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誰かしらコロナに感染しない限り校閲校正業界はずっとこのままだぬーん

以前、『編集会議』という雑誌に若手校正・校閲者として寄稿させてもらったことがある。紙に印刷されたゲラを鉛筆で校正し、自転車に乗って届けにゆき、緊急時はファクスを使う、というアナログ極まる業務形態を揶揄したような自虐コラムだった。僕は当時真逆の環境から転職してきたばかりということもあり、そうした働き方が新鮮かつ「こういうのも悪くないな」と思っていた。

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が、もうそろそろやめにしてもいいんじゃないか。iPadとApple Pencilでいいんじゃないだろうか、と切に思う。

データでやりとりすれば、炎天下に自転車を飛ばすこともなくなるし、その分作業時間に充てられる。紛失・破損(ゲラが何かに濡れるとか)といった心配もクラウド管理すれば解消されるし、「同一単語を探す」という紙なら困難極まる作業もタブレット上ならコマンドFで一発だ。

あと、校閲業界は平均年齢がドチャクソ高いからか、“ペロリスト”がけっこうな割合で存在する。こいつらパンデミック下ではマジもんの生物テロリストになるので誰か衛生兵を呼んでほしい。しかし、そういう心配もタブレット上なら無用である。やつらも画面はなめんだろうし。

こんなにメリットがあるのに、なぜデジタル化が進まないのか? それは先述の「校閲者の平均年齢の高さ」に加えて、「校閲作業は紙ですべき」という一種の“紙信仰”がある。ベテラン校閲者ほど「モニタ上では目が滑る(誤字脱字を見逃す)」というのだ。いわれてみれば確かにそうかも……と、肌感では思ってしまう。だが、本当にそうだろうか。

と思っていたら「紙 vs 液晶ディスプレイ:メディアの違いが校正作業に与える影響」という研究結果を見つけた。これこれ、こういうのが欲しかったのよ。

本研究によると、校閲者を被験者とし、同じ紙面を「紙」と「液晶ディスプレイ(LCD)上」で作業させ、それぞれのエラー率を比較したものだという。いいねいいね! で、結果はというと。

業務群,一般群とも先行研究と同じく紙よりもLCD条件でのパフォーマンスが低いことから,電子校正は経験でだけでは解消できない操作性の課題を持つと考えられる.

ガーン。やはりLCD上の校閲では、紙のそれよりもミスが多いというのだ。やはり校閲のデジタル化はハードルが高いのか。紙信仰はそれなりの説得力があったのか。しかし、読み進めてみると。

これらLCDで正答率が低かった11箇所のエラーのページ中での位置を確認したところ,6箇所のエラーはカラー写真付近に位置しているという共通点があった.

はい?

(中略)以上から,校正者はモノクロ印刷された紙上の写真よりもLCD上でカラー表示された(原稿段階ではカラーである)写真により注意を向け,その反動として写真近傍への注意が低下していると考えられる.

ボケナスが! デジタル(LCD)はカラー、アナログ(紙)はモノクロで校閲させとったんかい!! クソボケカスが!!!! 条件そろえんかい!!!!

ということで、弊社(いまだにプロバイダメールを使っている)でひとりぐらいコロナに感染し新型肺炎にかかってくれでもしない限り完全なデジタル化への道のりはまだまだ遠そうである。

ちなみに校閲者的観点からいうと、コロナ関連の記事で「滅菌」「ワクチンなどの特効薬が存在せず」「COVID-19と名付けられた新型コロナウイルス」という記述が認められたらデマサイトと思ったほうがいい(ウイルス/菌、ワクチン/薬、ウイルス/ウイルスによる感染症の区別がついてないので。新聞社の記事でこういう記載はまずないです)。


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