Noteと人インタビュー#3「唄や音楽で得られる不思議な体験を、もっと広げていきたい」がきえ/Music Planner(お手紙ソングライター)

がきえさんは唄うことが大好きだ。Noteでもたくさん唄っているけれど、普段も手紙をオリジナルソングにして結婚式などで唄う仕事をしている。代表を務めるLettersでは、手紙を唄にして届けるサプライズを通して「想いを形にして伝える体験」をしてもらうこと大事にしているそうだ。取材日は2014年5月16日。吉祥寺の居酒屋で食事を取りながら話を聞いた。(本文4711字)

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小学校の音楽の先生がご自身で作詞作曲される方でした。先生の指揮する合唱部に所属して、見よう見まねで自分でも作曲して唄うようになったのが、多分最初です。小学生の時点で将来の夢に「自由に生きること」なんて書いてて、何か、恥ずかしいほどに今と変わってないですね(笑)

仕事は、大学院在学中と、卒業後に作業療法士として働いてきました。ものすごくザックリ表現すると「何らかの理由でうまく遊べない子」が「自分で遊びを広げられるようにサポート(治療)」をしていました。お子さんは何でも「遊ぶこと」を通じて学びますからね。自分の体の使い方とか、人とのコミュニケーションとか。お子さんの行動の意味を考えたり、お母さんがどういう想いや悩みを持っているのかを整理したり掘り出すのは、後の仕事にも役立っています。

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作業療法士4年目の時に大好きだった祖父が他界して、自分の将来や仕事について考えるようになりました。それで、遅かれ早かれ死ぬのだから、好きなことをやろうと。作業療法も好きなことだったんですけど、ずっと好きな唄や音楽を仕事にできないかなぁ?と考え始めたんです。

そんな中、大事な人から結婚式の余興を頼まれたんです。具体的なリクエストはなかったので「自分だったら何をされたら嬉しいか」を考えて、もし「親の手紙をもらえたら嬉しいだろうな」と思い当たったんです。

お手紙読むだけでも良いんですが、「どうせだったら唄って届けようっ!」と思い立ち、お手紙をオリジナルソングにして唄ってみたんです。喜んでもらえるかとっても不安だったんですけど、周りの方がすごく共感してくださった。このときの体験が、そのままLetters(※がきえさんの今の仕事)の原型になっています。これをやればお手紙を送る人も受け取る人も嬉しいし、思い出に残る。それに、自分も楽しいだろうし、自分のやりたいことな気がしたんです。で、探してもないので、作っちゃいました。

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Lettersをやると決めたものの、期待と不安の狭間で揺れていました。始めた頃は、何度も「本当かな?」と自問自答していましたね。作業療法士の仕事も好きだったので、相当悩みましたが、後悔はしてないです!

Lettersの仕事は、基本的にサプライズの演出なので、「どなたに想いを届けたいか」を確認するのがスタートです。その後、サプライズの方法やプランを、打ち合わせを通じて決めていく感じです。頂いたお手紙は、内容やメロディに応じて、言葉を削ったり加えたりします。勿論、依頼された方の「伝えたい想い」が第一です。サプライズの方法は、披露宴の余興で生演奏するか、DVDで届けるのが基本です。依頼者ご自身でカラオケや演奏をしたいという方もいらっしゃいます。

製作で難しいのは、作曲よりもコンセプト、つまり「どんな想いを届けたいのか」を汲み取ることです。お手紙の内容は勿論ですが、お会いしてお話されている様子等からも、その方の「伝えたい・かたちにしたい想い」を考えています。依頼主の方と一緒に考えていく場合ももちろんあります。

サプライズは「良い悪だくみ」だと私は考えているんです。サプライズする時って、ものすごく相手のことを考えるので、送る側もドキドキ…。サプライズを企んでいるときの打ち合わせは、最高に楽しいです♪

これまでお手伝いしたサプライズは、どなたも印象に残っていますが、特に印象的なのは「二重サプライズ」でしょうか。披露宴では新郎新婦からご家族へのお手紙を、二次会では新郎から新婦へのお手紙を、生演奏で披露しました。

どちらの曲も前奏やメロディはまったく同じにしたんです。新婦には、「披露宴と同じ曲を余興で披露する」と伝えてあったので、唄がはじまると、新婦が「え…これってもしかして…私宛??!!」と少しずつ気づいていく様子が、とても楽しかったです。この二重サプライズでは、二次会で新郎が凄く緊張されているのが伝わって。すっごく想いが詰まっている時間・瞬間なんだろうな…と私も感動して、印象的でした。

一見控えめな方から預かったお手紙に、堂々と「愛している」と書かれていたり、サプライズを企てる方の想いの熱さに、毎回圧倒させられますね。あと、これは唄の魅力だなと思うんですけど、カラオケでも唄だと平気で言えるじゃないですか。言うっていうよりも唄える。面と向かってだったら恥ずかしくて言えないことが、唄だとすんなり唄えちゃったりする。メロディーを乗せるからでしょうか。不思議なパワーが唄や音楽にはありますよね。

「ありがとう」を伝えるのでも、勢いで「うおーー、めっちゃありがとーー!」って伝えるのか、ちょっと恥ずかしいけど「ありがとね…」っていう感じか、ふてくされてる「…ありがと」なのか。「ありがとう」にも色々ありますよね。どういう「ありがとう」なのかは、手紙の前後関係や、お会いした人の場合はお人柄等から読み解いてメロディーにしていきます。そうやって「想いを形に」していくんです。これが、堪らなく面白い!そして難しい!

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これまでLettersは結婚式中心にやってきましたが、記念日や、母の日、色んなシーンに広げていきたいんです。遺言にも挑戦したい。だから、結婚式のための曲を作れるだけで全然だめで、変わった曲の依頼はありがたく受けるようにしています。居酒屋さんでの店員さんの会話を曲にしてみたり(笑) 超マイナーな仕事なので、もっと知ってもらうことも課題ですね。

noteについては、一時期自分でイベントも企画してたんですけど、まさにその企画で実現してきたことや、したいことがnoteには詰まっていて…すぐに飛びつきました。もともと音楽だけをやりたいわけではないので。音楽と映像だったり、音楽と絵だったり、音楽と言葉だったり、色々つなげて形にしてみたいって、好奇心が根底にある感じです。

noteって色んな方がいるじゃないですか。普段は絶対に出会えないクリエイターさんや、面白いことをやってる人が絶対にいると思って。noteにLettersの作品を投稿したのは一番最初だけで、その後は純粋に楽しんじゃってます。

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noteの魅力は、色んな人がいることもですが、スピード感でしょうか。金井ノト(モフモフさん発案のnoteのキャラクター)のテーマソングを作ったんですが、まさにそんな感じで。最初はnoteオフ会での、「金井ノトのテーマソングがまだないよね」っていう話題がきっかけでした。「作ってみたいけど自分でいいんだろうか…」とためらっていたら、オフ会の帰り道に「盛り上がっているからばんばん乗っかっちゃっていいよ」「作ったもん勝ちなんだから、攻めていけ」「うおーー!」みたいに、次々と参加した方々に背中を押してもらって。

そこからは速かったですね。帰りの電車の中で、皆さんと一緒に帰りつつも、頭の中ではフレーズを必死に考えて…フレーズ(※1)が浮かんだのは新宿駅のホーム。浮かんだフレーズは忘れないように、乗り換えを待っている間にホームで、小声で唄って録音しました。完全に怪しい人です…(笑) 帰宅後、勢いのままにワンフレーズを作って、翌朝に最初の唄をアップするところまで進めたんです。歌詞は全部思い浮かばなかったけど、募集すれば誰かがきっとアイディアを出してくれる、と思い。「投げたら返ってくる」っていう安心感がnoteにはありますね。

即レスで湊川さんや佐伯さんが案を出してくれて、モフモフさんがそれらをまとめて歌詞をUP、すぐにフルバージョンを公開できました。全体で4日ぐらいでしょうか。その速度に自分でもびっくりしました。皆さんのスピード感が本当にすごいです!

noteは武者修行の場だと思っています。noteを見ていると、「あ、これ、唄ってみたい!」と思う言葉や絵が次々とあるんです。「作曲したい」ってよりも、「この言葉を唄ってみたいっ!」ってなります。皆さんの素敵なnoteに感化されまくって、勝手に作って楽しんでおります!最早修行していない…(笑)

それから、noteでやった「みんなで唄おう」企画も楽しかったですね。私の作った曲を皆さんが唄ってくださる!ってだけで感動もんだったんですが、録音する度にみんなの声から「だんだん楽しくなってきちゃった」という感じが伝わってきて…それがすごく嬉しかった。はじめは、皆さんの声がすごく緊張していたんです。緊張するの、すっごく分かるんですよ。私も、時々めっちゃ緊張するので。

それで、最初のテスト音源で「あ、おひねり〜」という台詞を入れてアップしたんです。自分でやっておきながら相当恥ずかしくて、公開したときはかなり「やっちまったーっ!!」と思いました。でも、ちょっと力の抜けた音源を聴けば、唄の敷居が下がると思って。そうやって敷居をさげることで、「完璧に唄うこと」ではなくて、少しでも楽く唄って参加してほしいという気持ちがあったんです。

本番では、緊張が徐々に解れて楽しくなっていく皆さんの歌声を拝聴したり編集して、「音楽や唄を通じて、楽しい体験をしてもらえるんだ!」肌で感じることができて、とっても嬉しかったし、楽しかったし、勉強になりました。まさに、「自分のやりたいことって、実現できるんだ!」と実感できた企画でした。

こうやって参加した人の不安を、0にはならないけれど少しでも軽減させて、最終的に楽しめる体験に変化させていくのは、作業療法士の仕事にも通じるものがあります。最初親御さんはとても不安な状態でやってくるので。ちょっと話が飛んじゃいますけど、自分の中で、もっとnoteと作業療法士とLettersを、もっとつなげていきたいですね。

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これからも自分が理想と思う生き方をして、自分や家族、周りの人と日々を生活しながらやりたい事をやり続ける、という想いは変わりません。小学生の頃と一緒です(笑) そう言えば、最近同級生に「お前が言ってることって理想だよね」と言われました(※2)。理想を理想としておくのが一般的なのかな。分からないですけど…何かちょっと寂しい気持ちになったのを覚えています。

そりゃあ、日々不安ですよ。だけど改めて聞かれたり考えてみると、具体的な不安ってないです。言語化できていないだけかもしれませんが…。身軽すぎて不安なのかもしれません。でも、もともとは臆病で、作った曲や、自分の唄を聞かれるのだって自信がないんです。

そのせいか、唄や音楽は好きだけど、典型的なミュージシャンのイメージ、例えば「オリジナルソングを作って、ライブして、CD作って売れて紅白だー」みたいなのは、自分は違うなって。これまたうまく言語化できていない部分なんですが、そういう形じゃない唄とか音楽とかが絶対あると思っています。Lettersを始めたのはそんな理由もありますね。唄とか音楽って、もっと自由でいいんじゃないでしょうか。

CDを買ったりダウンロードしたり、カラオケで唄ったりするのも当然自由だし、素敵なんですけど…。それだけじゃなくて、感情や体験を唄や音楽みたいな形にするところから関わっていきたいなと。それこそ太古の昔からあったと思うんです。言葉ができる前から、自分の感情を音楽や唄で表現するのって。

音楽や唄を通じて得られる「不思議な体験」のきっかけをつくる人、「伝えたい想い」を音楽や唄にして、「伝えたい人」に届けるお手伝いができる、そんな人になりたいと思ってます! (急に〆てすみませんっ!)

※1 歌詞「あなたと私で願いを叶える〜ノトのnote〜」の部分。
※2 その時は「理想になるように動いちゃだめなの?」って聞き返したそうです。


*** ご案内 ***

がきえ
note  https://note.mu/mariegakie
http://結婚式サプライズ.biz

*** 後書き ***

日々投稿されるnoteの中でも、noteと人インタビューは相当に文字数が多い部類だと思います。正直に言って僕自身はこの企画より長い投稿は読んだことがありません。なので、できるだけ読む人の負担を減らそうと、短い文字数にしてはいるのですが、それでもこのくらいになります。もし、この半分にしたら、よほどの技術がない限り、お話ではなくて要約になりそうです。僕はつぶやきも好きだけど、お話も好きなのです。

noteと人インタビュー企画ですが、お話を通して取材者のことを知ってもらおうと思ってやっています。具体的には、取材者のことを好きになってフォローしてほしい。では、知って好きになってもらうための方法としてのインタビューはどうなのだろう。たくさんのトークや、作品たちを紹介するのと比べてインタビューは何なのか。お話としてのインタビューなら、ラジオや、ライブイベントや、作者自身の自分語りもある。インタビューの良さは何なのか。

結論ではないけれどひとつ思っているのは、インタビューを読んだことで、取材者と同じ時間、空間をすごした感じになってくれたらいいなということ。臨場感。そこで聞けるのは、打ち解けた友人にようやく聞けるタイプのお話。「でさ、ほんとうのあなたについて聞きたいんだけど?」。一方的に聞くのとも見るのとも違う、お話を楽しく読む体験になってくれないだろうか。

後書きの前置きが長くなりましたが、今回取材させていただいた、がきえさんは話していて本当に楽しい方でした。表情も身振り手振りも、そしてもちろん声も素敵で……。普段のnoteの投稿も楽しさであふれていらっしゃるけど、その楽しくてにぎやかな雰囲気を補強するサブテキストに、このインタビューがなってくれたら嬉しい。

実際には、録音した音声にはふんだんに含まれていたはずの、がきえさんのキャラクターの楽しさは、密度のある文章にする過程で失われてしまいました(僕がそうしたのですが)。これが単に文章は短くすればいいってわけじゃないと考える理由の一つです。困ったので、今回は取材者のがきえさんに失われたがきえさんのトーンやテンションを再び注入してもらうよう、校正と推敲をお願いしました。一度取り除いておいて、また書き入れてもらうなんて、なんと贅沢なやり方だ……。そんな豪華でコストのかかるやりかたを迷わず選択している自分はどうかしている……。

こういう作り方なので時間もかかっています。インタビューの中で、がきえさんが4日間でテーマ曲を作った話をされていました。そんなnoteのスピード感と比べて、インタビュー企画のなんとゆっくりとしたことか。インタビューが終わってから記事にするまで1ヶ月、最初のコンタクトからだと2ヶ月ぐらいかかっています。流れる時代にあって、こんなスローメイドな記事がnoteにあってもいいですよね。みんな焦らずやっていきましょう。


*** 特典(おまけ) ***

さて、最後になりましたが、今回の特典は、なんと、2つ!

*** 2014/07/27 修正
ひとつめは、僕、シラドウがインタビュー中に出てきました「ノトのノート」を歌っております!しかもフルコーラスで!まあ、控えめに言ってオンチですね……。本文にもありましたが、noteで歌を歌うことの敷居を下げようと一肌脱いだ次第です(言い訳)。僕の声なのもあってか、まだひとつも売れていません。これで良かったのだろうか。良かったんだ……。

ぜひ下記の特典におひねりをお願いします。
https://note.mu/shirado/n/n3d65b632f650

*** 2014/07/27 追記
ふたつめの特典ができました。ひとつめとは趣向をかえまして、自分の詩をがきえさんが歌ってくれました!しかもエロスがテーマだそうで、これまでエロスと形容されたことのない私シラドウからすると目から鱗。インタビューは、インタビュアー自身の引き出しを増やすことでもあるですね。役得。役得!

こちらの曲は、ダウンロードは有料特典とさせていただきます。たぶん後々、がきえさんのページで視聴と解説がアップされると思うので、まずはそちらを待つのもありかと。

一足先に聞いてみたい方はこのノートを購入してください!
有料部分にダウンロードのURLを記載しております。

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