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僕が千羽黒乃を好きなワケ

雷漢戦決勝。
その戦いを、僕はパブリックビューイング会場で観戦していた。
決着はもう、ほぼついていた。
南3局に見事なアガリで抜け出した咲乃もこが大きくリード。もう、鴨神にゅうも、千羽黒乃も、親番は残っていない。
親番の残っている歌衣メイカですら、点差は5万点を超えている。

南3局3本場。ハイテイで歌衣メイカが打った牌が、千羽黒乃のアガリ牌。
会場からは悲鳴混じりの大歓声で、実況解説も、この劇的な結果に声を荒げている。

その――瞬間。

千羽師匠からのロン宣言が、数秒、入らなかった。
会場は、あれ?という雰囲気。実況解説も、同じく。

この時、僕は会場の、一番後ろの、端っこで。
一人、彼女のことを想って目を閉じた。
……この数秒に、僕が千羽黒乃というVtuberが大好きな理由が、詰まっていたから。

千羽黒乃が好きなワケ①初めて知ったVtuber

もしかしたら意外に思われる方がいるかもしれないが、僕がVtuberを見るようになったのはここ数年のことなのだ。
存在は何となく知っていたが、配信を見る、というクセがあまりなく、好んで見る事はあまりなかった。
そんな時に出会ったのが、千羽黒乃師匠で。

元気で、明るく。そして何より……麻雀が強い。
平気な顔で雑談を挟みながら、熟練の打牌選択を見せる彼女のギャップに、思わず息を呑んだ。
誰もVtuberを見ていない仲間内ですら、「千羽黒乃は凄い」と話題にあがるほどに、彼女の麻雀の腕は確かだった。
雀魂において最高段位である魂天に辿り着いたVtuberの中でも、一線を画す存在である、と僕は今でも思っている。

僕の麻雀プロとしての活動理念は、麻雀が強くなりたいのもそうだが、もっと多くの人に麻雀を知ってもらいたいという気持ちが根幹にある。

強くて、可愛くて、明るい。

麻雀界の太陽のような存在の彼女に惹かれるのは、当然と言えば当然だった。

千羽黒乃が好きなワケ②明るく、優しい性格

こんなの当たり前だと言われるのも分かるが、それでも取り上げさせてほしい。彼女の口癖、「お見事なのじゃ!」

これは、麻雀中によく彼女が口にするのだが……そこに込められた想いは、相手への敬意。
正直、顔も見えない、不特定多数とあたる雀魂の段位戦において、相手にアガられてお見事、と言える人はいないだろう。
「配信だから」というのはもちろんあるだろうが、それを差し引いても、だ。

私は段位戦を数多く打つ方ではないが、それでも打って、相手に理不尽なアガリを積み重ねられたら、マウスを投げるし奇声を発するし駄々をこねる。最悪である。
他の配信者を見ていても、やはり「なんで~!」や、どこか悔しい気持ちがにじみ出ている発言をしている人が多いような気がする。
もちろん、千羽師匠だって悔しいはずなのだ。けれど、彼女は百戦錬磨の烏天狗だから。それら全てをのみ込んで、「お見事なのじゃ」と言うのだ。
これだけで、彼女がどれだけ素晴らしい精神を持ち合わせているかは分かって頂けると思う。

千羽黒乃が好きなワケ③麻雀に対する姿勢

さあ、本題へ行こう。
今回はこれを書きたくてnoteを書き始めたと言っても過言ではない。
素晴らしいアガリを何度も見せてくれて、雷漢戦決勝卓へとたどり着いた千羽師匠。
しかしその決勝の戦いは、苦しいものとなった。

親番が無くなり、トップの咲乃との点差は6万点近い。得てして麻雀のタイトル戦とはそうなりがちなのだが、誰か1人が抜けると、もう親番が残されていない人達は無茶な高打点の手作りを強要されてしまう。
今回も例に漏れず……いや、というか、その立場にいたのが千羽黒乃、鴨神にゅうという、Vtuberの中でも屈指の雀力を誇る2人だったから、というのもあるが、そんな展開になっていたのだ。

そんな南3局3本場。
ほぼほぼ優勝の可能性が消えてしまった千羽師匠が、タンヤオチートイツドラドラのリーチを打った。
これに、裏が乗っての倍満ツモであれば、親番の咲乃もことの点差を大きく縮めることができる。

が、アガリは実らず局の最後の牌、ハイテイ牌は、テンパイを入れている歌衣のところへ。その、歌衣のところに来たのが、千羽のアガリ牌、3sだったのだ。

この牌を、アガった時と見逃した時のことを比較してみよう。
ちなみに親の咲乃はオリているので、連荘はなく、南3局はこれで終わり、残すのは歌衣の親番であるオーラスを残すのみ。

アガった場合、裏が乗らなければ12000点。乗れば16000点だ。12000をアガると、千羽の点数は16500。トップの咲乃は63600で変わらず、オーラスは役満直撃条件。これは16000をアガっても同じ。見逃すと、テンパイ料を1500or3000点もらえて、咲乃がノーテン罰符を払い、58000点差。これも役満直撃条件だ。

じゃあ、見逃しても変わらないかといえばそんなことはない。オーラスの親番は歌衣で、歌衣ももちろん全力でアガリ、テンパイを狙ってくるわけだから、オーラスが1局限りとは限らない。もしかしたら歌衣が咲乃から直撃をとって、トップとの点差が縮まるかもしれない。だからこそ、この局面はアガリが当然なのだ。

が、千羽黒乃は一瞬悩んだ。
何故か。
アガリ牌が出てきた場所が、自分よりも優勝確率が僅かに高い、歌衣だったからだ。

歌衣はオーラス親番が残っており、自分がアガるかぎり親が続く。更に千羽と鴨神はかなり優勝は厳しい条件で、実質咲乃とのアガリ勝負。となれば、現状の点差であれば、十分に歌衣にチャンスはある。実際、歌衣はオーラスに一度6000オールをツモっている。流石歌衣だ。
もし、千羽がこのチートイツを見逃して、南4局4本場に歌衣が6000オールをツモっていた場合。歌衣32600咲乃55700となり。その差は23100。もう一度6000オールをツモれば。なんなら、満貫12000を咲乃から直撃すれば。逆転ができる点差になっていた。これは、かなり現実的な可能性と言えるだろう。(2人アガリが遠い人がいるため)

話を戻そう。自分がアガっても、優勝確率は然程変わらない。雲をつかむような、確率。
だが自分がアガった場合。自分よりも確率が高い、歌衣の優勝確率を、下げることになる。

この配信対局で、盛り上がりを第一に考えるなら、見逃しても良いのではないか。
そういった声があっても、なんらおかしくない。優勝の行方を、歌衣と咲乃に託して。この大会を、より盛り上げるために。

冒頭のシーンに戻る。

だけど、この時、僕は確信していた。千羽師匠は、きっとアガるだろうと。

千羽黒乃はロンを宣言した。それが、自分にとって最善であるから。麻雀が大好きな烏天狗は、麻雀にだけは、嘘はつけないから。

配信のためとか、大会のためとか、誰かのためとかではなく。麻雀は、自分が勝つ為に打つものだと、誰よりも知っているからこそ。彼女はアガる、と確信していた。
だって――

そんな彼女だからこそ、僕は好きになったから。


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