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物語で勝手に経済学その3

貨幣経済

リンゴの家族を征服した梨王国はその後も順調に生産を拡大し、梨の木50本まで増やします。

*解説1
前回までのおさらいです。例の如く各項目について整理してみましょう。リンゴ家族が征服されたので、梨だけになってますよ。

資源:梨50個(木になっている)
労働:0.6×50 = 30人工
商品:梨50個(食べられる)
人口:兵士10人(50×0.2)、労働者30人、王様1人 合計41人
消費:梨41個
自然:梨の木50本

さて、過去にも実は貨幣が存在していましたが、国として統一されたことから王様は新たな貨幣を導入しました。単位はナーシです。この国は梨が主食なので梨を単位の基準とし、梨1個=1ナーシと決めました。消費される梨が41個なので、王様が蓄える貨幣は毎日50 - 41 = 9ナーシになります。

*解説2
それでは先程整理した項目を今度はナーシで記述してみましょう。まずそもそも梨1個=1ナーシですが、この梨1個は商品のことです。なので商品は全部で50ナーシであり、消費は41ナーシとなります。では労働はどうなるでしょうか?労働者は労働の対価として毎日梨1個を貰い消費しています。これは商品としての梨1個なので、1人工も当然1ナーシにならなければなりません。なので、労働は30ナーシとなります。更に、それぞれの定義に立ち返ると、商品 = 資源 + 労働なので資源 = 商品 - 労働 = 50 - 30 = 20ナーシですね。纏めると以下のようになります。

資源:20ナーシ
労働:30ナーシ
商品:50ナーシ
人口:兵士10人(50×0.2)、労働者30人、王様1人 合計41人
消費:41ナーシ
自然:梨の木50本

今まで話にはあまりでてきませんでしたが、ここで自然に注目してみましょう。自然とは資源を生み出すものと定義しましたが、梨の木50本は誰も労働をしていないのに毎日20ナーシの価値(あるもの)を生み出しています。そして、この国ではこの20ナーシがちょうど特権階級である兵士と王様に配られるナーシと同じ額になっています。つまりこの状態は特権階級が自然である梨の木50本を所有し、生み出された価値を利益として全て回収していることと等しい状況です。では、もし商品価値はそのままで労働者の賃金を1.0→1.1ナーシに上昇させたらどうなるでしょうか?労働者にも蓄える為の余力を与えるのです。整理してみます。

資源:50 - 33 = 17ナーシ
労働:33ナーシ
商品:50ナーシ
人口:兵士10人(50×0.2)、労働者30人、王様1人 合計41人
消費:41ナーシ
自然:梨の木50本

となり、やっぱり資源の価値が特権階級に配られる利益と等しくなります。考えて見ると当たり前です。労働者は賃金によって収入を得ますが、それ以外の人間は賃金以外の収入源がなければならず、それは資源以外には無いのです。つまり、自然を所有し資源を労働者に買わせることと、商品の一部を徴収し残りを全て労働者に渡すことは、この分類方法では実質同じ事なのです。そして徴収する金額を減らして労働者の賃金を上昇させると、単純に利益を蓄える人物が変わり王様の蓄えが9→6ナーシに減少、労働者が全員で3ナーシ蓄えるようになるのです。封建社会では労働者を生かす為に時には蓄えを渡すように日貢の額で調整していたかもしれませんが、自然の所有権は特権階級が持っていたもしくは実質的に所有していたでしょうし、特権階級の権力が余りにも強いのでやはり9ナーシはほぼ特権階級のものであったでしょう。

産業革命

梨の王様は毎日9ナーシの利益を得ていましたからとても財力がありました。暇な兵士たちを捕まえては、宴を開き、芸を披露させ毎日楽しく暮らします。しかし、宴会にも芸を見るにも恩賞を渡さなければなりません。なので、王様は時々自らの蓄えを兵士達に分け与えていました。また、時代が経るに従って、50本もの梨の面倒を見るのが大変になってきたので、一部の所有権を部下である兵士達に分け与えてしまうのです。こうして次第に一部の兵士達が財を成していきました。
そんなある日のことです。村で有名な天才児の噂が兵士達の間で評判になりました。お金を稼いでいた、とあるお金持ちの兵士は思います。噂になる程の天才は一体どの様な人物なのだ?面白そうだし、暇なのでその兵士は噂の天才児に会いに行く事にしました。そこでその天才児はこんな事を言い出します。
「私は梨に自動で水をやる自動水撒き機を考えつきました。私に100ナーシを投資していただければ、それを作り生産量を2倍にして見せましょう」
その兵士は考えます。確かに労働者にとって100ナーシとは破格の金額だ。とても金貸しから借りられる金額ではないだろう。そして私にとっては100ナーシは大した金額ではない。失敗したとしてもそのうちまた溜まる。面白そうなのでやらせてみよう。
そして兵士は100ナーシを投資する事にしたのです。

*解説3
ここでやっと投資の話が出てきます。とはいえ、やはり細かい説明は本旨から外れるので此処では簡単に説明します。
投資には当たり前ですが二人の登場人物が必要です。投資する人とされる人です。この物語では、金持ち兵士が投資する人、天才児がされる人ですね。基本的に投資をする人にとってはハイリスク・ハイリターンで、される人にとってはローリスク・ローリターンとなります。どういうことかと言うと、例えばこの投資が失敗した場合、兵士は何も得ることは出来ないばかりか投資した資金は全て失います。一方、天才児の方は怒られるかもしれませんが、何も失いません。元々何も持っていないので当然です。では成功した場合はどうでしょう? 恐らく、天才児は開発者として幾らかの利益を得るかもしれませんが開発した自動水撒き機は基本的に兵士のものです。つまり、将来生み出される利益の殆どは投資した人のものになるのです。
このことから、実は投資の根本的な性質として、投資する人はこの大きなリスクを許容出来るだけの資金力をまず準備しなければならないという事が分かります。恐らく封建社会はこのような圧倒的な資金力を確保する役割を担い、それが産業革命という人類の大きな転換期を生み出す原動力となったと思われます。

開発期間にかなりの時間を費やし、生活費も含めて全て兵士が増資を繰り返す事になりましたが、遂に自動水撒き機が完成します。
産業革命です!
元々梨の木の世話には毎日0.5人工かかっていましたが、この機械を設置する事で水やりをせずに木が成長し、0.3人工削減することになります。人類は梨の木を栽培するのにかかる労力を著しく削減することができたのです。

*解説4
さて、例の如く改めて状況を整理したいのですが、ここで問題です。この自動水撒き機はいつもの項目のどこに属するのでしょうか?
自動機械は人間の代わりに作業を行なってくれる物なので、労働力とみなすべきでしょうか?それとも別の全く新しい概念なのでしょうか?
定義に立ち返ってみましょう。確かに労働とは資源に付加価値をつける行為でしたので、一見すると労働でもおかしくはありません。しかし、資源の方はどうでしょう?定義は人間が労働力を行使せずに入手できる価値ある物品です。自動機械が生み出すものは確かに人間が労働力を行使せずに何かを生み出しています。つまり、自動機械は資源を生み出しているのではないでしょうか?そう考えると、この自動水撒き機は、資源を生み出すものである『自然』と言う事になります。では、自然であると考えるとどうなるでしょうか?
元々梨の木は労働力が0.6人工必要でしたから、付加価値は0.6ナーシがつけられて、商品価値は1.0ナーシになっていました。つまり、資源の価値は1.0 - 0.6 = 0.4ナーシでした。しかし、水撒き機のおかげで0.3人工しか必要としなくなりました。つまり、0.3人工分だけ余計に価値がある資源を生み出すようになったとも考えられます。なので、資源は0.4 + 0.3 = 0.7ナーシとなったのです。整理します。
資源:50×0.7 = 35ナーシ
労働:30ナーシ
商品:65ナーシ(1.3ナーシ/個)
自然:梨の木50本、自動水撒き機

となり、梨1個の値段が上がってしまいました。何か間違っているのでしょうか?それでは最初のアイデアである労働力の方に自動水撒き機を組み込んでみましょう。労働力は半分で済むようになったはずです。

資源:50×0.4 = 20ナーシ
労働:15ナーシ
商品:35ナーシ(0.7ナーシ/個)
自然:梨の木50本

なんと、今度は逆に値段が下がってしまいました。我々の世界は一体どちらに進んだと思いますか?
後者の場合、労働者はどんどん楽になっていきます。商品の値段が下がるので1人工分も働かなくて良くなります。なので、労働者は0.7ナーシ分の仕事しかしなくなったかもしれません。自動設備が開発されればされる分だけ、ものの値段は下がっていき、働かなくても良くなっていったと思います(究極は物の値段が無料になって、働かなくても良くなります) しかし、実際にそうなった場合に自動設備はどんどん開発されるでしょうか?ものの値段が下がるので、自然の所有者も収入を得る必要性が徐々に下がっていきます。そうなると、投資をして儲ける必要がどんどんなくなっていってしまうのです。そんなはずありません。少なくとも我々の世界ではそんなことは起こりませんでした。では前者の場合はどうでしょうか?
30人の労働者は突然物価の上昇を突きつけられます。これでは生活ができません。新しい仕事を見つけて更に賃金を獲得しなければなりません。あるものはまた別のものを開発したかもしれません。またあるものは梨を別のものに加工する方法を編み出したかも、もしくは自動水撒き機の整備屋さんになったかも知れません。世界にはどんどん新しいものが生み出されていきます。そして、その都度物価は上昇し、それに呼応する様に労働者の賃金も上昇していったのです。まさに産業革命以降我々が歩んできた道ではないでしょうか?

このように、投資によって生み出された新たな自然を所有する物は、すぐに王様が所有する自然よりも多くの資源を生み出すようになりました。また、労働者達も賃金がどんどん上昇した為に、王様の収入や所有する財との差は次第に縮まっていき、ついには王政が打破される事になってしまうのです。


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