私はウルトラマンを知らない。

いや、ウルトラマンという存在は知っているが、ウルトラマンが何者なのかを知らないと言った方が正しい。

ウルトラマンの知識なんてほとんどない。
通してみた作品はティガ、ゼット、トリガーのみ。
ティガは世代だったためリアルタイムで見ていた(世代がバレバレだ)けれどどうしてもうろ覚えだし、ゼットは夫に誘われてついでに見ていた程度(いや、めちゃくちゃ面白かったけど)。
トリガーに至ってはティガと繋がりがあるらしいと聞き齧ってゼットからの流れでとりあえず見ていたけど、私自身が途中からダレちゃって最後まで真剣に見たかと言われると……まあ、うん……

とりあえず、作品としては面白いなと思ってみていたし、それぞれの世界観はわかる。
何故か地球に現れる怪獣を倒して颯爽と去っていく地球外生命体のヒーローという感覚もある。
けれど、ウルトラマンという作品の世界観や知識は殆どない。

初代ウルトラマンがいて、父と母がいて、タロウとセブンもいる。でも知ってるのはその名前だけで(かの有名な主題歌たちのおかげである)、キャラクター性も何故地球を守ってるのかもわからない。彼らのいる星の名前も覚えていない。
えー、エム……えっと……?レベルである。
しかも夫が言うにはティガの世界はもともとウルトラマンが存在しない宇宙とか言うし。いや、いるじゃんティガ。無からは生まれないでしょ?
そういえばトリガーもウルトラマンってなんぞや的なこと言ってたな……じゃあなんで化石があるんだ?

この辺りで疑問は生まれるにしても、過去作品を遡ろうとはあまり思わず。
そもそも特撮は面白ければ見る程度で自分から見るわけではない。なにか気になることがあれば夫に聞けば答えは返ってくるので、まあいっか、と思っていた。

その気持ちが覆されたのが、さる5月17日。夫がシン・ウルトラマンを観に行った日である。
私が帰宅した瞬間、怒涛の熱量が彼から押し寄せてきたのである。
DVDが出たら私に見せるつもりだった様で(これは他の作品でもそうなのだが)ネタバレはないものの、あれが良かった、このシーンが良かった、あのキャラクターを演じる俳優さんが素晴らしかった、観終わった後の主題歌がマッチしすぎてて惚けてしまった等々。
いつものように興奮する夫に、良かったね楽しそうで何よりだわと思っていた。そしていつものようにDVDが出たら見せられるんだろうな〜と呑気なことを考えていた。
そんな受動的な私の意識を変えるセリフが夫の口から出てきたのである。

「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」

映画ポスターにも書かれていたキャッチコピーである。
ただのキャッチコピーだと思っていたそれが、とあるキャラクターから発せられたのだと夫は興奮気味に言うのだ。そのキャラクターが言ったからこそ、このセリフが活きるのだとも。
「そのキャラクター」についてはネタバレしたくないようで、どのキャラなのかはずっと教えてくれないのだが、私はなぜかそのセリフが気になって仕方がなかった。
夫が楽しみだなーと眺めていたポスターにも印字されていたキャッチコピー。
ふーん、くらいにしか思っていなかったその言葉。
夫の熱量がこもった感想によって、私の脳に存在感を植え付けてしまったのである。

だって、ウルトラマンに問いかけているのだ。
「ウルトラマン」に、問いかけている。
そんなに人間が好きになったのかと、問いかけているのだ。
ウルトラマンは地球の平和を守ってくれる存在だと漠然と抱いていた認識がガラガラと崩れ去っていった。
だってこのセリフは「地球」ではなく「人間」と言っているのだから。

ウルトラマンに変身する主人公は人間だ。それは私が見たことのある作品にも共通する。主人公は正義感溢れる青年であることが多いが、ティガやゼットもそうだ(トリガーは何故か成り行き感があるように思われて私としては並べることを躊躇してしまった)。主人公たちはウルトラマンに変身し、仲間たちの未来と平和を守り抜いている。
主人公たちはたしかに「人間」が好きだろう。信頼のおける上司や仲間、近所に住んでいるだろう身近な人や、その他多くの人々。そりゃ嫌な人間もいるだろうが、守りたいと思う程度には「人間」が好きなはずだ。

対して、ウルトラマンたちはどうなのだろう。
彼らは人間ではないし、怪獣たちを倒して星を守れたらそれでいいのではないだろうか。
もしかしたら主人公という人間を好ましく思うかもしれないが、果たして関わったことのないその他大勢の人間を好きになることはあるのだろうか。
ウルトラマンという大きな存在にとって、人間はどこまで行っても庇護対象でしかない筈だ。自分よりもか弱く、意図も容易く怪獣に蹂躙されるちっぽけな存在。守る価値は如何程か。
地球を拠点とするにあたって必要であろう主人公とはちがう十把一絡げたち。

なのに誰かがウルトラマンに向かって言うのだ。
「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」
嗚呼、気になって気になって、どうしようもない。

私は夫の熱量と、このセリフにやられて映画館に足を運ぶのだ。
ウルトラマンとは何なのか。
そもそも何のために彼は地球に降り立ったのか。
そして、ウルトラマンがどうしてそんな問いかけをされるに至るのか。
それを確かめに。

たぶん、ウルトラマンを知らないシン・ウルトラマンの世界に生きる住人たちと同じ目線で、私はウルトラマンに会いに行くのである。



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