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☆対談☆葛藤を越えて……逝った母との『和解』

40年近く、確執があった母が2月に他界しました。

母の火葬の日の早朝、母と同じく障がいをもつ『きょうだい』がいらっしゃる藤木和子さん(弁護士)がメールをくれました。後日、母の他界や散骨をめぐって対談していただきました。(白崎朝子)

白崎朝子:2月11日、痛みや苦しみもなく母が他界しました。苦しまなくて良かった……と心から安堵しました。

11日から3日間、母にとって孫である私の一人息子は3連休だったので、いいタイミングで亡くなりました。

今年還暦になる私は、断捨離した直後。母が急逝したのは、部屋がすっきりした、とても清らかな朝でした。

藤木和子:「朝」は「朝子さん」の「朝」ですね。

白崎:そういえば、そうですね!息子が産まれた34年前の2月23日の翌朝も、純白の雪の日で、静謐な空気に包まれていました。

母は転倒リスクがあるからと薬を中断され精神症状が悪化し、面会にいくたび、私は暴言を吐かれていました。

そのたびに、私の方が不調になり、ドクターストップがかかっていました。そのため、ここ数年は母に会うのが怖くて、面会できなかったのです。

母を世話してくれていた職員のうち二人が、面会に行けなかった私の葛藤を理解してくれ救われました。忙しいのに、ちゃんと話を聴いてくれて……

肉体は『魂の入れ物』と思っている私は、肉体を離れた母の魂と、真の対話が始まると思っています。

言葉や感情に邪魔されることなく、『母』の純粋な魂と、素直に向き合えるのではないかと……。

藤木:お母さまが他界された直後に頂いたメールに、「もっと母に愛されたかったし、愛したかった」とありました。
朝子さんの「母を愛したかった」の言葉、親や家族、恋人などに対して、自分が愛されることにしか基本的に興味がなかった私は、数日考え、変わりつつあります。

いま、愛するということを意識しています。私は今年、二度目の成人式になりますので、切り替えの時期なのかもしれません。

年下の『きょうだい』たちは感受性も繊細さもすべてが愛おしいです。
10代の子なんて、いつの間にか、私の半分以下の年齢なんですね……。
丁寧に丁寧に、大切に大切に愛させてほしいなと思っています。

白崎:和子さんもたくさんの、まだ若い『きょうだい』たちを大切にしてくださいね。

人は産まれたときには、愛そのものの存在なのに、愛されない環境で育つと、愛そのものではなくなっていくように思います。

愛の『種』を孕(はら)んで生まれてきても、愛が注がれないと、『種』は発芽せず、死んでしまうのかもしれませんね。

■終わりの『とき』について

白崎:祖父は病院で誰にも看取られずに他界しましたが、母は『終の棲み家』として、自ら選んだホームで、母を好きだった職員に看取られ他界しました。

でも私は30歳くらいから、自分が逝くときは一人のような気がしています。

2018年夏に大火傷して手術。なかなか麻酔から覚めなかった私の手を息子がずっと握っていたと、同室の患者さんから聞きました。

のちに息子は、「あなたが死ぬときには、こんな感じなのかなと思った……」と言っていました。
もう息子に『死に水』は取ってもらったんだと思いました。

藤木:朝子さんから満たされたものを感じます。
「自分が逝くときは一人だろう」という感覚も30歳の時と、還暦前の今は中身が全く違うのでは?と思いました。

白崎:大火傷から2年経ずに、11年ぶりの単著『Passion』を刊行することができました。

『Passion』は火傷で死にかけたからこそ、遺書のつもりで出せた本でした。

母の亡くなる前夜、私に母の状態を知らせてくれた男性職員Sさんが、私が平和協同ジャーナリスト基金賞を受章した『介護労働を生きる』を母から借り、読んだと話してくれました。
母は、「娘には苦労を掛けすぎた…」と話していたとも……。

その話を聴いて救われました。何回も、「Sさんが話を聴いてくれて救われました。ありがとうございました」と伝えました。

Sさんには、母との葛藤をプロローグに書いた『Passion』を贈りました。

そして、長く私と母の間に立って、面会に行ってくれた息子に、「本当に、いままでおばあちゃんと私の間に入って、サポートしてくれて、ありがとうね」と伝えました。

息子は宇宙から捧げられた、私の最高の賜です。

藤木:愛情は言葉や態度で相手に伝わるように表現することが大切だと改めて実感しました。
常に、そうなさっている朝子さんだからこそ、最後に大逆転の落穂拾いができたのかもしれないですね。
「幸せなら手を叩こう」の歌にも「幸せなら態度で示そうよ」とありますよね。

白崎:米寿で急逝した母。その魂が肉体から離脱した11日の朝、80年近くにわたった親子3代、ヤングケアラーの物語は終わりを告げました。

☆シブコト:親子3代、ヤングケアラー
https://sibkoto.org/articles/detail/69

■静かな雨がふっていた……2月19日火葬の日の朝

白崎:2月19日土曜日、母を荼毘にふしました。
小雨でしたが、明るく、カラッとした、いいお見送りでした。
私たちができる最善のことをしました。

藤木:火葬の日の天気予報はくもりか雨で、「空も泣いているのか」と思いました。
私にとって、とても大切な存在である朝子さんのお母さまは、私にとっても大切な方です。

白崎:火葬の日は雨のお陰で空気が澄んでいて、清々しかった。

『Passion』のプロローグの、母と私の物語の書き出しを思い出しました。
「静かな雨が降っていた」という書き出しです。

私の文章には、雨が降るシーンで始まる書き出しが少なくないです。

私たちへ贈られた『慈雨』だと思いました。

藤木:『Passion』は、予言の書のようでしたね。
恵みの雨にお母さまと朝子さんと、息子さんが少しでも癒されることを祈りました。

白崎:母が急逝する直前、友人の遺品のクラシックCDがたくさん送られてきて、毎日聴いていました。

火葬の日の早朝、しんとした空気に、『透明な音楽』が流れているような不思議な感じがしました。

CDを流せない早朝や深夜でも、それまでとは部屋の空気感が違うのです。
友人の愛した音楽が、私の魂を慰めてくれました。

■散骨にこだわって

白崎:息子は粉骨した骨を、「おばあちゃんも縁もゆかりもない海より、俺の家の前の川がいいだろ?いろんな鳥がたくさんきて、いいところだよ」と言いました。

「おばあちゃんは酉年だから、鳥がたくさんくる川かぁ、いいね」と思ったのですが、川は散骨禁止と聞き、ネット検索したら、なぜかその前に検索したときにはでてこなかった平安堂さんがヒット。

「粉骨含めて、15,500円?安すぎる!!」
他業者だと粉骨だけで2万円近く、海洋散骨はさらに5万円以上。

思わず平安堂の社長さんに、「私、お金はないけど、友達は多いから、もう友人4人に紹介しました!」と伝えました。
安くできる理由は、たくさんお客さんがきて、1回に散骨できる遺骨が多いからなんだそうです。だったら、平安堂さんを応援して、1年に1回でいいから石垣島から波照間への散骨を企画して欲しい。そしたら、私、必ず予約します(笑)!

藤木:海洋散骨、お値打ち価格ですね!最高の娘じゃないですか!

白崎:日本から一歩もでないで働きづめに働いてきた母には、永遠に地球の海を回遊して欲しいと思いました。

平安堂の社長さんがとても親切に対応してくださり、感謝しています。

☆粉骨・海洋散骨をしてくれる平安堂
https://sankotsu.co.jp/sankotsu/

荼毘にふした翌日の20日は、小雨も降っていて、緊張の糸が切れ、冬眠モードに……。

でも、やりきったという充足感がありました。

藤木:還暦に向かって、新しい朝子さんが生まれるためのさなぎの時期だったのかもしれませんね。


■対談後記

母の遺骨は、2月28日の爽やかな晴天の朝、平安堂さんによって、東京湾に海洋散骨されました。

私は母を偲ぶこの対談記事の推敲をしながら、母の魂を見送りました。

その数日後、母が散骨された東京湾の海中の様子を偶然テレビで観て、驚きました。
温暖化のせいで沖縄の海のような珊瑚礁が出現していました。

温暖化による生態系の変化は、言うまでもなく良くないことです。
ただ珊瑚礁を見ることもなく亡くなった母は、その美しさにびっくりしていると思いました。

その瞬間、母に対して抱いていた長年の葛藤から、解放されました。

こんな境地になるとは夢にも思わなかったので、海洋散骨できて本当に良かった……と心から感謝しています。

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☆藤木和子(ふじき・かずこ)
1982年生まれ。弁護士・手話通訳士。
優生保護法被害弁護団、全国きょうだいの会(正式名称:全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会)副会長。
シブコト障害者のきょうだいのためのサイト共同運営者。
聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会代表。

『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』岩波ブックレット, 1062)
https://www.amazon.co.jp/dp/4002710629/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_CZ0PY7ASFQ8TANKGPZJC

白崎朝子「書評・藤木和子著『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』」
http://www.arsvi.com/2020/20220409sa.htm
(立命館大学生存学研究所・白崎書評)

☆白崎朝子(しらさき・あさこ)
1962年生まれ。介護福祉士・ライター。
2009年、平和・協同ジャーナリスト基金の荒井なみ子賞受賞。

『介護労働を生きる―公務員ヘルパーから派遣ヘルパーの22年』
https://www.amazon.co.jp/dp/4768434908/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_EG871FT5S8X81WXGHSSG

『 Passion  ケアという「しごと」』
https://www.amazon.co.jp/dp/4768435785/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_Q8RGYKE87QRRP2PMH5DK

医療ガバナンス学会メルマガ
http://medg.jp/mt/?p=10501

白崎朝子
http://www.arsvi.com/w/sa18.htm

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