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SOBGIT2s 14 Insomnia

「リョウ、刺青だいぶ色入ってきたね。黒だけど」
「高円寺のほうにスタジオあってさ。通ってんの」
「バイクで?」
「うん。お前も今度行こうぜ。後ろに乗れよ。
あっちは楽しいよ。古書店も多くてさ」
「リョウって本好きだもんね。なんかそういう風にも
見えないけど」
「俺不眠症でさ。インソムニアっつうの?
あんまり寝れないのね。だから本読んじゃうの」
「Insomniaって歌あるよ。the HIATUSだ」
「ふうん。それも海外の?」
「いや日本の。でも英詞なんだ」
「へえ」
「悪夢を見る歌詞だよ」
「悪夢か。俺もよく見るな。いつもかも。
俺をやった牧師と俺がやった母親が交互に
出てきてさ。なんかよくわかんねーな。サイケデリックなさ。
シャブ中が見るような幻覚みたいな」
「そか」
「なんだかね。いつまでも済んだことをさ、俺ってダメだな」
「まだ17じゃん」
「そうだけどね。あ、お前陽明門の話知ってる?」
「ようめいもん?」
「日光東照宮にあんのよ」
「僕行ったことないな」
「そうなの?修学旅行とかで行ってない?
お前東京だっけ」
「僕結構転々としてたんだ。親が何か活動しててさ。
飛行機事故もその活動のために外国へ行くところだったみたい。
なかには閉鎖的な田舎もあってさ。僕クォーターだしなんか
浮いちゃってね。イジメとかよくあったよ」
「ひどいな。俺がその場にいたらみんなぶっ飛ばしてやんのにな」
「リョウならしそうだね」
「あ、で日光東照宮の陽明門って門にさ。1個だけ逆さになってる
柱があんの」
「へえ。なんで」
「なんか完璧になった瞬間から崩壊が始まるんだって。
ある種の魔除けらしいよ」
「ふうん。わざと余地みたいなの残してくのか。
アオイ姉ちゃんも言ってたな。虹が完璧な円を描くときそれは
ウロボロス、つまり蛇の環になるって。崩壊が始まるんだ。
太古の日本は虹は不吉の象徴だった。万葉集には虹に関する
句は一句しかないんだって」
「ああそれなら知ってるよ。
伊香保ろのやさかのゐでに立つ虹の現はろまでもさ寝をさ寝てば、だろ」
「よく覚えてるね」
「結構好きなのよ、こういうの」
「アオイ姉ちゃんも蛇モチーフの刺青入れてたよ。リョウと同じだ」
「マジで」
「林檎と十字架も今度入れるんだって」
「聖書だな」
「だよね。あとすごい僕のことSMの世界に誘ってくるんだよね。
姉ちゃんが蛇みたいだよ」
「何それうけるな。お前はイブなのかね」
「リョウがアダムかな。リョウのことも上玉とかなんとか
言ってたよ。ただの痴女じゃんね」
「俺も蛇かもよ」
「え?」
「蛇の刺青入れてるし。あ、そうそう陽明門の話に戻るけどさ。
俺も完璧には刺青仕上げなくてもいいかな、なんて」
「そうなんだ」
「崩壊が始まるじゃん?」
「ああ」
「最近やばいんだ。俺お前のこと殺しちゃうかも」
「そうなの?」
「なんかさ、好きすぎるのかな。このまま息の根止めて
みたいと思ったりするんだ。やばいよね、俺。Sなのかな」
「リョウならいいけどな」
「ほらまたそんな顔する。罪作りだね、お前も。
綺麗なものは壊したくなるみたいな」
「綺麗かな」
「……愛してる、スイ。ずっと俺の側にいてほしいんだ」
「プロポーズ?」
「まあね」
「側にいるよ」
「なんだろうね。どれだけセックスしても何か足りないや。
子どもでもできれば違うのかな」
「よくわかんないね。キスしよう。ね?」
「うん……」
「愛してるよ、リョウ」
「スイ。俺のことを見ててよ。俺がお前のことを殺さないように」

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