zoothera dauma《ズーセラダーマ》 (2:1:1)

ドロンプト/衛兵A/召使:
ドロセル/衛兵B:
ソフィア/侍女/:
宰相/男:


0:幼少期
0:暗い石牢に繋がる通路。通路が半物置と化し様々なものが置かれている。後ろからこっそり親の後を追うドロンプトだが、置物に驚いているうちに親を見失ってしまう。
:
ドロンプト:あ、あれ?たしかここに入っていったと思ったんだけどな?
ドロセル:おいお前、ここで(なにをしている)
ドロンプト:(食い気味に)わぁぁぁぁぁっ!?ご、ごめんなさい!!お、俺は何も盗んだりしていません…むぐ。
ドロセル:ばか、そんな大きな声出したら。
衛兵A:………(遠くから)たしかに声がしたんですって。
ドロセル:ああ、もう、ほら。
衛兵A:誰かいるのか!
ドロセル・ドロンプト:…。
衛兵B:聞き間違いじゃないのか?
衛兵A:うーん、そうですかね。
衛兵B:とりあえず一通り見てから戻ろう。
衛兵A:了解です。
ドロセル、ドロンプト:…。
衛兵A:おかしいな、たしかに聞こえたと思ったんだけど。
宰相:おい、いつまで遊んでいる。刑を執行する。早く来い。
衛兵B:ちっ、へいへい。宰相様の仰せのままに。
ドロセル:…行ったかな?
ドロンプト:んー、んー。
ドロセル:あ、あぁ、悪い。
ドロンプト:ぷはー、苦しかった。なにするんだよ。
ドロセル:君は馬鹿か?
ドロンプト:は?
ドロセル:いいか、あんなに大きな声を出すと衛兵が来るだろ!ましてや君は侵入者だ。捕まりたいのか?
ドロンプト:あ、いや、その。
ドロセル:君は誰?どこから入ってきたの?
ドロンプト:あ、えっと…。
ドロセル:ふーん、答えられないんだ。いいんだよ、このまま侵入者として衛兵につき出しても。
ドロンプト:うっ…俺はドロンプト。父さんの仕事が見てみたくてここまでこっそり付いてきたんだ。
ドロセル:ふーん、なるほど。よろしく、ドロンプト。僕はドロセル。いずれこの国の王になるんだ。
ドロンプト:え!?ってことは王子様!?
ドロセル:そういうこと。
ドロンプト:た、大変申し訳ございません。俺の宝物全部あげます!!だからどうか死刑だけはご勘弁を。
ドロセル:はぁ!?そんなこと…なら、取引。これが飲めなければお前を侵入者として衛兵に突き出す。
ドロンプト:取引…?
ドロセル:これからもここに来て城の外のことを僕に教えろ。
ドロンプト:え?
ドロセル:えっと、だから、僕と友達になれ。

0:城の庭の片隅小さな林で楽しそうに話す子どもたち

ドロンプト:っていうことがあったんだよ…ぁ、です。
ドロセル:無理に敬語を使おうとしなくていいよ。
ソフィア:ふふっ 、あははは。ごめんなさい、あまりにもおもしろくて。ほら、ドロセルって普段は物腰柔らかくて丁寧でしょ?だからなおさらおもしろくって。ははは。
ドロセル:んん、ソフィアにそんなに笑われるのは恥ずかしいんだけど。
ソフィア:ごめんなさい。でもそんなドロセルも好きよ。
ドロセル:うぅ…。
ドロンプト:うわぁ、ご馳走様です。いや、でもほんとまさかこんなに仲良くしてもらえるなんて思わなかった。
ドロセル:え?
ドロンプト:ほら、俺庶民だからさ。まさか、婚約者まで紹介されると思ってなかった。なんならまだ友だちっていう実感も。
ドロセル:何言ってるんだい、庶民とか王族とか関係ないよ。ドロンプトはもう立派な僕の大切な友人だよ。胸を張ってほしい。
ドロンプト:ドロセル…。
ソフィア:あら、やだ、妬いてしまいそう。
ドロンプト:ち、違うって!!そういう意味じゃなくて!
ソフィア:ふふ、あはは。
ドロセル:あははは。
ドロンプト:もう。
ソフィア:ドロセルはもちろんだけれど私もあなたのことを友達だと思っているのよ。だからこれからも仲良くしていただけると嬉しいわ。
ドロンプト:あ、ありがとうございます?
ドロセル:どうして疑問形なの?
ドロンプト:いや、なんて答えていいかわからなくて…。
ドロセル:いい?僕達3人は身分なんて関係ない、対等な友達だ。まだそんなこと言うようなら衛兵に突き出すぞ!
ドロンプト:ドロセルが言うとしゃれにならないんだよ。
:
0:ソフィアとドロセル笑う
:
宰相:ドロセル様、またこのような場所に。ソフィア様もです。
宰相:ほら、城に戻りますよ。それに、なんです?その薄汚い子ネズミは?
ソフィア:サリエリ、私たちの友人になんということを言うのですか、謝りなさい。
宰相:友人?こんな小汚いやつがですか?なんとおぞましい。ソフィア様、あなたはご自身の立場をわかっておいでですか?
ソフィア:なんという物言いですか、お父様に言いつけますからね。
宰相:ええ、どうぞ。ただし、困るのはあなた様ではないですか?
ソフィア:…。
宰相:さぁ、ドロセル様参りますよ。ソフィア様もです。お早く。
ドロセル:う、うん。ドロンプト!またね!
ソフィア:ドロンプト、ごめんなさい。あなたが悪いわけではないわ。気にしないでちょうだい。
宰相:ソフィア様!
ソフィア:またね。
ドロンプト:…。

0:ドロセルの部屋
:
ソフィア:もうドロンプトはここに来られないかもしれないわね。
ドロセル:そんな。
ソフィア:だってそうでしょ?あんな態度をとられて来られるわけないもの。私サリエリのことが苦手だわ。昔から苦手だけど今はもっと苦手。
ドロセル:そんなこと言わないでよ、サリエリはきっと僕たちのことを思って言ってくれたんだよ。
ソフィア:そうだとしても私たちの大切な友人にあんな言い方をするなんて。
ドロセル:たしかに言い方はきつかったけどあまり悪く言わないで。彼は僕の大切な臣下になる人だよ。そんなこと言うソフィアなんて嫌い。
ソフィア:……っ、ひどい。
0:ソフィア部屋から出ていく
ドロセル:あっ……。


0:城のはずれ。スラム街
0:泣きながらソフィアが歩いている
:
ソフィア:ドロセルってば私のことを嫌いだなんて。酷いわ。私のことを嫌いなんて。
男:なぁ、そこのきれいな服着たかわいいお嬢ちゃんよぉ。お嬢ちゃんが付けてるそれ1個恵んでくれよ。それだけで飯が食えるんだよ。
男:大人しくしてたら悪いようにはしないからよぉ。
ソフィア:い、いや、なんですかあなた!
ドロンプト:ん?あの声…。
ソフィア:いや、やめて!!触らないで!!!!
ドロンプト:まさか…
ソフィア:来ないで…
ドロンプト:ソフィア!!
ソフィア:あ、ドロンプト、助けて!!
男:騎士様の登場か?穢れた血のとこのじゃねえか。ガキが大人にかなうと思ってんのか?
ドロンプ:うおおおお。
男:ははは、一丁前に向かってきやがる。よっと。
ドロンプト:ぐぅっ。
ソフィア:ドロンプト!!
男:こいつがこんな身なりのいいやつと知り合いってのがむかつくな。よっと。
ドロンプト:うぅ…。
男:これで動けねぇだろ。さぁ、お嬢ちゃん。
ドロンプト:汚い手でソフィアに触るな。
男:ちっ、しつこいな。
 :
 :
男:はぁ、もういいよ。これだけ貰ってくぜ。
:
0:身につけていたアクセサリーを取られる
:
ソフィア:あっ。
ドロンプト:ソフィア…大丈夫か?
ソフィア:私は大丈夫です。それよりもドロンプト、あなた酷い怪我よ。ごめんなさい。私のせいで。
ドロンプト:いいよ、別にこれくらい。慣れてる。でもこれからはここには1人で来るな。
ソフィア:わかったわ、ごめんなさい。
ドロンプト:…ほら、途中まで送ってやる。
ソフィア:ええ…。
ドロンプト:あー、…ドロセルと何かあった?
ソフィア:えっ。
ドロンプト:わかりやすすぎ。俺でよかったら聞くけど。…あぁ、嫌じゃなければ。
ソフィア:ふふっ、ドロンプトは優しいですね。
ドロンプト:そ、そんなことない。その…友達だからさ。
ソフィア:そうね、私たちの大切な友人だものね。…なのにあのような酷いことを。本当にごめんなさい。
ドロンプト:え、あ、あぁ。気にしなくていいよ。っていうか頭下げるな!人の目が痛い。…ちょっと遠回りして帰ろうか。
ソフィア:ええ。
 :
 :
ドロンプト:それで?ドロセルとなにがあったんだ?
ソフィア:先程のことで少々喧嘩を。
ドロンプト:あぁ。大丈夫?あの後怒られなかった?
ソフィア:とても口うるさく小言を言われたわ。ほんと私あの人大っ嫌い。
ドロンプト:あ、はは。でもあの人の言ってることもわかるけどなぁ。
ソフィア:ドロンプトまで!
ドロンプト:まぁ、最後まで聞いてよ。さっきのやつらも言ってたけど俺の家族は穢れた血って呼ばれてる。
ソフィア:サリエリも言っていたけれどその穢れた血とはなんですか?
ドロンプト:親父に聞いてもなんとなくでしか教えてくれないんだよ。ただ、みんなの嫌がる仕事を俺たちが引き受ける誇り高い血のことだって言ってた。
ソフィア:うーん、とても素晴らしいことなのに皆の反応はあまりよろしくないようね。先程の者たちもそうですがあなたを下に見ています。どうしてなのでしょう?
ドロンプト:さぁ。そういう詳しいことは教えてくれなかった。
ソフィア:そうですか。
ドロンプト:俺たちには俺たちにしかできないことをしている。けど他の人には理解できないことなんだ。
ドロンプト:俺の一族は誇りをもって仕事を全うしてる。でもさ、地位としてはこの国で一番下なのが現状。ま、そんな下の人間と関わるのは得策じゃない。百害あって一利なしってこと。
ソフィア:私はそんなこと思いません。一人でも多くの民と接し声を救い上げ統治に反映し国を治世するのが王族の使命だと思っています。
ソフィア:それを妨げることなど臣下の誰一人として権利をもたないわ。
ドロンプト:はは、ソフィアとドロセルが治める国が楽しみだな。
ソフィア:任せて、きっとドロンプトたちも暮らしやすい国にすると約束するわ。
ドロンプト:…あ、このあたりでいいかな。見つかったらまた怒られる。
ソフィア:かまわないわ。勝手に怒らせておけばいいのよ。ねぇ、ドロンプト。今朝のこと本当に気にしなくていいのよ?また城に遊びに来て私たちに顔を見せてちょうだい。
ドロンプト:そんな、俺はソフィアたちが俺のせいで怒られるのは嫌だ。
ソフィア:本当に気にしなくていいのよ。…そうだわ、ドロンプト、あなた本は読む?
ドロンプト:あぁ、字は読み書きできないんだよね。俺だけじゃなくあのあたりに暮らしてるやつはみんなそう。
ソフィア:そう…。そうだわ!今度私たちと文字を覚えましょう!
ドロンプト:いや、そんな、悪いよ。
ソフィア:いいのよ、今日のお礼として気持ちを受け取ってちょうだい。それにこの間家庭教師が言っていたの。
ソフィア:例えばアクセサリーやお金などの物は悪い方に盗まれてしまうけれど、知識は何者も頭の中から盗むことはできないんですって!
ソフィア:だからね、私たちから私たちにしかできないあなたへの贈り物を受け取ってほしいの。
ドロンプト:ありがとう。でも俺、城には…。
ソフィア:そうだわ!城壁の後ろにある森なんてどうかしら。先日小さな穴が開いているのを見つけたの。その裏の森なんてどうかしら。
ドロンプト:そんな、森って言ったって広いし。
ソフィア:3日後、空いてるわね?城壁の後ろで待ち合わせしましょ!
ドロンプト:え?
ソフィア:うん、それがいいわ!…では、また3日後!
 :
 :
0:3日後、城壁裏の森
:
ドロンプト:城壁の裏って言っても大きすぎるだろ。どこだよ。
ドロセル:ッ、ぁ…!
ソフィア:ドロンプト!ここよ!
ドロンプト:おはよう。
ソフィア:ええ、おはようドロンプト。
ドロセル:…。
ソフィア:(ため息)ドロセル。
ドロセル:ぁ、…おはようドロンプト。あ、えっと…。
ドロンプト:おはようドロセル、いい天気だな。
ドロセル:え、あ、そうだね。…、えっと、この間の…。
ソフィア:あー、もう!ドロセルがドロンプトに先日のことを謝りたいんですって。
ドロンプト:あぁ、だからこんなにぎこちないのか。初めて会った時の威勢はどうしたんだよ。
ドロンプト:なぁ、ドロンプト俺気にしてないぞ。だからさ、いつも通り話してくれたら嬉しいな。。
ドロセル:あの、本当にごめんなさい。あの時言い返すことできなくって。大切な初めての友人なのに。
ソフィア:ドロセルったらドロンプトが友人をやめるって言ったらどうしようってずっとぐずっていたのよ。
ドロセル:ちょっと、ソフィア!
ドロンプト:(吹き出す)
ドロセル:ドロンプトまで!
ドロンプト:いや、俺がそんなことで友達をやめるわけないだろ。それに俺も二人が俺にとって初めての友達だしな。今日は俺に文字の読み書きを教えてくれるんだろ、ドロセル。
ドロセル:あぁ!
ドロンプト:早くしないと俺物覚え悪いから日が暮れちまうぞ。はやく行こうぜ!
ソフィア:ほら、行きますよドロセル!
ドロセル:あ、待ってよ!二人ともー!
 :
 :
ドロセル:これが「プ」。これが「ト」。
ドロンプト:こ、こうか?
ドロセル:そうそう、上手。…その文字が君の名前だよ。ドロンプト。
ドロンプト:これが、俺の名前…!!!
ソフィア:とりあえず一通りはできたかしら。それにしてもびっくりだわ。ドロンプトったらとても物覚えがいいんだもの。
ドロセル:あとは覚えた文字を少しずつ書いて慣れていけばいいよ。
ドロンプト:あぁ。…ありがとな、まさか俺が字を書けるようになるなんて思わなかった。
ドロセル:ドロンプト、これをあげる。
ドロンプト:これは?
ドロセル:子ども用の絵本。文字を覚えるにはちょうどいいと思う。
ドロンプト:夢幻劇の…ワルツ?懐かしいな。この国の昔話だっけ?昔、亡くなった母さんが良く聞かせてくれたなぁ。
ソフィア:私からはこれを。ペーパーナイフです。
ドロセル:ペーパーナイフ?
ソフィア:手紙を開けるときに使うのよ。
ドロンプト:手紙?俺に手紙をくれる人なんて。
ドロセル:いるだろう?ここに二人。
ドロンプト:え?
ソフィア:聞いた話では民の間では友人と文通をするのでしょう?
ソフィア:私そういうのをやってみたかったの!ね?
ドロンプト:なんだよそれ。
:
:
ソフィア:今日はありがとう
ドロセル:またね、ドロンプト!
ドロンプト:あぁ、また!…よし、帰ろう。
宰相:おや、お帰りになるんですか?
ドロンプト:え?
宰相:お前がお二人を連れ出したせいで城内は大変なことになっている。お前が誘拐をしたせいでな。
ドロンプト:ち、違う。そんなことしてない!!
宰相:口ではなんとでも言えるんです。ほら来なさい。
ドロンプト:い、嫌だ。どこへ連れて行く気だよ!!
宰相:お前が気になっていた城の地下牢ですよ。父親を追って見に来ていただろう?
 :
 :
ドロンプトN:長い階段を下り薄暗い雑然とした通路を抜ける。この間来た時よりも不気味に見える。
宰相:ほら、入れ。
ドロンプトN:部屋の中は薄暗い。入り口には衛兵が二人立っている。近い牢から人の怒鳴り声。この声は…
ドロンプト:親父?
宰相:駄目でしょう?きちんと子どもの管理をしなければ。子どもの責任は親の責任ですからね。
宰相:お前が目を離したからこんなことになっているんだぞ。
ドロンプトN:そう言うと兵が親父に近づき鞭を一振り。親父の叫ぶ声が頭に響く。
宰相:お前もだぞ、お前のせいで父親はこんな目に遭っている。かわいそうになぁ。
ドロンプトN:鞭を一振り。また一振り。…それからどれくらい経ったか。親父の背中は肉が裂け血だらけだった。
ドロンプト:ごめんなさい…ごめんなさい…。もう仲良くしない。話しかけないし遊びにも来ない。だから許して。ごめんなさい。
宰相:そんなことで本当に許されると思っているんですか?平民であれば即刻処刑です。しかしお前らは平民よりも地位が低い。どうすればいいのでしょうねぇ。
ドロンプト:…わかりません。
宰相:はぁぁぁ、お前らは考える脳もないんですか。だから人の肉も平気で食べられるんでしょうね。
ドロンプト:え?人の、肉?
宰相:なんです?聞いていなかったんですか?お前ら穢れた血は代々処刑人として生き処刑した人間の肉を食べているおぞましい存在ですよ。
ドロンプト:なにそれ…知らない。親父!!!
宰相:そんな奴らが聖なる血をもつ王族に関わるなんて、しかも友好関係を築くなんておかしいでしょう。
宰相:二度とあの方たちに近づくな。もし近づいたらお前もこうなる。やれ。
ドロンプトN:その一声を受け、兵は、親父の心臓を貫いた。
ドロンプト:親父!!!!!
宰相:私は優しいのでこれくらいで許して差し上げます。本来であれば一族皆殺しですよ。
ドロンプト:親父!!!親父!!!!
宰相:もう二度と近づかないでください。わかりましたね。
 :
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0:青年期
:
ドロンプトN:親父が死んでからの生活は大変だった。料理も金の稼ぎ方もわからない。初めは家にあるものを少しずつ売って金にした。
ドロンプトN:そのうちに人の汚さを知った。人の優しさも知った。子どもだからと穢れた血だからと売りに出したものは安く買い叩かれた。
ドロンプトN:俺の境遇を見るに見かねて罠の作り方を、狩りの仕方を教えてくれた人もいた。だが外で会っても言葉を交わしてくれない。
ドロンプトN:それはそうだ、誰だって穢れた血と関わりがあるなんて思われたくない。
ドロンプトN:しばらくは森でウサギや鹿を狩って生き延びた。病気の時は薬草で治した。何度か働こうとした。だが働こうにもどこもこの血のせいで雇ってくれない。
ドロンプトN:そうして必死に生き気が付けば8年が過ぎていた。俺はあれ以降城に近づいていない。死刑囚がいないのか、それとも他の人に任が下ったのか、城から招集の命令が来ることはなかった。
 :
 :
 :
衛兵B:大変です!!!!宰相!!宰相!!
宰相:城内では静かにしろ!一体何があったのですか。
衛兵B:王が…!王が!!!討ち取られました!!!!
宰相:…ほう。
衛兵B:先の隣国との侵略戦争によって出兵なさっていた王が敵軍の将に討ち取られました。こちらとしてもすぐマルセル様が仇を討ち救助に当たりましたが…。
宰相:…そうか。ドロセル様には私から伝える。
衛兵B:はっ。

0:ドロセルの部屋。ノックの音
:
ドロセル:誰だ。
宰相:サリエリでございます。入ってもよろしいでしょうか?
ドロセル:もちろんかまわない。
宰相:失礼致します。
ドロセル:なぁ、宰相。父様はいつ帰ってこられるのだろうか。明日は僕の誕生日パーティだ。賓客の接し方がスマートになったとはいえ父様にはかなわない。勉強させてもらわなければ。
宰相:ドロセル様、王は昨日(さくじつ)戦死なさいました。
ドロセル:え?
宰相:王は昨日、戦死なさいました。他に王位継承権のある人間はあなた以外にいらっしゃいません。
ドロセル:あ、はは、宰相。笑えない冗談だよ。そんなの嘘だよね?
宰相:あなたが明日からこの国を背負うのです。
ドロセル:宰相!!!
宰相:…本当のことでございます。
ドロセル:そん、な。う、うわぁぁぁ(泣く)
:
ドロンプトN:ドロセルの父である現国王が戦死した。ドロセルは順当に王位を継承。次の日、ドロセルの誕生日会と共に急遽戴冠式を敢行。コルプス国13代国王ドロセル=アルフォンソが誕生した。
 :
0:トッペンスト城内
:
ドロセル:あ、ドロンプト。全然遊びに来ないから心配したんだよ。久しぶりだね。
ドロンプト:国王陛下、この度は王位継承おめでとうございます。先の陛下の件は誠に残念でした。
ドロセル:ああ、ありがとう。なんか、ドロンプトから言われると気恥しいな。あ、そうだ、君には真っ先に伝えたかったんだけど
ドロンプト:陛下、もうお互い子どもでは無いのです。それぞれの立場があります。あまり、私に気安く話しかけないでください。
侍女:処刑人。身分を弁えなさい。あなたごとき人以下の存在が気軽に話しかけていい相手ではないのですよ。
ドロセル:やめろ。ドロンプト、どうしたんだ?何があった?立場なら気にしなくていい。今では僕がこの国のトップだ。君のことを悪く言うのは僕が許さない。
ドロンプト:申し訳ございません。私とあなた様はもう友人として関わることはありません。
ドロセル:ドロンプト、それはもう僕との友人関係は解消する、ということか?
ドロンプト:私はあなたのことを友人などと思ったことは一度もありません。
ドロセル:…そうか。お前だけは僕と対等でいてくれると思ったのに。
ドロンプト:…。
ドロセル:残念だよ。
ドロンプトN:それから数ヶ月後。ドロセルとソフィアの婚姻式が執り行われた。国をあげての祭りは三日三晩続いた。三日目の晩、郵便受けに1枚の封筒。差出人は書いていなかった。
:
ソフィアN:ドロンプトへ。お久しぶりです、ソフィアです。ドロセルから話を聞いたわ。先日ドロセルと会ったのでしょう?ひどく落ち込んでいたわよ。けれどあなたの気持ちわかるわ。
ソフィアN:迷惑をかけないようにしたのでしょう?あなたたち2人はいつも肝心なところで不器用なんです。間に挟まれている私のことも考えてください。
ソフィアN:そういえば、ドロセルがこんなことを言っていたの。この国の身分制度を無くしたいんですって。みんながただ対等に話ができて忖度なく意見を交し合える国にしたいんだ、ですって。
ソフィアN:元々内向的で平和主義なところもあったけれど、きっとドロンプト、あなたの存在がとても大きいと思うの。
ソフィアN:あなたの身分はこの国で1番下だわ。でもね、あなたは私たちに身分の垣根を越えて良き友人になれるということを教えてくれた私たちにとってかけがえのない友人であり恩師よ。
ソフィアN:可能ならこれからもドロンプトと良き友人関係を続けていきたいと思ってる。でもあなたの事情も汲まなくてはならない。
ソフィアN:だからね、もし本当にあなたが困ったことがあったのなら真っ先に私たちを頼って欲しい。あなたの友人ソフィア

ドロンプト:どうして…。俺のことなんか忘れて生きたらいいのに。ほんとばかだよ、お前ら。
 :
 :
ドロンプトN:それから一年後、二人のもとにそれはそれはかわいい女の子が生まれた、と風の噂で聞いた。
ドロンプトN:ちょうど時期を同じくして…

ドロンプト:ふぅ、とりあえず薬草はこれくらいでいいか。あとは…ん?この声は?
ドロンプト:赤ちゃん!?なんでこんなところに。親は…いないか。そもそも森に置きっぱなしなんてしないもんな。ってことは、口減らしか。
ドロンプトN:このころは口減らしなんてよくあることだった。森で子どもをよく見かけた。いつも間に合わなかったけれど。

ドロンプト:さすがにこのままここに置き去りにするわけにはいかないし…。連れて帰るか。

ドロンプトN:とはいえ、みんなが食糧難で苦しんでいるこんなご時世だ。助けてくれる人なんているわけがなく。
ドロンプトN:幸いだったのは、うっすらと歯が生えミルクが必要な時期を過ぎているところか。

ドロンプトN:それからさらに10年後
ドロンプトN:ドロセルが即位してすぐは戦争直後ということもあり国はボロボロだった。
ドロンプトN:しかし最近は食料事情も落ち着いてきており以前よりも過ごしやすい国になったと思う。
ドロンプトN:噂によるとソフィアの手腕によるところが大きいらしい。
ドロンプトN:このスラム街にはまだ馴染みは薄いが簡単な文字を教える学校のようなものもできたらしい。
ドロンプトN:これからこの国はどんどん伸びていくのだろう。きっと彼らならこの国をもっといいものにしていける。スラムでもとても評判がいい。普段は批評しかしない彼らが、だ。
ドロンプトN:友人だったものとしてはこんなに嬉しいことはない。
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 : 
 :
ソフィア:宰相、あの法案は一体どういうつもりですか。
宰相:どういうつもり、とは?
ソフィア:臨時の場合、宰相であるあなたが王と同等の権利を持ち議会を通さずとも法を可決できる法案のことです。
宰相:あぁ、そんなに難しく考える必要はありません。いつだって保険はかけておきませんと。人生何が起こるかわかりませんからね。
ソフィア:あなた…
宰相:では、議会に遅れてしまいますので、失礼。
ソフィア:…。
 :
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宰相:本当に邪魔な女だ。
ドロセル:ん?何か言ったか?
宰相:あぁいえ、何も。さて、定刻になりましたので…
ソフィア:申し訳ございません、遅れました。
宰相:…なぜ、王妃様がこちらにいらっしゃるのですか?
ソフィア:あぁ、伝え忘れていたわね。今日から私も議会に出席することになりました。
宰相:は?
ドロセル:まぁ、いいではないか。実際ソフィアが案を出してくれたものはどれも民たちからの評判がいい。アドバイザーとして隣で話を聞いてもらおうと思ってな。
宰相:それでは議会の意味がないではありませんか。
ソフィア:そんなことはないわ。私の意見だって間違っていることだってあるわ。他の議員の方々と意見を交わすことでさらにいい案が浮かぶことだってある。
ソフィア:民たちの生活がより良いものになるために良い法案を通し古い法案を更新していく。議会とはそうあるものではないかしら。
ドロセル:ソフィアは民たちの声を拾い上げ我々に伝えてくれる。であれば、この議会に参加してもらうのは真っ当だと思うが。
宰相:ですが、このように神聖な議会に女を入れるなど。
ソフィア:あなたがこの国のことを思ってくれているのは知ってるわ。だけど、私はこの国がもっといい国になってほしい。
ソフィア:私一人入れたからといって何が変わるというわけではないけれどまず女を一人会議に入れてみませんか?
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 :
宰相:あの女、いつも私の邪魔ばかり。一体どうすれば…
 :
0:ソフィアへお茶を運ぶため召使がワゴンを押している
 :
宰相:あぁ、そうだ。そこの召使!
 :
 :
召使:(ノック)失礼いたします、お茶をお持ちしました。
ソフィア:ありがとう、入ってちょうだい。
召使:失礼いたします。
ソフィア:今日も疲れたわ、このお茶の時間が毎日楽しみなの。
召使:そうでいらっしゃいますか。前失礼いたします。
ソフィア:あら、いい香り。いただきます。うん、味もとてもい…い!?うっ、うぅ…あっああああ
召使:王妃様!?どうなさったのですか!!王妃様!!!!
宰相:なんの騒ぎです、ソフィア様どうなさったのですか!!!
ソフィア:っう…
宰相:衛兵!その召使を連れていきなさい!!ソフィア様!!大丈夫ですか!!医者を!早く!!
召使:違います!自分は何も!!!自分は何もしていません!!
 :
0:召使、衛兵たちに連れていかれる
 :
宰相:…ふふっ、苦しいですよねぇ。もうすぐ楽になりますからね。
ソフィア:っ、やはりあなたが…
宰相:さて何のことでしょう。おとなしくしていれば姫の成長も見守られたでしょうに、お気の毒ですねぇ。
ソフィア:あなた…!
ドロセル:なんの騒ぎだ!ソフィア!!?ユミルはこちらにきてはいけない。
ドロセル:サリエリ、これはどういうことだ、なにが起こった!!!
宰相:私が騒ぎを聞きつけ到着したときには王妃様は既にお倒れに。現場の状況から召使に毒を盛られたのかと。
ソフィア:…っ…(何か言おうとするが声が出ない)
宰相:…(その様子を見てばれないようにそっと鼻で笑う)
ドロセル:ソフィア…いやだ、まだ死なないでくれ。ソフィア…
 :
 :
ドロンプトN:ドロンプトの必死の祈りもむなしくソフィアは雲に隠れた。
ドロンプトN:このニュースは街だけでなくスラムにも一瞬で駆け巡った。
ドロンプトN:もちろん俺の耳にも…
 :
ドロンプト:え、ソフィアが死んだ?
 :
ドロンプトN:その日の晩、城から通達が来た。内容は
 :
ドロンプト:ソフィアを殺した召使の処分…。俺が…殺して食べる…。親父みたいに…。
ドロンプト:…あぁ、フューリーまだ起きていたのか。
ドロンプト:大丈夫、なんでもないよ。明日、父さんは朝から出かけるから留守番をお願いしていいか。
  :
0:ドロンプト、フューリーを呼び寄せ抱きしめる
  :
ドロンプト:おいでフューリー。お前はほんとうにいい子だな。
 :
 :
ドロンプトM:翌日、城へ行った。門番に連れられ向かった先は俺のよく知ったそこだった。
ドロンプトM:そこにはひどく憔悴し膝をつかされぶつぶつと何かを言っている召使らしき男、かわらず汚いものを見る目をした宰相、かわいそうなほどにやつれた国王だった。
ドロンプトM:一瞬「ドロンプト…」と呼ばれた気がしたがその声も宰相にかき消された。
 :
宰相:ただいまより罪人の処刑を執り行う。処刑人前へ。
 :
ドロンプトM:罪人の真後ろへ一歩、歩みを進める。こいつがソフィアを…。握った剣に力が入る。
ドロンプトM:罪人は先程よりも震えが大きくなる。先程は何を言っているかわからなかったが後ろに立ったからか何を言っているのかよくわかる。
ドロンプトM:罪人はしきりに自分ではない、助けてくれと呟いていた。こいつはなにを言っているんだ?
 :
宰相:やりなさい。

ドロンプト:お前が、殺しておいて自分ではないだと。ふざけるな!!!
 :
 :
 :
ドロンプトM:初めての執行は怒りに任せたあっけないものとなった。そのあと、何人かが出てきて動かなくなった男を運んでいき、代わりにしばらくしてから火を通した何かの肉を持ってきた。
 :
ドロンプト:…これは?
宰相:先程の男の肉です。早く食べなさい刑が終わらないでしょう。我々も忙しいのですよ。
ドロセル:おい、サリエリそれはあまりにもひどい。ドロンプトには処刑させるだけでいいだろう。
宰相:なにをおっしゃっているのですか。この男は処刑人、穢れた血ですよ。
宰相:わが国では犯罪を犯し処刑された者の肉を穢れた血である処刑人が食べることでさらに深く罰を与えるのです。
宰相:何をしているんです処刑人。早く食べなさい。
ドロンプト:…っ。
宰相:はぁ、仕方ないですね。おいそこの。食べるのを手伝ってあげなさい。
ドロンプト:え、あ、い、いや自分で食べられる!!や、やめてくれ!!!!…っ、う、うぇぇぇ。
宰相:はぁ、汚いですね。さっさと全部食べてください。
  :
0:響く食器の音と時折聞こえるえずく声と嗚咽
  :
ドロンプト:食し終わりました。
ドロセル:ご苦労であった、罪人の首は一週間野ざらしとする。
宰相:お疲れ様でございました。王のご心痛は未だ図りしれぬばかりかと思いますが
  :
0:宰相の言葉を無視してドロンプトに歩みよる
  :
ドロセル:ドロンプト!!!…申し訳ない、本当に申し訳ない。
ドロンプト:本当に申し訳ないと思うのならもう話しかけないでください。今日でわかったでしょう、私とあなたでは住む世界が違うんですよ。
ドロンプト:ソフィ…王妃様のこと、誠に残念でなりません。
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ドロンプトM:城を出る間際に袋を渡された。賃金だという。
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ドロンプト:これだけの金は久しぶりだ、フューリーに何か買って帰って…やらなきゃ…
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0:倒れるドロンプト
 :
ドロンプト:…っ、俺は倒れて…?金は!?
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ドロンプトM:手に持っていた金は盗まれていた。それはそうだ。どうしようもない憤りを抱えながら帰路に就く。帰宅したのは夜もかなり深い時間だった。
ドロンプトM:それから心配そうに出迎えにきたフューリーを抱きしめた後、ふらふらと寝室に生き死んだかのように眠った。
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ドロンプトM:あの日から、処刑が行われる頻度が増えていった。中には何度か顔を合わせるうちに私を人と扱ってくれた者もいた。私に蔑みの目を向けた者もいた。
ドロンプトM:仕事だから、仕事だからと何度も自分に言い聞かせこなしていく。そんな日が続いたある日
 :
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ドロンプト:…ん?あれは?フューリー?あの背負っている少女は?
ドロセル:ユミル…!
ドロンプト:は!?
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ドロセルM:フューリーが森で姫と出会ってしまった。また私と同じことが起きてしまうのではないか。この子をあんな目に遭わせたくない。
ドロンプトM:もう姫には近づくな。そういった時のフューリーの悲しい目をきっと私は死ぬまで忘れない。
 :
ドロンプトM:それからは仕事は忙しいが穏やかな日常が続いていたと思う。…ただ、いつからだろう視界の端に女が現れるようになった。
ドロンプトM:最初はぼやけてよくわからなかった。だが日毎鮮明になっていく女をよく見るとそれはソフィアだった。ひどく悲しい顔をしている。
 :
ドロンプト:なんだ、何が言いたいんだ、どうして姿を見せるんだ!
 :
ドロンプトM:ソフィアはただ黙って悲しい顔をしていた。
 :
ドロンプトM:それから数週間後。今日は城に長年仕えていたという執事を処刑した。すると、今までずっと黙っていたソフィアが口を開いた。
 :
ソフィア:ジョセフ。
 :
ドロンプトM:ただその一言。以降は話しかけても何も答えてはくれなかった。ただ、誰かを処刑するたび、その人の名前を一言ぽつりと漏らした。
 :
ドロンプトM:そしてさらに時が流れる。国は皆が笑っていた時代に比べると見る影もなくやせ細った。皆が飢えて死んでいった。
ドロンプトM:身体が芯から冷えるある冬の日の朝、今日はミルクスープが飲みたいね、なんて言ってフューリーは市場へ出かけて行った。
ドロンプトM:ソフィアは今日もそこにいる。彼女がそこにいることにだいぶ慣れてきた。
 :
ドロンプト:君はどうしてほしいんだ。…今日も答えてくれないのか、わかってはいたけどね。
 :
ドロンプトM:だが今日はいつもと違った。
 :
ソフィア:(すすり泣く)
 :
ドロセル:おい、どうした。
 :
ドロンプトM:途端、顔色を変えたフューリーが勢いよくドアを開けて飛び込んできた。
ドロンプトM:曰く、クーデターが起こったと。
ドロンプトM:姫を心配するフューリーを連れ城へ向かう。そこはあまりにもひどい光景だった。皆が戦っている。たくさんの人が血を流し死んでいる。
ドロンプトM:ここを通るのは危険だ。フューリーを連れ昔ドロセルたちと知り合った日に通った道を使う。あの時はこんな日が来るなんて思っていなかった。
ドロンプトM:道を抜けるとひと際大きな怒号が聞こえる。そこには、
 :
ドロンプト:どけ!どけ!!…ドロセル!!!あぁ、こんなにぼろぼろになって…。
ドロセル:…ドロンプト、か?君とちゃんと向き合ったのは何年ぶりだ?
ドロンプト:今はそんなこと言っている場合じゃないだろう。
ドロセル:それはそうだ。宰相が裏切った。ずっと信じていたのに。
 :
ドロンプトM:ドロセルを囲んだ民衆たちは彼に罵詈雑言を投げかける。
 :
宰相:そこを開けてください。
 :
ドロンプトM:民たちを開けて出てきたのは勝ち誇った顔をした宰相だった。
 :
宰相:うむ、ちょうどいいですね。処刑人、あなたが王を牢へお連れしなさい。
 :
 :
0:牢へ向かうまでの地下の道 
 :
ドロセル:サリエリ、いつから計画していた?
宰相:いつから?あなたが子どもの頃からずっとですよ。本当はもっと早く決行する予定だったのですが本当にあの女が邪魔でねぇ。
ドロセル:あの女というのはソフィアのことか?
宰相:他に誰がいるというのです?昔から私に歯向かってばかり。扱いづらくてしょうがなかった。あんな事件さえ起こらなければ今日が起こらなかったかもしれませんねぇ。
ドロンプト:それは、お前がソフィア殺しを裏で糸を引いていたということか。
宰相:汚いお前が私に話しかけるのはやめていただけますか?まだ、身分の差をわかっていないんですか?
ドロンプト:…っ。
ドロセル:サリエリ、ドロンプトに何をした。
宰相:いえ、なにも。以前、身分の差について教えて差し上げただけですよ。ねぇ、穢れた血?
ドロンプト:…はい。
ドロセル:ドロンプト…。
宰相:ほらつきましたよ。さっさと入っていただけますか?
  :
0:おとなしく牢に入るドロセル
  :
ドロセル:…。
宰相:宜しい。さて処刑人、諸々の連絡は後日追って伝えます。まずは逃げた、小鳥を捕まえなければなりませんからね。
 :
0:二人だけの空間 
 :
ドロセル:ユミルはまだ捕まっていないのか…。よかった。せめてあの子だけでも逃げおおせて欲しい。
ドロンプト:姫はフューリーが探しに行きました。信じましょう、あの二人を。
ドロセル:…。
ドロンプト:…。
ドロセル:その、悪かったな。いつも僕はドロンプトに助けられてばかりだ。
ドロンプト:何を言うかと思えば。それを言うなら私のほうです。いつも王と王妃に助けられた。
ドロセル:…なぁ、もういいんじゃないか?
ドロンプト:何がです?
ドロセル:その敬語だ。それにさっきから一度も目が合わない。
ドロンプト:いや、さすがに王に対して言葉を砕くのはあまりに無礼ではありませんか。
ドロセル:そんなことはもう関係ないだろう、僕は処刑される。もう王なんて身分も飾りなんだ。なら、ドロセルとはこの瞬間くらい友人に戻りたい。
ドロンプト:君は本当に昔から変わらないな。
ドロセル:それはドロンプトだって同じじゃないか。昔から自分のことを省みず僕らを助けてくれる。
ドロセル:ソフィアから聞いた。僕と喧嘩をして城を抜け出したあの日、ガラの悪い男にに襲われそうになっていたソフィアを身を挺して助けてくれたんだろう?
ドロンプト:いや…あれは…。
ドロセル:今日だってドンな目にあうかわからないのに助けに来てくれた。
ドロンプト:助けられていない!だからお前はここにいるんだろ!!!
ドロセル:…君は昔からそうだ、優しすぎる。
ドロンプト:そういうドロセルだって…
 :
0:二人顔を見て笑いだす
 :
ドロンプト:こういうの懐かしいな。
ドロセル:君が僕達を避けるから。
ドロンプト:仕方ないだろ。そうせざるをえなかったんだ。
ドロセル:なぁ、さっきは聞きそびれたが一体君になにがあったんだ。
ドロンプトM:そう尋ねる友人にあの日なにがあったかを語る。ドロセルは泣いていた。ごめん、ごめんと泣いていた。
ドロンプトM:いたたまれなくなった私はまた来るから、と言い残しその場を去った。そのまた、はきっと最期の日になるだろうに。 
 :
0:3日後 
 :
ドロンプトM:城から正式に命令が下りた。内容は…
ドロンプト:3日後、王と姫の処刑を執行すること。処刑人は、ドロンプトと…フューリー!?どうして…
ドロンプトM:命令を出したのは臨時権限を持った宰相だった。
ドロンプト:それにしたってフューリーにはまだ早すぎる。それに初めての処刑が姫だなんてあまりに酷だ。
ドロンプトM:私は命令をせめて私一人で執り行わせてくれと頼みに行った。だが、
宰相:なにを言っているんです?お前が私の出した命令に逆らうと?それによかったじゃないですか、初めての相手がユミル様で。失敗しても笑って済ませてくれそうですね。
ドロンプトM:聞く耳をもってくれない宰相に絶望しながらも帰宅しフューリーに告げる。こんな顔はまださせたくなかった。
ドロンプトM:その日の晩
 :
0:じっと立ち泣くソフィア
 :
ソフィア:ドロセル…ユミル…
ドロンプト:ごめん、ソフィア。力になれなかった。
ソフィア:どうして…私のかわいい子…私の愛しい人…
ドロンプト:…。
ソフィア:ドロンプト…あなたが弱いから…あなたに力がないから…
ドロンプト:ごめん…ごめん…
ソフィア:あなたのせいよ、あなたのせい。
ドロンプト:ごめん…ごめん…
 :
ドロンプトM:毎晩寝ようとするとソフィアが恨み言を呟く、私に向けて。助けられなかった私に向けて。そんなことが三日三晩続いた。
ドロンプトM:処刑当日の朝、心配そうなフューリーをそっと抱きしめた後、家を。
 
0:処刑当日、牢
 :
ドロンプト:本日刑を執行させていただきます、トーチ=セム=ドロンプトと申します。至らぬ点もあるかと思いますが迅速に執行させていただきます。
ドロセル:今日はよろしく頼む。
ドロンプト:…承知しました。
ドロンプト:足元にお気を付けください。本日は地下ではなく城外の広場にて行われます。裸足でそこまでの距離を歩いていただくのは心苦しいのですが…。
ドロセル:なぁ、ドロンプト。
ドロンプト:…なんですか。
ドロセル:君の名前を初めて知った。
ドロンプト:…そんなはずないでしょう。出会った頃に名乗っていますよ、たしかに。
ドロセル:そうだったか?ずっとドロンプトと呼んでいたからな。忘れていた。
ドロンプト:あなたは本当に…。昔と変わらない。
ドロセル:先日もその話をしたが君だって変わらない。何かを一人で抱え込もうとするのも。…ひどいクマだ、眠れなかったのだろう?
ドロンプト:…。私はずっと後悔していた。いつだって君は、君たちは僕のことを友人だと言ってくれていたのに。
ドロセル:仕方がなかったのだろう。僕こそ悪かった。君が身分で人を見る人間ではないとわかっていたのに、ほんとうに申し訳ない。
ドロンプト:いいんだよ、そんなこと。
ドロセル:ドロンプト、覚えているか?この道。
ドロンプト:もちろんだ、懐かしいな。初めて出会った時にここを通ったな。
ドロセル:この道の裏手の森で三人で話した。
ドロンプト:今思い返しても庶民以下の私と友人になろうなんてどうかしている。
ドロセル:そう言いながらも仲良くしてくれたじゃないか。
ドロンプト:君たちにもらった絵本とペーパーナイフは私の宝物だ。それに文字だって教えてもらった。君たちには感謝してもしきれない。
ドロセル:それは僕達だってそうだ。僕は君に一生感謝してもしきれない恩を受けた。本当ならまだ足りないくらいだ。
ドロンプト:そんなことをいうなら私だって…!
ドロセル:だがな、この六日間ずっと考えていたんだ。あの日君に出会わなければ今日の別れがまた違ったものになったんじゃないかと。
ドロセル:ソフィアがサリエリを警戒していた意味に気付くことができれば、今日こうなる運命は変わっていたんじゃないかと。
ドロセル:…ユミルにも申し訳ないことをした。
ドロンプト:…。
ドロセル:儂はユミルを助けることができなかった。暴行されていたのに耳をふさぐことしかできなかった。なにもできなかった。
ドロンプト:…。
 :
ドロンプトM:重い空気が私たちを包む。なにか言葉をかけてやりたかったが何も言葉が出てこなかった。
 :
 :
 :
ドロンプトM:刑場は罵詈雑言の熱気を帯びている。ドロセルの目から光は完全に消えていた。
ドロンプトM:それはそうだ、彼の性格上宰相に言いくるめられていたとはいえ市民の幸せを真っ先に考えて政治を行っていたはずなのだから。
ドロンプト:ドロセル…
ドロセル:なぁ、ドロンプト。今まで僕がやってきたことってなんだったんだろうな。
ドロセル:ただ、みんなが笑って過ごしていることを信じて政治を行ってきた。その結果がこれだ。
宰相:あなたが行ってきたこと?無辜の民たちを飢えさせた!!!国庫の財源を食いつぶした!!!その結果がこれです!!!!
ドロンプト:お前…!
宰相:なんですか処刑人、無駄口をたたく暇があるのなら早く処刑しなさい。民たちはその時を今か今かと待っていますよ!!!
 :
ドロンプトM:その言葉を皮切りにさらに民衆たちは興奮していく。
 :
宰相:やりなさい。
ドロンプト:っ…。
宰相:やりなさい!
ドロンプト:っ…。
宰相:やれ!
ドロンプト:…っ。
ドロセル:ドロンプト、君と友人になれたことは僕の数少ない誇りの一つだ。本当にありがとう。
ドロンプト:ぁっ…。
宰相:やれ!!!
ドロンプト:あ…う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
 :
0:ゆっくりと前に力なく倒れるドロセル
0:呆然とするドロンプト
0:処刑台に人が上がってきてドロセルを運ぼうとする
 :
ドロンプト:あ、待って…連れて行かないでくれ!!!やっと!やっと友人に戻れたんだ!!まってくれ!!!
宰相:ぎゃあぎゃあうるさいですねぇ。早く台から降りなさい。後がつかえているんですよ。下がらせろ。
 :
ドロンプトM:引きずられるように少し離れたところにある席に座らされる。それからほどなくしてフューリーが連れてこられた。
ドロンプトM:呆然としたフューリーと私の前に置かれた二人の首と肉。心を押し殺して目の前に置かれた肉を食べる。食べる。…食べる。
ドロンプトM:ふと横を見るとフューリーは、口に肉をねじ込まれていた。止めなければ、代わってやらなければ。そう思うのに、体が動かない。
ドロンプトM:たくさんの人に口に肉をねじ込まれている。止めてください、代わりに私が…!そういいたいのに喉から洩れるのは空気ばかり。
ドロンプトM:ようやく解放されたフューリーは憔悴し瞳は空を見つめている。私はフューリーを抱きしめただ謝ることしかできなかった。
 :
 :
ドロンプトM:帰宅後は、それぞれの部屋に閉じこもった。私もフューリーも整理する時間が必要だ。
 :
ドロンプト:疲れた…本当に。ドロセル…。
ソフィア:あなたのせいよ。
ドロンプト:…私のせい。
ソフィア:そう、ドロセルもユミルも私も死んでしまったのはあなたのせい。
ドロンプト:私の…。
ソフィア:どうして助けてくれなかったの。
ドロンプト:ごめん…
ソフィア:手を引いて逃げればよかった。でもあなたはそれをしなかった。
ドロンプト:ごめん。
ソフィア:自分の命惜しさにあの子たちを見殺しにした。
ドロンプト:ごめん。
ソフィア:あなたの息子にも苦難強いた。
ドロンプト:ごめんなさい。
ソフィア:許さない。
ドロンプト:ごめんなさい。
ソフィア:死ぬのならお前が死ねばよかった。
ドロンプト:私が死ねば…
ソフィア:どうしてお前は生きているの、私の大切な人たちは死んでしまったのに。
ドロンプト:ごめん、ごめんなさい、ドロセル…姫…。
 :
0:遠くでカタンと何かが落ちる音がする
 :
ドロンプト:ペーパーナイフ…
ドロンプト:これで命を絶てばみんな許してくれるだろうか。
ソフィア:死ね。お前が許されるためにはそれしかない。
ドロンプト:そう…そう、だよな。フューリー、ごめんな。こんな父親でごめんな。
 :
0:ドロンプト、首を切って死ぬ
 :
ドロセル:…プト、ドロンプト!
ドロンプト:ドロセル…?ドロセル!!!!ごめん…痛かったよな、苦しかったよな…ごめん、ごめん…
ドロセル:大丈夫、大丈夫だから。辛い思いをさせてごめんなドロンプト。
ドロンプト:ごめん…ごめん…
ドロセル:ところでなんで君がここにいるんだ、さすがにまだ早いだろう。
ドロンプト:ごめん…。
ドロセル:そっか。今までたくさん頑張ってくれてありがとうな。
ソフィア:ドロンプト!?どうしてここに!!?
ドロンプト:ソフィア…!ごめんなさい、ごめんなさい、二人を助けられなくてごめんなさい…!!!
 :
0:ドロセルとソフィア顔を見合わせる
 :
ソフィア:顔をあげてドロンプト。あなたは離れていてもいつも私たちに心を割いてくれていたわ。だからこそ、クーデターの日も二人を助けるために駆けつけてくれたのでしょう?
ドロセル:来てくれただけで嬉しかったんだ。本当にありがとう。
ソフィア:ねぇ、ドロンプト?
ドロンプト:はい。
ソフィア:改めて、また私たちの友人になってくれない?
ドロンプト:いいのか?
ソフィア:何言ってるの、当たり前のことを聞かないで頂戴。いいに決まってるでしょ!
ソフィア:さ、いつまでもこんなところにいても仕方ないわ。行きましょ!
ドロセル:行くってどこに?
ソフィア:あの明るい方向に向かって。道中私が死んだ後のお話も聞かせてちょうだい!
ソフィア:ほら行くわよ!置いていくわよ二人とも!
ドロンプト:…変わらないな。おい、置いていくな!
ドロセル:置いていかないでくれ!ソフィア!ドロンプト!!
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