Noteと人インタビュー#4「今後の人生もきついだろうなと確信している」モリマサ公/詩人

父親の会社倒産/海外逃亡、ソープ/イメクラ/デリヘル、プロスノーボーダー/ハーフパイプ/山ごもり/腹筋1000回/粉砕骨折/W杯/フィンランド/気温−37度での生活/オーロラ、シャブ中の夫/獄中離婚、幻聴/メンヘラ/障害者2級/精神科……。これだけのキーワードをすべてひとりで持つのが、詩人で元プロスノーボーダーのモリマサ公さんだ。

ひとつひとつの話も興味深いが、僕の心を一番とらえたのは、壮絶な経験をさわやかにからっと話す彼女の姿だった。それに、人生のエピソードについては彼女自身がnoteで話してくれているのもある。だから、このインタビューでは彼女の生き方に注目した。プロのアスリートとして獲得した心技体を詩人へ応用する話は、作る人や生き抜く人の参考になると思う。勝ち負けが好きなのもスポーツマンらしい。取材日は2014年5月29日だった。(本文5559字)

キーワードからモリマサ公さんの人生に興味をもたれた方は、彼女のnote(日記)を先に読むルートもおすすめです。

モリマサ公自身による自己紹介
目次  https://note.mu/morimasakou/n/n316a9fddd776
その1 https://note.mu/morimasakou/n/n37bfdd164f41
その2 https://note.mu/morimasakou/n/n88b35f0f1d64
その3 https://note.mu/morimasakou/n/n59d902394da8
覚醒するということ https://note.mu/morimasakou/n/n19d79b2e87de


「スノーボードでゾーンを経験できたのは良かった」

やりだすとガツガツやるタイプで、詩を書いたりパフォーマンスしたりする他にも、同人誌やZINE(※出版とは関係なく、好きに作った本のこと)など編集長を率先してやっています。ただし冬はやりません。スノーボードをがっつりやるからです。今はもう全然下手でプロの技はもうやらないんですけど、ハーフパイプの特殊な環境がすごく好きで止めれないんです。しょぼしょぼなんだけど、やっているっていう。ジャンキーですね。

プロの時は、スクワットもやっていたし、立って100キロぐらいはあげてましたね。元々文系だった私は腹筋なんて30回もできなかったのですが、トレーナーをつけてがんばって、1日1000回ぐらいやるようになっていきました。トレーナーの方が体の使い方をことこまかく教えてくれるので、私は毎日、自分の体のどこを使ってどのように変化したかを詳細に記録していました。その頃の記録はノート10冊ぐらいあります。周りにはここまでトレーニングを記録する人はいなかったから、文系らしいアプローチなのかな。腹筋1000回の時は300回の3セット+100回で、腹筋は種類が豊富にあるから「朝昼晩に分けてやるとすごく楽だな」という風に感じてるほどになっていったんですよ。

苦しかったのはマラソンですね。喘息持ちだったので、走るのが嫌いでした。何が辛いってあの日々が辛かったです。毎日走るっていう。でも、走らないと走ってないやつらに負けると思ったから、負けるのだけは絶対に嫌だと思って。

結果的にワールドカップは1回しか出れなかったんですけど、出れたときは嬉しかった。私もそのときすごく調子が良くて、すごく高く飛べていたんですね。あの冬はみんなに「どうしたの?」って言われるくらい調子が良かった。調子が良いっていうか、練習でハーフパイプを飛んでいると一緒に練習している人が下に見えるんです。もちろん周りはみんなオリンピックを目指している人ばかりです。それって今までに感じたことがなかったんです。1番になったなという感触があのときは一瞬ありましたね。

今思えばトレーニングを重ねていいシーズンだったんです。その前に骨を折っているんですけど、先生に対して「筋肉1グラムも落としたくないんですけど」と譲らず、骨折を治しながらトレーニングを積んで行きました。松葉杖を1ヶ月して、大会の一週間前に松葉杖が外れて、大会の日はすごくいい天気で、みんなもばりばり最高に調子が良くて、みんな日本のトップですよ。そこでファイナルに残りました。下手で技はできなかったんですけど、高さやきれいさが評価されました。ファイナルではみんなこけて、2位になってワールドカップに行くことができました。

そのときは、周りが驚いているのとは裏腹に、自分では確かにちょっと違うなという程度で、冷静で、コントロールできている感覚がありました。ゾーンに入っている感じでした。こういう時に結果が出せるのかと分かったのはすごくいい体験でした。

ただ、その頃には、スノーボードは9年目ぐらいで、10年で一区切りと考えていたんです。ワールドカップがせいぜいでオリンピックは行けないって分かるぐらいの年齢で、スノーボードへの情熱が落ちていってるのが自分でも分かりました。パフォーマンスは下がらないけど上がらない。諦めはしませんでしたけど、上がらなかったんです。しかも、これから先の人生どうしようかと思っていた矢先に、長年付き合っていた彼氏に逃げられてしまった。それをきっかけに詩を始めたんです。

「スノーボードもですが、勝ち負けが好きなんです」

そういう風に始めた詩だけれど、優勝できて楽しかった。詩で優勝って言われてもピンとこないでしょう? 詩にもいろいろあって、ポエトリーリーディング(スポークンワーズとも呼ばれる)という詩を読むパフォーマンスがあるんですが、それがさらに発展して「競う」要素が加わったイベントが生まれていくんです。

高田馬場にベンズというカフェがあって、スラムと呼ばれる戦いが繰り広げられてて。そこでは1人がリーディング(詩を読む)を終えると、客席に紙袋が回ってきて、ひとり幾らってお布施をするしくみでした。それがパフォーマーのギャラになる。少ないときで400円、多いときで6000円ぐらいもらっていました。たった10分のパフォーマンスでそれだけもらえるんです。すごくないですか。こんなイベントが月に1度あったんです。

その頃は都内でだいたい100〜200人ぐらい活動している詩人がいて、そのうちの30人から50人が集まってくる感じでした。400円のときは自分でも分かるぐらいだめなパフォーマンスで。それでも、勝とうと思って毎回新作をもって参加していました。子育てで参加できないときもあったけど、優勝6回、準優勝は6回しましたし、ランキングは上位だったと思います。

スノーボードでもそうですが、勝ち負けが好きなんです。でも、格闘技みたいな人と争うのは嫌で。個人パフォーマンスをお互いがやってそれが認められるのが好きなんです。だからMCバトル(※ラップ技術を披露しあう競技で、ディスと呼ばれる相手への言葉の攻撃も重要な要素)はたぶんだめでしょうね。

勝つためにいつも作戦を考えていました。まず人の心を暖める、ゆさぶることを念頭におきます。笑かしたり、泣かせたり、怒らせたりするのが好きなんです。詩をたった10分読むだけで、みんながそういう気分になるのってとても面白くないですか。中でも泣かせるのが好きですね。会場から鼻をすするような音が聞こえてきたら、「もうこっちのもんだ」と。そうやってゆさぶって、有名な詩人に勝ったときは嬉しかったな。

ちなみに、私の詩に対する導入は『ポエム岬』という詩に書かれています。きっと大変だったんですよ。人生が。今後の人生もきついだろうなと確信しています。

「心が折れているときに骨まで折れると完全にやられますね」

家族の話をしますと、父はインテリ、母はお嬢様という両親のもとに生まれました。お見合い結婚だったのですが、そりが合わず、けっこうキャーキャーやってましたね。父親の妹がひどい人で、頻繁にうちに来るんですが、窓ガラスを割って入って来るような人でした。怖くて怖くて、母と2人、トイレに7時間ぐらいこもってやり過ごしていましたね。

だから若い頃は、そういう血が自分にも流れているのかと気にしていました。危惧していました。でもまあ、そこがちょっとキレてるポイントになっているのかもしれません。キレてないとスノーボードって上達ないんですよ。「あの人おかしいんじゃないか」っていう状態じゃないと。

私が思うに、エンドルフィン過多の体質なんじゃないかと思っています。幼少期に怖い思いをしたせいなのかな、ぎりぎりの場面がでてくると気持ち良くなってくるんです。小さい頃の絵は、ご飯もトイレも我慢して描いていました。トイレも我慢するんですよ。すごくないですか。

あとは、やっぱりストレスみたいなものがないと、とも思うんです。ふわふわしているだけだと、詩も書けないし、何か極論的なことをやらないと自分の中で物足りなくなってしまいます。

今でこそバランスのとれてる状態ですが、ひどいときはありました。肉体的なことは、こうすればこうなるっていうのはだいたい分かっているのですが、精神的な病気のときはひどかった。心と体と思考のうち、一つまでは折れてもなんとかなるのですが、心が折れているときに骨まで折れると完全にやられますね。一挙にがらがら崩れたときがあって、対処のしようがなくて、ひどいときはお酒をよく飲んでしました。

酔っぱらったまま子供をおぶってヒッチハイクして、母の勤め先まで行ったこともありましたね。幼児虐待しかねない状態でした。子供と二人きりで家にいると危ないと思って、わざと人前や病院に出かけるようにしました。憎いというよりは、他に当たるものがなかった。本当にただ頭がおかしくなっているだけで、いけない状態だとは分かってて。おそらく、スノーボードで培った身体と客観性がなければ、ひどい自分を自覚できなかったでしょうね。


「話をどうやってら聞いてもらえるだろうか、ということについては結構考えてきました」


俯瞰は私にとってキーワードで、いつも意識しています。スノーボードもそうですね。ちゃんと理屈で考えてそこに感情も入っていって、冷静でいて、その上で技術や身体が伴わないと。それらを俯瞰的に考えられないと、そのシーズンやその日の演技がだめになってしまう。これはポエトリーリーディングでもそうですね。感情的になりすぎるとだめだし、頭で考えれてないと良いパフォーマンスになりません。

あとは場の空気がどうなってるのか。どれだとウケて、どれだとウケないのか、考えながらやっています。本気で勝ちに行こうとしているときは、考えます。

先ほども少し話しましたが、詩を作るときは、人の感覚を揺らす、動かすことを最初に考えます。もっと言うと、お客さんの癇に障るような何かを経験を投げつけてやりたい。どんな感覚でもいい。人が動いたってことが重要なんです。頭の中に言葉を残したい。

だから最初に会場と一体化することが重要ですね。私はメンタルのストレッチと呼んでいるんですが、例えば、お客さんにもれなく当てはまるような質問をぶつけます。「最近恋愛してる人」「最近恋愛していない人」「苦しい人」「最近笑っていない人」などと問いかけて、「自分のことを言われているな」と思ってもらう。そうすると、この人の話を聞こうかなという気持ちになる。

導入部分をどうしていくか。キラキラにしたかったらキラキラなものを並べるとか、暗黒にしたかったら暗黒の言葉を並べるとか。そうやって笑った後に泣くって言うのが一番いい。そうすると感動するからです。文字通り、感情が動く。そのためにアタックしてダメージを与えたり、優しくしてあげたり、共感してあげたりします。

「最近消費税上がって困りますよね」「分かります」
「パンツはいていないと困りますよね」「分かります」
だいたいの人が気になりますよね。

それからやっぱり体を動かすことを導入でやりますね。
「最近恋愛をしていない人」「はーい」と言って手を上げさせる。
「好きな人がいる人」「はーい」
「いま一人ぼっちの人」「はーい」

あと他には、テレアポの経験を生かして「1〜5まででお答えください。今日読んだ詩が良いと思った人は1番を、普通の人は2番を……すごく悪いと思った5番を。この中から選んでください」といった問いかけも使いましたね。こういう風に言うと、考えちゃうんですよ。すごく悪いと思っただけでも、こっちのモノです。ざまーみろですよ。

ストレッチをすることもそうだし、あとはやっぱり人それぞれで、頭で考えてる人と、心で考えている人と、身体で考えていると3種類いるじゃないですか。身体的に考えてる人には、手を動かす、声を出す、これらは身体的な感覚ですよね。頭で考えてる人や心で考えてる人には別のアプローチをする。だいたいどれかに当てはまります。

これがバトルになってくると、また違ってきます。たとえば、SSWS(※)というトーナメント方式の詩のリーディングイベントで『ベルリン』をやったときは、導入部分「可能性は必ずしも常にゼロではないということを」という台詞を入れていますが、これは(下馬評は不利な中で)勝ちたかったからです。それを冒頭で表明したかった。あの場には欠かせない台詞だったんです。絶対に。だからこそ台詞に真実味があって、あの場にいた人に共感されたはずです。


「noteではどれぐらい魅力的な人間になれるのがポイントなのかな」

そうなってほしいと願うことや、みんながどう思っているかは大切にして、パフォーマンスで使っていきます。これ言ったら傷つく人いるだろうなとか、いらっとくる人がいるだろうなとか、そういう負の感情も含みます。ただ、Noteで詩をみて怒る人っていないじゃないですか。だからこの手は使えない。それでNoteで詩を読んでもらうにはどうしたらいいだろうかと考えています。前衛的な詩なのにスキを入れてくれる人は全チェックしてどんな人がこういうものに反応するのかは徹底的に調べて研究しているところです。

noteではどれぐらい魅力的な人間になれるのがポイントなのかな。なってからじゃないとスキって押さないんじゃないでしょうか。コミュニケーションが重要でコメント欄が重要じゃないかなと思って試してみるところです。初めは詩だけを投稿していたのですけど、それだけじゃ読まないですね。スキが0の詩もあるんですけど、将来的には100スキを詩で出してみたいな。まずは詩を読ませたいですね。

あと私、移動するのが大好きで。何ででしょうね。人がいっぱいいるのが嫌いな人いるじゃないですか、それと似ているのかな。私も道路を移動するとき車がいるのが嫌なので、真夜中に移動し始めるんですよ。人が動く1時間前に動く。そうすると、誰もほとんどいない道を通って行って、それから山道に、ちょっと明るくなってから入るんです。そうするとすっごいきれいなんですよ。何もかもが。移動の間も道路はきれいだし……。日本の道路はすごくきれいです。舗装されてて、危険もない。その中を1時間半ぐらいドライブするんですけど、私が行っているゲレンデはすごく遠くて、そこまでいって滑るんですけど、もうエンドルフィンがいっぱい出ますね。


モリマサ公

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