2024/2/11ワンライ

使用お題【MEGAROMANIA】【カラクリ丸】【ちょーっと待ちな!】

「これで良いはず…でおじゃる」
 気付くと目の前は、見知った顔が二つ。自分を見下ろしているようで、青空と太陽が顔に影を落としている。
「動かんが」
「駄目か…」
 口々に聞こえる。それは、亡き父の声、そして我が元、皮の者。いや、違う。名は…
「にゃ」
『…動いた!動いた!!』
 ぎぃぎぃと木材のきしむ音、ざんざんと波の揺れる音。全てが新鮮で塩辛い。皆で胡坐をかきつつ甲板で円に囲む。どうやら我が天敵と鉢合わせたあと、八面六臂の大活躍を繰り広げ虚無僧連中を片付けたはいいものの、遂に相打ちとなり爆散したと皮…いや、坂本殿から伝えられた。しかしその話の通り、我が爆散したとするならば我が身を再び斯様な姿に戻したのは誰か。
「もちろん、こいつよ」
 どん、と生首を突き出す坂本殿。これは…
「にゃあ」
 父ではないか。随分なしかめ面ではあるが、どうやら生きているようだ。
「おんしの体は四方八方撒き散らされてしもうたんけんど、おぼろ丸が手はよぅ集めてくれたがやき一縷の望みがあってな。もしやと思い源内の茶室までもんてみると、生首がずりずりと動いてるやか!地獄に仏とはゆうが、まあ地獄に妖怪か。はっはっは!」
 我が元…おぼろ丸は、表情ひとつ変わらない。死んだ記憶が無いからか、助かった、という気持ちもない。ただ、この先また楽しいことがあるのかもしれないと思うと。少し不思議な気持ちになった。
「おおっ、こいつ猫みたいにゴロゴロ鳴っちゅうぞ…」

 その夜。坂本殿が休む特等の船室を守るため、船尾と船首に別れ周り番で構えることとなった。星が傾き、数度目の交代に移った時だった。
「…!」
 いない。坂本殿に非常事態か。駆け飛ぶも、内扉は閉まっている。外へ回る。真昼のような月光が忍びの影を追う。鍵縄を飛ばし、苦無を備えつつ丸窓から中を覗く。と、坂本殿の足が見える。ぎくりとして更に顔を出してみると、大口を開け、肌着ははだけ、褌が見えている様子が見える。釣り下がった風呂敷には透けて父の輪郭がある。では、おぼろ丸はいずこに…
 翌日、船中を虱潰しに探すも結局見つけることはできなかった。いくら忍びといえど慣れぬ海、落ちて藻屑と消えたと考えることが自然と父が罵るが否や坂本殿の拳骨が顔面に深々とねじり込まれていた。
「ちーっくと待て…いかんをなんらぁするがが源内、おんしの役目ぞ」
「ひょん…なぁ…!?」
「にゃあ」
 この時はまだ、間もなくして時空を超え、果て無き地獄へ飛ぶ航時機(こうじき)を源内が発明し、三者が土壇場のおぼろ丸救出に間に合うとは誰もが予想だにできなかったという。

【完】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?