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「神様、明日晴れにして」第一話

(リビング)
「明日は、季節外れの大型台風1号が、東京に上陸する予報となっております。不必要な外出は控えるようにしてください。繰り返します。明日は・・・」
無機質なテレビから幾度となく流れてくる。
「まじかよ・・・」
食事中の兼一は天気予報にくぎ付けになった。
「兼一、テレビばかり見ていないで、食事に集中しなさい。」
「母さん、それどころじゃないんだ。明日台風って本当!?」
「何日も前からテレビで言ってたじゃない。何を今さら。明日はお休みなんだから、どこか出かけたりせず、家で勉強でもしてなさ・・・ってあんた聞いてるの?食事は!?もういらないの!?もう!」
母の話をさえぎって、2階の自室へと向かう。
「ダメなんだ、明日は晴れないと・・・」
スマホで天気予報を確認したが、どこもかしこも季節外れの大型台風の影響で雨だと書かれていた。
「くそうっ!!」
兼一はベットの上にスマホを投げ捨てた。
「明日だけは晴れてくれなきゃダメなんだ・・・」
そう、明日だけは。

(1週間前の学校・階段を上る)
深山は、毎朝誰よりも早く学校に来るのを知っている。早くきて屋上で本を読んでいるんだ。ほら、今日も。
「いた。」
深山がこっちを向く。
「おはよ。」
「八意君おはよう!早いね!ここに来るなんて珍しい!どうしたの?」
きらきらした笑顔で兼一を見上げる。
「いや…なんとなく早く来てみただけ。」
「いつもは、チャイムギリギリに教室に入ってくるのにね(わらい)」
「俺だって、早く来てゆっくりしたい日あるんだよ!」
そんなことを言っているが、昨日は21時には寝て、目覚ましは5時に鳴らして風呂入って髪整えて、今日この時間の為に備えていた。理由は単純だ。深山ひなたにこここ、こく、告白するためだ。そんな事悟られてみろ、深山に笑われて、俺は学校に来れなくなってしまう。でも、大丈夫だ。俺は2年になって再び同じクラスになったと分かったときから、深山の行動パターンを研究してきた。そして、告白のシミュレーションをしてきた。自然を装い、屋上にきてさりげなく隣に座り、読んでいる本の話をしつつ、彼氏がいるかを聞き出す。いなかったら、俺がなろうか?という。完璧で自然で最高にかっこいいシチュエーションに深山のハートに矢が刺さり、八意君かっこいい~となるのだ。
完璧なシミュレーションをあとは遂行するだけ。
「とととと、隣座ってもいいか!?・・・いや、座ってもいいでしょうか。」
「ふふ、なに緊張してるの?どうぞ!ここ涼しくていいよ!」
「あ、ありがとう」
早速どもってしまったが、隣に座るというファーストミッションはクリアした。というか、深山いい匂いするなー。甘い花のような香りというか(にやにや)
「八意君ってさ。」
「え?」
いけない、香りに惑わされてしまった。
「去年も同じクラスだったけど、あまり話したことはなかったよね。私から話しかけたら答えてくれたけど、ほかの子が来ると、無言で立ち去っちゃうの。なんかさみしかったなー。」
「それは…。」
それは、深山が高嶺の花だったから。俺は中学のころから友達が少なかった。当然だが女子と話すことなどグループワークくらいだった。反対に深山の周りにはいつも人がいた。みんな楽しそうに話してて、自分とは無縁の人だと思った。なんて言ったら、だせえよな。
「俺が、いたら邪魔かなーって。まぁ、そんな話は、いいじゃん。」
「私は、もっと八意君とも話したかったのになぁ。」
深山は、そんなことを言いながら本に目を戻した。
「俺も・・・話したかった。」
聞こえないくらい小さな声で俺は言った。
「何か言った?」
「いや、何も!っていうかさ、どんな本読んでるんだ?・・・明日の天気が楽しみになる天気の不思議?なんだそれ。」
「あ、今変な本読んでるって思ったでしょ!面白いんだよ。どうやって雨が降るとか、季節が変わる理由とか!天気ってさ人間には決められないのに、雨乞いしてたり、晴れてほしいっててるてる坊主作ったりして願ってるの。自分勝手だよね。でもその天気によって食物が不足して飢餓になったりしてしまうんだから、切実な願いだったんだろうなーって同情したり。面白いよ。」
「へぇー。」
「興味なさそう(わらい)」
「そんなことはないけど。」
「来週ね、天気の神様がいる神社でお祭りなんだって。でも、塾でいけないんだよね。行きたかったな。」
「そうなんだ。」
「ねぇ、八意君って住んでるところ高円寺だよね?代わりに行ってきてよ!」
「え、一人で行ってもなぁ・・・」
「お願い!どんなだったか後で、聞かせて?」
目を輝かせて俺を見つめる。かわいい。こんなにかわいい深山のお願いを断れるわけがない。
「わかった・・・」
「ありがとう!たのしみだなぁー」
喜んでいる深山の顔もまたかわいい。この笑顔とまた話せる機会があるなら一人でお祭りに行くことなんて、お安い御用だ・・・って言いたいところだが、これはきつい。いや、まて。俺は一つ貸しを作ったんだ。代わりになにかをなにか俺から言ってもいいよな?言え!俺!
「じゃあさ、その話する代わりに、ゆ、遊園地とか、一緒に行かないか?」
言った!言ってやった!
「ゆうえんち・・・」
考え込む深山。いきなり切り込みすぎたか。やっぱりここは、カフェでお茶くらいにしておけば、OKの確率は増したのか、間違えた。今からでもカフェに変えるか!
「あ、遊園地が嫌なら近くのカフェでも…」
「行きたい!!」
「そうだよね、カフェのほうがいいよね。ごめんいきなり遊園地とか・・」
「違う!遊園地!!行こうよ!」
「え?遊園地・・・いいの!?」
「うん!私お友達と行ったことないんだ!一緒に行こう!6月1日は塾だからお祭りいけないんだけど、次の日は空いてるよ!」
目の前に目をキラキラと輝かせた深山がいた。
こんな風に笑ってるの、遠くでしか見たことなかったな。
「俺も、空いてるから、その日行くか。」
「やったぁ!約束だよ!お祭りも忘れずに行ってきてね!」
「わかったよ。」
「約束。」
「約束。」
小指を絡ませる。
「みんなには内緒だよ?」
「あ、あぁ。お、俺、そろそろ行こうかな。じゃあな、深山。」
「うん。また後で!」
(屋上の扉を閉める)
「・・・」
おいおいおい、何が起きた!深山と俺が、遊園地に行くだと?
ええええええええええ!?
しかも、深山は俺と行くの嬉しそうだったよな?俺のこと嫌いじゃないってことか!?いや、むしろ好きってことか?二人きりで出かけること嫌じゃないんだもんな!これは初デートと言っても過言ではない!!よっしゃあ!すげーぞ俺!!・・・まて、俺は今日、深山に告白するために屋上に・・・まじかよ、言えなかったじゃないか!!!何してんだよ、俺ー!いや、でも、デートはできるんだ、告白はその時でも遅くないはずだ!!!そうだよな!!最高に楽しい遊園地をすごしてそれから・・・
(ガチャ・ドアが開く音)
「八意君、まだいたの?」
「・・・え?」
「もう授業始まるよ?」

(チャイムが鳴る)
(教室・休憩時間)
「おい、兼一、お前今日ずっとニヤニヤしてねーか?」
「別に、してねえよ。」
「6月2日、遊園地、誰と行くの?」
「はぁ!?なんでお前が知ってるんだよ!」
「ご丁寧にノートに書いてある。」
ノートに目線を落とすと一面に6月2日の遊園地を楽しみにしている様子が書かれていた。
浮かれすぎて俺はノートに心の声を書いてしまっていたようだ。不覚だ。
よりにもよって、この学校で唯一仲のいい渡辺にばれてしまった。仲がいいのはいいのだが、こいつはすぐに変な噂を流すことで有名。内緒にするという約束を守れなくなってしまう危険があるのだ。
「別に誰でもいいだろ!てか、勝手にノート見るなよ!」
「ハイハーイ。まぁ、でも、遊園地いけるといいな。だってその日は・・・っておい、どこ行くんだよ!」
「便所!ついてくんなよ!」
「はーい。便所にノート持ってくかねぇ、普通。」

(6月1日、家)
それから1週間。お祭りの日がやってきた。今日は晴天。一人でお祭りに行くのは気が引ける天気だ。
「おはよう。」
「おはようじゃないわよ、何時だと思ってるの。もう11時よ?休みだからってね、そんなのんびりしてていいと思ってるの?」
「あーハイハイ。わかってるよ。明日は早く起きるよ。あ、天気予報やってる。母さんちょっと静かにして」

「明日は、季節外れの大型台風1号が、東京に上陸する予報となっております。不必要な外出は控えるようにしてください。繰り返します。明日は・・・」
無機質なテレビから幾度となく流れてくる。

「まじかよ・・・」
食事中の兼一は天気予報にくぎ付けになった。
「兼一、テレビばかり見ていないで、食事に集中しなさい。」
「母さん、それどころじゃないんだ。明日台風って本当!?」
「何日も前からテレビで言ってたじゃない。何を今さら。明日はお休みなんだから、どこか出かけたりせず、家で勉強でもしてなさ・・・ってあんた聞いてるの?食事は!?もういらないの!?ちょっと!」
母の話をさえぎって、2階の自室へと向かう。
「ダメなんだ、明日は晴れないと・・・」
スマホで天気予報を確認したが、どこもかしこも季節外れの大型台風の影響で雨だと書かれていた。
「くそうっ!!」
兼一はベットの上にスマホを投げ捨てた。
「明日だけは晴れてくれなきゃダメなんだ・・・」
そう、明日だけは。明日は俺にとって一大イベントが待っている。深山との遊園地デート!明日いけなきゃ、今日のお祭りだって行く意味がない。
「どうしたら、晴れるんだよ・・・あ。そういえば。」
この祭り、天気の神様のお祭りって言ってたっけ。じゃあ、お祭りに行って祈ってくれば、明日晴れるかもしれないってことか。深山との約束も守れるし、それしかできないんだったら、
「行くしかないか。」
俺はお祭りに行く準備を始めた。
その時、RINEが鳴る。
「お祭り着いた?」
深山からだった。
「今から行くところ」
「写真たくさん撮ってきてね」
「あぁ、明日見せるよ」
「楽しみ」
深山からのRINEには台風のことは触れられていなかった。
深山も楽しみにしてくれていると思っていいのだろうか。
それとも、明日なくなればいいと思って、どうでもいい相槌を打っているのかもしれない。
それでもいい。俺は明日、深山に会いたい。
ただ、その一心だった。

(お祭り)
日も暮れ始め、まだ肌寒いこの季節。少し早い浴衣に身を包んでいる人もいた。
小さな神社っぽいのに、すげー人数がいる。
キャッキャ騒ぐカップルの姿や大勢の友達ときている学生。そんな中、俺は、一人だ。
「いらっしゃーい!焼きそば一つどうですかー?」
「射的やってるよー」
「金魚すくいどうですかー」
すべての声がむなしく聞こえる。
そんなお祭りの光景を1枚1枚写真に残していく。
屋台を抜けた先に、その神社は存在していた。思っていたよりも小さくて、誰にも見られまいとひっそりとしている神社だった。
こんなに人がいるのに、やぐらの前には誰もいない。
「誰のための祭りなんだか・・・。」
自分たちが騒ぎたいがためのお祭りに見えた。それは、この神社に限らない。どこの神社のお祭りも花火大会も誰のためのものなのだろうか。そう思うほど、もともとの理由なんてあってないものに感じた。
ただ、今日の俺は違う。普段ならお祭りを楽しむのが目的だが、今日は、明日のデートを成功させるために、何が何でも晴れにしなければいけない。
そのために目の前にいる神様に、全力でお願いしに来たのだ。
持ち金1004円投げ銭をし、手を合わせ目を瞑った。

(天気の神の家)
「いやぁー今日は例大祭やってましてね、たくさんのお供え物があったんで持ってきちゃいましたよ。おいしそうなお酒もたくさんありまして、しばらくは宴に困ることもなさそうですよ!」
「・・・。」
「八意思兼命殿、聞いておられますか?久々のお酒ですぞ。」
「コマ、あそこにおるのはなんじゃ?」
「あそこ?あーなんでしょうね。人間に似ているような。」
「コマ、あやつはなぜ、ここにおるのじゃ?」
「さぁ?なんででしょうね。」
「コマ、あやつは、いつまで手を合わせてるんじゃ?」
「さぁ・・・。」
(願い事)天気の神様、明日はなんで台風なんですか?6月にこんな大きな台風が来たなんて聞いたことありません、もし来たとしても、今年じゃなくて来年とかにしてくれればよかったじゃないですか。今年じゃなきゃいけなかった理由は何ですか?僕は明日デートに行かなきゃいけないんです。そして告白して、深山と恋人になるという大事な日なんです。そんな大事な日にかぶせてこなくてもいいじゃないですか。気まぐれとか言ったらぶっ飛ばしますよ?あ、わかった。妥協案を提示しますね。6月3日にしてください。明日じゃなくて明後日にしてくださいよ。そしたら、許してあげますよ。あ、でも、付き合って初日に学校で、深山に会えないとかなったら困るんで、やっぱり自然消滅か方向転換してくれません?本当に雨とか降られたら困るんです。なぜなら・・・
「なげぇー・・・。」
「長いっすねー。」
長いとは失礼な。こんなの序の口だ。深山と付き合うためには万全の状態で・・・って、今誰かと会話したような・・・
恐る恐る目を開けてみると、
「・・・え?」
「おっす。」
「え、あんただれ?」
「こっちのセリフじゃ。我の家に勝手に入ってきたんじゃから。」
「いやいや、家に勝手にって。俺はただ、神社にお願い事をしに来ただけで・・・ってここどこ⁉」
「気づくのおっそ。(わらい)」
気づくとそこは見たこともない世界だった。宙に浮いたように見える足元。そしてその下には地球が見えていた。
「地球⁉え、俺宇宙に来ちゃったの⁉」
「人間よ、ここは宇宙とやらじゃないぞ。知恵の神・八意思兼命殿の住まいでございますぞ。」
「うぁ!ー犬がしゃべった!!」
「失礼な!我は犬ではない!八意思兼命殿に仕えお守りしておる狛犬じゃ!」
「狛犬・・・?はぁ、何かの冗談だろ。もしかしてどっきりチャンネルのどっきりに今俺引っかかってる感じ?カメラどこ?俺そんな冗談に引っかかってる場合じゃないんだわ。本気で天気の神様にお祈りしに来てるの。邪魔しないでくれないかな。」
「だから言ってるではないか、八意兼一殿。我がお主が必死にお祈りしている神じゃ。」
「え、なんで俺の名前・・・って、これホントの話?」
「さっきから言っているじゃろう。」
この変な服を着たやつが、神様・・・?
「じゃあ、あんたが天気の神様なのか?」
「何度言ったらわかる。そうだ。」
「なんで神様が見えるんだよ。会える神様とか聞いたことないんだけど…。じゃ、じゃあさ!あんたが本当に神様なら、明日の天気、晴れにしてくれよ。」
「それは無理じゃ。」
「なんでだよ!あんた神様なんだろ?天気を変えるなんて簡単なことなんじゃないのかよ!」
「なぜ、お主の願いを聞かねばならない。」
「お賽銭入れただろ!?祭りで盛り上がってるほかのやつらと違って、俺は本気なんだ!」
「お賽銭?あぁ、人間たちが勝手に我らに祈って入れていく金属のことか。そんなもの、我には関係ない。我の杜(いえ)を守ってる者たちが使うだけだ。我がそれを使ったことなど一度たりともない。よって、我にお主の願いをかなえる義理はない。」
「そんな…。」
「わかったら、さっさと戻れ。」
「詐欺じゃん。」
「不躾ですぞ、人間殿!」
「うるせえ、狛犬!だって、そうだろ?俺たちは金払って、神様とやらに願叶えてもらおうと思ってわざわざ神社に行って願い事してるのに、神は我関せず?そんなのただの詐欺だろ!!」
「・・・。はぁ。ではお主に問う。お主は、本気で神がいると思うか。」
「はぁ?」
「本気で神とやらがいて、お賽銭という捧げものをしたらなんでもかなえてくれる存在がいると本気で信じているか?」
「実際あんたがいるんだろ?だったら存在してるんじゃないの?」
「お主は、我を実際に見て、我が神だと申したから、神がいると認識した。見る前は、どうじゃ。いるかいないかわからないけど、とりあえず神とやらに頼ってみて、叶えばラッキーとでも思ってたのではないか?」
「それは・・・」
図星だった。俺には信仰しているものもないし神社なんて正直興味もない。
ただ、明日晴れにしてほしいその一心で、頼れるものは頼ろうと考えただけ。
「お主たち人間は、常に心のよりどころを求める。自分の力ではどうしようもないことが起こったとき、何かに頼って、助けを求める。神なんて見たことのない偶像にすがって、あわよくば、願いを叶えてもらいたい。叶うかどうかなんて、信じていない。ただ、助けを求めにやってくる。たとえ願いがかなったとして、神が助けてくれたと本気で思うか?結局は自分たちで何とかしたのじゃ。我々が直接何かをすることなど、何もない。叶わなきゃ叶わないで神が願いを叶えてくれなかったと愚痴るやつもいる。願っただけで何もかも願いが叶うなら、みんな幸せなはずじゃろう。うまくいかないこともあるから、今があるのではないか?明日、お主に大事な用事があろうと、天気を我が変えることはできない。」
「そんな…。じゃあ明日の天気、どうしたらいいんだよ。」
こんな融通の利かない神だったのかよ。これじゃ、俺の1004円も遊園地デートも無駄じゃないか。
「明日、天気変えられないなら、あんたに用はない。俺を元居た世界に帰らせてくれよ。」
「そうか。コマ、この人間を人間界に戻して差し上げて。」
「はい!八意思兼命殿!人間殿、ついてこい!」
「はいはい。ったく、なんでこんなとこに来ちゃったんだよ。…てか、狛犬、さっきからずっと動かないけど、早く戻してくれよ。」
「…。」
「おい、狛犬?」
「八意思兼命殿…。」
「なんじゃ。」
「どうやって戻せばいいんですかね?」
「我は知らぬぞ。コマが連れてきたんじゃろう。我は生まれてこの方、人間なんて会ったことがない。」
「たしかにそうなのでございますが…連れてきたくて連れてきたわけではございませぬ故…戻し方がわかりません☆」
「そんなぁぁぁあああああああ!」
(1話 完)

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