雪が綺麗と笑うのは

あっという間に冬らしい季節になった。
冬が好きだ。AM5時くらいのまだ寝静まった冬の街が好きだ。夜とは違う、民家もビルもアパートも電気が消えて真っ暗で静かなあの時間がたまらなく好きだ。世界中で自分だけが起きているような気持ちになるあの時間が好きだ。
冬の午後も好きだ。
西日が強くなって煙草の煙が立体的に見えるから好きだ。触れられないのに触れられそうな錯覚に陥る。冷たい空気と一緒に吸い込む煙が好きだ。
「ベランダで吸ってって言ったじゃん」
「ベランダ寒いねん、
ええやん換気扇の下で吸うてんねんから」
毎年こんな感じの会話をしていた。
くっだらない、しょうもない会話ですら
付箋を付けておいて見返すと幸せだったんだな。って思えるから冬の魔法はすごい。
普段なら自分の分しか買わない缶コーヒーを
自販機で2本買って帰るだけで幸せを感じられる。
「コンビニのおでんで何が好き?
あたしは断然ソーセージ」
「さすがに邪道すぎるやろそれは」
なんて会話もあったっけ。
別に未練がましく覚えてる訳じゃない。
そんな会話も鮮明に残してしまう冬の魔法
もとい、冬の呪いに囚われているだけなのだ。
それでも僕は冬が好きだ。
酸いも甘いも全部ひっくるめて
まだ冬が好きだ。
雪が綺麗と笑うのが
君じゃなくなった今も冬が好きだ。

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