヴァイトは再度足を進めていく。

行先は決まっていた。

どうしても、確認したかった事だ。
ヴァイトにはこの予感が何かよからぬことを示唆しているような気がしていた。だが、そう思ってしまった以上。その先を見届けなければ気が済まなかった。

「...」

ヴァイトが訪れた場所は、

「...ここ...だったな」

ヴィンドのと出会った、あの木片で紡がれた質素な家だった。

暫くはどこで彼女と出会ったかが思い出せず、なんとか薄れた記憶の中を掘り下げて思い出した。

ヴァイトは生唾を飲み込むと、ほぼほぼ当時と変わらないままの家の外観を見つめ、扉代わりの板をゆっくりとどけた。

「...!げほっ!!」

その瞬間、ヴァイトの鼻孔に強い刺激臭が襲い掛かる。
思わず顔をしかめ、呼吸を確保するために扉から離れた。

恐ろしい匂いだと言えばまだいい、これは狂気だ。

意を決し、口元を袖で覆いながら、家の中を覗き込む。
そこには、目を疑うような光景が広がっていた。

「...何故...」

そこには、救われた筈の。救った筈の、ヴィンドのなり果てた姿があった。
すっかりと骨と皮になりきっており、何故か腹や腕。また足の一部などが失われている。一目見ただけではわからないような酷い有様だったが、顔の面影や髪色が自然とヴァイトにヴィンドの現在の美麗な姿を彷彿とさせた。

訳が分からなくなり、後ろにゆらゆらと足を引きずりながら下がる。

事実が理解できずにいた。受け止めきれずにいた。
だが、どうしても納得できない事実だけは感じ取れていた。

あの時、少年時代のヴァイトがこの家に訪れた時。
見た筈なのだ。

苦しそうに藻掻いている。一人の少女の傍ら。部屋の影でただ茫然と座り込んでいた。









もうひとりの、しょうじょのすがたを。









「...見てしまいましたのね」

その声の主は、はっきりとヴァイトの後ろから響き渡った。
耳元にそっとささやきかけるようにして。静かでお淑やかで優しいその声の主は紛れもなく。ヴァイトのよく知る、愛した妻の声だった。

「...ミア...」
「聡明な貴方なら...いつかこの真実にたどり着くと、私はっきりと分かっておりました」
「何を、隠している...」

ヴィンドは、いつもと変わらない微笑みをヴァイトに向けると、肩にそっと顔を近づけた。

「...私は、双子の姉妹の...妹です」
「...どちらが...」
「あの時、部屋の隅で腰を据えていた。...物語の役者にさえ映らない。もう一人の方です」
「...じゃあ、ここにいる...無残な姿の者は...」
「私の、姉です」

そう言うと、ヴィンドはヴァイトの頬にそっと唇を添える。
温かい。だけどいつもよりも生生しい何かをヴァイトは感じ取り、薄っすらと冷や汗が流れるのを感じた。

「...いつもの事ではありませんか」

これは、人間として当然持つべき、直感的な恐怖だった。

「ねえ...貴方...。何故そんなに事実を疑うのです?」
「疑うも何も...貴様が、何かを隠蔽し、私に接触したのは紛れもない事実ではないか...」
「ええ...私は貴方に事実を隠し。そして正体を隠し、今ようやくこうして、貴方と本当の意味で二人きりになれました」

ヴァイトは、その意味を理解できなかった。
だが、その瞬間に体中に痛みという言葉では間に合わないほどの苦痛が襲った。

「...ぐっ!!!」

ヴァイトは、思わずその場に膝から崩れ落ちた。

「ミア...何を...」
「ずっと...私はこの日を待ちわびておりました...。セラァスド...。貴方に、こうして長い苦しみを感じさせられる日を...!!」

ヴィンドはそう言うと、ヴァイトの顎をさする。
眩む視界の中で見えた景色は、真っ黒く、毒々しい、禍々しい、そんなヴィンドの不気味な笑顔を滲み出た世界だった。
鼓動の高鳴りが、耳元で叫ぶようにして聞こえている。必死に胸を押さえつけ、落ち着きを取り戻そうとしたが、ヴァイトの抵抗は空しく、苦しさで体を地面に預けるしか道はなかった。

「貴方がここに来て、そしてこの家に残したお金は、この家族を崩壊させるのには十分な額でした。」
「...はあ...はあ...」
「あのお金の使い道を、まず決めました。何に使うか。何に利用するのが一番有用な使い道か。そして、親の結論は」

ヴィンドの長く美しい髪から覗かせたその瞳は、いつものそれではなかった。



「私の姉である死にかけのフィンを見殺しにし、私達三人が生きていく道を選ぶことでした」



ヴァイトは返事を返すことが出来なかった。その力さえも、今失われようとしていた。

「フィンは苦しみながら、助けを求めながらも、親に見捨てられて次第に動かなくなり、やがて冷たくなり死に絶えました。私はその光景を見つめていることしかできませんでした。あの優しかった両親の「闇」を見てしまったのです。もう見てしまったら、見て見ぬふりは出来ない。なかったことには出来ないと、そんなこと分かっていましたから。
そして、貴方によって授けられた少しの裕福は、我々両親の欲を更に肥大化させていきました。フィンの臓器を売りさばき、そしてしまいには食糧の代わりとして、姉が料理の一部に使われました」

失われた体の一部が丁寧に裁かれていたのは、腐敗したからではない。
金として...裕福を更に裕福に掻き立てる為に、「利用」されたのだ。

「一度外れてしまったレールは、もう元には戻らない...。私はただ、もうどうしようもなくなっていたその景色をありのままに受け止めていきました。家族の愛が崩れていく様を、ただ黙って見届けていくしか方法はありませんでした。そして」

ヴィンドは、国の反逆者の重要人物として、殺処分の指令が出されている一覧をヴァイトに見せつけた。

「私の狂ってしまった、だけども掛け替えのない唯一の家族は、この間、この国の騎士によって殺されたようです」

赤い線が、ただただ無常に二人の名前に引かれていた。
悪い予感は、きっとこの指令書が更新されたことに関してだろう。

「じわじわと...まるで微量の毒を毎日少しずつ摂取されて侵されていく、そんな貴方の体のように...私の家族は...貴方の幼稚な思い込みによって!!!壊されていきましたのよ!!!!」

ヴァイトは、もう既に呼吸をするので精いっぱいだった。
ヴィンドのその心からの叫びも、ただの脳で受け止めてただその場で理解はしていなかっただろう。
だが、それでもヴァイトは零れ落ちていく笑みを止めずにはいられなかった。

「...透き通った世界が、私にももう一度どこよりも美しく見えた時があった...それが、貴様といた唯一の時間だ...」
「...」
「それがどうだ...蓋を上げてみれば、どれもなにもかもひどく濁っていて、澄み切っていた川は深く濁った底なし沼ではあるまいか...」
「...ええ」
「ミア...」
「...はい」

ヴァイトは、ただ切実に思いを告げた。

「私に向けてくれた...あの純粋な笑みも...。喜びも...悲しみも...何もかも...それは...全て私に復讐を誓うための...プロセスにすぎなかったのか...」

ミアはただ純粋に、汚れもない笑顔をヴァイトに見せつける。

「...だから、申し上げていたではありませんか」





―「私は、既に汚れております」と。






ヴァイトは、ただこの世界を空しく受け止めた。
自ら撒いた浅はかな情や義理で、自らの首を絞め、最後は毒によって侵され死んでいく。やはり、自分にはお似合いの終わりではないか。

これが、この世界の真理だ。
腐り落ち、あるべきものは人間の誇るべき貪欲な「自己防衛」だ。
誓いは裏切るためにあり、救いとは破滅の為の準備段階に過ぎない。

晴れた空は、曇りがかる悪天候を呼ぶための段取りで。
人間は、終わりを迎えるべきの、利用材料に過ぎない。

「...心は、曇る為に」

ヴァイトは、そう自然と、嘆いていた。
そして、



「その為に...我が...来た」



ヴァイトではない誰かが。
ヴァイトの体を使い、喋っていた。

不敵な笑みを浮かべ、既に死に至るべき筈の体をゆっくりと起こす。

「...心地よい曇り加減だ...。もはやこれは、快楽に等しい...」
「...どうして...もう立てる筈は...その毒は!もう致死量を過ぎた筈じゃ!!」

ヴィンドは驚き、思わず異変を見せたヴァイトから間を取る。

「...ああ...この程度の毒...我にはご褒美に過ぎないと知らぬのか。愚かな人間だ...。だが逆に感謝させて頂くとしよう。この毒によって、事実的にこの男は、我がいなければ死を待つのみの体となった。
この曇りきった好条件の男に、信仰を預ける条件としては十分な利害条件だ」

ヴァイトは、その声の主に心で問いかける。

「...貴様は...何者だ」
「我は毒の神。ポイズン・マッド・ヒドラ其方に力を与え、そして我に力を与える存在が其方だ...」
「...何を...」
「信じきれぬ気持ちは否定しないが、残念ながら我を失った時、其方がいくべき道は毒に侵され死にゆく未来だけだ。貴様にはもう交渉の条件はないと思うが...」
「...」
「このまま腐り落ちて、死にゆくのがお望みなら、それはそれで其方の生きざまではあるが」

ヴィンドは恐怖し、震えている。後ずさりながらこの場からなんとか立ち去ろうとしていた。

「まず、我の力を示そう」

ヒドラはそう言うと、取りついたヴァイトの体を使い、ヴィンドにすたすたと近寄ると背中に回った。
そして、手をヴィンドの腹に突き出す。

「...!!!」

ヴィンドの腹を突き破るようにして手はめきめきと入れこまれていく。

「なあに。こやつが真に純粋な心を持つのなら、力は発現せず毒は浄化されていく。心の曇りもない、其方が望むべき世界を創り上げる者であればな」

手を抜き出すと、ヴィンドはひどく苦しそうにその場で藻掻いた。
腹には傷一つなく、まるで手が透き通っていたかのように綺麗だった。

「心雲は...人間の真の欲を示す」

ヴィンドは暴れまわる。
のたうち回り、そしてやがて倒れこんで動かなくなった。

だが、その瞬間。
ヴィンドを基準に辺りに毒々しい草木が生繁始める。
棘を帯びた茎が空に向かって不規則に曲がりながら進み、そして平凡な地形を飲み込みながら

ヴァイトのその光景に絶望することなく、ただただぽつりとつぶやいた。

「なんて...美しいんだ...」

あれだけ真っ白く、汚れの無い愛する我が妻だと思っていたそんなヴィンドが、これだけ醜く禍々しい物体に変身してしまっていた。
それはまるでこの世の真理を現存化し、言葉を形にして具現化したかのようであった。

ヴァイトは、何故か今目の前で起きている壮大な裏切りに。満足してしまっていた。

「...もの凄い心の曇りだ...この女。これだけの憎悪を抱え込みながら抑え込んでいたとはな...。だが、副作用の方が勝っているようだ。」

「この世界でどんな存在よりも美しく純白が、こうして汚されていく...。そんな魅力的な事が起きていいのだろうか...」

汚れや穢れがそれ以上であれば、もう、汚れていく事はない。
初めからすべてが終わっているのなら、この世界はこの美しさを裏切ることはないのだ。

はなから期待などしていなければ。
初めからこの世界が終焉を迎えるほどの醜さや人間の憎悪や醜さに晒されているのなら、何もかもが真実であり、裏切りこそが真相だ。

だから人は、初めから、純白であればあるほど、汚れていく様も、素晴らしいものだ。



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